支えてくれる存在
西方大陸に行くには境界門を通らなければならない。これは東方大陸から北方大陸へと渡った時と同じだ。ただ、少し違うのは街道から直接境界門に行くことが出来ない-という点だ。
西方大陸へ渡る為の境界門は、北方大陸の最西端にあるここシレア帝国を通らないと辿り着けないようになっている。その不便さから境界門とシレア帝国、どちらが先に造られたのか-なんて疑問を抱く者も少なくはない。
「次の者!」
そんなシレア帝国に辿り着いたエト達は、シレア帝国の入国審査を受ける列に並んでいた。銀髪の美女と黄土色の髪を左肩辺りでまとめている幼女。二人は周りの視線を少なからず集める程に魅力的らしい。
「入国審査って大丈夫なの? ステータスプレートなんて私達持ってないわよ? 知ってると思うけど」
「ああ。心配ねえよ。コイツを使うから」
そう言いながら、エトは胸元で光るペンダントをニーズヘッグに見せる。これはリルアンツェ王国の王族の証なのだ。どんなものよりも信用を得られる品だといえる。
「次の者!」
「すまない。今身分を証明出来るものがこれしか無いんだ」
エトがペンダントを見せると、案の定入国審査官の男は顔を真っ青にしてすぐさま姿勢を正してみせた。リルアンツェ王国は北方大陸一の武力国家だ。小規模国家であるシレア帝国からすれば厄介極まりない存在なのだろう。焦った様子の男は深々と頭を下げた。
「本日は我らがシレア帝国にお越し頂き誠にありがとうございます! え、えっと···どういったご要件でお越しになられたのか、差し支えない程度で構いませんので教えて頂けると······」
「西方大陸へ渡る為だ。長居はしない。迷惑にならないよう配慮はさせてもらうつもりだ。だから其方も我々を一般人として扱ってくれ」
「は、はい! では、そのようにさせて頂きます。ごゆるりとお寛ぎ下さいませ」
やはりこのペンダントの効果は凄まじい。名前も聞かれることなく、無事に三人まとめて入国する事が出来た。
シレア帝国-人口約一万人という小規模国家ながら、西方大陸への境界門がある為、訪れる者も多く、通行料及び滞在活動費等で経済的には十分な収入を得ている。
「大主様〜? お腹が空いたのです〜」
「はいはーい! 私も〜!」
「なら適当に食べてくればいいさ。俺は先に境界門で手続きをしてくるから」
エトの言葉に二人は『はーいっ!』-と元気のいい返事をすると、近くの店に入っていった。それを確認したエトは一人で境界門へと向かう。
シレア帝国の入国門の丁度反対側に位置する境界門へはそう遠くはない。入国門から直線的に続くこの大通りからでも目視できる距離だ。
コツコツ-と、ブロック状の道を進んでいると、突然エトの左半身に衝撃が走った-。
-パキンッ!
「······?」
だが、何かに衝突されたエトは全くその場から動いてなどいない。エトは何事かと衝撃を受けた方へと視線を向けると、そこにはボロボロの装備を身につけた若い男が折れた短剣を片手に唖然とエトを見つめていた。
「え? ······は? なんで折れ······え?」
「何か用?」
全く動じていないエトの問いに男は短剣をしまい込み、新しい短剣を取り出した。
「み、身ぐるみ置いていけ! 金も全部だ! ···っておい!! 聞いてんのか!?」
どうやら男は金銭目的でエトを襲って来た強奪者のようだ。しかし、エトは気にする事無く歩みを進めた。···が、男は懲りずに短剣をエトの背後から背に勢いよく突き刺した-。
-パキンッ!
