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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
41/71

魔法祭開会


 クラスに入ると生徒達が着々と準備を進めていた。出場する者達は装備を整え、出場しない生徒達は出場する生徒達のサポートをしている。そんな光景は、クラスが一致団結している事を表しているようだ。

 

 「あ、エト君おはよう!」

 「おうおう、来たな? うちのエース様が!」

 「みんなおはよう。って、誰がエース様だ! そういうのはやめてよレスティ」

 「何言ってんだよ! みんな期待してんだぜ?」

 

 なんて高笑うクラスメイトのレスティ・ホーマック。そんな彼につられてか、他のクラスメイト達も俺を話題に大きな盛り上がりをみせている。

 

 「······ったく。勝手だなぁ」

 

 なんて思いつつ、俺は自分の席に腰掛ける。すると、隣に腰掛けたクロが微笑みながら声をかけてくれた。

 

 「エト君、おはよう。今日は頑張って」

 「おはよう、クロ。まぁ一応頑張ってみるよ」

 

 クロは俺の言葉に小さく笑みを浮かべた後、おもむろに俺の頭の上に乗っかっているリーアに視線を移した。というか、逆に他の連中はリーアに見向きもしなかったのだが······。

 

 「エト君、その子は?」

 「あぁ、この子はリーア。修行中に会って気に入られたみたいでさ? 使役獣として連れて来たんだ」

 「おぉ。その子、見る目ある。べりーぐっど!」

 

 ピシッ-と親指をリーアに突き立てる。まぁ案の定、リーアはキョトンとしているのだが、やっぱり使役獣という理由にしたのは正解みたいだ。変に怪しむこと無く納得してくれた。

 それに、周りの生徒達も今の会話で、リーアの存在に納得をしているようだ。見向きもしなかったのが、やはり気にはなっていたらしい。

 

 「あ、いたいた! ねえエト! ちょっとお願いがあるんだけど···いい?」

 「どうしたの?」

 

 教室に入るなり、大声で俺の名を呼んだのはシルビアだった。俺もクロも首を傾げながら不思議そうにシルビアを見つめる。

 

 「いいから。お願い!」

 「あ、うん。いいけど···ってちょ、うわっ!」

 

 強引に俺の手を引くシルビア。勢いで転けそうになりながらも俺はシルビアに連れられて校舎裏にやって来た。ちなみに、しれっとクロも着いてきている。

 

 「······なんでクロナも来てるのよ?」

 「む。二人で密会···怪しい!」

 「ッ···バカ! そんなんじゃないわよ!」

 「ま、まぁまぁ。それで? お願いって?」

 

 俺の問いかけにシルビアは歩幅を少し開き、上体を低くすると、その場から一瞬で俺の背後に移動した。それは中々見事な瞬歩だった。

 

 「今の······見えたわよね? 正直に言ってよ?」

 「見えたよ。可愛いの履いてるんだね」

 「まぁね。今日のはお気に入りなの。特にフリルの部分が······って違うわよバカッ!」

 

 -バチンッ!

 

 「······痛い」

 「今のはエト君が悪い」

 「もぉ! じゃなくて瞬歩よ瞬歩!」

 

 いや、もちろん分かっている。ちょっとした冗談のつもりだったのだが、思いっきりぶたれてしまった。『愚者の腕輪』のおかげでめちゃくちゃ痛かった。

 ともあれ、確かに見事な瞬歩だったが、あれだけハッキリと予備動作をしていれば、ある程度の者になら目でしっかりと追うことは出来るだろう。瞬歩を有効的に使うのであれば、相手の認識外で使用する事だ。

 

 「うん。見えたよ。でもどうして?」

 「私、修行で瞬歩を会得したのはいいんだけど、あっさり見極められちゃうのよ。お父様にも、お前の瞬歩は瞬歩であって瞬歩では無い-なんてよく分かんない事を言われたし。だからお願い! どうやったらエトみたいに完璧な瞬歩を身につけられるのか教えて欲しいの!」

