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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
40/71

義兄妹だからこそ


 魔界にて、二週間という短期間修行を終えた俺達は、人界に帰って来た。魔王ルキフェルの計らいか、転送されたのは魔法学園の近くの森の中だった。

 

 「っふあぁ! 帰って来たぁ〜!」

 「やはり空気が違いますわね」

 

 大きく深呼吸をする二人。過ぎた話だが、魔王宮で転送魔法陣の準備をしている最中、俺は手合わせの時に疑問に思っていた事をアヤに問いかけた。というのも、ステータス更新もしていないのに『魔装』が使えた件についてだ。

 すると、アヤはベルゼの家の近くに真魔鉱石があったらしく、そこでステータス更新をしたらしい。それはアリアも同様にだ。その結果、アヤは『魔装』を発動出来たらしい。

 

 「ったく、あれには驚いたよ。ベルゼの奴そんな事一言も言ってなかったんだぞ?」

 「だって秘密兵器だったんだもん!」

 

 まぁ、確かに相手の戦力や情報が分かっている戦いばかりでは無い。それ故にベルゼも言わなかったのだろう。にしても、二人のステータス······。二週間という短期間で相当強くなっていた。というのも-

 

 名前:アリア・スペルシア

 年齢:十七歳

 種族:人間

 加護:-

 称号:-

 魔法:聖属性魔法・身体強化

 魔力値:【10,000】

 技能:『物理耐性』・『魔法耐性』・『気配感知』・『聖属性無効化』・『状態異常無効化』

 

 名前:アヤ・ケイシス

 年齢:二十七歳

 種族:人間

 加護:覇王の加護【高速再生・痛覚消失・全属性魔法耐性・状態異常無効化・属性進化・魔力増加】

 称号:覇王の番

 魔法:水属性魔法 → 氷属性魔法

 魔力値:【5,000】→【105,000】

 技能:『US記憶操作』・『ES瞬間移動』・『ES魔装』・『気配感知』・『隠密』

 

 アリアは元々持っていた耐性が無効化に変わり、魔力値も倍程になっている。アヤに至ってはエクストラスキルの『瞬間移動』を会得している始末。魔力も少しだが上がっている。そして何より、身体能力がギア・アンクルのおかげで相当なものになっているのだ。

 

 「本当に強くなったね。二人共」

 

 俺の言葉にお互いを見つめ合い、嬉しそうに微笑み合う。しかし、二人はまだまだ満足していないようで、これからも強くなろうと誓い合っている。

 

 「頑張ろうね、アリアちゃん!」

 「はいですわ!」

 「ほら、そろそろ帰るよ」

 

 と、その時-。

 

 「あれ? エトじゃない? それにアリアも! え? アヤ先生も!?」

 

 突然の声に俺達は振り返った。すると、そこにはシルビアとクロが買い物袋的な物を手に立ち惚けていた。

 

 「あれ? 二人共、どうしたの?」

 「修行帰りよ。クロナは私の迎え。荷物も多かったし。私達、同室だからね」

 「ん。それで私、駆り出された」

 「ちょ、駆り出されたって···。ごめんってば」

 

 俺の問いかけに答えた二人は、そんな事より! -と俺に歩み寄り、何故俺とアリア、そして教員であるアヤが一緒に居るのか-と問いかけてきた。

 

 「ねえ? なんでアリアと先生がエトといるの?」

 「私は、リエル君の付き添いですよ。彼、他の生徒と違って立会人や指南者の居ない場所に行くつもりだったようなので」

 「あぁ、なるほど。大変ですね、先生も」

 「ん。エト君、問題児」

 

 おいコラ。失礼な! 誰が問題児か。

 

 「それで? アリアは?」

 「わたくしはたまたまここで会っただけですわ」

 「なーんだ。あっ、そうだ。ねえ知ってる? 二週間前、丁度私達遠征組の生徒が修行や鍛練に出た時、魔法学園の東側の森の一帯が〝消えた〟って大事件があったんだって!」 

 「「「ッ!?」」」

 