「なっ···何なんだよ!? なんでこっちが折れてんだよ!! 畜生、何か仕込んでやがるのか!」
案の定、またも短剣が折れてしまった事で、男はせいて気を揉んでいる。
「······これのせいか」
エトはペンダントを片手に、これが狙われた原因なのだろう-と考えている。とはいえ、性懲りも無く再び牙を剥こうとする男は流石に鬱陶しかったらしく、エトは振り返って男の胸ぐらを掴んで動きを封じた。
「ぬっ···は···離し···やがれ!」
「鬱陶しい。金がいるんなら働けよ」
「そんな時間ねえんだよ! 早くしねえと〝妹が〟······」
「·········またかよ」
今回の旅での出来事をなぞる様に、聞いた事のある台詞や見た事のある情景、表情が容赦なくエトの心を狂わせる。
シルフィーとの再会、ヤオの変化、そして今のこの状況···。まるで〝何か〟がエトの運命や因縁のようなものを〝操っている〟ような、そんな感覚がエトを不快にさせていく。
尚もエトにしがみつく男の手は震えていた。どうしたらいいのか分からない-そんな想いがエトの心にこびり付いて離れようとしない。
ニーズヘッグのおかげで、エトの心はほんの少しだけ穏やかさや人間らしさを取り戻しつつある。しかし、それでもまだエトにとって、他人の事情なんてものはどうでもいいし、知ったこっちゃない。
-筈なのに、手を差し伸べるか、無視して突き放すか、そんな事に自分の心が揺れ動き、決断出来ないでいる事がたまらなく鬱陶しい。
-トンッ···。
「好きにしなさいな。あなたの思うように、想いのままに。それがどんな決断だったとしても、どんな結末を生んだとしても、私はちゃんと傍にいるわよ」
唐突に、ニーズヘッグはそう囁きながらエトの背に寄り添い、背後から回された両腕がエトを優しく包み込む。その瞬間、エトの瞳は徐々に淡く光を取り戻していく。そして、ゆっくり瞼を伏せるとエトはニーズヘッグの腕に手を添えてゆっくりと囁くように言葉を零した。
「······どうしてそこまでしてくれるんだよ」
元人間である自分と、元竜王であるニーズヘッグ。人間という種族を認識外に置くような最高位の存在が、どうしてそこまで自分の事を支えようとしてくれるのか。
確かにニーズヘッグとは面識があった。と、いっても会話なんて数回した程度。ましてやエトは、ニーズヘッグの弟を力を欲するあまりにぶっ飛ばした仇といってもいい。
恨みこそすれ、そんな存在を支えようだなんてどうかしている-そう思ったのだ。
-が、ニーズヘッグはクスッと微笑みながらすぐに答えてみせた。
「言ったでしょ? 好きだからよ。まぁ、それ以外にも〝いろいろ〟とあるけどね」
「あれ、本気で言ってたのかよ。······意味わかんねえ」
「女が惚れた男の傍に居たいって想うのは当然でしょ? 支えたいって想うのは当然でしょ? そこにはね? 種族も年齢も存在の相違も無いの」
「······ならさ。今すぐ俺の為に死ねって言ったらお前······死ぬのかよ?」
エトがそう言うと、ニーズヘッグはエトから離れて微笑みながら両手を大きく広げて見せた。
「〝よろこんで!〟」
その言葉と満面の笑顔を見た瞬間、エトの瞳は〝完全に〟光を取り戻した。······が、すぐに彼は目を瞑りニーズヘッグに見えないように小さく微笑みながら彼女に背を向けた。
「······どうかしてるよ。ニールって男見る目無いよな。······お兄さん、妹さんのこと教えてくれる? 力···貸すよ。アンタの気持ち、よく分かるから」
「ほ、本当か!?」
「······エト?」
跪く男に手を差し伸べるエト。そんなエトの変化をニーズヘッグは見逃さなかった。その表情は、ニーズヘッグが見たことの無い、一ヶ月前のエトそのものだった。
「ニール、きっと後悔するよ? 残念だったね」
そう言いながら見せる笑顔に、ニーズヘッグは頭のてっぺんからボスッ-と勢いよく湯気のようなものを噴出させる。
「むむむッ! じょ、上等よ! 後悔させてみなさい!」