 

 真っ直ぐ俺を見つめながらシルビアはそう言った。まぁ多分、クラス対抗マッチで使うつもりなのだろう。とはいえ、完璧な瞬歩なんてそう簡単に会得出来ない。そもそも見た感じ、シルビアの下半身の筋力が不足しているのだ。

 

 「ちょっとごめんね」

 

 そう言いながら、俺はシルビアの太ももとふくらはぎを優しく触り始める。

 

 「ちょっ···と!? あっ···そこ······は」

 「エト君、大胆!」

 「うん、思った通り。正直に言うよ? シルビアは瞬歩の技術はあっても、単純に筋力不足だ」

 「えっ···? それ、触っただけで分かるの!?」

 

 俺の行為に意図があったことを理解し、赤く火照らせた表情を一変させる。シルビアはほんの少し触っただけで筋力不足を見抜いた俺に驚いた様子だ。

 

 「まぁね。例えば······っと」

 

 俺はシルビアの目の前で右足を直角に前へ突き出す。

 

 「シルビア、俺の右足に乗ってくれる?」

 「え? どういうこと?」

 

 いいからいいから-と、俺は真っ直ぐ上げた足の上にシルビアを誘導した。シルビアはあまり理解出来ていないようだったが、俺の言う通りにスッ-と飛び乗ってくれた。その瞬間、俺の意図が分かったシルビアとクロ両目を大きく見開いた。

 

 「えっ······凄っ!?」

 「全くブレない」

 

 人一人を片足に乗せても尚、俺の上げられた足はビクともしていない。体幹だってそうだ。片足立ちだというのに全く重心をブラさない。それほどに俺の下半身は鍛えているのだ。

 

 「まぁここまで···とは言わないけど、それなりの瞬歩を身につけたいのならもっと鍛えないとね」

 

 そう言いながら、シルビアを下ろして上げていた足を元に戻す。

 

 「下半身······。お父様が言ってたのって」

 「いや、お父さんが言いたかったのは-」

 「······なら今回は使えそうにないの···かな 」

 

 俺の言葉途中にシルビアは自分が未熟だと知り、落ち込んだ様子をみせてた。だが、そんなに落ち込む必要は全く無い。さっきも言ったが、瞬歩は相手の認識外で使うからこそ有効的なのだ。

 

 「ううん、十分使えるよ。瞬歩っていうのは、一瞬で相手への距離を縮める歩行術って認識が強いけど、本来は〝相手の瞬きを歩む術〟なんだ」

 「相手の···瞬きを歩む?」

 「そう。相手の瞬き-つまりは相手の一瞬の隙を突くって意味だね」

 

 その言葉でシルビアはそれがどういう事を示しているのかをすぐに理解した。流石に理解が早い。

 

 「そういう事ね。つまり、相手の意識をそらせた上で使って初めて瞬歩が活かされるのね?」

 「そういう事。お父さんが言いたかったのはきっとそういう事だよ」

 

 だったら! -と、シルビアは表情を明るくした。使い方次第で、十分に戦える-ということを認識したのだろう。シルビアはお礼を言いながら、珍しく俺の事を抱き締めた。珍しく···というか、初めてかもしれない。

 

 「やっぱりエトに聞いてよかったわ!」

 「······シルビアって結構大きいんだね?」

 「そりゃあ私だって一応Eカッ······ッ!」

 

 -バチンッ!

