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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
43/71

疑惑


 無事に魔法学園に戻って来た俺とリーアは中央広場のベンチに腰掛けていた。もちろんリーアは銀狼モードだ。とはいえ、先程のプレゼントのおかげでめちゃくちゃ上機嫌である。

 

 「にしても、あの爺さん本当に凄いな」

 

 プレゼントも然り、この銀製の腕輪もだ。魔法学園には強固な結界が何重にも張られているというのに、これはその全てを無効化している。でなければ、今頃大騒ぎになっている筈だ。ただただ感心するしかない。

 

 「······大分遅くなっちゃったな」

 《なのだ〜。なんだか疲れたのだぁ》

 「あはは。そうだね」

 

 気付けば夕刻だ。やはりすぐには訓練場に戻れなかった。今頃クラスメイト達が頑張っているのだろう。

 

 「にしても······」

 

 俺には気掛かりな事が残っていた。それはあの投擲ナイフを投げた存在だ。あれ以降、全く接触して来なかった。一体何が目的だったというのだろうか······。

 

 「あの、お隣よろしいですか?」

 「えっ?」

 

 なんて考えていると、突然隣に見知らぬ女性が声をかけてきた。俺はそんな彼女の言葉に頷きつつ、変に思われない程度に彼女を観察した。

 見た目は多分俺より年下だが、大人びた雰囲気を漂わせている。白髪が特徴的でスタイルはアヤと同じくらい魅力的だ。それに顔だって綺麗な顔をしている。個人的にはタイプかもしれない。

 

 ······なんて言ったら、アヤとか怒るんだろうな。···とはいえ-

 

 《エト、コイツ怪しいのだ。···全く隙がないゾ》

 《うん。確かに······。一応リーアも警戒しといてね》

 《わかったのだ!》

 

 リーアの言う通り、彼女には全く隙がない。というか、何を考えているのか全く見抜けない。単に座りたかっただけ-という事ならいいのだが、多分そうじゃないのだろう。空いているベンチなんて他にもいくらだってある。

 

 「試合、拝見しました。お見事でしたっ!」

 「ッ-。······ど、どうも」

 

 先程とはうってかわり、彼女は俺に微笑んでみせた。いや、微笑むくらいなら俺はここまで動揺はしないだろう。なら何故、俺はここまで彼女の笑顔に動揺したのか······。それがさっぱり分からない。とにかく、本能的に動揺してしまったのだ。

 

 「あれは雷属性魔法ですか?」

 「まぁ、一応」

 「私とそう歳も変わらないのに凄いですね? えへへ」

 「そんな事ないですよ」

 

 ············不味い。

 

 そう思った。何が不味いのか-それは、彼女と言葉を交わす度に彼女に〝惹かれている〟と感じてしまうのだ。笑顔も、声も、仕草も、何もかもが俺の心を塗り潰していく······。『愚者の腕輪』をつけているから分からないが、もしかしたら精神支配系の魔法やスキルを使われているのかもしれない。

 

 《リーア、悪いんだけど訓練場に向かって走ってくれない? ちょっとコイツ、相当ヤバそうだ······》

 《ッ!? わ、わかったのだ!》

 

 すると、リーアは頭の上から飛び降りて訓練場に向けて駆け出して行った。俺は白々しく演技混じりにリーアを追いかけることにした。

 

 「あっコラ! すみません、お話の途中なのに! 失礼しますね?」

 「あっ······」

 

 立ち去る俺を彼女は名残惜しそうに見つめている。が、こうでもしないとあの場から立ちされないと思ったのだ。

 

 

 そして、何とかあの場から避難出来た俺は、訓練場付近で立ち止まりながら後ろを警戒する。どうやらあの女性は追ってきていないようだ。リーアは心配そうにそそくさと俺の頭の上に戻ってくる。

 

 《エト、大丈夫なのだ?》

 《うん。とりあえずはね》

 《ならよかったのだ!》

 

 助かったよ-とリーアの頭を撫でつつ、警戒を怠らない。一体彼女は何者だったのか、何故あそこまで惹き寄せられたのか······。今ほど『愚者の腕輪』を外したいと思ったことはない。

 

 

 

 -一方。

 

 「······逃げられてしまったな。わざとらしかっただろうか。それにしても······。ふふっ。もう少し話していたかったものだ」

 

 一人取り残された白髪の女性は、エトが走り去った方向を眺めながら微笑んでいる。

 

 「さてと。次はどうしよっかなぁ〜······ゴホン。いかんいかん。今は任務中だ。素を出す訳にはいかない」

 

 何やら一人で呟きながらゆっくりと席を立つ。そして、胸元から取り出した魔法具でどこかに連絡をしながら彼女はその場から姿を消した-。

 

 

 

 [試合終了ーッ! 第二部最終試合は、魔法で相手の意識を逸らせ、見事な瞬歩で懐へ入り込み、携えた愛刀で勝負を決めた魔法科Dクラスのシルビア・リレンザさんの勝利だぁーッ!]

