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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
復讐者の迷走編
51/71

英雄候補ラグ・エンドと覚醒者


 -僕と本気で戦ってくれない?

 

 目の前の小さな少年はそう言い放った。そして、いつでもかかって来い! -と言わんばかりにその場でピョンピョンと飛び跳ねながら、俺を煽るように右手で手招いている。流石にイラッとしたのだが、こんな場所で殺り合う訳にはいかない。

 なんて考えていると、ラグはクスッと微笑みながら臨戦態勢を解いた。

 

 「もしかして場所が悪いの? へへっ。意外と優しいん-ッ!?」

 

 ラグが好き勝手に話す中、俺はさっきのお返し-と瞬歩によってラグの背後を取ってもう一度頭に手を置いた。

 反応が出来なかったのか、完全に気を抜いていたのかは知らないが、頭の上に手を置かれたラグは表情を一瞬だけ崩してみせた。

 

 「これで二回目だな」

 

 この行為が、攻撃的なものであったのなら、ラグは二回の致命傷を負っている事になる。そう言う意味合いで呟いたのだが、ラグは楽しそうな表情をしながら俺に視線を向けた。

 

 「お兄さんこそ」

 「······へぇ」

 

 そう言い放つ彼の右手は、背後に立つ俺の脇腹に添えられていた。

 

 -バシッ!

 

 「イタッ!?」

 

 気持ち悪いくらいの笑顔でいたラグの頭を溜め息混じりに叩き倒して俺は彼に背を向けた。

 

 「敵対するって言うなら容赦はしないよ。必ず殺すから」

 「ッ-。······いいね。そう来なくっちゃ」

 「でも、今は忙しいんだ。また後でね」

 「分かったよ! それまでよろしくね!」

 「············え?」

 

 待て待て待て。今なんて言ったんだ? コイツ······。

 

 ゆっくりと振り返ると、そこには俺の後をついてくる気満々のラグとステラが微笑んでいた。ステラに至っては俺を逃すまいと、ズボンのベルトをガッチリと握り締めている。

 

 「マジでついてくる気?」

 「もちろん! ね? ステラ!」

 「うん! 当然!」

 

 どうやら当然らしい。

 

 「あのさ、ついて来るとか迷惑だって思わないの?」

 「さっきは僕が妥協したんだ。今度はお兄さんが妥協してよ」

 

 こ、コイツ······。

 

 確かにラグはここでの戦いを避けたいという俺の思いを汲んでくれた。だから今度は俺達のわがままにも付き合え-と、そういうことらしい。

 

 「······分かった。好きにしろ」

 「やったね! ラグ!」

 「うん! それで、お兄さんはさっきの七人をどうするの?」

 

 ······なんというか、調子が狂う。敵対するって言う割には殺意が無い。それにこの楽しそうな表情、なんだかリーアに似ている感じがする。多分、このラグという少年もステラという少女も、リーアと一緒で強者との戦いを望んでいる-という事なのだろう。

 セイルの言った通り、相当厄介そうだ。

 

 「あれ? エト?」

 

 なんて思いつつ、教会に向かっていると、ニールとヤオが手を繋ぎながら俺達の前に現れた。ヤオだけが全身血だらけのところを見るに、一人で敵を殺してきたようだ。

 

 「終わったんだね。魔人もいただろ?」

 「ええ。でも一瞬だったわよ。ヤオが全員〝潰しちゃった〟わ。ね?」

 「あい〜! 人間の妹は帰したのです〜!」

 「お疲れ様」

 「えへへ〜なのですぅ」

 

 頭を撫でられて、にヘラ〜-とだらしなく表情を緩めているヤオ。にしても魔人が二人もいたというのによく一人で倒せたものだ。やはり、オールド・テイルは相当強いらしい。

 俺の後ろにいる二人も、こんな小さな少女がたった一人で、魔人を含めた七人の大人を一瞬で倒した事に驚いているようだ。

 

 「で? そっちはどうなったの? 仲良くなった-訳でもなさそうね」

 

 俺の表情から、ニールは相当俺が苦労した事を分かったようで、苦笑いを浮かべている。

 

 「コイツらと戦う事になったんだよ。それより、ここに長居してるといろいろと面倒だから先を急ごう」

 「そうね。教会も誰かさんのせいで、崩壊しちゃったし」

 