 アヤの言葉に俺達は揃って驚愕した。

 

 「驚くのも当然。私も驚いた。現場も見たけど、凄かった。きっと凄い魔獣が暴れた跡」

 

 いや、ごめんよクロ。俺達が驚いたのはそこじゃなくて、その事が大事件になっちゃってるって事なんだよ。

 

 そうだ。それをしたのは何を隠そう、この俺なのだ。アリアもアヤもそれを知っているから、俺と同じように驚愕したのだ。

 

 「お、おっかないですね」

 「そ、そうですわね!」

 

 まるで他人事のように振る舞う二人。そんな二人に共感するシルビアとクロ。俺は一人、罪悪感に苛まれている。本当に申し訳ない事をしてしまった。未だにその時の記憶はあやふやだ。

 

 「さてと、それじゃあまたね!」

 「エト君、また明日」

 「あ、うん! また明日」

 

 俺達は、シルビアとクロを見送りながら大きく溜め息を吐いた。まさかあれがこんなに広まっていたとは······。

 

 まぁ、覚悟はしていたけどね。

 

 「わ、私達も戻ろっか?」

 「ですわね。エト様、それでは失礼致しますわ」

 「うん! あ、分かってると思うけど、修行に関しての話は口外禁止だよ。あと、アヤは大丈夫だろうけど、アリアは急激に魔力が増加したから、変に目を付けられないようにね」

 「はいですわ!」

 

 まぁ、元々彼女はSクラスの実力があるのだ。そんなに大事にはならないだろう。

 

 そして、二人を見送った俺も自分の寮に戻る事にした。まだ俺には大きな責務がある。それはカナと真剣に向き合う-ということだ。俺の正体、そして俺が魔法学園に来た目的、それらを話さないといけない。これは魔界で決めていた事だ。

 

 「せっかくリリが背中を押してくれたんだもんな······」

 

 そう思いながら、一歩···また一歩と寮に向けての歩みを進めた。

 

 

 

 

 -ガチャ。

 

 寮の扉を開けると、俺の帰りを待っていたのか、カナが玄関で座り込んでいた。そして俺の帰宅に気付くなり、満面の笑みで俺を抱き締めてきた。

 

 「おかえりなさい。お兄ちゃん!」

 「うん。ただいま、カナ」

 

 抱きつくカナを優しく抱き締め返す。そして、俺はカナに大事な話がある-と伝えた。すると、カナは不思議と落ち着いた様子で頷く。その無言の頷きで、俺はカナが何かしらの事を勘づいているのでは-と思った。

 

 「カナ、俺···カナに謝らないといけないんだ」

 「······ううん。いいの。謝らないで?」

 

 ······やっぱり。カナは何かに気づいているようだ。

 

 カナを連れてリビングに腰掛けると、カナは俺の隣に腰掛けた。そして、俺の肩にもたれ掛かりながらゆっくりと深呼吸をしている。それにつられるように、俺も大きく深呼吸をして話を始めた。

 

 「昔ね。俺の両親はどこぞの冒険者に殺されたんだ。俺と妹の目の前で······」

 「えっ······」

 

 多分、これはカナが勘づいた事とは関係ないだろう。その証拠に、カナは肩にもたれ掛かっていた体を正して唖然と言葉を失っている。

 

 「それからすぐに、今度は妹が国の聖騎士に連れ去られた。でも、当時八歳の俺には何も出来なかった。泣きながら連れて行かれる妹の名前をただただ泣き叫ぶ事しか出来なかった」

 「·········お兄···ちゃん」

 

 ギュッと握りしめる俺の拳を優しく包み込むカナ。そして、涙目で俺を見つめている。

 

 「俺が魔法学園に来た理由は、その妹の事を調べる為···なんだ。それに······」

 

 続けて俺は偽のステータスプレートをカナに手渡した。

 

 「それは···偽物なんだ」

 「······あっ。ボクと···」

 

