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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
44/71

激昴のネロ


 [ご来賓、ご観覧の皆々様! 魔法祭二日目も盛り上がって参りましょう! 本日も司会は私、イルビーナ・ローゼンハイデンが務めさせて頂きます!]

 

 魔法学園魔法祭も無事に二日目を迎えた。この日も昨日同様に晴天で、多くの観客達が魔法学園訓練場に集まった。魔法祭初日の盛り上がりを聞きつけてか、昨日よりも盛大な賑わいをみせている。

 

 [魔法祭初日、ウィル・セルティグル君の宣誓通り、生徒達の正々堂々たる戦い、手に汗握る白熱した試合となりました! そして、昨日極秘裏に行われた魔法祭人気投票ランキングによると、なんと魔法科Dクラスのエト・リエル君が二位と圧倒的な差をつけて第一位に選ばれました!! 選出理由の多くが、あのド派手な登場! そして、格上クラスであるアディレイア君に放った強烈な蹴り! 中にはクラスメイト達と抱き合う場面がよかった-という理由もあるようです! いやぁ、やはり謎多き超新星、今後の戦いにも期待出来そうですね?]

 [あ、どうも。司会補佐のリル・リリアンです! そうですね、彼にはまだまだ余裕がありそうでしたし、もしかすると魔法科ランキング上位にくい込んで来るかもしれませんね! 今後に注目です! ちなみに魔法祭人気投票ランキングは、魔法祭中に随時更新されます!]

 [さて! 本日の試合ですが-]

 

 魔法祭二日目ともなると、司会進行兼実況のイルビーナも慣れた様子で会場を盛り上げながらプログラムを進めて行く。イルビーナの優秀なナレーションに会場中が笑いや歓声に包まれる。

 

 そんな中、魔法科Dクラスの観覧席でシルビアとクロナがキョロキョロと辺りを見回していた。

 

 「二人共、どーしたんだよ?」

 

 その様子を見たレイファがシルビアとクロナに声をかけた。

 

 「ねぇ? エトの奴は? もしかしてまだ来てないの?」

 

 魔法祭初日は、教室に集まり朝礼を行っていたが、二日目以降からは直接訓練場に登校することになっている。勿論、学園行事なので出席や欠席、遅刻や早退などもしっかりと管理されている。

 

 「エト······エトか。なぁ! リエルの事、どっかで見たって奴いるかー?」

 「いや、俺は見てねーぞ?」

 「あたしも〜」

 「だねぇー。なんだか、エト君が居ないとクラスに〝華が無い〟よね!」

 「あ、わかる!」

 

 いや、女性としてそれを自ら言うのはどうかと思うのだが、どうやらシルビアの問いへの答えは曖昧なまま脱線し、静かに消えていってしまった···。

 

 「寝坊?」

 「アイツが?」

 

 クロナの呟きにありえない-と言わんばかりの表情を浮かべるシルビア。と、その時、手ぬぐいで手を拭きながら歩み寄るアリアを視界に捉えたクロナがアリアに声をかけた。

 

 「アリア、エト君がいない。何か聞いてる?」

 

 クロナの問いにアリアは不思議そうに首を傾げる。

 

 「エト様ですの? エト様でしたら、レイラ先生と一緒に何処かへ行かれましたわ」

 「先生と?」

 「それより、なんですの? 突然そのような事······。エト様が自由気ままな方というのは、お二人も既にご存知でしょう?」

 

 勘の鋭いアリアの言葉と視線にひくつく二人。どうやら二人は、昨晩の影響でエトの事を無駄に意識してしまっているらしい。お互いに見つめ合い、苦笑いを浮かべている。

 

 「ま、まぁそうなんだけどね?」

 「ん。人気ランキング一位。お祝いしたかっただけ」

 「そ、そうそう! だから探してたのよ!」

 「は、はぁ······。まぁ、だとしてもエト様がそんな事で喜ばれないとは思いますけど」

 

 尚も苦笑いの二人を不思議に思いつつ、アリアは自分の席に向かった。そんなアリアの背を見て大きく溜め息を吐く二人。二人揃って演技派では無いようだ。

 

