ネロの正体、知れ渡る名
試合が始まったと同時にカナは動きを封じられてしまった。それは対戦相手であるオックスという生徒の死霊系魔法によるものだ。
俺も系統魔法を詳しく知っている訳では無いが、あれ程の速さで系統魔法を扱えるのは正直凄いと思う。しかし、相手はカナだ。義妹であり、本当の妹と思っている大切なカナだ。
俺はその光景を見ながら拳を強く握り締めていた。過保護もいいところである。が、俺はどうにも家族や大切な人-となると、抑えが全く効かなくなるらしい。他人なら心底どうでもいいのだが、こればかりはどうしようもない。
「ちょっと、エト? 急に立ち上がってどうしたのよ?」
「見えない? 席変わる?」
「え? あぁ、いや。大丈夫だよ」
「まぁ、カナリア君の試合だしね! 見入っちゃうのも分かるけど」
どうやら俺は、無意識に席を立ち上がっていたらしい。殺気や圧力を発していない辺り、ちゃんと最低限の制御は出来ていると思う。しかし、それでも尚、カナが攻撃されようとしている光景を見ていると、全身に力が入ってしょうがない。
《アイツ···調子に乗り過ぎなのだ!》
《リーア、俺が我慢してんだ。黙って見とけ···》
《むっ······エト? 怒ってるのだ? いつもと違うのだ······》
そう言いながら、リーアは俺を気遣うように頭から右肩に移動し、顔を覗き込む。そんなリーアの頭を撫でながら、俺は先程の言葉を謝罪した。確かにそこまでキツく言う必要なんてなかった。
《ごめんなリーア》
《いいのだ。にししっ》
頭を撫でられた事でか、俺の機嫌が治ったからか、リーアは嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。
「ほら、座りなさいよ。後ろの子達が見えにくいでしょ?」
「あぁ。ごめんね、みんな」
「ううん、気にしないで!」
「そうだぜ! アイツ、同室の奴なんだろ? なんなら、前に行って見てくりゃいいじゃん!」
なるほど。確かにそれもそうだな。
後ろの席に座っていたクラスメイトの提案に俺は首を縦に振った。右肩に移動したリーアもそれと同時に頭へと戻る。どうやらリーアも賛成のようだ。
「ちょっと、前に行ってくるよ」
「あんまり叫ばないようにね!」
シルビアの言葉に微笑みつつ、俺は客席の一番前に移動した。うん。ここならよく見える。
-と、次の瞬間。
「ッ!?」
俺の目に飛び込んで来た光景に、俺は言葉を失った。多分、カナは咄嗟に契約精霊であるネロを呼んだのだろう。しかし、現れたネロは小さく頭の悪そうな幼女ではなく、成人した大人の姿だった。
そして、それを見た瞬間、俺はカナの言っていた夢の話を思い出した。精霊女王と戦ったあの場面、そこには〝もう一人精霊がいた〟のだ。最初のネロの容姿で全く気づかなかったが、あの姿はちゃんと覚えている。
あれは四大精霊の一角、ウンディーネだ。
「ネロ······。お前、ウンディーネだったんだな」
不意にそんな事を呟いた。頭の上のリーアもネロの放つ殺気に反応し、毛を逆立たせている。
ウンディーネとは直接の面識はなく、精霊女王の側近である-という事くらいの認識しか俺にはなかった。
そして、オックスがカナに追撃を放ったと同時に、ネロは何かを呟き始めた。口元の動きで何を言い放とうとしたのかを感じ取った俺は全力でネロを呼び止めた。
あれは高位精霊だけが使える『精魂魔法』だ。自分よりも格下の相手にしか使えないが、口にした事象を対象に発現させる魔法。これは遥か昔に禁忌とされていた筈なのだが、カナが攻撃されそうになった事で、禁忌というのを忘れる程にネロはブチ切れてしまったらしい。
「ネロッ!!!」
俺が叫び声をあげると、ネロは『精魂魔法』を途中で止めてみせた。どうやら俺の声は無事に届いたらしい。まぁ、おかげで会場内の雰囲気は最悪だが······。
「オイ! なんだよ! 試合の邪魔すんじゃねえぞ!」
「誰だよ、今の声!」
訓練場のあちこちから罵声が飛び交う。それを鎮めようと、イルビーナとリルが急いで実況を始めた。
[これはこれは! 熱狂的な応援者がいたようですね! どうやらあの精霊はネロという名のようです!]