 自分と同じだ-と思ったのだろう。そして、カナが俺に自分の秘密を打ち明けた時に、俺が冷静でいた理由が自分と同じだったから-ということに気が付いたようだった。

 

 「お兄ちゃん······無理に話さなくてもいいんだよ? どんな秘密があっても、お兄ちゃんが何者だったとしても、お兄ちゃんはボクにとってもう一人のお兄ちゃんなんだよ?」

 

 瞳を潤ませながらカナはそう訴えた。カナの表情、そして今の言葉······。彼女はもしかしたら、俺に関する事で何かに気づき、それを彼女なりに理解してくれようとしたのかもしれない。そう思うと、やっぱり正直に話さなければならない-そう思った。

 

 「ありがと···カナ。俺もカナの事、もう一人の妹だと思ってるよ。これからもそう思いたい。だから、俺の事······ちゃんと聞いてくれる?」

 

 俺の言葉にカナは微笑みながら頷いてくれた。

 

 「もちろんだよ。えへへ、もう一人の妹······嬉しいなぁ」

 

 そう言いながら、再び俺の肩に寄り添う。そんなカナの頭に手を添えながら、俺は本当のステータスプレートをカナに手渡した。

 

 「こ、これが······本当の···お兄ちゃん···!?」

 

 やっぱり驚くよね。

 

 案の定、カナもアヤ達と同様に言葉を失っていた。が、驚いた事に納得も早かった。一瞬は驚きの表情を示したものの、カナはすぐにクスッと微笑んでみせた。

 

 「······実はね? お兄ちゃん、ボクの夢に出て来たの」

 「夢?」

 「うん。ネロちゃんと仲良くなって、一緒に寝た時だったかな? 夢の中のお兄ちゃん、お花畑の中で四つの羽根を付けた精霊さんと戦ってたんだよ? そのお兄ちゃん、凄く強かったの」

 

 カナの言葉に俺は開いた口が塞がらなかった。ただの夢の話-と、カナは言うが、それは紛れもなく俺が過去に〝精霊界で精霊女王と戦った場面そのもの〟だったのだ。これは可能性だが、その場にネロはいたのだろう。そして、記憶の断片としてリンクが強まったカナに夢として見せたのだ。

 それがネロの意図的なものかは分からない。ただ、そうとしか考えられない。

 

 「だからね? もしかしたら、現実のお兄ちゃんも夢の中のお兄ちゃんみたいに、凄い人なのかなぁ-とか思ってたんだぁ。えへへ。やっぱり、お兄ちゃんは凄い人だったんだね?」

 「······そう···なのかな」

 

 変わらず笑顔のカナは、おもむろに俺の頬に手を当て始めた。

 

 「ボクね、アインさん達と修行に行った時にネロちゃんに聞いたの。お兄ちゃんがネロちゃんと話をした事。それで気付いたの。お兄ちゃんには秘密があって、何か事情があるからそれを話せないんだって······」

 「······うん」

 「でも、そんな事どうでもいいってくらい、ボクは嬉しかったの!」

 「······嬉しかった?」

 「うん! だって、お兄ちゃんと一緒の力だよ? 妹にとって、〝お兄ちゃんと一緒って凄く嬉しいこと〟なんだよ?」

 

 不思議な感覚だった。本当の妹のように慕ってくれるカナは、ユーリと全く同じセリフを口にしたのだ。一瞬、目の前にユーリがいるように錯覚してしまった。たまらず俺はカナを強く抱き締めていた。

 

 「っ···お兄ちゃん? どうしたの? ······泣いてるの?」

 

 泣いている······。確かに俺は今、泣いているみたいだ。頬に何かが伝っていく感覚が感じ取れる。

 

 「泣いてないよ。でも···ごめん。もうちょっとこのままでいさせて······」

 「······うん。いいよ」

 

 初めて俺はイルミ以外の人間に涙をみせた。恥は無かった。ただ、この子の前では本当の意味で素でいられる-そう思った······。

 