口調も表情も仕草も、ニーズヘッグの知るエト・リエルでは無い。しかし、どこか胸の奥が温かくなる。
正直な所、ニーズヘッグはエトと出会った時、彼が放つ異様な圧に濁りのようなものを感じていた。それは寂しさや苦しみ、不安や戸惑い、殺意や哀憐と言ったものがごちゃごちゃに混ざり合い、収拾がつかなくなってしまっていたような感覚だった。
きっと何かが彼を今の状態にしてしまった-そう思ったニーズヘッグはエトと共に行動しようと〝その瞬間に〟決意したのだ。
こんな感覚を覚えさせられるなんて思ってもみなかっただろう。
エトが男に事情を聞いている間、ニーズヘッグは静かにエトを眺めている。
「世話のかかる子······。ねえ? 〝エウラリア〟」
「主様〜?」
「あ〜、ごめんなさいね? なんでもないわ。さっ、エトが寄り道するみたいだから、付き合ってあげましょ!」
「あいなのです〜!」
数分後、大体の内容を男から聞いた俺は、ニールとヤオにも男の言う事情を説明する事にした。俺の言葉を真剣に聞いている様子の二人。こんな男の事なんて全く興味が無い筈なのに、俺が決めた事だ-と割り切ってくれている。
本当にニールには感謝しかない。
なんだか、暗い海の底に居たような、全身が強固な鎖で縛られていたような感覚で、意識も思考も行動も···何もかもが俺のものじゃないような、そんな俺を彼女は傍で支えてくれていた。
距離間···というか、まるで俺の事を〝俺以上に知っている〟ような、そんな気すらしてしまう程にニールは俺を理解していたみたいだった。
というか······。
アヤにもアリアにも、それにカナにも······。俺は最低な事をしてしまった。多分···というか、確実に嫌な思いをさせてしまった筈だ。
だと言うのに、俺の心は全く〝後悔していない〟と言わんばかりにサラッとしている。自分で自分が分からない。こんなに薄情な奴だったとは······。
「こーら。ま〜たそうやって落ち込んで! どうせあの人間の子の事でも考えてたんでしょ? 悪いけどね、私から言わせれば、あれはあの子の自業自得よ。あなたの事を本当の意味で理解していなかったんだから」
······心を読むなっての。
どうやら俺は、自慢のポーカーフェイスも何処かに落として来たらしい。
「大主様〜? えっと〜、そのローブの人間がいる屋敷に行くのです?」
「え? あぁ、いや。屋敷よりも取引場所かな」
少し脱線してしまったが、男が話した事情というのは、彼の妹である少女がローブ姿の男達に連れ去られ、その男達が身代金をこの男性に要求してきている。その為、金が必要-という事らしい。
「猶予は今日の夕刻って事だよね?」
「あ、ああ! ···っていうか兄ちゃん、なんか最初と雰囲気が違い過ぎねえか? なんか可愛いっつーか···」
痛いとこ突くんじゃねえよこの野郎······。
「そんな事より、その取引場所って何処なのよ?」
「す、すまん。場所は-」
「-ッ!?」
男が取引場所を言おうとした瞬間、俺は空を仰いだ。
「エト? どうしたの?」
「······いや、誰かの視線を感じたんだけど」
「そうなの? ······う〜ん。エトってばどんな感知範囲してるのよ。全く感じないわよ?」
「······そっか。話の腰を折って悪かったよ」
「え? いや、気にしないでくれ。場所はこの先にある教会の裏手を指示されてる」
「教会の裏手ね? なら、私とヤオで見張りに行った方がいいかしら。種族的に」
「へ? しゅ、種族······?」
「ああ。そうだね······」
ニールが提案を述べている間も、俺は先程の視線の主を探っていた。確かに視線を感じたのだ。殺気というよりは······〝好奇心〟に近い気がする。まぁ、気のせいかもしれないが-。
しかし、エトの感知結果は正しかった。
「すごいねあの人。この高度で感知されるなんて思わなかったよ。ステラ? もしかしてあの人?」
「んー。少し違うかも。確かにあの人も強そうだけど」
そう。遥か上空からエト達を見ていたのは空を飛ぶステラとまるで荷物のように抱えられたラグの二人だった。
