王との謁見と侵攻
「······エト···様?」
「·········シルフィー?」
謁見の間に入るとそこには見覚えのある少女がエトを驚いた様子で見つめていた。そう、彼女は今回の旅で最初に訪れたウインドローラー王国で出会ったあのシルフィーだった。
そんなシルフィーは、表情をパッと明るくさせて謁見中だというのにそっちのけでエトに駆け寄った。
「エト様ですよね? お久しぶりです! 覚えてらっしゃいますか? シルフィーです! えっと···、少し雰囲気が変わられました? 男らしくなったというか······。あ、ルカ様とミーアさんはお元気ですか?」
「······あ、ああ」
シルフィーとの出会い、そしてルカやミーアの名を耳にしたエトは一瞬だが表情を酷く崩し、自分の額を左手で覆う。その様子を見たニーズヘッグは二人の間に割ってはいるとシルフィーに笑顔をみせた。
「あなた、エトと知り合いのようね?」
「あ、はい! その節は大変お世話になりました!」
「そう。どの節か私は知らないけど。まぁでも、今は王の前。あなたの今の言動は王に対する侮辱よ」
「ッ!! へ、陛下! 誠に申し訳ございませんでした!」
ペコペコと頭を下げるシルフィーにユーリッドは微笑みながら手を挙げる。どうやらシルフィーはユーリッドの機嫌を損ねずに済んだらしい。
「エト、大丈夫?」
「······悪い」
「いいのよ。気にしないで」
顔色の悪いエトを案ずるようにニーズヘッグはエトの背中をゆっくりと摩っている。そのおかげか、エトは段々と顔色を戻していく。
「-以上だ。よって貴殿らには〝勇者アレヴ〟の探索部隊として行動してもらう。部隊編成はパーティーリーダーのトウヤ、キミが決めて構わない。良いな?」
「「「はい!」」」
どうやら謁見は早々に終わったらしく、エト達のもとにユーリッドは足早に歩み寄り、エトの事を見つめながら微笑みを見せた。
「久しいな、エト。まぁ、こんなに早く会えるとは思わなかったが······ん? エトよ、幾分雰囲気が変わったようだな? 何かあったのか?」
ユーリッドの言葉にエトは首を縦に振ってみせた。その様子から、余程の事があったのだと感じ取ったユーリッドはエトに詳しく話せるか-と問いかけた。
「魔法祭の二日目、俺は誰かに魔力とスキル、魔法も何もかもを全て消されちまったんだ」
「なにっ!!? ·········そ、そうか。だから三日目以降キミの姿を見なかった訳か······。で? その誰かというのに心当たりはあるのか?」
ユーリッドの問いにエトは首を横に振る。が、タイミング的に怪しい二人組については特徴だけ話しておくことにした。と言っても髪色くらいのものだが···。
「赤髪と茶髪······そうか。それにしても、全てのステータスを抹消するスキル······聞いた事が無いな」
「やっぱりあんたでも分かんねえか」
そう、これがエトがリルアンツェ王国に来た理由だった。ユーリッドは大陸連盟との繋がりがある。それは以前に知り得ていた。そのユーリッドに聞けば何かしらの情報が手に入れられるのでは? -とエトは考えていたのだ。
しかし、そんな馬鹿げたスキルはユーリッドでも初耳のようで首を捻りながら思考を巡らせ、記憶を辿っている。
「という事は、今のキミは······その、言い難いが魔力も何もかもを無くした······」
一般人-そう言いたかったのだろう。しかし、それを本人に突きつけるのは酷だろうとユーリッドは口篭る。
「そんな事はもうどうでもいい。とにかく俺はその誰かってのを探し出してえんだ。協力してくれ」
「どうでもっ······う、うむ。心得た。我がリルアンツェ王国の名のもと、必ず何かしらの情報は手に入れる。約束しよう。キミの力も取り戻せるかもしれないからな! 」
ユーリッドの言葉にエトは微笑んだ。しかし、その微笑みにはなんの感情もこもってはいない。力を取り戻したい-という理由で探す訳ではない。
復讐、自分に仇なす存在を殺す為に探し出す。それがエトの目的だからだ-。
謁見終了後、エト達はユーリッドの計らいでリーゼ城の貴賓室に通された。なんでもゆっくりと体を休めて欲しい-という事らしい。エトが相当疲労している-とでも思ったのだろう。
