仮面の竜使い《ノーフェイス》
突然の事にセイルはパニックを起こした。名を呼ばれた事もだが、それ以上にその声は自分が尊敬し、憧れ、兄貴と慕った人物と同じ声色だったからだ。
「あ、兄貴·········?」
「·········ああ」
「意味わかんねーよ! なんでこんな-ッたい痛い!?」
「静かにしろ。じゃねえと握り潰す」
エトの言葉にセイルは必死に首を縦に振る。しかし、その間にアリスタシアや教員達、アヤとアリアと五峰達が瞬時に移動したエトを視界に捉える。エトはセイルとの会話が邪魔されないよう、セイルを人質として扱う意志を示し、全員の動きを封じてみせた。
「さっきも聞いたけど、この学園に赤髪の生徒っているか? 訳あって探してんだ」
「え、お、おう。赤髪っつったら一般科Sクラスのナツって奴だ。間違いねえよ。多分訓練場に避難してる筈だぜ」
「······そうか。助かったよ。あと、俺がエトだって事は死んでも誰にも言うんじゃねえぞ。言った瞬間に容赦なくお前を見つけて〝ぶっ殺す〟からな」
「-ッ!? お、おう! 男の約束だ! ぜってえ言わねえよ!!」
「よし」
仮面越しの瞳を見た瞬間にセイルは何がなんでもこの件は秘密にしようと心に誓った。
「でもどうすんだよ。先生達······ってか、学園長は絶対兄貴の事逃がさねえぞ?」
「ああ。見りゃ分かる。······スーッ-」
「·········へ?」
教員達、そして五峰やアヤとアリアをこの場に留める為にエトは大きく息を吸い込んだ。その光景にセイルはポカン-と口を大きく開いてしまっている。一体何をするのだろう-とセイルが思っていた矢先-。
「ニーズヘッグッ!!!!!」
「「「ッ!!!!?」」」
その名を叫んだ瞬間、その場の全員が凍りついた。
【グオアァァァァァァッ!!!】
刹那、魔法学園上空より銀翼の竜王ニーズヘッグが魔法学園に舞い降りた。ただただ着陸しただけだと言うのにその衝撃波で周辺一帯を消し飛ばす。その圧倒的な破壊力と絶望的な程の威圧感にアリスタシアですらその場で尻餅をついてしまっている。
「ニーズヘッグッ! この場からコイツらを逃がすんじゃねえぞ。歯向かう奴は殺せ!」
【グオアアッ!】
銀翼の竜王ニーズヘッグは仮面の男の言葉を理解し、完全に従っている。そんなありえない光景に誰もが言葉を失い一歩も動けないでいる。
「セイル、お前も動くんじゃねえぞ。死にたくねえんならな」
「あ、兄貴······一体何者なんだよ······? 竜王を従える人間とか······」
「······ただの復讐者だよ。じゃあな」
エトがセイルを解放し、訓練場へと歩み出した瞬間、アヤがエトの背中にしがみついた。その行動に誰もが唖然としている。が、ニーズヘッグは気付いていないフリをしているようで、エトは『余計な事を』-と小さく溜め息を吐いた。
「······エト君···だよね?」
ぐすっ-と鼻をすすり、涙を流すアヤは仮面の男がエトだと確信していた。それはニーズヘッグを呼んだ時の声がエトのものだったからだった。多少は声色を変えたつもりだったが、エトのことを想い、慕い、傍に居続けていたアヤを誤魔化す事は出来なかったらしい。
「人違いだ。離せ」
「嫌っ······。エト君···なんで右腕···ないの? どうして何も言ってくれないの···? なんで無茶ばっかりするの······。もう絶対離さない······」
その瞬間、エトは自分の胸の辺りをギュッと握り締めた。それを見逃さなかったニーズヘッグは、エト諸共アヤを巨大な尾で弾き飛ばした。
「きゃああっ!!!」
学園の校舎に叩きつけられるアヤ。一方のエトは衝撃で少しだけよろけたものの、すぐに体勢を立て直して再び歩み始めた。
「っ···エト······君ッ!」
それでも尚、エトを追いかけようとするアヤをニーズヘッグは再び弾き飛ばした。
-バキィッ!!!