 

 

 数分後、お互いに思いを伝え合い、より一層義兄妹としての繋がりが強まった俺達は、誰よりも深い絆で結ばれた。それはアリアやアヤ、ルカやミーア、そしてイルミとも違った兄妹だからこその繋がりだ。涙も弱みも兄妹だからこそみせる事が出来たのかもしれない。

 

 「ねえ、お兄ちゃん?」

 「ん?」

 

 俺の胡座の上に座るカナは、振り向きながら背を預けるように寄り添う。そんなカナをそっと抱き締める。こんな行為も、今の俺達には下心もいかがわしい感情も湧いては来ない。

 

 「なんで包帯がぐるぐる巻きなの?」

 「あっ······。忘れてた」

 

 カナは俺の全身が包帯で覆われている事に気付いたようだ。というのも、契約紋を隠す為なのだが、そんな必要はもう無いだろう。一応、この話し合いの場を設ける為にリーアにも少しの間、魔界で待機してもらっている。

 

 「······っと」

 

 ゆっくりと包帯を取り外すと、カナは大きく目を見開いた。

 

 「えっと······。それ、全部契約紋なの?」

 

 流石にカナもこれが契約紋だと言うことは理解出来たらしい。そんなカナに俺は頷くと、カナは瞳を輝かせてパチパチパチ-と可愛らしく両手を叩いて見せた。

 

 「確か、契約紋の大きさが契約獣の強さなんだよね? お兄ちゃんって本っ当にすっごいんだね!」

 「ありがと。それじゃあ、紹介するね? リーア!」

 

 -シュバッ!

 

 俺がリーアの名を呼ぶと、魔法陣も無しにリーアはその場に現れた。ちなみに銀狼モードだ。

 

 《遅いのだ! 待ちわびたのだ!》

 「ごめんね。待っててくれてありがと」

 

 そう言いながら、リーアを頭の上に乗せてやる。余程、俺の頭の上が気に入ったのか、リーアは尻尾をブンブンと振りながら嬉しそうにしている。

 

 「か···可愛い〜ッ!」

 

 そんなリーアを慈愛の眼差しで見つめるカナ。

 

 《むっ。なんなのだ? このちんちくりんは···。馴れ馴れしいゾ!》

 

 ······そんなに尻尾振ってちゃ説得力がないよリーアさん。

 

 まぁ、確かにこの姿のリーアも可愛いが、俺的には実際の姿の方が愛嬌があって可愛いと思う。性格には難ありだが、俺には素直なので俺としては全く問題無い。

 というより、可愛いと言っているが、リーアが魔界最強の悪魔だと知って同じ事が言えるのだろうか。まぁきっとカナはリーアの事を理解してくれるとは思うけど。

 

 「ねえねえ、お兄ちゃん! この子って精霊さん?」

 「ううん。悪魔だよ」

 

 と、素直に答える。さて、どんな反応を見せるのかと思いきや、カナは特に驚く様子もなく「へぇ! そうなんだぁ〜」-とリーアの毛並みを堪能している。

 

 「あれ? 驚かないの?」

 「驚いたよ? でも、お兄ちゃんの契約獣だもん。悪魔だってなんだって、きっといい子でしょ?」

 《·········》

 

 その言葉は、リーアの鉄壁の心を少しだけ動かした。リーアはカナの手に自ら頭を寄せている。きっとリーアにもカナが素直でいい子なのだと伝わったに違いない。

 

 《エト、カナは良い奴なのだ······》

 「······そうだね」

 「ん? リーアちゃん、何か言ったの?」

 「うん。カナはいい子だって」

 

 俺の言葉にカナは表情を明るくした。余程嬉しかったのだろう。カナは俺の頭の上からリーアを持ち上げ抱き抱える。リーアも苦では無いようで、満更でもない様子だ。その光景は俺にとっても嬉しいものだった。