〘クゥ〜〙
「さてと。エト? この後は? ······ってあなたね、どうして同じ部屋にいるのよ」
ユーリッドに用意された貴賓室には、エトとニーズヘッグ以外にもシルフィーとギルドハウス前で出会ったトウヤとサキが椅子に腰掛けていた。
トウヤはキラキラとした眼差しでエトを見つめ、サキは先程の頭を撫でられた事を意識してか、チラチラとエトに視線を向け、シルフィーに至ってはエトの隣に腰掛けている。
「私達も陛下にお声をかけて頂いたんです!」
「······ニール、出発するぞ。」
シルフィー達には目もくれず、エトは席を立ち上がった。そんなエトにシルフィーは待ったをかけた。彼女からすれば久しぶりの再会だ。積もる話もあるのだろう。妹のリーフィアは今どうしてるだの、あれからどうしていたのかだの、もしかしたら改めて礼を-なんて事も考えているのかもしれない。
しかし、今のエトにはどうでもいい事なのだ。今の目的に関する内容ならば彼はその場に留まり、話を聞いていたかもしれない。だが、それ以外の話には興味が無い。それ程までにエトの心は歪に変わってしまっているのだ。
「あの! エト様! 宜しければ少しお話しませんか?」
「·········行こう、ニール」
「はーい。じゃあね? お嬢さん」
「ま、待ってくださ-ッ!!?」
シルフィーはエトを引き止めようと右腕を掴もうとした。しかし、そこには〝何も無かった〟。それを知ったシルフィーは酷く表情を崩している。が、そんなシルフィーを他所にエトとニーズヘッグは貴賓室から出て行ってしまった。そんな二人の残像を見つめるようにその場で固まってしまったシルフィー。
「エト様······。右腕を······。それになんだかとても〝辛そう〟です······」
「ねえ? シルフィーさん? そのー、エトさんと知り合いなの?」
「あの人達って強いのか!?」
落ち込んだ様子のシルフィーに二人は声をかけた。表情を曇らせたシルフィーが心配で-という理由もあったのだろうが、ほとんどが彼らに対する興味からのようだ。
「は、はい。エト様は私の妹を助けてくださいました。とてもお優しくて笑顔の素敵な方······だったんですけど」
「へぇ〜。なんだかイメージと違う···かも」
「で? 強いの!?」
「そうですね。間違いなく実力はSランク級ですよ。なにせ魔人を倒されましたから」
「「············えっ?」」
魔人を倒されましたから-という言葉に唖然と言葉を失う二人。そんな中、シルフィーは前とは別人のような雰囲気と右腕を失っていたエトの事を心配しているようで、終始上の空な様子でいた-。
「およ? もう夕刻ね。どうする? 宿に行く?」
「そうだな。明日の朝にもう一度ユーリッドに会って、それから出発しよう。〝魔法学園〟に行く」
「あら? 戻っちゃうの?」
「いや、そうじゃねえよ。魔法祭二日目の来園者の記録が残ってる筈だ。それを調べに行く」
宿に向かいながらエトは明日の行動予定を考えていた。魔法祭は魔法学園側が徹底的な身分確認を行っていた。つまり、その記録の中に例の赤髪と茶髪の二人組が居るかもしれない-という事だ。
もちろん、その二人がスキル保持者じゃ無いのかもしれない。しかし、やはりタイミング的にそれ以外の可能性はほとんどゼロに等しいとエトは考えていた。
「でも、魔法学園ってそんなにすんなり入れるものなの?」
「元々魔法学園にいたんだ。学園側に協力者だっている」
「ふーん。で? 情報を手に入れてそいつらを殺したら〝 魔法学園に戻る〟の?」
ニーズヘッグの言葉にエトが答えることは無かった。そしてニーズヘッグもそれ以上を詮索することはしなかった。
「いらっしゃいませ! 休憩ですか? 宿泊ですか?」
「一泊したい。二人部屋を一つ頼むよ」
「お嬢さん? ここって防音は完璧? 声が漏れたりしない?」
「えっと······ふふっ。大丈夫ですよ!」
「グッドよ!」
「············」
何やら怪しい会話を繰り広げる女将とニーズヘッグ。そんな二人を呆れた様子で見つめるエト。エト本人も二人の会話内容は理解しているようで、小さく溜め息を吐いている。