「うぅッ!!!」
幾度となく弾き飛ばされようと立ち上がるアヤにエトは左手を力強く握り締めて地面に叩きつけた。
その衝撃で、数メートルの巨大なクレーターが姿を現す。
「······どいつもこいつも。邪魔すんじゃねえよ」
【·········】
そんなエトの呟きを聞き取ったニーズヘッグはその場から飛び立ち、エトを掴みあげると真っ直ぐ訓練場へと向かった。
「畜生······」
《あれがエトのお仲間······ね。なんていうか、彼女······本当の意味であなたを理解していないわね》
「ニール。······やめだ。帰ろう」
《いいの? すぐ目の前に敵がいるのに?》
「······何なんだろうな。俺もよく分かんねえんだけどさ。殺意が消えちまったんだ。······悪いな」
《······なるほどね。分かったわ。それと、謝る必要なんてないのよ。あなたの好きなようになさい》
「·········」
話し終えたニーズヘッグはエトを連れて魔法学園を離れ、遥か彼方へと消えていった-。
「っだああ! やられたぁ!!」
「ふっ。調子に乗って策もなく突っ込むからだ!」
「あ? てめぇは完全に空気だったろ!! あの仮面野郎が現れてから一言でも喋ったかよ!」
「ぬっ···。ぼ、僕は観察していたんだ! 敵の行動、視線や仕草、予備動作を入念に-」
「あー、はいはい。じゃもう端っこで黙って観察日記でも書いとけ。字だけは上手かったろ。お前にはその剣よりもペン振り回してる方がよっぽどお似合いだぜ」
「ばっ! 馬鹿にするな!!!」
脅威が去り、安心した様子の教員達。アリスタシアの指示の元、破壊された場所の修復と生徒達への今後の指示を命じられた教員達はそれぞれに行動を開始した。
そんな中、ステラは呆然とニーズヘッグが飛び立って行った空を眺めていた。
「ニーズヘッグ様······。覚えてくれて無かった。それにあの仮面の男。······底が知れない。もしかしたらラグよりも······。えへへ。やっと退屈しなくて済みそう」
ステラは一人、楽しそうに微笑みながらその場から姿を消した。
一方、瓦礫の上でアヤは膝を抱え蹲っていた。
またエトを引き止めることが出来なかった。それどころか、今のエトが何を思い行動しているのかが全く分からなかった。どうするのが正しいのか、あの時何をすればエトの為になったのか-。そんな事を考えれば考えるほど、自分の頭の中が掻き乱されていく。
アヤはただただその場で涙を流し続ける。そんなアヤをそっと隣で支えるアリア。アリアに至っては声すら発することが出来なかった。圧倒的なニーズヘッグの存在に一歩も動けなかった。その為、アヤの抱える不安や思い以前の問題だと後悔の念に縛られ、アヤに何も言うことが出来ずにいた。
そして-。
今回の件は学園長アリスタシア・ウォーランドから大陸連盟に報告され、竜王ニーズヘッグを従える人間、噂や通り名では無い歴史上初である本物の『竜使い』-仮面の竜使い【ノーフェイス】として全世界に知れ渡ることとなる。しかし、その正体がエト・リエルだという事は、セイルとアヤとアリアだけが知り得るに留まった-。
同刻、東方大陸にある魔邪の樹海。
「うん。悪くないわね」
「えへへ。やってやったです!」
「まだスタートラインに立ったってだけよ。それに時間がかかり過ぎ。自惚れるんじゃない」
「は、はいっ!」
エトが魔法学園に行ってから約二ヶ月。目の前でふんすっ-と気合十分です! -なんて思っていそうなミーアになんだか溜め息が出てしまう。
当初、私の予定では一ヶ月前に魔力の底上げ、魔力上昇の修行を終える筈だった。しかし、流石にエトのように異常な成長速度では無い彼女には、一ヶ月というのは短過ぎたようだ。
二ヶ月経った今、ようやく土台が出来上がった。
「ミーア、ステータスを確認しなさい」
「はい! えっと······」
名前:ミーア・ベル・フォーラ
年齢:百歳
種族:吸血鬼
加護:真祖の加護【再生速度上昇・限定真祖化(魔力値+200,000)】
称号:-
魔法:-
魔力値:【150,000】
技能:『US契約送還』・『US一撃必殺』・『ES魔力吸収』・『ES自己再生』・『魔力操作』・『気配感知』・『魅了』・『状態異常無効化』・『精神支配無効化』
「おぉ〜! 魔力が上がってます!!」
