皇帝の右腕
怪しい婆さんを追って出口へと向かう。すると、アリアがシルビアとクロを連れて俺の元に歩み寄って来た。どうやら昼飯を一緒に食べよう-という事らしい。
「もぉ、エトってばどこ行ってたのよ!」
「エト君、お昼食べよ」
いや、今それどころじゃ無いんだけど······。
「ごめん、俺はいいや。ちょっと用事があるからさ? みんなで食べてきて」
「なんでよ! せっかく誘ってるのに〜」
「用事って何? 手伝える?」
俺の進行方向に立ち伏せる三人で俺は通せん坊状態だ。まぁ確かに手伝って貰うのも手かもしれないが、事情が事情だ。こちらの人数を増やしては、ますます警戒されるかもしれない。
頭の上で毛を逆立てながら三人を威圧しているリーア。急いでいるのだ! 早く退くのだ! -と、先程からご立腹だ。まぁ気持ちは分かるが、とりあえず落ち着いて欲しい。
「手伝ってもらうような事じゃないよ。大した用事でもないから。アリアも気にしなくていいから、先にお昼を食べてて?」
そう言いながらアリアに視線を移す。すると、アリアは俺の視線ですぐに何かしらの厄介事に巻き込まれているのだと感じ取ってくれた。
もうね、さすがっすよアリアさん。
「ふふっ。心配などしていませんわ。試合には間に合いそうですの?」
「うん。必ず」
「わかりましたわ。ではお二人共、わたくし達だけで参りましょう」
やっぱりアリアは出来る子だ。未だに納得出来ていない様子の二人を宥めながら、二人を俺から離してくれた。あの、信頼している-と言わんばかりの微笑みに俺も自然と笑顔になる。
「あと一時間、それまでに片付けて戻って来ないとね」
《おー! なのだ!》
そうして俺達は急いで訓練場を飛び出した。
訓練場を出ると、昼休憩という事もあってか更に周囲の人口密度が増えていた。辺りを見回すが、例の婆さんの姿は無い。流石に出遅れてしまったようだ。
「参ったな······。これであの婆さんが無関係だったら俺泣いちゃうかも」
《エト、泣くのだ?》
「いや、言葉の綾だよ」
なんて会話をしつつ、訓練場周辺を縦横無尽に駆け回る。
しかし、これ程の人の中から一人を見つけるというのも酷な話だ。リーアも必死に探してくれているが、一向に見当たらない。気付けば訓練場を出てから結構な時間が経っている。あまり悠長にしている時間は無い。
最悪、試合に出れなくても-なんて思ったりもしたが、クラスでの皆の意気込みや熱意を無駄にはしたくない。この初戦だけは何がなんでも出なければならない。
[リエル君! 見つけたっスよ、包帯杖のお婆さん! 当たりっぽいっスね、杖がいる程の老体の割にめちゃくちゃ動きが早いっス! 場所は-]
どうしたものか-と悪戦苦闘中、コロナからの無線が入った。どうやらコロナが見つけてくれたらしい。場所は訓練場の真反対、第二訓練場だ。俺達は急いでコロナと合流する事にした。
コロナの指示した場所に着くと、彼女は物陰に姿を隠しながら息を潜めていた。そんな彼女に歩み寄り、小さな声で状況を伺う。どうやら婆さんは逃げきれたと思っているようで、第二訓練場近くのベンチに腰掛けていた。
「あのお婆さん、只者じゃないっスね。息一つ乱れてないっス」
「いや、もはや婆さんかどうかも怪しいね」
「確かに」
「それで? どうする?」
「そうっスね。警戒されてるとなると、ウチでも近づきにくいっス」
当初、単に訓練場を出ただけの可能性も考えていたが、ここまで離れる必要も、ましてコロナが驚く程の素早さで逃げる-なんて事が普通の老婆に出来るわけがない。というか、一般基準でそんな婆さんが居たらビックリだ。
《むっ。誰か来たのだ!》
「っと。誰か来たっスね」
リーアと同じタイミングで接近者に気付き、そう言いながらコロナは木の陰から様子を窺おうとする。そんな彼女を溜め息混じりに俺は抱き締めた。というのも、この子は気配や姿を隠すのは完璧なのだが、どこかポンコツなのだ。
今だって木の反対側からお尻が出てしまっているし、足元の小枝にも気付いていない。もし踏みでもすればその音で気付かれかねない。
「はおっ!? リリ、リエル君っ? どうしたんスか? そんなに強く抱き締められたら···ウチでも······」