「はい! お部屋は二階の一番奥です。······ごゆっくり〜」
「そうさせてもらうわ! さぁ、行きましょ?」
「······変な事したら殺すからな」
「うっ·········目が本気ね」
案の定、ニーズヘッグの思惑が叶うことは無かった-。
翌日、二人はユーリッドに会うために再びリーゼ城に向かった。流石に昨日の今日で二人の事を警備兵達はしっかりと覚えていたらしく、すぐに謁見の間へ案内された。
「おぉ、エト。昨日は早々に帰ったようだな。っと、それより一つ確認したい事があるんだが、この者に見覚えは無いか?」
謁見の間に着くなり、ユーリッドはエトに似顔絵が書かれた紙を手渡した。エトが紙を受け取り視線を移すと、そこには見覚えのない若い男性が描かれていた。しかし、その男の髪色を見た瞬間、エトは無意識に蜃気楼の如く目視できる程の異様過ぎる殺気を放出させた。
-ゾワッ
「ッ!!!?」
その尋常ではない殺気にユーリッドはその場にへたり込んでしまった。恐怖からか、彼女は涙を溢れさせている。
「あらら。ちょっとエト? ···ってこれはダメね。ユーリッド王? その絵の人間、知っているの?」
「あ、ああ。私の側近はユニークスキル『完全記憶』を持っていてな。昨日言っておった特徴から記憶を辿らせてみたんだ。その中で赤髪はその者しかしなかった」
-クシャッ!!
ニーズヘッグの問いにユーリッドが答えている中、エトは似顔絵が描かれた紙を握り潰し、ユーリッドに視線を向けた。どうやら殺気は少し緩んだようで、ユーリッドも体の震えが治まっている。
「ユーリッド王、コイツ···どこの誰?」
エトの狂気な瞳にユーリッドは再び体を震わせながらゆっくりと答えた。
「しゅ、出身は西方大陸のにある···〝ロア王国〟···だ。今は〝魔法学園〟に身を寄せている···らしい」
「······西方大陸の方か。〝ニーズヘッグ〟、魔法学園に行くぞ。赤髪の野郎を問い詰める」
「はーい! それじゃあ王様、またね! って、待ってよエト!! というか、名前言っちゃってるんだけど〜」
「······悪い」
「もぉ〜。しょうがないわね! それより西方大陸の方って何? 他にもロア王国ってあるの?」
「ああ。東方大陸にな」
ユーリッドから情報を得たエトは早々に謁見の間から姿を消した。そんな中、ユーリッドは呆然とただただ目を見開いていた。
それはエトの言い放った〝ニーズヘッグ〟という言葉。当然、その名は誰もが知っている常識である。『竜王ニーズヘッグ』、竜族の長にして最強のドラゴンと知られているその名をエトは口にしたのだ。
「あ、あの女が···り、竜王···だと!? いや、まさかな······。しかし······。エト、キミは一体······」
その後もユーリッドはその場から立ち上がれなかった-。
リルアンツェ王国を出た二人は魔法学園に向けて歩みを進めた。といっても徒歩ではなく高位の竜族が人型状態で使える『部分竜化』によって翼を生やし飛行を行うようだ。そして銀色の翼と漆黒の翼は一瞬にして遥か彼方へと消えていった-。
あっという間に魔法学園近辺に着くと、静かに地上に降り立った。
「飛行、初めてにしては上手ね! 翼の使い方も完璧だったじゃない!」
「······ああ。なんか違和感が無かったっていうか······。つか、そんな事はどうでもいいんだよ」
なんて言いながらバシッ! -とニーズヘッグの臀部を蹴りつけて歩み出す。
「あんっ! ちょっと〜。レディのお尻を蹴るなんてどういう事よ〜!」
「······悪かった。なら顔面にするよ」
「ストップ、ストーップ!!」
ニーズヘッグは全力で自分の顔の前に両腕を交差させてバツ印を作る。顔なんてもっとダメ! -と不機嫌そうにエトの背中を小突く。そんな二人を不思議そうに見つめる小さな魔獣。
そんな事をしている間に二人は魔法学園の大門前に辿り着いていた。
ボーッと大門を眺めるエトにニーズヘッグは声をかけた。
「······懐かしい?」
「···別に。ニール、今からちょっと暴れっから赤髪の奴が逃げねえか周囲を見張っててくれ」