 「ちょっと気にし過ぎた」

 「そうね。自重しないと、怪しまれちゃうわ」

 

 なんて言いながらも懲りずに辺りを見回していた二人だった-。

 

 

 

 

 一方-。

 

 そんなこととは露知らず、レイラに連れられて魔法祭仮設事務局に来ているエト。

 

 「それで? 事務局になんて連れて来て一体どうしたんです?」

 

 魔法祭二日目。俺は朝からレイラに捕まり魔法祭の為に用意された仮設事務局に来ていた。何故仮設かと言うと、魔法祭の為だけに建てられた簡易的な建屋だかららしい。

 事務局では教員含め、補助を務めている生徒達が慌ただしく準備に追われていた。今尚来園する一般人の手続きや、今日行われる試合の段取り、中には迷子の世話までしている奴もいる。

 

 「昨日、二人の不法入園者が居たんだが······。エト、何か知っているか? 二人共に目的も素性も一切話さないのでな、学園側としても対処に困っているんだ」

 「······不法入園者ですか」

 

 それはきっと······というか、確実にコロナが引き渡した婆さんと取引相手の男だろう。ただ、この件を話すとなれば自ずと『皇帝の右腕』なる杖や、開かないケースの話が持ち上がって来る。そうなれば、色々と面倒な事になってしまう。

 

 「あぁ。どこかの国や組織が関わっているのであれば下手に手を出すと厄介なんだ。だから、もし何か知っているのであれば教えて欲しい。もちろん、お前の名前は伏せる。話すにあたって条件があるのならば、私が全力でその条件を呑む。······どうだ?」

 

 まぁ、俺も帝国に関することなので二人の目的や素性には興味があるのだが、生憎俺もそれについては何も知らない。レイラの言い分も分かるが、ここは白を切らせてもらう事にする。

 

 「ごめん先生。俺にも分からないです」

 「······そうか。いや、悪かった。昨日、お前に似た奴を第二訓練場付近で見かけた-という話を聞いてな。その二人が居たのも第二訓練場だったんだ。だから、何か関係があるのかと思ってな」

 

 ·········待て待て。俺を見かけた以前に、引き渡したのはコロナの筈だ。俺よりもコロナに声をかけた方が確実だったのではないだろうか。

 

 「先生、他に何か知ってそうな奴は居ないんですか? その二人って自首して来た訳じゃないんでしょ?」


 俺は遠回しにコロナの存在を認識させようとした。が、レイラの答えは〝否〟だった。レイラによると、あの二人はこの仮設事務局の前に意識を失って倒れていたらしい。まぁ流石はコロナ-ということか。

 

 「とにかく、厄介事に好かれるお前だ。今後も何かしらの事件が起こる可能性もある。十分に気をつけてくれ」

 

 おやおや、少しは俺の事が分かってきたじゃないですか。

 

 「分かりました」

 

 話はこれで終わり-と思ったが、レイラが不意に俺の頭の上で爆睡中のリーアに視線を向けた。

 

 「ところで、その魔獣は使役獣だと言っていたが、戦闘向きでは無いのか?」

 「え?」

 「いや、昨日の試合はてっきりソイツで戦うと思ってたからな」

 「あー···。コイツ、俺の言うことは聞いてくれるんですが、戦いにあまり興味が無いみたいで」

 「ふむ。なるほどな。しかし、魔獣と意思疎通が出来るとは······。いや、もちろん会話なんて無理だから意思疎通が出来ているとは言えんか」

 

 レイラの言葉に苦笑いを浮かべる。まぁ、魔獣と意思疎通なんて確かに俺には出来ない。

 

 「あとな、学園側にお前とコンタクトを取りたいと言う要望が多く寄せられているぞ。当然、当の本人であるお前の意見無しにその要望を聞き受ける訳にはいかないが···。興味があるか?」

 「······俺と···ですか?」

 

 付け足し-と言うには、些か大事のような気もするが、どうやら昨日の試合を見て俺の名が無駄に知れ渡ったらしい。まぁ、裏闘技大会に呼ばれそうなくらいには目立とうとは思っていたので、予想範囲内ではあるが、流石に目立ち過ぎたようだ。