「······というか、ステラ?」
「なに?」
「この運び方、どうにかならないのかな?」
「ラグ、いいサイズ感。とても運びやすいよ?」
「あ、うん。ならいいや」
答えになってない-と思いつつも、ステラが楽だと言うのでラグはそれ以上を言わなかった。
そんな二人は、着地地点を見つけて気配を完全に消しながらゆっくりと静かに地上に降り立った。
「っと。ステラ、ありがとう」
「んーん。気にしないで」
仲良く微笑み合う二人は、落ち着いて周りを見渡す。
「えっと······教会かな?」
「だね。それと、あっちに五人くらい人がいるみたい」
「あー、あれね。弱過ぎるから感知対象外にしてたよ」
「掘り出し物かもしれないよ?」
「そうかなー。だといいけ-ッ?」
その瞬間、ラグとステラは歩みを止めた。というのも、二人の背後に完璧に気配を消していた存在が急に現れたからだった。
「あら? もしかしてこの二人かしら?」
「主様〜? お腹空いてきたのですぅ〜」
「もぉ、さっき食べたでしょ? 我慢なさい」
「あい〜」
ラグとステラの背後に現れたのは、人型化したニーズヘッグと同じく幼女化したオールド・テイルのヤオだった。
結局、ニーズヘッグの案が採用され、二人が偵察隊として先にやって来たのだ。
「······ステラ。この二人、特に女の人の方。強そうな気がするんだけど、どう···思う?」
「ラグの勘はよく当たるもんね。それにこの二人、さっきの人と一緒にいた人達だよ」
何とも言えない緊張感が四人を包み込む。とはいえ、ニーズヘッグとヤオの方は全く気にしていない様子であっけらかんとしている。
「ねえ? あなた達、キャンベルって子の事、知っていたりするのかしら?」
ニーズヘッグは男から聞いていた妹の名を二人に問いかけた。すると、二人はお互いに視線を合わせると、クスッと微笑みながらニーズヘッグに視線を戻した。
「あー、あの子ね。それがどうかしたの? もしかしてお姉さん達が助けに来た···とか?」
ラグがそう言うと、隣のステラも不敵な笑みを浮かべ始めた。二人は目の前の二人が強いかどうかを試そうとしているらしい。当然、これは単なる挑発文句だ。二人はキャンベルという存在なんて知ってなどいない。
しかし、先程見つけた五人組の仲に一際弱い存在がいた事をラグは知っていた。その為、ラグはその存在がきっとキャンベルという人物で、何かしらの事件に巻き込まれているのでは-という結論にいたり、それを挑発材料として逆手にとったのだ。
-しかし。
「こーら? 知りもしないのにそんな事、言っちゃダメじゃない。嘘は良くないわよ?」
「主様〜? あれ、〝人間じゃない〟のですぅ〜」
「「ッ!?」」
すぐにラグの思惑は砕け散った。それどころか、ステラを指差す少女が予想外の言葉を発している。それを聞いた瞬間、ラグとステラは唖然と言葉を失ってしまった。と、同時に目の前のニーズヘッグとヤオに対して警戒レベルを最大限に高めた。
その雰囲気を感じ取ったニーズヘッグはクスッと微笑むと、クイクイ-と顎で指差すように二人の背後に視線を誘導させようとしている。
その行動を見たラグが、ゆっくりと警戒を怠らずに振り返ろうとしたが、それより先にラグの頭の上に何かがボスッ-とのしかかった。
「で? 何この状況。この子達、誰?」
二人が瞬時にその場から離れると、そこには不思議そうに左手を中途半端にあげているエトが首を傾げていた。ラグの頭の上に乗せられたのはエトの左手だったのだ。
「お、お兄さんこそ···誰?」
「······ただの通りすがりだけど。それで? キミ達は?」
少し前、ニールとヤオを見送った俺は、助けを求めた男と取引方法の確認などを話し合っていた。が、馬鹿正直に取引に応じる必要なんてない-という結論に至り、先手を打ってローブの男達をぶっ飛ばそうと思っていたのだが······。
いざ着くと、ニール達は謎の少年少女と向かい合い、少年少女の方が一方的に火花を散らしていた。
······というか、この子。魔法学園にいたステラって奴じゃね?