 

 「バカ! 変態! スケベ!」

 

 そう言いながら、シルビアは颯爽と走り去って行った。

 

 だからちょっとした冗談だってば······。

 

 なんて思ったが、隣で俺を哀れみの目で見つめるクロの視線に気付き、俺は大きく溜め息を吐きながら反省する事にした。

 

 ·········にしてもEとは···。

 

 実の所、全く反省していないのは誰にも内緒である。

 

 

 

 朝礼を終えると、レイラがプログラムに沿った説明を開始した。今も尚、続々と多くの一般人が来校している。もちろん、徹底的な身分確認や持ち物検査など、厳重警戒を怠っていない。ちなみにレイラにもリーアの事は説明済みだ。すんなりと納得してくれた。

 

 「今日の予定だが、午前中···つまり第一部に一般科クラスによる対抗マッチ。そして第二部に魔法科クラスの対抗マッチ、貴様らDクラスの出番だ!」

 「「「おぉぉぉおお!」」」

 

 レイラの言葉にクラス全員が哮り立ち、闘志を燃やし奮い立たせる。耳をすませば、他の校舎からも大きな声が聞こえてくる。学園中の生徒達が躍起になっているということだろう。

 

 「エト、お前は一番手としてエントリーしてある。先陣を切って暴れて来い!」

 「え? ············えぇ!?」

 「エト、まず一勝確実にな! なんの心配もしてねえけど!」

 「頑張ってね、エト君!」

 「私達、全員で応援するからね!」

 

 待て待て待て待てっ! 俺に一言も無しに勝手に決めちゃったの!?

 

 ギロッ-とレイラを睨みつけると、レイラは「すまん」-と右手を詫びるように顔の前に出した。どうやらレイラの独断じゃないらしい。というか、このクラスの雰囲気的に俺を一番手として推薦したのはこの場にいる全員なのだろう。

 大方、俺の勝利で勢いをつけたい-なんて考えてそうな気がする。

 

 「······はぁ。はいはい、わかりましたよ」

 

 その言葉にまたも大きな歓声が上がる。なんだか上手く乗せられた気がするが······まぁいいだろう。このクラスの連中は嫌いじゃないし。

 

 「ということで、エト。代表して宣誓を頼む」

 「······はい?」

 「エト君、お願い!」

 「カッコイイのを頼むぜ!」

 

 またしても勝手な事を······。ってこれは断れる雰囲気じゃない···よね。

 

 クラス全員の視線が俺に集中している。俺の気持ちが分かってくれていそうなアリアですら、瞳をキラキラと輝かせている。そんな傍迷惑な熱い視線に大きく溜め息を吐きつつも、諦めてそれっぽく締める事にした。

 

 「それじゃあ······。お前ら! 先陣切って俺が瞬殺して来てやるから、ちゃんと俺の後に続け! 大丈夫、みんなの努力も実力も全部俺が認めてやる。だから自信を持って戦おうぜっ!」

 

 ·········なんて、それっぽい···よな?

 

 言ってはみたものの、あまり自信がなかったのだが、そんな心配は全くもって必要なかった。

 

 「「「オォォォオオオオッ!」」」

 

 一瞬の静寂の後、この日一番の大歓声がクラスを呑み込んだ。教室の壁を軋ませる程の咆哮で、生徒達のやる気は最高潮に達する。

 

 「よし! それじゃあ貴様ら、行くぞ!」

 「「「ハイッ!」」」

 

 こうして俺達は確固たる強い意志の下、訓練場へと向かった。

 

 なんだかレイラに最後全部持っていかれた気がするんだけど······。

 

 

 

 訓練場に着くと、圧倒される程の人々で溢れ返っていた。生徒達の家族は勿論、遠征先の関係者や生徒個人の知り合い、そして各国の貴族や王族までもがこの訓練場に集まって来ているのだ。流石に壮観だ。

 

 《気持ち悪いのだ〜》

 《あ、やっぱり? どうする? 魔界に戻っとく?》

 

 絶不調と言わんばかりに項垂れているリーアは、俺の提案に首を横に振ってみせた。気持ち悪さはあるものの、俺の頭の上-ということで中和されているようだ。まぁ、戻っても退屈···というのが本当の理由っぽいが。

 

 「おっ······セイルじゃん」

 