 たった一人とはいえ、俺以外にも心を許せる存在が出来たのだ。リーアの友兼保護者としてこんなに嬉しいことはない。

 

 「カナ、近いうちにリーアとちゃんと話してあげて」

 「え? でも、ボクはお兄ちゃんみたいに契約獣以外との意思疎通は出来ないよ?」

 「今は小さな銀狼だけど、実際のリーアはこのくらいの女の子で上位の悪魔だからね。ちゃんと会話も出来るよ」

 「えぇっ? リーアちゃん、ホント?」

 

 カナの問いに首を縦に振るリーア。ちゃんと自分の言葉が届いている事に感動しているのか、はたまた会話が出来るというのが嬉しいのか、カナは満面の笑みだ。

 

 「楽しみだなぁ〜! あ、そうだ! お兄ちゃん、今度はネロちゃんも呼んで四人でお話しよ?」

 「そうだね」

 《む? ネロって誰なのだ?》

 「あ、そうだ。そういえば、カナはネロとちゃんと会話は出来たの?」

 

 先程、カナは契約獣以外との意思疎通は出来ない-と言っていた。つまり、今のカナはネロとちゃんと会話出来ているに違いない-そう思ったのだ。もしかしたら、契約も出来たのかもしれない。

 

 「うん! なんかね、聖籠の洞窟って精霊とのリンクが強まる場所らしくて、そのおかげもあってネロちゃんとお話出来たの! それでねそれでね? なんと契約出来たのでーす!」

 

 パチパチパチ〜と自分で手を叩くカナ。そんな可愛い義妹につられて俺も微笑みながら拍手を贈る。やっぱり契約出来ていたようだ。本当によかった。

 

 「おぉ! おめでとう! よかったね」

 「うん! これでボクも召喚師の仲間入りだよ!」

 《エト〜、ネロって誰なのだぁ〜?》

 

 おっと。忘れてた······。

 

 「ごめんごめん、ネロはカナの契約獣だよ。水の精霊」

 「あれ? リーアちゃんに何か悪い事しちゃったかな。ごめんね?」

 

 俺が急に謝りだしたもんだから、リーアの機嫌を損ねたのだと思ったカナはリーアの頭を撫でながら謝罪をした。まぁ、カナが気にする事なんて全くもって無いのだが、やっぱりカナは初めの頃よりも契約獣に対しての向き合い方が良くなっている。ちゃんと自力で成長していっているようだ。

 

 《精霊······。強いのだ!?》

 「·········」

 

 またもリーアの悪い癖が出たので、俺は無言の圧をリーアに向けた。すると、リーアは反省したのか、振り回していた尻尾を大人しくして俺の方に歩み寄って来た。

 

 「ん? リーアちゃん、どうしたの?」

 「ううん。気にしなくていいよ」

 《ごめんなさいなのだ······》

 

 心配そうに見つめるカナに声をかけつつ、俺は歩み寄って来たリーアの頭を優しく撫でた。もういいよ-という思いが俺の手から伝わったのか、リーアは嬉しそうに俺の首に巻きついてきた。

 

 「えへへ。やっぱりお兄ちゃんの方が落ち着くのかな?」

 「さぁ、どうだろうね」

 

 なんて言いながら、二人でリーアを可愛がる。そんな和やかな雰囲気をただただ満喫した。

 

 

 

 

 翌日、リーアに起こされた俺は少しダルさの残る体をゆっくりと起き上がらせる。

 

 「っふぁ。おはようリーア」

 《おはようなのだ! 今日は何をするのだ?》

 「今日から魔法祭だからね。学園に行くよ」

 《前に言ってた戦うやつなのだ! 楽しみなのだ!》

 

 いや、キミは出ないんだけどね······。

 

 多分、契約獣として戦える-とでも思っているのだろう。しかし、学園生徒としての俺はそこまでの実力者ではない。というか、魔法科の生徒が契約獣を召喚するなんて······。考えただけでもゾッとする。