[こちらにはカナリア君の契約精霊の名前はなかったので、どなたかは存じ上げませんが、ありがとうございました!]
笑いを混ぜつつ、明るく振る舞う二人の声にいつしか、罵声は笑い声へと変わっていった。
実況席に座る二人に視線を向けると、二人は俺に笑顔を見せてくれた。俺が声をあげた事に気付きつつも、場を落ち着かせてくれた二人に微笑む返す形で俺は感謝の気持ちを伝えた。
「な、なんなんだよ···!」
突然の大声に動揺したオックスは、苛立ちを覚えながらカナに視線を向ける。が、その隣に立つ圧倒的な殺気を放つネロに自然と足が竦んでいた。たった一つ、魔法名を口にするだけで、対戦相手であるカナを負かすことが出来る。しかし、ネロの殺気でそのたった一つが出来ずにいた。
「ネロ! お願い!」
《うん! まかせて!》
[おぉーっと! オックス君の一瞬の隙を突き、カナリア君の契約精霊であるネロがオックス君の背後を取った!!]
さっきまで押されていたカナの反撃。これは観客達の興奮値を限界までに高めた。
「「「うぉぉぉぉぉおおっ!!!」」」
会場を包み込む大歓声の中、ネロは不意打ちで硬直状態のオックスの横腹に強烈な一撃を撃ち込んだ。
「うがはっ!!?」
[これは強烈だぁああ!!]
[不意を付かれた一瞬に強烈な回し蹴り! これは痛い!]
-ドガッ!!
壁に叩きつけられたオックスは、完全に目を回しながら意識を失ってしまった。その様子を確認したネロは満足そうにカナの元に歩み寄り、カナは安心したようにその場に跪いていた。
[け、決着だァ! 第一部最終試合、一般科Sクラス、カナリア・テスター君対一般科Cクラス、オックス・メイレル君······勝者はカナリア・テスター君です!!]
[完全に押されていた筈のカナリア君。最後の一撃は見事な不意打ち! 素晴らしい状況判断でした!]
試合終了の合図とともに、会場はまたも大きな歓声に包まれた。一時はどうなるかとヒヤヒヤしたが、無事に終わってくれて本当に良かったと思う。
「はぁ······。俺が緊張したよ」
《だゾ〜。私も疲れたのだ······》
リーアと共にその場にへたり込む。アリアやアヤが戦うとなったとして、ここまで俺が疲労するとは思えない。それは多分、カナが俺の義妹で家族だから-なのかもしれない。
そんな事を思いつつ、俺はこの疲労感を吹き飛ばそうと外の空気を吸いに向かった。
外に出ると、先程の試合を振り返りながら楽しそうに談話する観客達が溢れていた。時刻は昼時だ。試合の話を語りながら昼食-というのも魔法祭ならではなのだろう。
「あぁ、居た!」
「え?」
なんて物思いにふけっていると、後ろからシルビアに声をかけられた。隣にはクロもいる。
「どうしたの? 二人して」
「べ、別に? ねぇ?」
「ん。本日二回目の会いたかっただけ」
「え? あ、そ···そうなんだ?」
という事らしい。全く意味が分からないのだが、まぁ別に問題がある訳では無いので、シルビアとクロも交えて三人とリーアで休憩がてら、昼食をとることにした。
「でね? クロナったら、担当の出店で注文と違う商品を出しちゃってさ」
「ん。シルビア、それは言わない約束だったのに」