自分のステータスを見るなり、絶賛興奮中のミーア。まぁ確かに魔力値は大幅に上昇した。しかし、だからといって彼女が強くなった訳では無い。これはあくまで土台作りだ。本当に彼女が強くなるかはこれからの修行次第。
「確か、真祖化は夜だけだったわね」
「はい!」
吸血鬼は太陽を嫌う-なんて伝承があるけど、本当のところは、陽の光が彼女達吸血鬼の力(真祖化)を抑制している-という解釈が正しいらしい。彼女曰く、吸血鬼の真祖や皇帝に至っては、昼と夜での能力差が倍ほど相違しているとか······。
「今後の修行内容を言うわ。ルカ」
「はい!」
「昼間は私、日が沈んだらルカと実戦的な修行をしてもらうから。ルカもいいわね?」
「心得ました。ミーア殿、よろしく頼む。これは吾輩の修行でもある故、手加減抜きでお相手させていただきますよ」
「こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」
夜に限るが、ミーアは魔力値だけなら今のルカよりも上になる。その為、ルカとぶつける事で相乗効果を期待している。昼間は私がコテンパンに叩きのめす予定だ。
とりあえずこの黒点での用は済んだので、私達は小屋の付近まで移動を開始した。にしてもなんというか······。
凛々しくなったわね-。
ルカと仲良く話しながら歩いているミーアを見て、不意にそう感じた。精神的に強くなった-と言った方が正しいのかもしれない。今の彼女なら、何事にも動じずに自分の意志を貫ける-そんな気がする。
なーんて。過大評価だったかしら。
「お師匠様! エト様から連絡とかないんですか??」
「馬鹿ね。ある訳ないでしょ」
唐突に彼女はそんな事を問い掛けてきた。エトからの連絡なんて滅多に来ない。基本的にエトという少年は自由奔放な気まま人間なのだ。それにこの私が彼女達にはついている。心配なんて当然してはいないはず。
まあ、その他諸々を含めても、エトはそう頻繁に連絡をしてくる子ではない。
「うぅぅ〜。エト様はきっと私がいなくて寂しい筈です! 早く強くなって既成事······-ゴホン。仲間としてお傍に寄り添ってあげたいですっ!」
「·········」
なんか今、凄いことを言いかけたわね。まぁでも-
「早く強くなるって心意気は立派よ。頑張りなさい」
「はいです!!」
なんだかとても嬉しそうなミーアは、ルカの手を引いて駆け出して行った。
まぁ先程は連絡は無い-なんて話をしたが、実のところエト以外の者からエトの事は聞き及んでいた。一ヶ月程前の話だ。エトは魔法学園で行われた魔法祭なるお祭りで大活躍をしたらしい。それも大陸伝書で大きく取り上げられる程にだ。
というか、ここにも大陸伝書を届けなさいよっ!
なんて叶わない事を心で叫んだ程に嬉しかった。今までのエトの人生に学園生活-なんてものは無かった。復讐者としてただただ力を求める事しかしてこなかった。
そんなエトが魔法学園で魔法祭というお祭りに参加し、活躍をした。つまり、それだけ学園生活を楽しんでいた-ということだ。
それがとっても嬉しかった······。
なんて······。不謹慎よね。ユーリちゃんの事を調べる為に行っているのに。
「お師匠様〜! 早く修行しましょーっ!」
遠くでそう叫ぶミーア。そんな彼女に溜め息を吐きつつ、私は歩みを速めた。
今どうしてるんだろう-とか、元気かな-とか、節操なく女の子を堕としてないかな-とか、最近はそんな事ばかり考えていたりする。
もしかしたら、また昔みたいに〝不安定な状態〟になっているかもしれない。アヤなら大丈夫だろうが、エトの事を〝本当に理解〟していないとそういう事態にも-。
「······昔から私の心配って当たるのよね」
大きく溜め息を吐きながら私はミーア達と修行を開始した-。
「ラグ、聞いて!」
魔法学園に突如として現れた謎の存在が姿を消した後、教員達が瓦礫の撤去作業に取り掛かる中、五峰の一人であるステラ・メリュジーヌの〝本体〟は北方大陸の最南端に位置するリーベット村にいた。
ステラにラグと呼ばれた少年は、ベンチに腰掛け大きな骨付き肉を咥えながら首を傾げ、頭の上にハテナを浮かべている。
「っんぐ。何? どうしたの? 凄く嬉しそうだね」
「えへへ。さっきね? ステラのドールが凄い人間を見つけたの! もしかしたら〝ラグと同じくらい〟強いかも!」
その瞬間、ラグは手に持っていた大きな骨付き肉を地面に落とした。それ程までに驚いた-という事らしい。