 ふと訓練場内中央、戦いの舞台となるグラウンドにセイルを含めた五人の生徒が集結していた。プログラムによると、今から開会式が行われる。その代表者としてあの場にいるのだろう。

 

 「って事は、あれが五峰···かな?」

 

 右からセイル・マードック、黄緑色の髪をしたアイン・マテリアル、眼鏡をかけた優等生風の青年、黒髪で左の頬に傷のあるシュウ、白髪のツインテール姿のステラ・メリュジーヌ。ということは、消去法で眼鏡の青年が『剣聖』ウィル・セルティグルのようだ。

 

 席に座りながら五人の特徴と俺の知り得る情報を重ね合わせる。

 

 [ご来賓の皆様、本日はお忙しい中お集まり頂き誠にありがとうございます。只今より魔法学園魔法祭を開催致します!]

 

 どこからともなく流れる声。その声で会場の雰囲気は一気にお祭り騒ぎだ。もの凄い盛り上がりをみせている。大歓声の中、司会の女性は今一度開会の挨拶を語り出した。

 

 [本日より司会進行を務めさせて頂きます、魔法学園一般科Aクラス-イルビーナ・ローゼンハイデンです。将来は国家隠密剣士を目指しておりますので、いつでもお声掛けの程をお待ちしております!]

 

 まさかの自己アピールに会場内は笑いに包まれる。この場面で自分を売り込むとは、ちゃっかりしているものだ。

 

 [それでは、開催にあたり本学園代表である五峰の皆様より、開会のご挨拶を賜りたいと思います。五峰代表、騎士科Sクラス-ウィル・セルティグル君。お願いします]

 「はい!」

 

 司会を務めるイルビーナの言葉に大きく声を上げた眼鏡青年ウィル・セルティグル。ウィルは一歩前に出ると、残りの五峰全員が一歩下がり姿勢を正す。そしてウィルは、腰に携えた剣を抜刀し高く掲げた。

 

 「宣誓! 我々、魔法学園生徒一同は、己が信念のもと学び得た力を最大限に発揮し、正々堂々と戦うことをここに誓います! 生徒代表、ウィル・セルティグル!」

 

 刹那、訓練場内が拍手喝采に包まれる。これだけの人の前で堂々たる宣誓、見事なものだ。俺も彼を賞賛しながら拍手を贈った。

 

 [次に、魔法祭の開催に尽力して下さいました、南方大陸ペンドラー王国国王-レイ・ペンドラー・アース様より、お言葉を賜りたいと思います!]

 

 その瞬間、会場内の全ての人間が席を立ち上がった。完全に出遅れた俺は隣のシルビアに腕を引っ張られてしまった。

 

 「ちょっと! 早く立ちなさいよ!」

 「うおっ! ご、ごめんってば」

 

 そんなに怖い顔しなくたっていいだろうに······。

 

 「紹介にあったレイ・ペンドラー・アースだ。諸君、今日から十日間、盛大に盛り上がり楽しんでくれ。そして魔法学園生徒達、キミ達の活躍を楽しみにしているよ。ただ、無理はしないでくれ。以上だ」

 

 そう言うと、彼は深く頭を下げた。そんな彼に惜しみない拍手が贈られる。にしても、国王陛下はめちゃくちゃ若い。多分アヤと同じくらいな気がする。金髪赤眼が印象的な彼は、多くのファンを持っているようで、拍手に紛れて黄色い歓声も聞こえてくる。

 どうやら隣のシルビアもその一人らしい。めちゃくちゃ瞳を輝かせている。というか、瞳がハートになってる気がする。

 

 「ね、ねえシルビア? そんなにあの人、有名なの?」

 「あったりまえでしょ!? 現時点で〝世界最強の魔法剣士〟なんだから!」

 「せ、世界最強···?」

 

 それはまた······。にしても全く魔力圧を感じないんだけど。『魔力感知』だって······って『愚者の腕輪』をつけてるんだった。

 

 とはいえ、確かに不思議な雰囲気は漂わせている。一人浮いているというか、彼がいる一角には沢山の貴族や王族が集まっている。その中でも一際目立つ存在ではある。

 

 [国王陛下、ありがとうございました。それでは改めまして、魔法学園魔法祭を開催致します!]