なんて思いながら、俺は男の子の方の頭に手を乗せた。気持ち的には二人の頭に手を乗せたかったのだが···まぁ、片方しか腕が無いから仕方がない。
案の定、二人は警戒した様子で俺から素早く距離を置き、こちらを見つめている。隙が全く無い。多分、相当の手練のような気がする。興味はないが-。
「私達も通りすがり。さっきは嘘ついてごめんなさい」
「嘘?」
「あ〜、気にしなくていいわよ〜?」
突然謝られたから驚いてしまったが、俺が来る前にニール達と何かあったらしい。というか、やっぱりこの子···ステラって子だ。間違いない。というか、何故ここに居るのか、それに魔法学園からシレア帝国へはこの短時間で辿り着ける場所では無い。
なんて思いながらステラを見ていると、彼女は俺からサッ-と視線を逸らしてしまった。
「ニール、ここはいいからあっちに居る〝七人〟の対処に向かってくれない?」
「な、七人!?」
「はーいっ! 殺してもいいの?」
「いいよ。あれは敵だから」
「了解したわ! ヤオ、行くわよ?」
「あい〜!」
俺に手を振ってニールとヤオは手を繋ぎながら歩いて行った。本当に仲が良い二人だ。
まぁ、そんな事より-。
「お兄さん、七人じゃなくて五人じゃない?」
ニール達を見送った後、目の前の二人に視線を向けると、少年の方がそんな事を問い掛けてきた。何が言いたいのか一瞬分からなかったが、多分この少年も奴らの存在を感知していたのだろう。故に自分の感知結果との違いに戸惑っているようだ。
「そうだね。〝人間は〟五人だね」
「······ラグ、あの人の言う通りみたい。教会の屋根の所に人間じゃない気配が二つあったから」
「上か〜。上は警戒してなかったな」
仲の良さを見せびらかすように見つめ合い、微笑みあっている二人。
「それじゃあね。気をつけて帰りな-ッ!?」
「······失礼しま〜す」
刹那、ラグと呼ばれていた少年は俺が追えないほどの瞬歩で懐に潜り込み、俺の右袖を右手で触れ、あろうことか一瞬で〝消し去った〟。
「あれ?」
再び俺から距離を置いたラグは自分の右手を見つめながら首を傾げていた。予想は出来る。大方、人の腕を消した感覚が無かったのだろう。
とはいえ、今の動きと右袖を消し飛ばした術、前者は瞬歩だと理解出来たが、後者の方は俺の理解の範疇を大幅に超えていた。術の原理が全く理解出来なかったのだ。
確実なのは魔法では無い。となると、スキル-という事になる。しかし、触れたものを一瞬で消し去るスキルなんて聞いた事も勿論見たことも無い。
「······どういうつもり···かな?」
俺がラグにそう問掛けると、ラグは子供のような無邪気な笑顔で躊躇なく答えてみせた。
「へへっ。なんつって〜!」
その瞬間、俺は久しぶりに怒りを覚えた。
-ドガァァァッ!!!
「うぉっ!?」
「ラグッ!」
全力で地面に右足を叩きつける。魔法学園でやった時とは威力が桁違いだった。それは怒りから、加減をしなかったからだ。
地面は悲鳴をあげながら地表を揺らし、大地が四方八方に裂け、立派な教会を崩壊させる程の巨大なクレーターが出来ていた。
目の前にいるラグは驚いた様子でいるが、それ以上に嬉しそうに口角を上げている。
「ラグ! あの人、きっと仮面の竜王使い! 『ノーフェイス』だよ!」
何故か、隣のステラも興奮している様子でいる。というか、不味い。折角ニールが仮面をくれたというのにバレてしまったのだ。非常に不味い。
「いや、人違いじゃない? 俺がその仮面のなんとかって訳ないでしょ?」
「ステラ、それやられたもん! 忘れてないもん!」
うっ······。
「ねえお兄さん、僕と本気で戦ってくれない?」
「·········は?」
訳の分からない事を言い出した目の前の少年に、俺は言葉を失ってしまった。
「いいでしょ? ね?」
「······調子に乗り過ぎだよお前」
禍々しい程の圧倒的な殺気を纏う瞳と、好奇心の塊のようなキラキラとした瞳がバチバチと火花を散らす。
そしてこの後、この少年との戦いが俺の運命を大きく変えるとは、その時の俺は知る由もなかった-。