「ほんとに!? どうだった? 戦ったんでしょ!?」
「うん。でもあっという間に吹き飛ばされたの。まだまだ本気じゃない感じだった!」
「あははっ! ねえステラ、その人どこのだれ?」
「わかんない。でも、ニーズヘッグ様を使役してたからリントヴルムに来たことはある筈だよ!」
よっ-と勢いよくベンチから立ち上がると、ラグは楽しそうに地面に落とした骨付き肉を拾い、食べるのかと思いきや、一瞬にして消し飛ばした。
「あの竜王を使役······。ステラ、行こう! その人と戦ってみたいんだ!」
「うん! ラグならそう言うと思った! その人、魔法学園から西の方に飛んで行ったから、多分リルアンツェ王国かシレア帝国にいるんじゃないかな?」
「へへっ。楽しくなって来たね!」
「うん! とっても!」
目的地を定めたラグは〝純白の翼〟を生やしたステラと共にその場から飛び立って行った-。
その頃-。
「バ、バケモノ······」
「あら。失礼な人間ね? そっちから仕掛けておいて。エト〜、この人間達どーする?」
魔法学園から西に数十キロに位置するシレア帝国へ向けて進んでいたエト達は道中で山賊達に襲われていた。まぁ案の定、今ではどちらが襲われているか、立場が逆転してしまっているのだが···。
「た、頼むよ! 助けてくれよ!」
「······殺していいよ」
「はーい! じゃあね〜!」
「や、やめっ-」
-バシュッ···バシュッ···。
恐怖に引き攣る男達の首を躊躇なく斬り飛ばす。そして満足気にニーズヘッグは岩に腰掛けるエトの隣に歩み寄り腰掛けた。
「ふー。でもエト? どうしてシレア帝国に行くの? 」
「別にシレア帝国に用はないよ。行きたいのは西方大陸のイシュタル法国だ。そこでアズールって奴を探す」
エトは過去に奴隷商会クリムゾンの本拠地で魔人レイズから聞いた話をニーズヘッグに語った。魔法学園を出た今、エトは初めの案だったアズールという男に、十年前東方大陸のロア王国で行われていたであろう人身売買について問いただそうと考えていた。
「シレア帝国は西方大陸の境界門付近だっけ。なるほど。そういえばエトってば妹を見つける為に旅をしてたんだっけ。···ってことはあれから見つかってなかったのね」
「ああ。······ニール、お前は別に俺に協力しなくてもいいんだぞ」
竜王···今では元だが、そのニーズヘッグが自分の目的に加担する必要は無い-とエトが言うと、ニーズヘッグは座ったままエトの肩にもたれ掛かり微笑みながら答えた。
「今更ね。いいのよ、エトが〝好きだから〟協力するの。それに今の私達は真核契約のおかげで一蓮托生。一心同体と言ってもいいの。目的がなんだって構わないわ? いつまでもどこまでも一緒に行くつもりよ」
「······そっか」
ニーズヘッグの想いを聞いたエトは自分の肩にもたれ掛かる彼女の頭に寄り添うように頭を当てた。
「およ? ······えへへ」
歪なエトの心の隙間を埋めるように寄り添う彼女の言動がエトの心をほんの少しだけ穏やかにしていく。口調も表情も少しづつだが、戻っているような、戻っていくような-そんな兆しを垣間見せた瞬間だった······。
その後もシレア帝国へ向けて進む二人。飛行から徒歩に切り替え、歩み出してすでに半刻程が経っていた。
「暗くなってきたわね。今日は野宿かしら?」
「そうだな······って、なんかそいつデカくなってねえか?」
「え? ·········えぇ!?」
〘クウ?〙
エトが右腕を失った頃からずっとついてきていた両手に収まるほどの小さな魔獣が、いつの間にかニーズヘッグの腰辺りにまで達する程の大きさになっていた。
「そういえば、肩に居ないと思ってたけど······」
元々ドラゴンであるニーズヘッグにとって肩に何かを乗せていてもほとんど重さを感じはしない。その為、今の今まで気付かなかったようだ。
「お前、これからもついてくるつもりか?」
エトが魔獣にそう問いかけると、言葉を理解したのか、その魔獣は〘クウッ!〙-と力強く鳴き声をあげた。つまり、ついてくるということのようだ。
「ねえエト。コイツ、小さい時は気付かなかったけど、多分〝オールド・テイル〟よ」
「······何それ?」
「ってやっぱり知らないわよね。私だって見るのは〝初めて〟だし。オールド・テイルっていうのは-」