 だが、まぁそれはあくまでリーアの事を契約獣だとすれば-の話だ。俺は学園側に「なんか気に入られて着いてきた」的な感じの理由を話すつもりでいる。それなら学園側も召喚師よりもありふれた使役師だと認識してくれるだろう。

 

 「リーアは出ないんだよ? 俺も本気で戦わないし」

 《むぅぅ···。残念なのだ···》

 

 にしても、本当に素直になったものだ。まぁ、俺限定なのだろうが、聞き分けがよくなってくれて本当にありがたい。今だって「どうして本気で戦わないのだ!」とか「私も出たいのだ!」とか、少しは駄々をこねるのかと思ったのだが、リーアなりに俺の立場も理解してくれたのだろう。

 

 「リーア?」

 《む? なんなのだ?》

 「素直に聞き入れてくれてありがとな」

 

 そう言いながら、リーアの小さな頭に俺の額をあてがう。すると、リーアは尻尾をクッと伸ばしながらゆっくりと目を閉じた。

 

 《いいのだ。私はエトの言うことなら喜んで聞くのだ。エトは私の特別なのだ······》

 

 多分···というか、確実にこれから先もリーアには不便をかけるだろう。我慢だって沢山してもらわないといけなくなる。退屈な思いだってする筈だ。それを告げても尚、リーアは俺に微笑みかけた。俺の為なら-そう言って頬を寄せて来てくれた。

 

 「ありがとうリーア······」

 

 俺は心の底からそう思った。

 

 

 リーアを頭に乗せながら俺は学園に行く準備を進める。相変わらず寝坊助なカナを起こしつつ、全身に包帯を巻く。流石にクラスの奴らや学園の生徒達にこれを見せる訳にはいかない。これからは俺もコソコソ生活が始まるのだ。

 

 「カナ、行くよー?」

 「待って〜! お兄ちゃん、ボクのカバン知らない〜?」

 「玄関に置いてあるよ!」

 「あっ、そっか! 昨日のうちに忘れないように置いてたんだった!」

 

 なんて、たわいもない話をしながら俺達は寮を飛び出した。

 

 

 

 学園に着くと、学園はいつの間にかお祭り騒ぎだ。門が装飾で彩られ、中庭には露店が建ち並んでいる。この二週間で出場しない生徒達が頑張って準備したのだろう。

 

 「すごいな」

 「まるでお祭りだね! お兄ちゃ-っと。エト君、ボクは友達と約束があるから先に行くね?」

 「うん。わかったよ」

 

 走り去るカナに手を振りながら、学園を見て回る。頭の上のリーアはあんまり興味を示していない。というか、生徒達の多さに少しあてられている感じもする。やはりなんの関わりもない連中は、リーアにとっては鬱陶しいと思うのかもしれない。

 

 《リーア、大丈夫?》

 

 大っぴらに話す訳にもいかないので、俺は念話でリーアに話しかけた。

 

 《大丈夫なのだ。エトの頭の上なら安心なのだ!》

 《そっか。ならよかったよ》

 

 なんて話していると、俺の隣にセイルが突然現れた。まぁ、気配はあったので驚きはしなかったが、それがセイルだとは思わなかったので意外ではあった。

 

 「よっ、兄貴! って、どうしたんだよその包帯!?」

 「おはようございます。怪我···ですか? 兄貴さん」

 「おはようセイル。これは気にしないで。ソフィさんも。それから、その呼び方はやめてくれないかな」

 

 セイルの隣にはソフィもいた。二人共、俺の包帯姿に驚きつつも、俺の言葉でそれ以上の詮索はしなかった。にしても、本当に仲がいいものだ。今だってしっかり手を繋いでいる。羨ましい限りだ。

 

 「っと。そうそう、兄貴···ちょっといいか?」

 「ん?」

 

 そう言いながら、セイルはまたしても俺を人気のない場所に連れ込んだ。まぁ別にいいんだが、後ろのソフィさんが不敵な笑みを浮かべているのが気になる······。とはいえ、セイルは真面目な表情で話を始めた。