 

 「あぁ。一般客から数十人、貴賓客からも三人だ。興味があるのなら話をつけるが······?」

 「うげっ。そんなにですか?」

 

 数十人という規模に大きな溜め息が零れる。心底面倒臭い。全くもって興味が無いのだが、貴賓客の三人···というのは少し気になる。

 何故なら、俺の中で貴賓客の何人かが裏闘技大会に〝関わっている〟と予想を立てているからだ。でなければ、これほどの他国の貴族や王族が集まる魔法祭で、極秘裏にそんな催しが出来る筈がない。

 特に魔法祭の支援者代表でもあるペンドラー王国国王、レイ・ペンドラー・アース。彼は間違いなく一枚かんでいそうな気がする。見た感じ、相当頭が切れそうだった。

 

 「ちなみに、貴賓客の三人って誰ですか?」

 「ふふふ······。やはりな。そう言うと思ったよ。お前には何か企みがあるようだからな、一般客はともかく貴賓客の三人には反応を示すと思っていたんだ」

 

 そう言いながらレイラはいつの間にか手に持っていた大きめの茶封筒から書類を数枚取り出した。俺は自分の思考が読まれていたことに溜め息を吐きながらも、レイラの手渡す資料に目を通した。

 

 「ユーリッド・リルアンツェ、カディエステル・ロア・メルゲン、ナタリア・オーフェル······か」

 

 そこに記されていた名前を読み上げつつ、三人共に王族である事を理解する。何がどうなれば王族が一生徒とコンタクトを取りたがるのだろうか···。全く理解できないものだ。

 

 「北方大陸リルアンツェ王国の国王に西方大陸のロア王国の国王、同じ西方大陸のフレディア帝国皇女······。なんだってんだ一体······」

 《むー。呪文みたいなのだゾ······》

 《はははっ。確かにね》

 

 空気を読んでか、念話でそう呟いたリーアに心の中で笑いながら応えた。確かに、リーアの言う通り一度では覚えにくい名前だ。自分でもよく噛まずに言えたと思う。

 

 「どうだ? 気になる者はいそうか?」

 

 レイラの問いにすぐには答えられなかった。というのも、三人共にどうにもきな臭いのだ。コンタクトを取りたいという願望よりも、何か裏があるのではないか-と考えてしまう。

 

 「その話って、先生がこの人達から直接聞いたんですか?」

 「いや、違う。この資料も話も、来賓席区画担当のアヤ先生に聞いたんだ」

 「ら、来賓席区画担当?」

 

 ·········何やってんのよアヤさん。

 

 「あぁ。何やら学園長に自ら志願したらしくてな。新任でありながらも優秀な彼女ならば-と、学園長も二言目で許可したらしい」

 「そうでしたか」

 

 アヤが自ら志願-ということは、何かしらの意図があるのだろう。そう言えば、前にアヤと妹の事で話をした時に他国が関わっている可能性も話していた。もしかすると、妹の為に少しでも情報を得ようとしてくれたのかもしれない······。

 そう思うと、嬉しくてついアヤのことを愛おしく思ってしまう。ならば、俺も俺なりに探りを入れなければならない。

 

 「その三人、全員に会ってみる事にします」

 「······そうか。お前がそうしたいのなら、そう話を進めよう。ただ、中には多少強引な輩もいる。くれぐれも気をつけてな」

 「ありがとう、先生」

 

 俺は来賓客のその三人に会ってみる事にした。一体何が目的で俺とコンタクトを取ろうとしているのかは分からないが、逆に利用してやるつもりだ。妹の事も聖騎士育成プログラムも、もしかしたら大きな収穫があるかもしれない。

 

 《エトー? もうすぐカナの試合だゾ! 応援に行くのだ!》

 《っと。もうそんな時間か!》

 

 リーアからの念話で俺は仮設事務局の掛け時計に視線を向ける。時間的にそろそろカナの言っていた試合時刻だ。それを確認した俺はレイラにあとはよろしく-とだけ伝えて訓練場に向かう事にした。

 

 「あぁ。三名との面会時間は追って連絡しよう。今日は試合も無い。魔法祭を楽しむといい」

 「そうします」

 