オールド・テイル-それは、遥か昔に数体のみ存在していたとされる魔獣で、最高位の魔獣に与えられる称号『獣王』と呼ばれる程の存在だった。見た目は巨大な妖狐で、成長を終えた完成体は全長約20メートルにもなる。
「へぇ。でもコイツの親はただのグリフォンだったけど」
「さぁ。そのあたりはよく分からないわ。でも完成体になったら厄介よ」
「そうか。じゃあやっぱり今殺すか」
「その方がいいと思うわ」
とんでもなく残酷な結論に至った二人は揃ってすぐさま魔獣に視線を向けた。すると、魔獣はビクッ-とその場で数センチ飛び跳ねると、全力で首を横に振った。
「やっぱりコイツ、言葉を理解してるみてえだな」
「気のせいでしょ?」
〘クウッ! クオッ!〙
気のせいじゃない! -と言わんばかりに必死に何かを訴えようとする魔獣を見たニーズヘッグは、何かを試すようにゆっくりと口を開いた。
「·········死んだフリをしなさい」
〘クッ-······〙
-バタン······。
「······起き上がってその場で三回まわって死んだフリ」
-バサッ! ···クル···クル···クル-
〘クッ-······〙
-バタン······。
忠実にニーズヘッグの要求を実行に移す姿に、ニーズヘッグは不思議と愛着を抱き始めていた。少しだが頬が赤く染まっているようにも見える。
「ま、まぁいいわ。合格よ! 私がお前の主様になってあげるわ! 光栄に思いなさい!」
〘クウッ!!〙
姿勢を正し、威勢よく返事をする魔獣をニーズヘッグはペットとして飼うことに決めた······らしい。
「······もういいか? 俺は寝るぞ」
「あ、ごめんなさいね? 見張りは任せて! 私はもう少しコイツを調教するから!」
「あ······そう」
「さぁ、やるわよ!」
〘クウッ!!!〙
その後もニーズヘッグは、エトを起こさないように注意しながら魔獣の調教に明け暮れた-。
翌朝、目を覚ましたエトは目の前の光景に言葉を失った。そこには全長30メートル弱の銀翼のドラゴンと、全長20メートル程の巨大な妖狐が仲良さげに向かい合って座り込んでいた。
「·········は?」
全く状況の呑み込めないエトに気付いたニーズヘッグは人型に姿を変え、軽快に駆け寄ってくる。
「おはよ〜! 見て見て? あの子、おっきくなっちゃった!」
「·········なんで?」
そう。エトの疑問は最もである。何がどうなれば一晩でこれ程までに巨大になるのか。エトがそう問いかけると、ニーズヘッグは不思議そうにこう答えた。
「成長期らしいわよ?」
「んな馬鹿な」
「だってそうなんだもん。ねっ?〝ヤオ〟?」
-ボフッ!
ニーズヘッグが妖狐の事をヤオと呼ぶと、巨大な妖狐は煙のようなものを撒き散らす。なんだか見覚えのある光景に、エトは深く溜め息をついていた。
「あい! そうなのです〜!」
「······やっぱりそうなるのか」
エトの予想通り、巨大な妖狐は幼女の姿へと変化してしまった。が、それよりもいつの間に名前なんて-と、エトが問いかけるとニーズヘッグは口元に人差し指をあてがいながら答えてみせた。
彼女曰く、完成体状態の時に尾が八本あったので、八尾と名付けたらしい。
「それにこの子、八本の尾にそれぞれ属性があるらしいのよ!」
「あいなのです! 炎と氷と風と雷と地と闇と聖と重力が使えるのです〜! 当然、全属性耐性完備なのです〜!」
「ね? ねっ? 中々使えそうな子でしょ?」
キラキラとした瞳でエトを見つめるニーズヘッグ。その隣でこれまたキラキラと瞳を輝かせているヤオ。
「······いいんじゃねえの」
「やった〜!」
「なのですぅ〜!」
イエーイ-とハイタッチをしている二人。いつの間にこんなに仲良くなったのやら。ニーズヘッグがヤオの事を『コイツ』ではなく『この子』と呼んでいたあたり、相当親しい仲になったということなのだろう。
そんな二人を見ながら何かを思い出していたのか、エトは物思いに耽っている。それに気付いたニーズヘッグは、ヤオと共にエトに向けて両手を突き出した。
「ほらほらー、エトも!」
「大主様〜!」
「······言ってろ」
三人でハイタッチ! -と目論んでいたニーズヘッグの計画は、エトの一言で呆気なく失敗に終わった。
「残念ね〜」
「なのですぅ〜」
なんて言いながら落ち込んだ様子の二人を置いて、エトは着々とシレア帝国への道を進んで行った-。