「おっけー。了解よ。盛大に暴れてらっしゃい!」
そう言うと、ニーズヘッグは仮面のような物を取り出した。
「······なにこれ?」
「暴れるなら顔は隠しておいた方がいいでしょ? お尋ね者になりたいんならそれでもいいけどね! ちなみにそれ、私の趣味よ! 素敵なお面でしょ?」
笑顔で手渡されたエトはなんだか不思議な感覚を心で感じていた。そして、無意識か意識的にか、エトはニーズヘッグに初めて見せる〝笑顔〟をみせた。
「へへっ。ありがとうニール」
「-ッ」
その瞬間、ニーズヘッグは表情を赤く染め上げた。そして振り返ったエトは仮面を付けた瞬間に全力で跳躍し、結界を殴りつけた-。
刹那-。
-バリンッ!!!!
跳躍の衝撃波で周囲一帯は消し飛び、魔法学園の強固な城壁すらもひび割れ、強烈な一撃で何重にも張られた強力な結界が粉々に砕け散る。
「いってらっしゃい。エト」
「〝うん!〟」
ようやく復讐対象を見つけたからか、はたまた単なる気まぐれか、この時のエトは紛れもなく一ヶ月前のエトだった-。
時は少し遡る-。
魔法学園魔法科Dクラス。この時間、Dクラスではレイラの実技授業が行われていた。が、やはりエトが居ないせいか、どこかまとまりの無い生徒達にレイラ自身も困った様子でいる。
「······エト君、帰ってこない」
「クロナってば。先生が言ってたでしょ? アイツのご両親が倒れたって。仕方ないじゃない。アイツだって辛い筈よ?」
「ん。分かってる。でも······」
どこか寂しそうなクロナを慰めるシルビア。しかし、そんなシルビアもクロナと同じ気持ちだった。エト・リエルという少年のおかげでアリアが変わり、本当の意味でクラスが輪となった。
だが、その輪の中心だったエトがいなくなった事で、強い絆で結ばれていた輪が解れかかっている。そのことが彼女自身の心を窮屈にしてしまっていた。
「アリア、エト君から連絡···無い?」
「······ありませんわ」
不意に問い掛けられたアリアは、一瞬の躊躇を見せたが落ち着いた様子でそう答えた。アリアは知っている。本当は両親が倒れたからエトがいなくなった訳では無い事を。だからこそ、真実を知っているからこそ、アリアは他の生徒達よりも悲しみ···苦しんでいる。
しかし、アリアはアヤと約束を交わしていた。エトを信じて自分達は自分達の出来ることをエトの為にしよう-と。その事だけが、アリアを今ここに繋ぎ止めている。
「エト様は必ず帰ってこられます。きっと······。落ち込んでいるとエト様に怒られてしまいますわ?」
「ふふっ。そうよね!」
「ん。アリア、いいこと言う!」
「皆様も、エト様はこのクラスの明るくて馬鹿げた雰囲気が好き-と仰っておられましたわ。落ち込んでいる暇はありませんの!」
アリアの言葉に生徒達は一瞬で表情を明るくさせた。それぞれ思うところはあるのかもしれない。それでも落ち込んでいても仕方が無い。もしかすると、これはアリアがアリア自身に言った言葉なのかもしれない。
「「「おーっ!!!」」」
生徒達の一丸となった声が訓練場に響き渡る。その様子を見ていたレイラも自然と笑顔になる。エトが突然消えた理由はわからない。それでもレイラ自身も気持ちを切り替えようと改めて決意した······瞬間だった-。
-刹那······。
[緊急避難警告、緊急避難警告。外周城壁及び天上結界の崩壊を確認。生徒は速やかに訓練場へ避難して下さい。全教員は直ちに大門前へ。これは訓練ではありません。繰り返します。緊急避難警告、緊急避難警告。外周城壁及び天上結界の崩壊を確認-]
突如として魔法学園中に響くアナウンスに生徒達は言葉を失った。
「て、天上結界が······崩壊!? 貴様ら! ここから絶対に出るな! 魔法学園の天上結界が壊されたってことは、相手はSランク以上のバケモノだ! いいな!」
「「「はい!!!」」」
レイラの言葉に生徒達は頷いた。······が、そんなにすんなり状況を受け入れられる訳が無い。魔法学園は鉄壁の城塞として世界に知れ渡っている。ここ数十年、学園長の張った結界-天上結界が破られる事なんて無かった。