 レイラに手を振り仮設事務局を飛び出す。すると、そこには俺とぶつかりそうになり、面食らった様子のシルビアとクロがいた。仮設事務局に用でもあるのだろうと、俺は二人に軽く挨拶をするだけでその場を去ろうとした。

 しかし、どうやら二人の目的は俺だったらしい。

 

 「お、おはようエト!」

 「ん。朝から忙しそう。大丈夫?」

 

 そう言いながら、二人は俺と並ぶように歩みを進める。

 

 「二人共、おはよう。何かあったの?」

 

 目的が俺-という事は、何か問題があったのかもしれない-と思ったのだが、別段そういう訳でも無いらしい。なんだかいつもと違う様子の二人に俺の頭はハテナで一杯だ。

 

 「な、なんだかアンタに会いたくなったのよね!」

 「ん。そんな日もある」

 「え? あ、そうなんだ?」

 

 シルビアの謎の主張に同意の意を示すクロ。まぁ、確かに無性に誰かに会いたくなる-というのは俺にもあるから否定はしないが、会いたくなる理由が分からない。誰かに会いたくなる-という事は、その誰かに何かしらの想いがある-という事だ。

 しかし、俺はこの二人にそんな想いをさせるような事をした覚えが無い。

 

 《······まぁいいか》

 《エト〜、試合ー! カナと約束したのだ!》

 《あぁ。そうだよな!》

 

 美少女二人に会いたくなったと言われて、嫌な奴なんていない。それよりも今はカナの試合の方が大事だ。俺は二人を連れながら訓練場へと急いだ。

 

 

 

 

 [っとぉー! ここで試合終了! 試合開始僅か一分、一般科Sクラス、五峰の一人である『精霊奏者』アイン・マテリアルさん! 精霊を召喚すること無く試合を決めてしまったァァ!]

 [彼女は何も、高位精霊と契約しているから五峰という訳ではありません。単純な魔法技術、そして戦闘力、それらがあってこその五峰なのです!]

 

 イルビーナとリルの実況解説で、この試合の盛り上がりも相当なもののようだ。俺達が訓練場に入るなり、観客の歓声に圧倒されてしまった。

 

 「······ん?」

 

 ふとグラウンドに視線を向けると、グラウンドから立ち去るアインと目が合った······気がした。多分、気のせいだろう。こんな人混みの中でたまたま目が合うなんてどんな確率だ。

 

 「どうかしたの?」

 「え? あぁ、ううん。なんでもないよ」

 「エト君、何かあるならなんでも言って。協力する」

 「うん。ありがとう、クロ」

 「わ、私だってそうよ!」

 

 クロの言葉に私も! -と意気込むシルビア。なんの対抗心かは分からないが、心配してくれている二人に微笑みながら、俺はDクラスの席に座った。

 

 《間に合ったのだ!》

 《あぁ。そうだね》

 [さぁーて! 西側ゲートより現れるのは、一般科Cクラスのオックス・メイレル君! 彼はなんと、あの有名な『屍師』フレイマー・メイレルの実の弟であり、数少ない死霊系魔法を得意とするCクラスきっての実力者!]

 

 イルビーナの紹介に合わせるように西側ゲートから現れた少年は、素敵笑顔を振り撒きながら観客席に向けて投げキッスをし始める。これが彼なりのパフォーマンスのようだが、俺の目にはその様子が痛々しく写って見えた。

 

 というか、屍師ってなんだ?

 

 「なぁ、シルビア。実況の子が言ってたフレイマー・メイレルって誰なの? そんなに有名人?」

 「え? んー、確かに有名人ではあるかな···?」

 

 そう言いながら苦笑いを浮かべているシルビア。どうやら確かに有名人のようだが、微妙な立ち位置らしい。

 

 「彼のお兄さんは、その······一言で言うなら〝ナルシスト〟なの」

 「ん。加えて大の女好き。私は嫌い」

 

 お···おぉ······。なるほどね。

 

 ここまでクロが、他人を毛嫌いするのを初めて見た俺は、そのフレイマーという人物が余程の残念ナルシストだという事がハッキリと分かった。という事は、あのパフォーマンスも兄譲りのものなのかもしれない。