 「「「うぉぉおおおおっ!」」」

 

 俺とリーアが訓練場に入ると、丁度最後の勝負に決着がついた頃だった。どうやらシルビアは見事に勝利を収めたらしい。会場の歓声から相当いい勝負をしたのだと感じさせられる。

 

 [第二部、審査結果を発表致します! 魔法科クラス対抗マッチ···。Dクラス対Aクラス、総合得点により·········なんと! Dクラスの勝利ですッ!]

 

 その瞬間、Dクラスの生徒達の歓声が会場全体の歓声を塗り潰す勢いで響き渡った。俺も懐で小さくガッツポーズをしてしまった。ちょっと恥ずかしい。

 

 なんて思っていると、勢いよくクロが俺に飛び付いてきた。······珍しい。

 

 「やったね。大勝利っ!」

 「うん。そうだね、皆が頑張った結果だよ」

 「エト君の一勝目のおかげ。それで皆火がついた」

 「そう? ならよかったよ」

 

 そう言いながら、懐に埋まるクロの頭を優しく撫でる。と、そこへ試合を終えたシルビアが満足そうにやって来た。どうやら褒めて欲しいらしいようで、そそくさと俺の元に歩み寄って来ている。

 

 「シルビア、やったね。おめでとう」

 

 クロを抱きながらも、シルビアに労いの言葉をかける。すると、シルビアは嬉しそうに微笑みながら俺の手を取って自分の頭の上に乗せ始めた。これは頭を撫でろ-という事なのだろうか。

 

 「あ、うん。お疲れ様」

 「えへへ。当然よっ!」

 

 てっきり彼女はこういう行為があまり好きじゃないと思っていたのだが、時と場合によるらしい。今の彼女は心底嬉しそうにしている。

 

 「シルビア、頑張った。ナイスふぁいと」

 「ありがとうクロナ!」

 

 俺の懐で抱き合う二人。まるで俺が二人を抱き締めているようにも見える。その為か、男子生徒達の視線がちょっと痛い。

 

 [来賓の皆様、本日の試合はこれで終了となります。また明日も生徒達の活躍に期待し、応援のほど宜しくお願い致します! 尚、宿泊を希望の方は、係の方へご連絡下さい。手続き後、速やかに宿泊施設へとご案内致します!]

 

 実況者の声に観客達は各々に席を立ち始める。というか、この学園に宿泊施設なんてあったんだ-と今更ながら思った。確かにこの魔法学園は一国家並に大きいので、あっても不思議では無いだろう。

 

 「貴様ら、よくやったな。担当教員として私も鼻が高い思いだ。しかし、試合はまだまだ続くぞ? 気を抜くことなく勝利を掴み取れ!」

 「「「はいっ!」」」

 

 解説業務から戻って来たレイラの言葉で、Dクラスの生徒達は訓練場を次々に立ち去っていく。余韻に浸る者もいれば、次の試合に意気込む者もいる。そんなクラスメイト達を見ていると、微笑ましい気持ちになる。

 

 「······というか、そろそろ離れようね二人とも?」

 「ん。残念」

 「そ、そうね! ごめんなさい!」

 「俺達も······ってあれ? アリアは?」

 「アリアならあそこだ······」

 

 この場にいないアリアを探していると、レイラが貴賓席を指さした。そこにはアリアよりも年上の女性と笑いながら話をしているアリアの姿があった。

 

 「······あれって」

 「あぁ。アリアの姉、クオリオーネ王国聖騎士団団員のセリカ・スペルシアだ」

 

 やはり、俺の予想通りだった。という事は、アリアの家族も見に来ていた-ということらしい。にしても、あそこまで自然に笑みが生まれるとは······。アリアはアリアなりに家族と向き合う事が出来たようだ。