俺達は昼食を食べながら、たわいもない話に花を咲かせる。クロは、魔法祭のクラス対抗マッチに出ない代わりに出店の手伝いをしているらしい。その手伝いの最中にやってしまったミスをシルビアにイジられているところだ。
「出店ってなんのお店なの?」
「今話題のちょこばなな」
「ちょこ······あぁ、あれか」
どうやらクロは、例の危ない食べ物を販売しているようだ。名前を聞いた瞬間に俺の頭の中では、イルミがちょこばななを頬張る映像がフラッシュバックしている。·········うん。やっぱり危険だ。
「にしても、カナリア君凄かったわね! あんな精霊と契約してたなんて!」
「ん。驚いた!」
瞳を輝かせながら興奮した様子の二人。なんだろう、カナが褒められると俺まで嬉しくなってしまう。
「そうだね。俺も友達として尊敬するよ」
カナは出会った当初、召喚師としての自分の才能を不安視していた。召喚師を目指している生徒の大半が自分に見合った精霊や魔獣と契約する中、自分は呼び出した精霊と意思の疎通すら出来ない-と落ち込んでいた。
そんな彼女が、こんな大舞台で精霊と共に勝利を掴み取ったのだ。賞賛しないわけが無い。それに実況のイルビーナが言っていたが、カナは一途に精霊と向き合おうとした結果、多くの者達の心を動かしたらしい。
「本当に······よく頑張ったね」
「エト?」
「優しくていい笑顔。ちょー素敵」
「うぉ!? ちょ、今の無し!」
ついつい呟いた言葉と、溢れてしまったカナに向けた微笑み。それを二人に見られてしまった俺は恥ずかしさで顔を真っ赤に染め上げてしまった。
「ダメ。いただき」
「ふふっ。アンタのそんな顔、初めて見たわ!」
「うっ······」
完全に俺の不注意だった。別に見られて困るような事では無いのだが、なんだか素を見られてしまったようでめちゃくちゃ恥ずかしい。
「あ、エト様。こちらにおられたのですね?」
俺が羞恥心に悶えていると、背後から俺の名を呼ぶ声がした。声の主はアリアだ。そんなアリアは、そそくさと俺達に歩み寄ると耳元で小さく呟いた。
「エト様、レイラ先生からの伝言ですわ。例の件、昼食後に-との事ですの」
「うん。分かった。ありがと」
いろんな意味でナイスタイミングだよアリアさん!
アリアのおかげでこの場を離れる口実が出来た俺は、早々に食堂から立ち去ることにした。
「ごめん二人共。用事が出来たから行くね! アリア、二人を頼むね」
「はいですの」
そう言いながら、アリアの頭にポン-と手を添えてレイラの元に向かった。
「あぁ! ちょっと待ってよエト!」
「ん。追いかけるべし」
「おやめなさい、お二人共。先程もそうですわ。エト様をつけるような真似を。一体どうなさったのですの?」
「うっ······」
「むっ。アリア、見てた?」
「あんなに挙動不審では、嫌でも目に入りますわ!」
全く-と、アリアは不満そうに二人を呆れた視線で見つめる。そんなアリアにシルビアとクロナも反省した様子。アリアは二人がエトの周りを嗅ぎ回っているのではないか-と、いつものように鋭い勘で二人を警戒していたのだ。本当に出来た弟子である。
一方のシルビアとクロナは、エトの正体を探る為にも目を離したくない-という思いのようだったが、流石に今回は諦めざるを得ないらしい。
「······はぁ」
「ん。残念」