 つまりは、彼も残念ナルシストの可能性が高い。

 

 [そして! 対する東側ゲートから現れるのは、一般科Sクラスのカナリア・テスター君! 将来の目標は未定ながら、召喚師の才能を秘めた隠れた努力家! そのひたむきな姿勢に多くの生徒達が胸をうたれたそうです! っと、ここで追加情報です! 魔法学園〝腐女子連盟〟、通称『腐女会』によりますと、魔法学園内ベストカップルランキング-なるもので、カナリア君はダントツの一位のようです! ちなみにお相手は、初日に一躍魔法祭の顔となった魔法科Dクラスのエト・リエル君!]

 「-ぶふっ!?」

 「やだ! エトったら汚いわよ!?」

 「エト君、大丈夫? ハンカチあるよ?」

 

 突然の爆弾発言に俺は飲んでいた炭酸飲料を盛大にぶちまけてしまった。前に座っていたデイルの頭がシュワシュワと泡立ってしまっている。

 

 「っゴホッ! ゲホッ······。デイル、ごめん!」

 「お、おう······。クロナちゃん、ハンカチ···俺に貸してくれない?」

 「ん。それは嫌」

 「えっ? なんでぇぇ!?」

 

 デイルは、見捨てられた小動物のように今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。

 

 というより、今の発言はなんだ!!

 

 腐女会も然り、学園内ベストカップルランキングも然り、おかげで訓練場内は大きな笑いで包まれている。これはいわゆる、ボーイズラブ的な意味合いなのだろう。とんだ羞恥プレイだ。

 

 東側ゲートから現れたカナは、イルビーナの言葉に少し嬉しそうに顔を赤らめている。まぁ、カナらしいっちゃあらしいが、今その反応をされると観客達や腐女会の連中の歓声に拍車をかけてしまう······。

 

 案の定、カナのその表情で観客達の歓声は今日一番のものだった。

 

 [······ゴホン。失礼しました!]

 

 いや、ホントにな。

 

 [それでは、第一部最終試合······開始です!!]

 

 

 

 

 大きな歓声の中、ボクはグラウンドに立っていた。見渡す限りの数多の観客達に圧倒されてしまう。正直、緊張で足の震えが止まらない。イルビーナさんの実況も紹介も全く頭に入ってこない。ただただ、会場の雰囲気に呑まれ、焦りから顔が火照ってしまった。

 

 「······訓練場ってこんなに広かったっけ」

 

 不意にそんな事を考えた。授業なので使っている訓練場は、こんなに広くて眩しかっただろうか······。ボクを照らしているライトも、地鳴りのような観客席からの大歓声も、何もかもが新鮮で心臓が圧迫感に耐えられそうになかった。

 

 -と、そんなボクに対戦相手であるオックス君は、お気楽そうに手を振ってきた。ボクは手を振り返す事無く、オックス君が手を振る理由を考えていた。多分、緊張を紛らわせる為、他の事に意識を向けたかったのだ。

 

 お兄ちゃん······見てくれてるかな。

 

 気付けばそんな事を考えていた。お兄ちゃん···といっても、本当のお兄ちゃんでは無い。もう一人のお兄ちゃんで、心の底から信頼出来るエト君の事だ。昨日の試合、ボクは最初から最後までお兄ちゃんであるエト君の勇姿を目に焼き付けようとした。

 だが、実際は焼き付ける前に一瞬で終わってしまった。流石はお兄ちゃん! -と心の中でボクは叫び声をあげていたのを覚えている。

 

 「あっ······」

 

 なんて考えていると、実況解説のイルビーナさんの声が耳に飛び込んで来た。どうやら試合が始まってしまったらしい。相手は死霊系魔法を使うCクラスのオックス・メイレル君。·········って誰だろ。

 目の前に立つ彼がそのようだ。······うん。やっぱり見た事がない。

 

 「-ぅわッ!?」

 

 と、唐突になんの前触れも無く、ボクの両足首が何かに掴まれてしまった。急いで視線を向けると、そこには骸骨の手のようなモノがボクの足首をガッチリと握り締めていた。

 

 [おぉーっと! オックス君の先制攻撃! リル先輩、あれは一体何なのでしょうか!?]