徐々に押し寄せる不安に生徒達は表情を引き攣らせていく。中には現実として受け入れられず、訓練のような感覚に陥り、現状から目を逸らしている者もいる。
「······」
「ちょ、ちょっとアリア? ど···どこいくの?」
続々と生徒達が訓練場に集まる中、アリアだけが訓練場の入り口へと歩みを進める。
「ちょっと! 嘘でしょ!? レイラ先生がここにいろって言ってたでしょ!!」
「皆様はここにいて下さいの。わたくしは大門前に向かいますわ!」
「何言って······え?」
シルビアがアリアの歩みを止めようと腕を掴もうとした瞬間、アリアは全力で魔力圧を放った。その強力な魔力圧にシルビアは言葉を失っている。
魔界での修行を終えた今のアリアの魔力値は【10,000】。Aランク級だ。魔力制御と魔力コントロールの優れているアリアの魔力圧は学生の域を超えている。
「嘘······。アリア、あなた一体······」
「大丈夫ですの。絶対に守ってみせますわ!」
完全に固まってしまったシルビアを他所にアリアは入り口へと駆け出して行った。
大門前-。そこには全教員、そして学園長であるアリスタシア・ウォーランド。更には学園最強と言われている五峰の生徒達が集結していた。
「オスコット先生、生徒達の避難状況はどうなっていますか?」
「あ、はい! 全生徒、無事に訓練場へと避難完了しました!」
「結構。おや? スペルシアさん? どうしてあなたが?」
避難状況を問いかけたアリスタシアの視界にアリアが映り込み、アリスタシアはアリアに何故ここにいるのかを問うと、アリアは真剣な眼差しでアリスタシアを見つめ返した。
「······ふふっ。そうですか。アヤ先生? スペルシアさんの事、よろしくお願い致しますね」
「はい!!」
アリスタシアの言葉に応えたアヤはアリアに声をかけた。
「どうして来ちゃったの?」
「いえ、なんといいましょう······。こんな規格外な所業を行う方にわたくし、心当たりがありますの」
アリアのその言葉にアヤはクスッと微笑んでみせた。
「くふふっ。奇遇だね? 私も」
「ですわよね」
一方、五峰の生徒達は横並びに大門から一番離れた場所を陣取っていた。並び順としては、大門に近い方からアリスタシア、全教員とアリア、そして五峰の生徒達である。
「······へぇ。なんかやっとこさ〝イベント開始〟って感じじゃん? どんなボスキャラが出てくんのかね〜」
「シュウ! 貴様はまた訳の分からない事を。これは訓練でも遊びでもないんだぞ! 真面目にやらないか!」
「っせぇなぁ。心配しなくったって俺が倒してやっから。つーか、俺に勝てねえ分際で上からもの言ってんじゃねえぞ? ウィル・キューティクルくん?」
「き、貴様···。僕の名前はセルティグルだ!!」
バチバチと火花を散らすシュウとウィルに隣のセイルが大きく溜め息を吐く。
「はいはい、仲良くねー」
「「出来るかっ!!」」
「······息ピッタリじゃん」
そんな中、セイルの隣にいたアイン・マテリアルがゆっくりと口を開いた。
「この陣形···。これでは嫌でも魔法学園内に被害が出てしまいます。敵が侵入する前にこちらから攻めた方がいいと思うのですけど」
「ステラもそー思う。というか待ってるなんて退屈。どうせ学園長が倒しちゃう」
「うっ······。こっちはこっちでなんか好き勝手言ってるし······。はぁぁ〜。帰りたい」
犬猿の仲のシュウとウィル、そして自分本位のお姫様達、そんな二組の間に挟まれたセイルは既に疲労した様子だった。
「皆さん! 来ますよ!!」
「「「ッ!!!」」」
アリスタシアの声でその場の全員が臨戦態勢に入る。
コツ···コツ···コツ-と足音をたてながら大門を潜り、その光の中から姿を現した存在にその場の全員が言葉を失った。そして誰もが目の前にいる存在を〝バケモノ〟だと認識した。
そんな中、五峰のシュウとステラが一瞬にしてその場から姿を消した。それは教員達ですら追えないほどの速さで、シュウは左手を。そしてステラは右手を仮面をつけた存在の顔面に突き出した。
しかし-。
-バキィィッ!!!!