 

 「邪魔しちゃ悪い······よな」

 《リーア、寮に帰ろっか》

 《なのだ! お腹が空いたのだ!》

 《そうだね。カナと三人で食べような》

 《にししっ! 食べるのだぁ!》

 

 姉と言葉を交わしているアリアは、心の底から楽しそうに見えた。そんな彼女と姉の間に割ってはいるなんて野暮な真似は出来ない。俺達は早々に訓練場を出る事にした。

 

 

 訓練場から寮に向かう最中、カナの後ろ姿が見えたので俺はそっと歩み寄り後ろから抱き締める事にした。

 

 「きゃあっ!?」

 

 案の定、カナは可愛らしい声をあげてみせた。というか、これは流石に女の子だとバレてしまうだろう。カナはもう少し警戒した方がいいと思う。

 

 「お疲れ様、カナ」

 「な、なんだぁ。お兄ちゃんか〜。変質者かと思っちゃったよ?」

 「ごめんごめん」

 「あ、リーアちゃん! お疲れさまっ」

 《本当に疲れたのだ!》

 「あはは。本当に疲れたって」

 「そっかそっかぁ!」

 

 カナはそう言いながら、俺の頭の上にいたリーアを抱き抱える。リーアもカナには完全に心を許したのか、自らカナの胸元に飛び移るようになった。なんともまぁ、嬉しい光景だ。

 

 「カナ、これから寮内でのみリーアを本来の姿で生活させるつもりなんだけど、大丈夫?」

 「えぇっ!? 出来るの? 大丈夫なの?」

 「あぁ。第三者に見られるのは不味いんだけど、見られない限りは本来の姿に戻っても問題が無くなったんだ」

 

 その言葉にカナは嬉しそうにリーアを強く抱き締めた。

 

 「やったぁ! もちろんだよー! リーアちゃん、これからはいっぱいお話ができるね!」

 《お話するゾ! カナは良い奴だからエトの次に好きなのだ!》

 「リーアも楽しみだって」

 「えっへへ〜!」

 

 なんて、たわいもない話をしているとあっという間に寮に到着した。そして、寮に入り扉を閉めたと同時にリーアがいつもみたく、ボフッ-と本来の姿に戻ってみせた。すると、カナは瞳を輝かせながらリーアの事を強く抱き締めた。

 

 「リーアちゃん······可愛いぃ〜ッ!? なんで、どうしてこんなに可愛いの!? お兄ちゃんずるい! こんなに可愛い子を独り占めなんて!」

 

 え? あれ······。なんで俺が怒られてるの!?

 

 〘カナ、私はリヴァイアなのだ! エトの契約者でエトの特別だゾ! これからよろしくなのだ!〙

 「うん···うんうんうん! わかるよ···聞こえるよ!」

 《む? どうしたのだ? 泣いているのだ?》

 「えへへ。嬉しくって······」

 《······にししっ!》

 

 リーアの声が、そして言葉が聞き取れた事に涙ながらに感動しているカナ。この分なら少しの間、リーアをカナに預けていてもいいかもしれない。そう思いつつ、俺は先に風呂に入ることにした。

 

 湯船に浸かりながら外から聞こえるカナとリーアの声に笑顔が零れる。実に楽しそうに話している。どうやらリーアはカナに俺との出会いの話をしているようだ。

 確かに出会いは中々にハードだった。わがままで捻くれ者のリーアには相当手を焼いた。あの魔界での戦いだってそうだ。正直、あそこまで強いとは思わなかったし、多分戦いを楽しむ事を辞めたリーア相手だったら、俺は負けていたかもしれない。間違いなく、彼女は俺の知る中でトップクラスの強者だ。

 

 「俺を気に入ってくれてよかったよ」

 

 今だからそう思える。リーアが敵として現れたら相当厄介そうだ。

 

 〘な、なんなのだ? 尻尾みたいなのだ!〙

 「うふふ〜。よく似合ってるよ?」

 

 ·········あれ? なんか、声が近づいてる?