大きく溜め息を吐く二人にアリアも溜め息を吐いた。そんなアリアに監視されながら、二人は大人しく食事を進めるのだった。
「おお、来たか」
食堂を出て仮設事務局に着いた俺をレイラは待ち侘びていたように迎え入れた。ひょいひょい-と手招きをしながらレイラは俺を応接室に招いた。
応接室に入ると、気の強そうな女性が椅子にふんぞり返っていた。見た目通り、態度がデカそうな女性だ。レイラ曰く、彼女がユーリッド・リルアンツェ。北方大陸リルアンツェ王国の国王だ。
リルアンツェ王国は、北方大陸一の武力国家で強さが全て-という中々に古風な国家らしく、彼女もまた己の強さでその地位まで昇りつめたのだと、レイラが言っていた。
「貴様がエト・リエルだな?」
半端ではない圧力を放ちながら、まるで俺を試すようにユーリッドは睨みをきかせる。そんなユーリッドに微笑みつつ、俺は対面側の席に腰を据えた。
「はい。お初にお目にかかります。ユーリッド王」
「······ふふっ、ふははは! よいよい。そう畏まるな」
「そうですか? では、お言葉に甘えさせていただきます」
言葉を交わすと、意外にも親しみやすそうな雰囲気を醸し出してくれた。存外堅物···という訳でもないらしい。そんな彼女はレイラを退室させ、二人になりたいと言ってきた。
「はい。では私は外でお待ちしております」
「ああ。頼む」
彼女の言葉にレイラは軽く頭を下げ、応接室を出て行った。そして残された俺とユーリッドは少しの間を置いて同時に視線を合わせる。
最初に口を開いたのはユーリッドの方だった。
「単刀直入に言おう。リエル、キミの先日の試合、あれはキミの〝本気〟だったのか?」
······本当に単刀直入だな。
俺はユーリッドの言葉に間を置くことなく答える事にした。間を置けば、それは今の問いに少なからず反対の 可能性があると彼女に示してしまうからだ。
「もちろんです。相手の生徒が背後に回り込む事は予想出来たので。まぁ、あんなに綺麗に入るとは思いませんでしたけど」
「なるほどな。ならば、キミはその歳で我がリルアンツェ王国の騎士団クラスの実力······という事になるな」
「·········」
俺はユーリッドの評価に無言で返した。つまりはどういう事だ? 俺がリルアンツェ王国の騎士団クラスの実力だと知って、彼女は俺に何を言おうとしているのか······。そう考えると、答えは自然と導かれた。
「勧誘···ですか?」
「いや、少し違うな」
あれ? 違うんだ······。
なら、なんだと言うのだろう-と思考を巡らせた。すると、ユーリッドはおもむろに立ち上がり俺の隣に移動し始めた。そしてゆっくりと隣の席に腰を下ろすとまじまじと俺を見つめ始めた。
「私はな、この先特Sランク···つまりは〝神話級〟に至る可能性がある者が欲しいのだ」
「···そうですか。なんですか? その神話級って」
彼女の言葉に内心驚きつつも、得意のポーカーフェイスで白々しく問いかける。すると彼女は俺から視線を外して語り始めた。
「伝説···とされている階級。古より、その存在は世界を動かす-とまで言われている特別な存在だ。······私はな、見てみたいのだよ。その超越した存在をな」
「なるほど···」
というか、やっぱり勧誘じゃね?