《むむむむ〜···》
「シーっ。静かに」
「は、はいっス······」
《わかったのだ···》
コロナを抱き抱えながら様子を窺う。すると、老婆は歩み寄る男に気付き、辺りを警戒しながら自らも歩み寄っていく。
「コロナ、あの二人···同時に黙らせるけど、いける?」
「もちろんっス。ウチはお婆さんの方でいいっスか?」
「うん」
そして、男は頑丈そうなケースを老婆は手に持った包帯杖を交換し、お互いに不敵な笑みを浮かべている。やはり、当たりだったようだ。その瞬間、俺は『纏雷』で雷撃と化し、コロナはいつもの完璧な瞬歩で取引をし終えた二人の背後を取り、素早く気絶をさせた。
「ふう。よかった、これでギリギリ間に······」
間に合った-そう思った矢先、昼休み終了のベルが魔法学園中に響き渡った。これは非常に不味い。
「コロナ、ごめん! ちょっと任せてもいい? すぐに戻ってくるから!」
「大丈夫っスよ! 試合、頑張って下さいっス!」
······やっぱり知ってたのね。
なんて思いながらも、全速力で訓練場へと向かった。ちなみに全速力といっても『纏雷』は使っていない。流石にそれは目立ち過ぎてしまうので、久しぶりに全力疾走である。
-同時刻、訓練場では第二部が幕を開けていた。
[さぁさぁ皆々様! 第二部も盛り上がって参りましょう!]
実況者の言葉で、会場内の雰囲気も熱気を帯びる。大歓声が会場を包む中、実況者は前半戦第一部を振り返っていた。
[前半戦、一般科CクラスとDクラスの白熱した熱い戦いをご覧になられましたでしょうか! 格下と言われているDクラスの強い意志、そしてそれを阻まんとする格上Cクラスの強者の意地がぶつかり合い、まさに歴史に残る死闘を繰り広げてくれました! 厳正なる審査の結果、クラスポイントはCクラスがリードしているものの、その差は僅差! まだまだ逆転のチャンスは残されています! 今後の戦いに注目です! さて、第二部からは魔法科クラスによるクラス対抗マッチが行われる訳ですが、解説のレイラ先生、勝負の行方はどうなるのでしょうか?]
[うむ。当然、うちのDクラスの圧勝だな!]
[おぉっと! まさかの大胆勝利宣言だぁ!]
「「「おぉぉぉおおおっ!」」」
実況解説を務めるレイラの一言で会場のボルテージも最高潮だ。一方、Dクラスの生徒達はプレッシャーで押し潰されそうになってしまっている。
[しかし、レイラ先生。相手は魔法科Aクラスです。厳しい戦いになると思うのですが?]
[まぁ見ていてくれたまえ。数分後、会場の皆様は静まり返る事になるだろう]
[ま、またもや大胆発言だぁああっ! そ、それでは期待して勝負を見守るとしましょう! 第二部、初戦の試合、東側ゲートより現れるのは魔法科Aクラス首席、今最もSクラスに近いと噂のこの人!]
実況の言葉で会場中の視線が東側ゲートに向けられる。そして姿を現したのは、屈強な体つきをした色黒い少年だった。
[瞬歩の使い手であり、風魔法を得意とする『疾風』エルナード・アディレイア君!]
実況の紹介に合わせるように勢いよく両手を突き上げるエルナード。そのパフォーマンスにより、大歓声が沸き起こる。
そんな中、Dクラスの生徒達はバタバタと忙しない様子で訓練場内を駆け回っていた。
「おい! エトの奴いたか?」
「ダメ、見当たらない!」
「何? どうしたの!?」
そこに昼休憩から戻って来たシルビア達も合流する。そしてクラスメイト達からエトが姿を見せない事を聞くと、シルビアは頭を抱え始める。
「······嘘でしょ。ったくアイツは!」
「エト君ならきっと来る」
「えぇ。エト様は約束を守られる方ですわ」
「そ、そうだよね!」
「お、おう! きっと便所に篭ってんだよな!?」
クロとアリアの言葉に生徒達は焦りながらも頷いてみせた。クラスメイト達もエトを全面的に信頼している様子だ。しかし、無情にも実況は生徒の紹介を進めていく。
[対する西側ゲートより現れるのは、魔法科Dクラス期待の超新星! 噂では五峰の一人を倒したとも言われている『第六秘峰』! その可愛い容姿からは想像も出来ない程の圧倒的なスピードを持ち、そして誰もを惹きつけてしまうカリスマ性を秘めたこの人!]