 

 そして再び大歓声に包まれる中、十日間に渡る魔法学園魔法祭が開会した-。

 

 

 

 「······だはぁ!」

 

 魔法祭が幕を開けて二時間、俺は訓練場の外に出ていた。というのも、あの歓声と雰囲気は俺でも鬱になりそうなのだ。リーアを休ませる為にもこうしてちょくちょく外の空気を吸いに出ている。

 

 《にしてもリーア?》

 《どうしたのだ?》

 《シルビアからあの王様の話を聞いた時、よく反応しなかったね?》

 

 リーアなら世界最強と聞けば、流石に反応を示すと思っていたのだが、開会式中静かなものだった。

 

 《ん〜···あんまり興味が無いのだ。強い奴は気になるのだ。でも、今はエトと一緒に居れれば満足なのだゾ!》

 《······そっか。俺もリーアと一緒に居れて嬉しいよ》

 《にっしし〜》

 

 リーアも少しは大人になってくれた-という事なのだろうか。なんだか少し寂しい気もしてしまう。

 

 「にしても、よく皆座りっぱなしでいられるよなぁ」

 《私ならお尻が痛くなるのだ!》

 「そうだね。今の俺ならその痛みが分か-ッ!」

 《エトッ!?》

 「大丈夫、問題ないよ」

 

 突然、俺はリーアとの談話を阻害された。いきなりに死角からの攻撃を受けた俺は、咄嗟にそれを回避して飛来した凶器を掴み取った。

 

 「投擲ナイフ······ね」

 

 投擲ナイフを見つめながら『気伝』で周囲の気を感じてみたが、ここには人が溢れ返っている。やはり、『魔力感知』じゃないと敵の特定は難しいようだ。

 

 《エトに向かって······許さないのだ》

 「まぁまぁ。こんな玩具なんて気にしないの」

 

 そういいながら頭の上にいるリーアを持ち上げて胸元に抱き寄せる。そしてギューッとリーアを抱き締めた。

 

 《ぉわわ!? ど、どうしたのだ!?》

 「ん? 何となくだよ。嫌だった?」

 《嫌じゃないのだ! でも、ちょっとドキドキしたのだ······》

 

 なんだか可愛い事を言っているリーアに自然と笑顔が零れる。とはいえ、リーアを抱き締めたのは何となく-ではない。投擲ナイフに塗られていたモノが〝対魔獣用〟の猛毒だったからだ。

 つまり、これを投げた相手は俺じゃなくてリーアを狙った可能性がある。その事が、不愉快で腹立たしかったので、危うく『愚者の腕輪』を外して暴れ出しそうになってしまった。だから自分を落ち着かせる為にリーアをこうして抱き締めたのだ。

 

 「ふう」

 

 落ち着きを取り戻せたので、リーアを定位置(頭の上)に戻して一息つく。すると、久しぶりにコロナが俺の前に姿を現した。

 

 「どーもっス。リエル君ッ! 元気っスか〜?」

 

 相変わらずの神出鬼没っぷりだ。もう慣れたけど。

 

 「久しぶりだね。今はコロナ···〝ってことでいい〟んだよね?」

 「そうっスよ! リエル君の大好きなコロナちゃんっス!」

 

 いや、大好きでは無いんだけど······。

 

 「それで? 今日はどうしたの?」

 

 彼女が現れた-という事は、何かしらの意図がある筈だ。そう思い問いかけたのだが、案の定の様子だ。彼女は周りを気にしつつ、俺に声をかけてきた。

 