 

 気付くと、すぐ傍でリーアとカナの声が聞こえ始める。俺はおもむろに脱衣場の方に視線を向けた。すると、扉越しにリーアとカナがじゃれ合っている様子が窺える。まさかね···-なんて思っていると、案の定リーアとカナが浴室に乱入して来てしまった。

 

 〘エト! カナにしてもらったのだ!〙

 

 素っ裸で嬉しそうにポニーテールの髪型を見せびらかすリーア。その後ろにカナがこれまた素っ裸で微笑んでいる。

 

 キミ達には恥じらいというものが無いのかね···。まぁ、眼福ですけども。

 

 「うん。よく似合ってるね! 可愛いよ」

 〘か、可愛い······にへへっ! 可愛いのだ? そうなのだ!〙

 「ほら、リーアちゃん? 体洗ってあげるからここに座って?」

 〘わかったのだぁー!〙

 

 カナに指示されるがまま、リーアは浴室の椅子に腰掛ける。そんなリーアを愛おしそうに見つめながらカナがゆっくりとリーアの体を洗い始める。

 こんなに可愛い二人をまじまじと見ていていいのだろうか。世の中の思春期男子達に恨まれそうな光景をただただ見つめる。小さいが膨らみかけの······いや、細かい解説は野暮というものだ。想像にお任せしよう。

 

 「って、誰に言ってんだか······」

 

 その後も体を洗い終わった二人と浴室に浸かりながら、和気あいあいと会話に花を咲かせた。なんだか、新しい家族が出来たようで新鮮な気持ちになれた。

 

 

 

 「ほら、リーア。そろそろ寝るよ?」

 〘寝るのだー!〙

 「え? リーアちゃん、お兄ちゃんの部屋なの?」

 「ん? あぁ、別にカナの部屋でも俺は構わないよ? どうするリーア?」

 〘三人で寝るのだ!〙

 

 ·········え?

 

 「あ、あ〜! そ、それがいいんじゃないかなぁ〜! うん、そうしよぉ〜!」

 

 待て待て。なんだ、その下手くそな演技は!?

 

 どうやらリーアに仕込みをしていたカナ。リーアと結託して一芝居打ったみたいだ。

 

 〘カナ、今のでよかったのだ?〙

 「うん! 完璧だったよリーアちゃん!」

 

 聞こえてますよカナさんッ!?

 

 いや、別に三人で寝るのは構わないのだが、流石にそこまでベッドが広くはない。という事で、俺が床でリーアとカナがベッド-という配置で手を打った。

 

 「お兄ちゃん?」

 「ん? どうしたの?」

 

 布団に入って一時間程が経った頃、唐突にカナが俺の名を呼んで来た。返事をしつつゆっくりと上体を起き上がらせる。すると、カナは布団に潜ったまま上体を横に向けて俺と視線を合わせた。

 

 「明日ね? ボクの試合なの。でね? その······ちゃんと見ててくれる?」

 「うん。もちろんだよ。妹の晴れ舞台だからね」

 「えへへっ。やったぁ」

 

 カナを応援する-そんな事は当たり前だ。もう一人の妹であり、家族とも言えるカナを応援しない訳が無い。とはいえ心配もある。それは、優しいカナが敵対する生徒に手を下せるか-という事だ。

 当然、危険な戦いにはならないだろうが、きっと怪我を負ったり、負わせたりする筈だ。たとえ、学園長の魔法で元に戻ると言っても、その瞬間の痛みや光景はその身に刻み込まれる。

 

 「カナ、無理だけは······しないでね」

 

 自然とそんな言葉が口から零れた。すると、カナはゆっくりと起き上がってモゾモゾ-と俺の布団に潜り込んで来た。

 

 「大丈夫だよ、お兄ちゃん······」

 

 そう言いながら、俺の腕にしがみつくカナに不安の色は全く無かった。どちらかというと、自信に満ち溢れている表情をしている。そんなカナに、額をコツンと当てようとした瞬間-

 

 -ドサッ!

 

 「ふごっ!?」

 「お、お兄ちゃん!?」

 〘むにゅう······。エトは···私の······なの······だぁ···〙

 

 突如としてリーアが俺の懐に襲来して来た。真上から落ちてくる-ってどういう状況だ。転がって落ちてくるならまだ分かる。が、それなら俺よりもカナの方に落ちる筈だ。

 俺に真上から落ちてきた-という事は、ベッドから飛び立たないとありえない。

 

 「こっ······このお姫様は···全く」

 「くふふっ。寂しかったのかな? じゃあボクも〜!」

 

 なんて言いながら、カナはギューッと俺とリーアを包むように抱き締めた。そんな困った二人に溜め息を吐きつつも、俺はゆっくりと目を伏せた-。

 