 意地の悪い事を言いながら、ニールは俺の腕に絡みつきながら歩みを進めた。それを見ていたヤオは、自分も-と言わんばかりに俺の右袖をギュッと握り締める。

 

 「······なんだか、不思議な人だね」

 「うん。そうだね」

 

 そんな俺達の後を黙ってついてきている二人。そうして俺達は西方大陸へと無事に辿り着いた-。

 

 

 

 

 

 西方大陸に着くと、辺りはもう大分と暗くなっていた。手続きが予想よりもかかってしまったのだ。予定では夕刻には着くと思っていたのだが、俺の想像以上に西方大陸に訪れようとする者達が多かった。

 

 「さてと。ラグっていったね。殺ろうか」

 「おぉ〜!」

 

 先程から熱い視線を送っていたラグに視線を向けると、本当に嬉しそうに右腕を高々く突き上げた。

 

 この西方大陸は、南方大陸の次に大きな大陸だ。その為、更地のような場所が多く存在している。ここならば周りを気にせずに戦えるだろう。

 境界門から数十キロ程の場所へ、瞬歩によって俺とラグは辿り着く。その後を追うようにニール達が来た事を確認すると、ラグはある提案をして来た。

 

 「お兄さん、二対二で戦わない? そっちのお姉さんとお兄さん、僕とステラって具合にさ? あっ! 竜王を呼んでもいいよ!」

 「俺は二対一のつもりだったんだけど?」

 「いやいや、それは〝無理〟だよー。だってステラは-」

 

 その瞬間、ステラは姿を変貌させた。そして現れたのは純白色の巨大な〝ドラゴン〟だった-。

 

 「ドラゴンでも〝異質〟だからね!」

 【グアアァァァッ!!!】

 

 まるで俺を威圧するようにステラは荒々しく咆哮を放つ。が、悪いがドラゴンは見慣れている。······なんて思っていたが、意識とは別に俺の左腕が突然に震え始めた。

 

 「······なんだこれ」

 

 自分の左手を眺めていると、一瞬にしてニールが俺の隣に並び立った。

 

 「エト。ちょっと予想外だわ。あの子、リントヴルムの忌み子よ」

 「忌み子?」

 

 リントヴルムとは北方大陸の遥か北にある海域に位置する竜族が住む島である。どうやらステラはニールと同郷の存在のようだ。

 

 「そう。ステラ・メリュジーヌ。遥か昔に現れた〝勇者の血を引く〟存在。彼女は竜族でありながら、竜族の不死性を無視して殺す事の出来る『竜殺し』-ドラゴンスレイヤーよ」

 「······って事は-」

 「私達の持つ再生能力も意味を成さない」

 「真核契約の恩恵は?」

 「分からないわ。私だって真核契約をしたのは初めてだから。でも、あまり期待しない方がいいかもしれないわね」

 

 勇者······ねぇ。だとしても、気になるのは『竜殺し』のステラではなく、その隣でこちらの様子を窺っているラグという少年の方だ。得体の知れなさで言えば、断然ラグの方が上である。

 

 「······はぁ。やっぱりこれしか無い···か」

 

 脱力感に苛まれながらも、俺はある決断を下した。ステラが『竜殺し』などと言う存在なのであれば、ニーズヘッグをぶつけたくなんてない。彼女には俺を深淵の底から拾い上げてくれた恩がある。そんな彼女が傷付く姿を見たくはない。

 確実にラグとの戦いに支障をきたしてしまう。

 

 「ニール、ステラもラグも俺が相手をするよ」

 「でしょうね。いいわよ、好きになさい」

 「······ああ」

 

 まただ······。そう思った。全面的に俺を信用していると言わんばかりの言葉。俺の心配よりも、俺の意志を尊重しようとしている。なんだかそれがとてもありがたくて、心地よかった。

 

 「ねえー! 決まったー?」

 

 完全に竜化したステラの頭を撫でながら声を張り上げるラグの前に俺は一歩踏み出した。その瞬間、ラグは大きく溜め息を吐いた。

 

 「······はぁ。無理だって言ったのに。ガッカリさせないで-ッッ」

 

 -ドガァァァッ!!!