「ちょ、マジでぇ!?」
「うっ-!?」
仮面の存在は右足を地面に叩きつけた衝撃波だけでシュウとステラを吹き飛ばしてみせた。一瞬過ぎた出来事に全員が固まってしまったが、すぐに切り替えて再び臨戦態勢を取った。
「アヤ様、どうやらエト様では······」
「うん。そうだね。右腕が無いし、体格も髪色も全然違うから······。ちょっと期待したんだけどなぁ」
教員達、そして残りの五峰達が緊迫した空気を醸し出す中、アヤとアリアは全く動揺などしてはいなかった。というのも、アヤもアリアもベルゼリアやリヴァイアという存在のおかげで強靭な精神力を身につけているのだ。
「アヤ様、あの者に勝てそうですの?」
「······どうかな。エト君よりは弱そうだし、怖くはないんだけど······。まだまだ実力を隠してそうだし」
「学園長は分かりませんが、間違いなくアヤ様の力はこの学園で突出していますわ。そのアヤ様が勝てないとなると······」
「本当にやばそうなら『瞬間移動』でイルミさんの所に行くしかないね。······こんな時、エト君がいてくれたらなぁ。お茶でも飲んで安心して待ってられたのに」
「ふふふ。ですわね」
一方。
シュウとステラの強襲を受けたエトは仮面越しに周囲を見渡していた。
「······教員達と五峰だけか。生徒は訓練場だろうな」
この学園の中で一番安全なのは、学園長アリスタシアの魔法が施されている訓練場だと素早く推測すると止めていた歩みを再び進め始める。
その瞬間、レイラとベルエラが炎属性の高位魔法を同時に放った。
-ドォンッ!!!!
しかし、エトはそれを左手で易々と払い除けてみせた。
「おいおい······。見たとこ障壁も魔力も纏ってねえぞ! 素手で魔法を弾いたってのかよ!?」
「くっ···!」
ありえない状況にレイラもベルエラも唖然と立ち竦む。そんな中、アリスタシアが一歩踏み出し、エトに声をかけた。
「······ここには何をし-ッ!? いけない!!」
アリスタシアがそう問いかけようとした瞬間、エトはその場の誰にも目視出来ない程の速さで五峰の一人であるセイルの頭部を左手で鷲掴んだ。
「って俺かよ!?」
「セイル君から離れて下さ-ッ!!?」
ギリギリ反応をしたアインがエトに向けて魔法を放とうとしたが、仮面越しに垣間見えた瞳から伝わる絶望的なまでの殺意によって、まるで時間を止められたように膠着してしまった。
「こんっの!!」
「······セイル」
「ッ!!!? は? ······え?」
「落ち着いて聞け。この学園に赤髪の生徒っているか」
突然の事にセイルはパニックを起こした。名を呼ばれた事もだが、それ以上にその声は自分が尊敬し、憧れ、兄貴と慕った人物と同じ声色だったからだ。
セイルはゆっくりと、そして恐る恐る問いかけた。
「あ、兄貴·········?」
「·········ああ」
次回更新は来週日曜日の予定です!