 「実はっスね、折り入ってお願いがあるんスよ」

 「お願い?」

 「そうっス。リエル君は〝『皇帝の右腕』〟っていうアイテムをご存知っスか?」

 「『皇帝の右腕』? いや、知らないけど?」

 「遥か昔に栄えた〝とある帝国〟の皇帝が持っていたモノらしいんスけど、これがめちゃくちゃ厄介なんスよ」

 

 ······ちょっと待て。なんだか聞いたことあるような話なんだけど。

 

 コロナ曰く、その厄介なアイテムというのは、1メートル程の黒い杖のような物らしい。そして、それが何故めちゃくちゃ厄介かというと、それを突き立てた周囲半径5キロメートルの空間内に存在するあらゆる生物の認識を都合良く改変する事ができるらしい。

 

 「······めちゃくちゃだね」

 「そうっス。加えると、これにはあらゆる魔法やスキルの耐性や無効化が意味をなさないんス」

 

 ということは···だ。仮に自分が王だと認識させれば、その国の王になる事も出来るし、その効果範囲内でなら好き勝手のやりたい放題という訳だ。

 空間内に存在するあらゆる生物-という事は、高位の生物にも影響を与えるだろう。それが本当なら、竜族を従える事だって出来るかもしれない。

 

 「もしかして、それがこの魔法祭に持ち込まれてるって事!?」

 「そういう事っス」

 

 またもや厄介事のお出ましだ。とはいえ、そんな代物をおいそれと使える訳が無い。何かしらの発動条件がある筈だ。というか、あってくれと切に願いたい。

 

 「持ち込んだ理由は取引っス。ただ、誰が持ち歩いているのかはウチでも分からないんスよ。ウチの目でも見えないとなると······」

 「結界···か。ケースや入れ物に結界を張っているか、その人物そのものに結界を張り巡らせてる可能性もあるね」

 

 コロナは俺の言葉に首を縦に振る。と言っても、今この学園には夥しい数の人間が寄り集まっている。この大人数の中からたった一人を探すとなると、砂漠で金を探すようなものだ。途方もない。

 

 「というか、ちょっと訳ありで今俺力を制限してるんだけど······」

 「そうっスよね。大体の経緯は想像出来ますっス」

 

 んー···どうしたものか。戦わないっていうのなら『愚者の腕輪』を外してもいいけど、これだけ人間が居るのなら、『魔眼』を持った奴もいるかもしれないし。俺の存在を悟られたくないんだよなぁ···。

 

 「······でもまぁ、事が事だしね。協力するよ」

 「わぁ! 本当っスか? ありがとうございますっス! ではリエル君、これを耳につけて下さいっス」

 

 コロナに手渡されたのは、耳に付けるタイプの無線機器。遠距離でも連絡が取れる魔法具だ。

 

 「ウチは訓練場外を見て回るので、リエル君は訓練場内をお願いしまス!」

 「了解。分かったよ」

 

 それでは! -と、コロナは俺の前から姿を消した。

 

 《エト、大丈夫なのだ? さっきの奴は誰なのだ?》

 「大丈夫大丈夫。さっきのはコロナっていって、俺の知り合いだよ」

 《なるほどなのだ。エト、私も手伝うのだ!》

 「うん、ありがとう」

 

 と言った手前、改めて考えると本当に途方もない。せめてもう少し情報が欲しいものだ。持っている奴が特定出来れば話は早いのだが······。

 

 「っていうか、持ち込んだ理由は取引って言ってたよな」

 

 そう。コロナは取引の為に魔法祭に持ち込んだ-と言っていた。普通に考えて取引する場所にこの魔法学園を選ぶとは思えない。何故なら徹底した身分証明と荷物検査が行われるからだ。

 

 「つまり、荷物検査に引っ掛からない策がある···。もしくは魔法学園側に協力者がいる······か。入ってしまえば、これ程強固な安全地帯はないもんね」

 