 

 

 

 

 ごちゃごちゃと抗弁を垂れていたラグの右半身にエトの強烈な蹴りがクリーンヒットする。

 

 しかし-。

 

 「おっ。意外と強いね! 見た所、魔力も纏ってないただの蹴りなのに!」

 「······この野郎」

 

 強烈な蹴りの衝撃で、ラグの左側の地面が盛大に抉れている。が、モロに喰らったというのに当のラグはビクともしてはいない。瞬時にラグから距離を置いたエトに今度はステラが巨体に似合わない速さでエトに襲いかかる。

 

 「ッ-。お前は黙って見てろっ!!」

 

 -バギィッ!!!

 

 間一髪でステラの爪を回避したエトは、そのまま上空に飛び跳ねて真上からステラの脳天を拳で貫く。

 

 【グアァッ!!?】

 

 まるで獣のように首をブルブルと振りながら後退る。エトの一撃はそれ程に効果があったらしい。そしてエトがラグへと視線を向けた瞬間、目の前には不敵な笑みを浮かべながら急接近しているラグがいた。その距離、僅か数十センチ-。

 ラグと視線を合わせた瞬間、エトは彼の瞳を見て何かに気付いたのか、伸ばしたラグの腕を掴み後方に放り投げた。

 

 「へへっ! やっぱりやるね! ステラが攻撃喰らったのっていつぶりだろ。あははは!」

 「······お前、まさか-ッ!?」

 

 エトが何かを語ろうとしたが、すぐ背後に現れたラグによって妨げられた。と、同時に先程と同じ瞳でラグはエトの胴体に向けて右手を伸ばした-。

 

 「······〝コスモ・ブラスト〟」

 「んの野郎っ!!」

 

 -ギュイインッ!!!

 

 「っだァ······はぁ···はぁ。あっぶねえ······」

 

 振り返った瞬間に片足で地面を蹴りつけたエトは、紙一重でラグの謎の攻撃を避けてみせる。そんなエトにラグはパチパチパチ-と両手を叩いている。まるで、よく出来ました-と言わんばかりにだ。小馬鹿にしている感がだだ漏れている。

 

 「······やっぱりだ。〝星の瞳〟······あの野郎、先天性の〝英雄候補〟かよ」

 

 先程の攻撃の際にラグが見せた瞳、それに見覚えがあったエト。先程抱いた疑問が確信に変わったエトは大きく深呼吸をしてラグを睨みつけた。

 

 「······へえ。まだまだこれからって目だね! いいよ! それじゃあ僕も〝本気〟を出してあげる!」

 「······本気···だと?」

 

 刹那-。

 

 以前のエト〝以上の〟膨大な魔力がラグの周囲を包み込む。これにはエトも酷く表情を崩していた。以前のエトならまだしも、今のエトでは〝勝てない〟-そう思わせる程の魔力圧を放っていたのだ。

 

 「ステラ。ごめんね、この人···僕が殺るけどいいよね?」

 「うん。しょうがないから今回は譲ってあげる!」

 

 いつの間にか人型に戻っていたステラはラグの言葉に笑顔を見せる。その背後でヤオは圧倒的な魔力に怯えた様子でニーズヘッグの腕を掴んでいる。

 

 「主様〜···、大主様···大丈夫なのですぅ?」

 

 心配そうに見つめるヤオの頭をニーズヘッグは優しく撫でる。心配要らない-そう言われているように感じたヤオは無言で頷いてみせた。

 

 「どちらかというと〝枷が外れないか〟が心配······かな」

 

 そんな囁きはヤオに届くことはなかった-。

 

 

 

 

 

 「それじゃあ行くよっ!!!」

 

 ニッと口角を上げて地面を蹴りあげる。ラグは一瞬にしてエトの懐へと潜り込んだ。それは今のエトでは目視出来ない程の速さで、エトが左手で防ごうとした時には既にラグの右腕がエトの胴体を〝穿いていた〟。

 

 「ッぶはっ!!!」

 「ッ!? エ······エトォッ!!」

 

 背後からニーズヘッグの叫びが響き渡る。エトの事をエト以上に知っているであろう雰囲気を漂わせていたニーズヘッグですら、その光景は信じ難いものだった。エトならば、どんな相手だろうと大丈夫-そう思っていたニーズヘッグだったが、彼女の想像以上に目の前のラグという少年は〝強過ぎた〟。

 元竜王ですら追えない速さと、得体の知れない右手の力。本気を出す-と宣言したラグは一瞬にしてエトを打ち負かして見せた······。

 

 

 

 

 -ドクン······。

 