実況の紹介内容に期待を膨らませる観客達。中には五峰の実力を知っているが故に信用していない者もいる。それでも息を飲むように見つめる視線の先······。しかし、そこにエトが姿を見せることはなかった。
ザワザワ-と会場中に不穏な空気が流れる。流石にヤバい···とDクラスの生徒達も慌てふためいている。
[おや? えーっと······]
まさかの事態に実況者もたじろんでいる。
「おいおい! マジで大丈夫なのかよ!」
「なんだかヤバい雰囲気だぞコレ!?」
一秒、また一秒-と過ぎていくごとに、観客達の呆れたような声が響き始める。すぐにでも大ブーイングが起こってもおかしくは無い。この場には大陸中の貴族や王族も来ているのだ。魔法学園側としても、悠長に待ってはいられない。
「······エト様」
アリアは会場の雰囲気や来賓者達よりもエトを気にかけていた。エトは必ず約束は守る。守らなかった事なんて一度もない。ということは、守れない状況下にあるのだろうか-そう思うと、心配せざるを得なかったのだ。
流石にしびれを切らしたのか、観客の一人が大声をあげた。その声が引き金となり、今まさに会場中がブーイングの嵐で包まれんとした。
その時-。
-バチバチバチッ!
「遅くなってごめんね-ッ」
「エト様ッ!!」
アリアの隣を一瞬だが、雷撃が空気を発火させて行った。その瞬間、アリアは表情を明るくした。と、同時に訓練場中央のグラウンドに轟音と共に雷が降り注いだ。
突然の事態に会場内は静まり返る。その光景に貴賓席の面々も自然と席を立ち上がる。
そんな中、現れたのはギリギリ間に合っ······てはいないエト・リエルだった。
[あ、あ···現われたぁぁああッ! 雷撃と共に砂塵より姿を現した彼こそ、魔法科Dクラス『第六秘峰』エト・リエル君だぁぁあっ!]
「「「ウォォオオオオッ!」」」
静寂が一変、派手過ぎる登場により遅れていた事など吹き飛ばしてしまった。バチバチバチッ-と雷撃を纏い雷と化しているエト。そんなエトにただただ見蕩れる観客達。
クラスメイト達も、その圧巻の登場パフォーマンスに興奮状態だ。機嫌が悪かったシルビアですら、瞳を輝かせている。この状態のエトを見るのはほとんど初めてなのだ。当然といえば当然なのかもしれない。
「······エト・リエルか。アルトリッヒ、彼は何者だ?」
「いえ、それが詳しい情報は···。ここには学園長アリスタシア・ウォーランドの推薦で来たようですが」
「······そうか。わかった」
貴賓席中央に座るレイ・ペンドラー・アースの瞳がエトを捉える。しかし、エトを見つめていたのは彼だけではなかった。
「ほぉっほっほ。あれは将来必ず化けるのぉ。ラナンキュラス、あの小僧を堕とせ。必ず儂のモノにしてくれようぞ」
「はい。かしこまりました。カディエステル様」
白髪の女性は深々と頭を下げる。そしてゆっくりと頭を上げると真っ直ぐにエトを見つめ、周りに悟られないように小さく微笑んだ。
[さぁーて! 盛り上がって参りましたァ! レイラ先生の宣言通り、会場に静寂を運んだリエル君! その勢いで勝利も運んでくれるのかぁ!?]
······あっぶねえ!? 間に合わないかと思った。
いや、実際間に合っていないのだが。とはいえ、コロナを待たせているのだ。『皇帝の右腕』の対処なら宛はある。ああいう訳の分からないモノはワイズマンに丸投げすればいい。その為にもさっさと終わらせる事にする。
「······貴様、なんだそのふざけた格好は。雷撃を纏って雷にでもなったつもりか?」
「いやぁ、申し訳ないです。ちょっと急いでたもので」
そう言いながら、素敵笑顔を振りまく。
[はうっ!? な、なんでしょうか今の超絶可愛いスマイルは!? 危険です! 非常に危険な笑顔ですよリエル君ッ!]
······おいコラ。真面目に実況しなさい。
ともあれ、火蓋は切って落とされた。
その瞬間、目の前にいた······名前は分からないが、色黒少年は一瞬にして姿を消した。予備動作も無ければ、土埃も立たせない。見事な瞬歩だ。ただまぁ、捉えられない速さでもない。
彼は、俺の背後に現われた刹那に魔法を発動させる。
[おぉっと! なんという速さだぁ!? 全く見えない動きに実況の私も困ってしまいますぅ!]