 [あれが彼の得意とする死霊系魔法の一つ、『骨沼』です。皆様もご存知の通り、魔法には主に六つの属性に分かれています。しかし、中には特殊な魔法、いわゆる系統魔法を扱う人達がいます。彼、オックス君もまた、その系統魔法を扱える人物なのです!]

 

 今度はハッキリと実況解説の二人の声がボクの耳に届いた。この骸骨の手のようなモノがリルさんの言っている系統魔法、オックス君の使う死霊系魔法···という事らしい。

 

 スゴい······。

 

 純粋にそう思った。魔法の構造は分からないが、多分魔力で魔素を性質変化させる-という魔法原理は同じような気がする。ただ、本当に人に掴まれているようで気持ちが悪い。

 

 「って! そうじゃない!」

 

 そう。そんな事を悠長に考えている場合では無い。このままでは、お兄ちゃんに何も見せられずに負けてしまう。それだけは······嫌だ。

 

 「ネロ! お願い!」

 

 ボクは咄嗟にそう叫んだ。すると、ポワッ-とボクの右肩辺りに契約精霊であるネロが姿を現し·········あれ?

 

 《······ゆるさない!!》

 

 [おぉぉぉっと!? こ、これは凄い! なんとカナリア君はカナリア君にも引けを取らない程の超絶〝美女〟を呼び出したぁぁっ!!]

 [凄い殺気ですね。実況席にまで緊張感がピリピリと伝わって来ます!]

 

 ネロの登場、そして実況解説の二人の言葉で訓練場内は今日一番の大歓声に包まれた。しかし、一番動揺していたのはボク自身だった。

 

 「ネ、ネロ······なの?」

 

 ボクの視線の先に映っていたのは、小さな可愛らしいネロではなく、凛々しく勇ましい大人の女性だった。先程から鳥肌が立つ程の殺気をオックス君に向けている。

 

 《カナ、あいつ嫌い! カナのことイジメてる。攻撃してもいい?》

 

 オックス君をもの凄い形相で睨みつけながらそう呟くネロに、ボクは肯定の言葉しか出てこなかった。それほどまでに圧倒的な存在感を放っているのだ。

 ボクが首を縦に振ると、ネロは左足を地面に叩きつけた。

 

 -バシャッ!!

 

 その瞬間、ボクの足首をガッチリと掴んでいた手のようなモノが一瞬で消え去った。と同時に、ボクの周囲に分厚い水の障壁が作り出された。

 こんな魔法、ボクは知らない。つまり、これはネロが自発的に発動した魔法らしい。まるで海の中に息をしながら佇んでいるようだ。

 

 「こ、この野郎!!」

 

 一瞬で魔法を消されてしまった彼は、焦った様子で大声をあげている。そして勢いよく左手を地面に叩きつけた。

 

 「今度こそ!『屍の誘い』ッ!」

 

 刹那、今度は手ではなく、人型の骸骨がボクの背後に現れた。それも、ネロが張ってくれた障壁の〝中から〟現れたのだ。ボクは咄嗟に骸骨から距離を取ろうとしたが、骸骨の放つ不気味な雰囲気に畏怖してしまい、体が全く動かなくなってしまった。

 それを感じ取ったネロは、ボクから視線を外し、オックス君を睨みつけると小さく口を動かした。

 

 《消・え・-》

 「ネロッ!!!」

 《ッ!?》

 

 ネロが何かを言い放とうとした瞬間、訓練場内にネロの名を呼ぶ声が響き渡った。突然の大声に会場内は静まり返っている。それはオックス君も同様だったようで、ボクの背後に現れた骸骨がピタリと動きを止めていた。

 

 「お兄·········ちゃん?」

 

 大声が聞こえた方向を見ると、そこには真っ直ぐにネロを見つめるお兄ちゃん、エト君の姿があった-。

 

次回更新は来週の日曜日の予定ですが、

最近忙しいので遅れるかもしれません。

ご了承下さい!!

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