 

 「兄貴、こんな手紙···届かなかった?」

 「手紙?」

 

 セイルが手渡したのは、真っ黒な封書だった。宛名も無ければ差出人名も記載されていない。ただ、中には-


 『選ばれし者、セイル・マードック殿。貴殿を宴へ招待致します。つきましては、魔法祭三日目の深夜零時に訓練場に来られますよう。尚、この件の他言を一切禁じます』

 

 -と書かれた紙が封入されていた。

 

 「·········なるほどね。セイル、この事···もう誰かに言った?」

 「いいや、兄貴が初めてだ。何せ禁ずるって書いてあるからな。こんな紙切れで禁ずるって書くって事は、他言した場合、それなりに対処出来るって事だろうし」

 

 セイルの言う通りだ。こんな書面上の忠告で他言無用を管理出来る訳が無い。多分、セイルは誰かに監視されている可能性がある。だからこそ、セイルもこんなに密着しているのだ。

 

 「セイル、この事はこれの通り、他言無用にした方がいいね。多分、危ない目に会うのは〝セイルだけじゃない〟と思うから」

 「······だよな。って事はやっぱり兄貴もこれがヤバい系だって思うんだよな?」

 「そうだね。一応書かれた通りに行動した方がいいと思うよ」

 「ああ。って、その感じだと兄貴には届いてないっぽいな」

 

 そう言いながら、セイルは懐から大人な本を取り出した。カモフラージュ···という事なのだろう。しかし、この表紙の女の子-どことなくソフィに似ているのは気のせいだろうか······。

 

 「ちなみにどこでこれを?」

 「朝、ポストに投函されてたんだ」

 

 ポスト······。うん、全くもって見ていない。

 

 「俺は見てないや······」

 「俺的に、これって五峰全員に送られてると思うんだ。だから、多分兄貴にもって思ったんだけど」

 「······ったく。勘弁して欲しいな」

 「今回は俺も同感だね。まぁ、一応伝えておくよ」

 「うん、ありがとね。あと、この本······中々いいね」

 「······だろ? この子なんか、めちゃくちゃいいよな! ソフィに似······ゴホン」

 

 セイルは話半分に本を懐にしまい込んだ。見せたくなかったのだろう。まぁ、気持ちは凄く分かるので、詮索はしない。

 

 「それじゃあな! 何かあったらまた声かけるよ!」

 「うん!」

 

 そう言いながらセイルはソフィの元に戻って行った。あの感じだと、まだそういう関係では無いのだろう。なんだか初々しくてホッとしてしまう。

 

 《エト、ああいうのが好みなのだ?》

 《ん? そうでも無い···かな。どうして?》

 《私は胸があまり無いのだ。だから、エトの期待には応えられないのだ······》

 《こらこら。リーアはリーアでしょ? 俺は今のリーアが好きだよ?》

 《本当か!? にっしし! やったぁなのだ!》

 

 全く。そんな事を気にしていたのね···。というか、あれであまり無い-なんて言ってると、世の中の女性に怒られるぞ······。

 

 まぁ、とにかく。セイルの手紙、あれは確実に裏闘技大会の招待状だ。三日目-ということは明後日の深夜に何かしらの催しが開かれると見て間違いないだろう。

 

 「さてさて。どうするかな」

 

 とりあえずは魔法祭の学科別クラス対抗マッチだ。先程、門で渡されたプログラムによると、魔法科Dクラスの俺は初日から戦うらしい。相手は魔法科Aクラスの誰かだ。

 もしもセイルの言う通り、五峰ないしそれなりの実力者に招待状が送られるのであれば、俺がそれなりの実力者だと示す必要もある。当初、さっさと負けてしまおうと思っていたが、そうも言っていられないようだ。

 

 「·········はぁ」

 

 大きく溜め息を吐く。心底面倒に思いながらも俺は校舎へと歩みを進めた。

 

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