[瞬歩からの風属性魔法、攻撃力よりも速さに重点を置いたコンビネーションだ]
[だそうです! これは早々に決着がついてしまうのかぁ!?]
[そうだな。もう決着はついた]
-ズ・ド・ンッ!!!!
会場中に響く鈍い打撃音。再び訓練場内は静寂に包まれた。グラウンド隅の壁が衝撃により変形し、砂埃を巻き上げている。
[こ、これは······。な、なんということでしょうか! エルナード君がリエル君の背後を取ったと思いきゃ、気付けば壁に叩きつけられているぅ! レイラ先生、あの一瞬に何があったのでしょうか!?]
[何、単にアディレイアが魔法を放つ前にリエルが蹴り飛ばしただけの事だ]
[······いえ、その···あの一瞬でですか? あの一瞬でリエル君はエルナード君の位置を正確に捉えて蹴り飛ばした···と?]
[まぁ奴なら造作もないだろうな]
その瞬間、静まり返っていた会場に膨れ上がるような歓声が沸き起こった。貴賓席に座る面々も賞賛を贈るように拍手をしている。
[こ、これはまさに雷光の如く一瞬の決着! 第二部初戦、エルナード・アディレイア君対エト・リエル君、勝者は魔法科Dクラスのエト・リエル君だぁー!]
「「「おぉぉおおっ!」」」
鳴り止まない歓声の中、俺はペコペコと頭を下げて『纏雷』状態でクラスメイト達の元に降り立った。
「す、すげぇ! すげぇよエト!」
「エト君、すっごくカッコよかったよ!?」
「うん、ありがと」
「まさに瞬殺だね!」
クラスメイト達の賞賛は素直に嬉しかった。が、急いでいるので今は見逃して欲しい。なんて思っていたのも束の間、今度はシルビア達が俺の前に現われた。シルビアもクロも瞳を輝かせて俺を見つめている。アリアは当然といった表情だ。
「エト、あんたってやっぱり凄いわね!」
「ん。エト君の本気が見られた。大満足」
「あ、そう? ならよかったよ」
そんな中、次は俺だぁ! -と躍起になるデイル。どうやら俺の勝利で皆の背中を押すことが出来たようだ。内心めちゃくちゃホッとしている。
「アリア、ちょっといいか?」
「はい? なんですの?」
俺はアリアを連れてクラスの皆から少し距離を置いた。今なら話してもいい-そう思ったからだ。アリアに俺が昼休憩の時に断った理由や、試合に遅れた理由を話すと、アリアはすぐに状況を理解してくれた。
「『皇帝の右腕』···。そんな物が?」
「うん。それで、今からそれの対処をしに行くんだけど、当分は戻って来れないと思うんだ」
「わかりましたわ。こちらはお気になさらないで下さいですの」
「ありがと」
笑顔を見せてくれたアリアに微笑み返し、俺はすぐにコロナの元に戻ることにした。にしても、頭の上のお姫様が静かなものだ。試合の時なんて、一言も話さなかった。
「リーア? 大丈夫?」
《······むぅ···。もうちょっと···なのだ···ぁ》
······なんだ。寝てたのね。
あれだけの大歓声の中、熟睡出来るとは驚きだ。まぁそれだけ興味が無かったのだろう。
第二訓練場付近に着くと、コロナが一人ベンチに腰掛けていた。そこには例の婆さんも取引相手の男の姿もありはしない。
「あれ? コロナ一人?」
そう問いかけると、コロナは首を縦に振って見せた。というのも、あの婆さんも男の方も身分を偽っていたらしく、魔法学園側に引き渡したのだという。
「あー、そういう事ね。ちなみにそのケースの中ってなんだったの?」
「わかんないっス。うんともすんともビクともしないっスから。とはいえ、この杖は本物みたいっスよ?」
そう言いながら、熱を帯びた杖を俺に手渡す。確かにめちゃくちゃ熱い。試しに包帯を取ってみたが、案の定黒一色の杖だった。
「コロナ、これの対処なんだけど、俺に任せてもらってもいい?」
「おや? 何か宛があるんスか? 多分、壊したり出来ない類のモノっスよ?」
「うん。魔界にね、そういうのの扱いに慣れた奴がいるんだ」
「なるほど。魔界っスか。それならここよりも遥かに安全っスね!」
魔界に簡単に行けない-というのはもう知れている事だが、加えると魔界には霊力が流れていない。地脈が存在しないのだ。だから爺さん云々は別としても、人界よりも魔界の方が安全といえる。
というわけで、俺の左腕にはワイズマンの爺さんから貰った銀製の腕輪がある。これでちゃちゃっと丸投げする事にした。
「それでは、ウチはこっちのケースをどうにかしてみるっスね。また分かり次第ご報告しますっス!」
「うん。分かったよ! あっ···あと、この杖に関係する事とか、遥か昔に栄えた帝国に関連する事で何か分かったら教えて欲しいんだ」
「了解っス! それでは失礼しますっス!」
コロナが姿を消したことを確認した俺は、周りに誰も居ないことを確認して腕輪に魔力を流した-。
「っとどぉっ!?」
腕輪に魔力を流した途端、俺は脱力感に苛まれ、次の瞬間には遥か上空にいた。どうやら魔界には来れたようだが、転移先が空だなんて聞いちゃいない。
「うぉわあああっ!?」
俺は急いで右腕につけていた『愚者の腕輪』を外した。こんなものをつけた状態で地面に叩きつけられれば即死だ。
「ッ! ···ぬっがぁ!」
-ズドンッ!