「これは純粋な好奇心だ。先程キミは勧誘か? -と問いかけたな? そうじゃない。ただ、キミを全面的にバックアップさせて欲しい。そして、キミの今後を一番近くで見させて欲しいんだ」
そう言いながら、ユーリッドは俺に優しく微笑みかけた。初めの威圧感は何処へやら。今の彼女はただの綺麗な大人な女性だ。
とはいえ、それはつまり俺が神話級に至る様を見たい······という事になる。まぁ、事実俺は今回の旅に出た際のステータス更新で神話級に〝至っている〟訳だが、なんの根拠でそこまで俺にこだわるのかが全く分からない。
「あの、僕······いや、俺がその何とかっていう存在になる保証なんて無いと思うんですけど? そんな俺にユーリッド王がそこまでされるメリットが分かりません」
「······まぁ、当然の疑問だな。メリット···と言ったが、先にも言った通り私の好奇心だ。我がリルアンツェ王国は北方大陸一の武力国家···などと言われているが、実際の所は魔法具に頼った戦力と兵士の数が多い-と言うだけの話だ。この私も同様にな」
······なんだそりゃ。好奇心って、どこぞの爺さんみたいだな。
まぁ、世の中には圧倒的な強者に憧れのようなものを持つ者も多いのかもしれない。俺はそんなものを抱いたことも無いし、その考えも理解出来ないが、ユーリッドもその一人-という事なのだろう。
「······考えないんですか? その超越した存在が自国の敵になる-とか、大切な人やものを奪ったり壊したりする可能性-とか。俺には全く理解出来ません」
俺が理解出来ない理由、それが今ユーリッドに言った言葉だ。仮に俺が神話級になる存在だったとして、それをこんな風に煽り全面的に協力して、それが悪人だったらこの人はどうするつもりなのだろうか······。
もし、そんな可能性も見越せないのなら一国家の王として不徳の極みだ。
「······そう、かもしれないな。実際、私も奪われたものを数えるとキリがない」
「なら、どうしてです? それを分かっていて王は何故、強者を生み出そうとするんですか?」
俺の言葉にユーリッドはついに口を閉ざしてしまった。やはり、好奇心-というのは本当の理由じゃないのだろうか。
なんてユーリッドの表情を窺いながら考えていると、彼女は大きく溜め息を吐いて再び対面側の席に移動した。
「すまない。好奇心-というのは理由の一つに過ぎない。一番の理由がもう一つあるのだ」
でしょうね······。
「······初めに言わなかったのは、言いにくい事情があるんですか?」
「あぁ。······リエル、キミは大陸連盟を知っているか?」
俺はユーリッドの問いに首を縦に振った。大陸連盟といえば、全ての大陸を管理する最大組織だ。大陸中の魔法師や聖騎士を取り仕切っている組織でもある。
「はい。一応授業で習いました」
「そうか。では今、現段階で大陸連盟が把握している神話級に至っている存在が何人いるか、知っている·········筈は無いか」
「······ですね」
神話級に至っている存在、もちろん人間の階級なので種族は人間に限るが、俺の知っている神話級は俺を含めて三人だ。それはイルミ、リンさん、そして俺である。が、イルミは大陸連盟の管理下からとっくの昔に抜けている。
リンさんの方は······分からない。なら一人-という事になるが······。
「全世界で〝四人〟だ」
「えっ······四人···ですか?」
ユーリッドの答えに俺は驚愕した。リンさんが入っているとしても、あと三人···イルミやリンさんと同等の力を持つ存在がこの世界には居るらしい。
「あぁ。当然どこの誰かまでは分からないが、それが一番の理由···と言えば理解して貰えるか?」
「······はい。理解は出来ました」
先程のユーリッドが言った、神話級は世界を動かす程の存在-という言葉。そして、そんな存在が世界中に複数いるという情報。つまり、彼女は俺を神話級に至らせ協力者として管理しよう-という事なのだろう。
神話級に至っている存在は手が付けられないが、至る前の存在なら何とかなる-とでも思ったようだ。