 となると、一番怪しいのは入門審査官だ。魔法祭に限り入門審査官は増員されるらしい。そんなような話をレイラが言っていた気がする。これほどの人数が出入りするのだ。当然といえば当然である。ならば、十分に身内を忍ばせる事も出来そうだ。

 

 

 

 -というわけで、仮説の入門審査場に来た訳だが······。

 

 「おいおい······。マジですか······」

 

 俺が見た光景、それは入門審査官の役回りを任された生徒達の姿だった。どうやらクラス対抗マッチに出場しない生徒達が入門審査官として学園側に協力をしているらしい。

 

 「大丈夫なのかよ···」

 

 いや、大丈夫では無い。彼らはただの生徒達だ。マニュアル通りに動いてお終いだろう。そこに疑心暗鬼の心は無い。疑うことも怪しむこともしないし、知らない連中だ。これじゃあ上手く躱されても不思議じゃない。

 

 「って、俺は訓練場内を任されてたんだっけ」

 

 つい勢いで、動いてしまったがコロナに頼まれたのは訓練場内の捜索だ。それにコロナなら俺と同じ事を考えた筈。ならここは、コロナに任せて俺は訓練場内を見回る事にした方が良さそうだ。

 

 

 訓練場内に戻ると、一般科のクラス対抗マッチが繰り広げられていた。

 

 [おぉーっと! 一般科Cクラス、将来の夢はお父様が経営している宿屋を継ぎたいカトリーナ・ナーデさんの猛攻が続くぅー! 魔法科生徒にも引け劣らない火属性魔法が文字通り火を噴く勢いで、対する一般科Dクラス、将来の夢は考古学者になりたいランベルト・ドレスデン君を追い詰めるぅーー!]

 「「「うぉおおおおっ!」」」

 

 実況女性の声に煽られるように声援が降り注ぐ。実況も中々大変なようだ。こういう雰囲気は実況次第で大きく左右される。しっかり生徒一人一人の宣伝も兼ねているとは···。

 

 「って感心してる場合じゃないってば!」

 

 自分で自分に喝を入れる。訓練場内の通路を走りながら一人一人の持ち物や容姿、服装などにも目を配らせる。と、そんな中、頭の上のリーアがツンツン-と俺の頭を叩いてきた。

 

 「ん? どうかした?」

 《エト! あの人間、杖を持ってるゾ!》

 「おっ! どこどこ?」

 

 リーアは何やら怪しい人物を見つけたらしく、リーアが示す方へと視線を向ける。すると、そこにはリーアの言った通り杖を持った老人が立ったまま戦いを観戦していた。いや、確かに杖を持ってるけども······。

 

 「リーア、あれはリアルな杖だね······」

 《む? 何が違うのだ? 杖は杖だゾ?》

 「いや、まぁそうなんだけど、杖は杖でも俺達が探してるのは·········」

 

 いや、ちょっと待て。リーアの言う通りだ。違いなんて分からない。俺はその杖の原型を知らない。一体何をもってその杖だと判別すればいいんだ?

 

 「でも、確か黒い杖って言ってたよな。リーア、黒い杖を探してくれる?」

 《わかったのだ!》

 

 とはいえ、リーアの着眼点はあながち間違ってはいない。杖を何かにしまっているのは不自然だ。なら、杖は杖らしく持ち歩いた方がいい。ただ、コロナは『千里眼』を持っている。だとすれば、きっと彼女が見つけている筈だ。

 

 「ってなると······」

 

 杖として使いつつ、カモフラージュしている可能性が高い。

 

 「ごめんリーア、やっぱり色は気にしなくていいや」

 《いいのだ? それじゃあ、あそこの奴だゾ!》

 

 今度は訓練場内の一番端、そこに腰掛けている老婆だ。確かにその老婆の傍らに立て掛けるように〝包帯で覆われた〟杖が置かれていた。なんだか、いかにも怪しいのだが······。

 

 というか、リーアって目がいいな!?