「はぁ···はぁ······ざっけんなよあのジジイ···」
何とか無事に着地出来たが、当然のように両足の骨が砕けている。まぁすぐに再生されるのだが···。なんてやっていると、そそくさと嬉しそうに走り寄ってくる奴がいた。······ワイズマンだ。めちゃくちゃ満面の笑みを浮かべている。俺が何かしらの情報を持ってきたのだとワクワクしてるという顔だ。
確かに持って来てはいるが、その前に-。
〘おぉ! 童、待っておった-ゾブハッ!?〙
俺は走り寄るワイズマンの顔面を容赦なく地面に叩きつけた。死ぬかと思ったのだ。これくらいはしないと気が済まない。
〘ふぶ。こべがていごぶの······〙
落ち着いた俺は爺さんに『皇帝の右腕』を手渡し、これがどういう物かを説明した。ちなみに爺さんが何を言っているのか分からないのは、俺が地面に叩きつけた影響で、顔が変形してしまっているからだ。まぁこれでは話にならないので回復薬を手渡すことにした。
「それで、これの対処を頼みたいんだ。あっちにあってもまた悪用されかねないし」
〘うむ。そうじゃな。それにしても杖といい石版といい、何故に黒いんじゃろうな······〙
「まぁ確かに。どう? 何かわかった?」
先程から爺さんは、杖と石版を近づけたり、互いをぶつけたりして変化を見せないか確認している。が、どうやらこの二つに直接的な関係性は無いようだ。
〘······駄目じゃな〙
「そっか」
と、ワイズマンとの会話中、頭の上にいたリーアがなんの前触れもなく本来の姿に戻った。
〘っだああ! やっぱりこっちがいいのだ!〙
大きくその場で伸びをするリーア。魔界がいいのか、本来の姿がいいのか、はたまたその両方なのかは分からないが、満足そうで何よりだ。
〘ほれ姫、お主にプレゼントじゃ〙
〘む? なんなのだ?〙
本来の姿に戻ったリーアを見るなり、爺さんはネックレスのような物をリーアに手渡した。
〘それはの、お主の『魔力遮断』を応用した代物での。付けとる間は魔力を消してくれるのじゃ。向こうでも本来の姿に戻りたい時もあるじゃろう。これを付けておればその姿でも人間にバレることはない。まぁ姿を見られればアウトじゃが〙
「マジで!? 凄いじゃん! 良かったね、リーア!」
〘おぉぉ〜! ありがとうなのだ!〙
めちゃくちゃ気の利いたプレゼントだ。これがあればリーアは少なくとも寮内で本来の姿に戻っていられる。カナともちゃんと会話が出来るのだ。俺としてもこれは凄く嬉しい。
「ありがとう爺さん」
〘何、こやつも色々と苦労したでの。このくらいの褒美はあってもいいじゃろう〙
なんだよ、めちゃくちゃカッコイイぞ爺さん!
〘まぁとにかくじゃ。この杖は儂が責任をもって預かろう。もう少し調べてみたいしの〙
「あぁ。また何かあったら報告に来るよ」
〘うむ。頼んだぞ〙
〘爺、本当にありがとうなのだ!〙
〘よいよい。ではの〙
リーアに微笑みかけるワイズマンは、本当の祖父のようだった。リーアの事を気にかけてくれる奴も魔界にちゃんといたのだ。嬉しそうにネックレスを見つめているリーアを微笑ましく思いながら、俺達は人界に戻ることにした。