 

 

 

 その頃-。

 

 「ん。シルビア、まだ起きてたの?」

 「あ、クロナ。ごめん、起こしちゃった?」

 

 シルビアの言葉に首を横に振るクロナ。ここは、女子寮内のシルビアとクロナの家だ。日付が変わろうとしているにも関わらず、シルビアは今日行われた試合の映像を食い入るように見つめていた。

 そんなシルビアの隣に腰掛け、薄手の毛布を肩にかけるクロナ。

 

 「あ、エト君の試合?」

 「うん。······ねぇ、クロナ。アイツって何者だと思う?」

 「······エト君の事?」

 「そう······」

 

 シルビアは試合映像を眺めながらボソッと呟いた。魔法学園に突然現れた少年、エト・リエル。同い年とは思えない落ち着きようと、底の知れない不思議な雰囲気を持つ彼を、シルビアは出会った当初から気にかけていた。

 魔法学園教員長であるベルエラを負かし、担当教員のレイラを瞬殺、更には魔法学園最強といわれる五峰の一人であるセイル・マードックにも勝利した。そんな異質とも取れる彼の存在に、シルビアは疑問を抱かずにはいられなかったのだ。

 

 「······ほら、ここ」

 

 シルビアは映像の中に映るエトを指さす。それは、対戦相手であるエルナード・アディレイアが、見事な瞬歩から風属性魔法を放つ瞬間だった。

 

 「エトってば、エルナードって人の事を〝見もしないで〟正確に蹴り飛ばしてるでしょ?」

 「ん。確かに。試合の時は何がなんだか分からなかった。でも、改めて見ると······反応が速過ぎる」

 「······でしょ? 雷属性の魔法を纏ってるからって、こんなに速く動けるものなの?」

 

 シルビアの疑問にクロナはゴクリ-と息を呑む。思えばエトは最初の小テストの時から異質だった。そんな事を振り返っていたクロナは、ふと頭に過ぎった疑問を零した。

 

 「·········〝本気じゃない〟···?」

 「えぇ!? いや、流石にそれは······無いでしょ」

 

 クロナの発言にシルビアは苦笑いで返す。しかし、シルビアも口にはしなかったが、クロナと同様の思いを抱いていたらしく、言葉の後半が自信を無くしているように聞こえる。

 

 「でも······。エト君の事、私達はそんなに知らない」

 「······まぁ、確かに謎が多い···わよね」

 

 知り合ってからというもの、彼女達はエト・リエルという少年の全てを把握出来ていない。むしろほとんど分からない事だらけなのだ。

 

 「······知りたい」

 

 唐突にシルビアはそう呟いた。エトという少年は一体何者なのか-それを考えれば考える程、シルビアは彼の本当の姿、実力を知り得たい-そう思った。

 

 「ん。私も知りたい。でも、どうやって?」

 

 クロナの問いにシルビアは思考を巡らせる。確かに、どうやって彼の本当の姿を知り得るのか······。つまり、エト・リエルという少年が〝本気を出さざるを得ない状況〟をどうやって作るのか-それが一番の難題である。

 

 「アイツって、面倒見がいいよね。多分、仲間とか友達とかを大切にする性格なんじゃない?」

 「······ん。私達が危険な目にあったら本気を出すかも」

 

 なんて、考えついてはみたものの、それは友としてどうなのだろうか。エトの性格を利用して、彼を試すような事をしようとしている自分達に二人揃って大きく溜め息を吐く。

 

 「······ダメよね、そんなの」

 「ん。友達としてありえない」

 

 そう言いつつ、画面に映るエトを揃って眺める。エトという少年が実は本気、つまり本性を出していないのかもしれない-と疑問視した為か、二人はエトを『得体の知れない存在』と認識してしまっていた。

 

 「クロナ、ちょっとエトを調べてみない?」

 「ん。試すのはダメ。でも、調べるのはOK」

 「そうよね! みてなさいエト! 絶対アンタの本性暴いてやるんだから!!」

 

 おー!! -と仲良く拳を掲げる二人。

 

 

 

 一方-。

 

 「っクション!!」

 「ん······? お兄ちゃん、寒い?」

 「ううん。カナとリーアのおかげで暖かいよ」

 

 カナとリーアに包み込まれるエト。シルビアとクロナがエトに向けた疑惑を彼は知る由もなかった-。

 

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