 「·········は?」

 「ラ、ラグッ!!!」

 「分かってる!」

 

 勝敗は決したかに見えたが、ラグはすぐさまエトの胴体から右腕を引き抜き、後方に退避した。なにやら異様な雰囲気を感じ取ったステラが急ぎラグの元へと駆け寄る。

 

 「······一瞬、あの人の目が〝黄金色〟に光った。確実に息の根を止めた筈なんだけど······」

 「ラグ、あの人······〝なんか変〟だよ」

 

 自分の体を抱えながら体を震わせているステラと、未だ仁王立ちで上体を伏せているエトを見つめるラグ。

 

 

 

 -その時······。

 

 ジジジ······ジジジジジッ-

 

 突如としてエトの周囲の空間が蜃気楼の如く歪み始める。と同時に、黄金色の魔法陣のような球体がエトの体を包み込んだ。

 

 【三度目ノ絶命ヲ確認。アルビスノ権限ニヨリ『エーテルコア』ノ封印ヲ一部解放シマス。周辺生物カラノ不干渉フィールドヲ展開】

 

 まるで空から語りかけるように、女性とも男性とも取れる声色がラグ達の耳に飛び込んだ。そして、魔法陣のような球体を更に覆うように半透明な膜のようなものが、ラグ達の目の前まで押し寄せる。

 

 「······な、なんなんだよ···一体」

 「ラグ、何この声!? 何言ってるのか分かんないよ······! すごく気持ち悪い······」

 「僕にも分かんないって!!」

 

 ただただ目の前の光景に言葉を失う二人を他所に、謎の声はひたすらに語り続ける。

 

 【封印ノ解放······失敗。干渉技能ニヨル妨害ヲ確認。速ヤカニコレヲ排除······排除成功。コレヨリ封印ノ解放ヲ再開。·········成功。封印ノ一部解放ヲ確認。アルビスニヨリ、未ダ制限状態ニアリマスガ、問題ハアリマセン。ソレデハオ気ヲ付ケテ、エーテル様】

 

 

 

 

 「·········」

 

 黄金色の球体やラグ達の目の前まで押し寄せていた半透明な膜のようなものが消えた瞬間、エトはふらっと脱力気味によろけながら左の掌で自身の顔を押さえつけ始める。

 

 「っ。······ぐっ」

 

 未だに意識が無いのか、全く焦点の合っていない瞳がラグ達を捉える。

 その瞬間、ラグとステラは目の前の得体の知れない存在に唖然と言葉を失った。恐怖、絶望-そんな感情が二人を呑み込む。ただ目を合わせただけだと言うのに、まるで首根っこを今にも切り落とされそうな感覚に二人の震えが収まる気配がない。

 

 「な、なんなんだよ······あれ」

 

 ステラは小さく呟くラグの隣で膝から崩れ落ちている。二人の視線の先、そこには失ったはずの右腕を再生させながら同時に〝歪な翼のようなモノ〟を右肩から生やしているエトがいた。何色とも取れない半透明なソレはこの世のものとは思えない程に異質で異様なモノである。

 

 「ラ、ラグ······ダメ。あの人と戦っちゃダメ!」

 「だ、だね。でも······す、すっげえ」

 

 本能的にエトに対して危機感を感じるステラ。その隣で異常なまでの力を発しているエトに感化されているラグ。

 そんな中、ニーズヘッグがエトに向けて本気の『竜王の息吹(エンドレス・ブレス)』を放ってみせた。

 

 「エト! 正気に戻りなさい!!」

 

 先程呟いた言葉を振り返りながらニーズヘッグはエトの意識を取り戻そうとする。しかし、元竜王の強烈な一撃すらもエトは見向きもせずに復活した右腕でかき消してしまった。

 

 「あ···あれって······『竜王の息吹(エンドレス・ブレス)』!? ってことはあの人が···ニーズヘッグ様?」

 「······なるほどね。にしても竜王の一撃を片手でかき消すって···はははっ」

 

 デタラメ過ぎる目の前の存在に恐怖と興奮で引き攣るラグ。

 

 刹那-。

 

 なんの前触れも無く、エトの得体の知れない翼のようなモノが消し飛び、同時に意識が完全に飛んだエトはその場に前のめりに倒れてしまった。

  

 「エトッ!!」

 

 倒れたエトに駆け寄るニーズヘッグ。そして解放されたように安堵の表情を浮かべるラグとステラ。この時既に二人は完全に戦意を失っているようであった-。

 

 

 

 

 「っどあああ!?」

 

 何が何やら分からない間に、意識を失っていたらしい。目が覚めると不思議な感覚だった。前よりも体の調子が良い。それも怖いくらいにだ。多分、力を失う〝前よりも〟いい気がする。

 なんて考えながらゆっくりと起き上がってみる。するとそこにはラグとステラ、そしてニールとヤオが揃って怯えながらこちらを見つめていた。

 

 ·········なんで?