「ふははっ。やはり勧誘···と受け取られても仕方がない内容になってしまったな。キミは中々に切れ者のようだ」
自分自身に呆れた様子のユーリッドは微笑みながら頭をガシガシ-と掻き乱す。そんな彼女に溜め息を吐きつつ、俺は正直な気持ちを伝える事にした。
「正直にお答えしても?」
「ん? あぁ。もちろんだとも」
「では。ユーリッド王のご提案、ご要望ですが、お断りさせていただきます」
「······そうか」
多少予想はしていたのだろう。俺の答えを聞いても落ち着いた様子だ。
「理由ですが、俺は大切な存在が守れるだけの力があればそれでいいんです」
「······?」
ユーリッドは俺の言葉に小さく反応を示した。当然だろう。それなら尚更強さを求める筈だからだ。
「俺は俺自身の力でその力を手に入れないとダメなんです。まぁでも······その結果、将来的にそんな訳の分からない存在になったとしたら、その時はユーリッド王に力を貸してもいいですよ」
「·········なっ!? つまりなんだ? キミは我がリルアンツェ王国からの援助は拒否するくせに、我が国家が窮地の時は助けに来ると!?」
「いや、リルアンツェ王国では無く、ユーリッド王に-ですよ?」
俺の言葉にユーリッドは完全に言葉を失っていた。まぁそれこそ俺になんのメリットも無い話なのだが、単純に今後の生活にリルアンツェ王国やユーリッドからのコンタクトが邪魔で面倒なのだ。
それと-
この人、なんかイルミに〝似てる〟んだよな。
だから放っておけない-というのが本音かもしれない。
「くっ······くははははっ!!」
突然、ユーリッドは大きな笑い声をあげた。笑い過ぎて瞳が少し潤んでいる。そんな彼女を不思議そうに見つめていると、彼女は懐から何かを取り出した。
「リエル、いや···エト。中々に魅力的な男だよキミは。間違いなく今まで出会った者の中で群を抜いている」
「ど、どうも」
「これは出会いの記念に-とでも思って受け取ってくれ」
そうして手渡されたのは金色のペンダントだった。エンブレム部分には『Xy』とあしらわれ、美しく光り輝いている。ユーリッド曰く、これはリルアンツェ王国の王族の紋章のようで、これを持つ者はリルアンツェ家の庇護下にある···という扱いになるらしい。
って、ちゃっかり引き入れられてる!?
「ちょ、これっ-」
「あぁ、別にそれを渡したからといっても何も変わらんよ。リルアンツェ王国で王族と同等の扱いを受けるくらいなものだ」
「······はぁ。ちゃっかりしてますね」
「ふははっ。そりゃあタダでは帰らんよ」
やはり、上手く引き入れられたらしい。まぁ、その後に俺からの接触以外の接触を一切しない-という条件で俺はこれを受け取った。というか、最近アクセサリーがどんどん増えている気がする······。
「よっと。ではな、エト。キミの今後の活躍を期待しているよ」
「はいはい。分かりましたよ」
俺に笑顔を見せたユーリッドは応接室を出て行った。そして数分後、レイラが応接室に入ってくると、俺の胸元を見て言葉を失っていた。
「······エト。そのペンダントは外しておいた方がいいぞ。色々と厄介な事になるかもしれん」
「やっぱりそうですよね」
「にしても、お前は本当に不思議な奴だな。ユーリッド王にも気に入られるとは······」
「にも?」
「·········ゴホン。じゃ、じゃあな。残りの二人はまだ返事が無いんだ。分かり次第連絡するからな」
そう言うと、レイラは足早に応接室を飛び出して行った。なんだか、レイラの照れた表情は医務室以来だったので、ホッコリした気分になった。
一方、仮設事務局を出たユーリッドは使いの者と共に訓練場の貴賓席に向かっていた。
「王、彼はどうでしたか?」
「ふふっ。中々に面白い奴だったよ。姉さんの言ってた通りだ」
「そうですか。良かったですね」
「ああ。今後、エトが我が国に協力を願う事があれば全力で応えろ。いいな?」
「はい! そのように」
そして······。
「リンさ〜ん! 大陸連盟から報告書の提出願書が来てますよぉ〜!」