 

 「リーア、他に杖を持ってる奴ってそこから見渡せる?」

 《もちろんなのだ! ······むむぅ。エト、結構いるゾ?》

 「じゃあ、その中であの婆さんみたいに杖を何かで覆ってたりしてる奴は?」

 《それはいないのだ! でも、一人〝強そうな奴〟がいるのだ······》

 

 どうやらリーアは、杖を持った人間の中にリーアが興味を示す程の力を持った存在に気がついたらしい。というか、やはりリーアはそういう感覚に優れているようだ。多分リーアのそれはスキルとか、そういうのではなく本能的、直感的なものだと思う。

 

 「なるほどね。あの······って、あそこは-」

 

 リーアが強者だと感じ取った老人が居たのは、レイ・ペンドラー・アース国王も座っている貴賓席だった。つまり、相当身分の高い爺さんらしい。確かにおっかなさそうな顔つきをしている。

 

 とはいえ、流石にあそこに乗り込む訳にもいかない。とりあえずは、包帯ぐるぐる杖を持っている老婆を監視しておくことにする。ついでに俺はコロナに無線を飛ばした。一応の報告である。

 

 [コロナ?]

 [はいはいっス! どうしたっスか?]

 

 俺はコロナに、先程リーアの着眼点から導き出した考えを伝える事にした。すると、コロナも丁度同じ事を考えていたようで、杖持ちの人物に的を絞っているようだった。

 

 [あとは確認方法なんだけど、何か方法ってある?]

 [『皇帝の右腕』は、魔力を流すとどういう訳か高熱を帯びるらしいんスよ]

 [っていうか、魔力流して発動したりしない? 大丈夫?]

 

 確認を行うのに魔力を流すのはまぁいいが、それで『皇帝の右腕』が発動もしくは発動条件の一つを満たしてしまっては元も子もない。それを危惧したのだが、コロナはそれを否定した。

 

 というのも、『皇帝の右腕』の発動条件は三つ存在するらしく、一つは満月の夜である事。そして二つ目は星が見える程の気候である事。最後に霊力が流れる地脈に杖を突き立てる事。この三つの条件下で効果は発揮するらしい。

 

 [······それってつまり、条件さえ揃えば誰でも出来るって事だよね?]

 [そうなるっスね。こちらはめぼしい人物の杖を片っ端から触ってるんスけど、反応は無しっス。リエル君はどうっスか?]

 

 片っ端から触ってるんだ!? 凄いな!

 

 [こっちは二人に絞って様子を見てたところ。一人は杖に包帯を巻き付けてる婆さん、もう一人は貴賓席に座ってるおっかない爺さんだね]

 [なるほど。両方怪しいっスね。確認は出来そうっスか?]

 

 確認、つまり杖を触って魔力を流す-貴賓席の爺さんは難しそうだが、あそこにいる婆さんなら-

 

 と、思っていた矢先···。

 

 《エト! あの人間、エトの視線に気づいたゾ!》

 「えっ!?」

 [ど、どうかしたんスか!?]

 

 俺の驚く声が無線越しに聞こえたのだろう。コロナは焦った様子でこちらの状況を伺っている。

 

 [悪い、コロナ! なんか悟られたっぽい。怪しい婆さんが訓練場から姿を消しちまった!]

 [ほ、本当っスか!? ますます怪しいっスね。特徴を教えてもらっていいっスか?]

 「あぁ!」

 

 無線越しに婆さんの容姿や特徴を伝えると、コロナは自分もこちらに向かう-と行ってきた。リーアの言う通り、俺に勘づいたのなら黒の可能性が高い。まぁたまたま外に出た-という事も考えられるが、追った方が良さそうだ。

 

 「リーア、俺達も行こう」

 《わかったのだ!》

 

 気づけば時刻は昼を回っている。昼休憩が終われば俺は試合に拘束されてしまう。それまでに何とかしたいものだ······。

 

 

次回更新は来週の日曜日です!

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