 

 「エ、エト? だ···大丈夫?」

 

 そう言いながらもニールはぷるぷると体を震わせている。

 

 だからなんで!?

 

 「······俺、お前に何かした?」

 

 そうニールに問いかけると、驚いたことにラグがニールの代わりに答えてくれた。

 

 「おにいさん、この人を物凄い形相で睨んでたよ。その途中で気を失って倒れたんだ」

 「そ、そうなんだ。ごめんな?」

 

 そう言いながらニールに視線を移すと、彼女は瞳を潤ませながら無言で懐に飛び込んで来た。相当怖い思いをさせてしまったらしい。全く覚えてはいないが···。

 というか、それよりもこの二人だ。見たところ戦意は無いみたいだけど······。

 

 「で? 俺、負けたんだ?」

 「どうかな。僕的には〝戦いに勝って勝負に負けた〟って感じかな」

 「······は? どういうこと?」

 

 疑問視する俺をまあまあ-と宥めながら微笑むラグ。元々訳の分からない奴だったので、本人が納得しているのならそれ以上は求めないことにした。

 

 

 数分後、ニールが落ち着いてくれたタイミングで俺はぎこちなく立ち上がる。先程も言ったように体が自分の物ではないような感覚なのだ。

 そして今気付いたのだが、右腕が再生されている。という事はスキルが元に戻った······?

 なんて不思議そうに右腕を見つめていると、ニールが俺に寄り添いながら俺が意識を失っていた時の状況を説明してくれた。

 

 突然謎の声が響いた瞬間、俺は訳の分からない球体に包まれて、瞳が黄金色に輝き右腕を再生させ右肩から翼のようなモノを生やしたらしい。

 なんだそれ? -と案の定意味が分からなかったが、黄金色の瞳に関しては過去にも経験がある。俺は覚えちゃいないが、イルミと出会った当初にそんな状況になった事があるらしい。

 まぁ、最近自分の事が自分自身もよく分からない-なんて事がある。これもまた俺の知らない俺の事なのかもしれない-そう思うと、不思議とどこかで納得してしまった。

 

 「それはそうとラグ、お前ってスキルや魔力を全部封じるスキルとかって知ってるか?」

 

 俺は唐突ではあるが、ラグにそんな事を問いかけてみた。何故彼に問いかけたのか、俺自身分からなかったがラグなら知っているかもしれない-そう思ったのだ。

 

 「うん。〝知ってるよ〟」

 「えぇ!?」

 

 ラグの答えにニールは大声で驚愕した。実の所、俺も内心相当びっくりした。聞いてはみたものの、本当に知っているとは思わなかったのだ。

 

 「それって多分、『異界魔法(システム・スキル)』ってやつだと思うよ。確かそれっぽい能力を持ってる奴が〝あっちに〟いたはずだから。あっ! って言っても分かんないよね?」

 「······なるほどな。『異界魔法(システム・スキル)』か」

 「あれ? ······え? 納得······え?」

 「エト? なんなのそれ? 聞いた事が無いんだけど」

 

 不思議そうに首を傾げているニール。まぁ、その話をする為には〝ウルスマキナ〟についても話さないといけない。俺はニールに長くなるよ? -と声をかけると、彼女は大きく頷いてみせた。

 

 「そうだな。この世界、エルモアには並行空間世界ってのがあるんだ。魔界とか精霊界がそれなんだけど、その並行空間世界とエルモアの秩序維持を行ってるのが〝ウルスマキナ〟って名の境界世界で-」

 「待って待って待って!!! おにいさんがどうしてそれを知ってるのさ!!?」

 

 まるで突進して来そうな勢いで問い詰めるラグに、俺はさも当然のように答えてやった。

 

 「俺もお前と同じ〝英雄候補〟だからね。後天性だけど」

 「···············えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?」

 

 時差が凄いな······。

 

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