「そんなん破ってポイせんかい! リンがそういうん嫌いなん知っとるやろ自分?」
「もぉ! マヤちゃんうるさいー!」
「はぁ!? なんやて!? もっぺん言ってみい!」
同刻、とある大陸の山脈にある麓でもう一人の至高である彼は大陸伝書を読みながら嬉しそうに微笑んでいた。そんな彼を囲むように言い合いを繰り返している二人の女性。
「マヤ、フィーネ! コレ見てみろよ!」
リンがそう言うと、先程まで言い合っていた二人は一瞬で機嫌が良くなり、大陸連盟からの提出願書を投げ捨てて彼の元に走り寄る。
そして、仲良く三人で覗き込んだ大陸伝書には大きく魔法祭の内容が取り上げられていた。
『魔法祭開催! 初日は超新星が大暴れ!! 雷撃と化し敵を瞬殺!』
-と、大きく書かれた見出しと、雷撃と化し現れた登場場面の写真が大々的に記載されていた。
「やっぱエトやんカッコええわぁ!」
「だよなぁ! 特にこの写真、鳥肌がたったっての!」
「懐かしいですわぁ。エーちゃん元気でしょうか?」
「あぁ、元気そうだったぜ? まぁ俺が行った時は死にかけてたけどな!」
「いやいや、それを元気とは言わんってば!」
そんな話をしながら三人は身支度を整える。
「負けてらんねぇな! んじゃ、行くか! 〝ドラゴン退治〟!」
「「おぉぉぉおおっ!!!」」
ところ変わり、とある大陸にある海底遺跡では···。
「ラグ、大陸伝書見た?」
「っと。···ん? 見てないけど?」
小さな朱色髪の少女に呼ばれ、振り返るこちらも小さな少年ラグ。しかし、そんな彼の後ろには胴体に大きな風穴の空いた50メートル以上もある巨大な亀のような魔獣が横たわっていた。
「何これ? ······へぇ。これ、〝ステラ〟の『人形』が通ってる学園だよね? こんな人居るの?」
「みたい。ステラは見た事ないよ。魔法祭も開会式しか出てないし」
「まぁ、ステラは強い奴にしか興味無いもんね。この人は強そう?」
「んー······。ラグよりは弱いと思うよ」
「そっかー。じゃあまだまだ退屈しそうだね?」
「うん」
そう言いながらラグとステラは仲良く歩み始めた-。
そして、遥か遠い地でもエトの存在は轟いていた。
「雷撃と化し敵を瞬殺······ね。大層な記事だこと。所詮学生のお遊びでしょうに」
真っ青な空間に佇む城塞。まるで空の上に浮かんでいるような城の内部で玉座に居座る女性。そんな彼女は持っていた大陸伝書を一瞬で消し去り、ゆっくりと立ち上がる。
「メルディアは居る?」
「はい、姫様」
女性の声に一瞬で姿を現す幼げな少女。そんな少女に歩み寄ると、玉座から立ち上がった女性はパチン-と指を鳴らした。
すると、玉座の前に広がる空間に数千人規模の強制転移が行われた。
「そろそろ計画を始めるわ。メルディア、フロドロストの連中に召集をかけて頂戴。あなた達も頼むわね?」
「「「ハイッ!!!!」」」
そして、女性は再び指を鳴らして数千人の兵をこの場から消し去った。
「では姫様。わたくしも行ってまいります」
「うん。よろしく」
メルディアが深々と頭を下げ、姿を消した瞬間、それと入れ違いのように整った顔立ちの青年が姿を現した。
「やっぱり、速いわねソール」
「これでもゆっくり来たんだけどね。で? 召集理由は?」
「計画の前段階···って所かしら」
「なるほどね」
「······そう言えば、ソール? あなたの連れてたペットはどうしたの? 最近連れてないみたいだけど」
女性の問いにソールと呼ばれる青年は頭を掻きながら苦笑いで答えた。
「んー、俺よりも忠義を尽くせる主が見つかった······のかな。リンクが切れちゃったみたいなんだ」
「あら、振られちゃったのね。あの子、結構強かったのに」
「まぁ、俺の〝右腕から生まれた〟奴だからね」
そう呟きながら、ソールは右腕の通っていない服の袖を優しく微笑みながら撫でる。そんな彼を愛おしそうに見つめる女性。
「さっ。そろそろ他の連中も来るわ。このアディーロ・フロディアーデの悲願のために力を貸して頂戴」
「もちろん喜んで···お嬢」
「ありがとう」




