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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
39/71

弟子達の成長


 魔界での二週間という修行期間も残すところあと一日となった。魔界に来ていろいろとあったが、あっという間の二週間だった。

 

 最終日の今日、俺はアリアとアヤに修行の成果の確認-と称して簡単な手合わせをする事になっている。アヤもアリアも驚く程の速さで実力をつけていった。途中から二人は、この日の為に修行後も自主的に鍛練を積んでいたらしいく、お互いに戦い高め合っていたとベルゼから聞いた。

 なんともまぁ、弟子の成長というのはこうも誇らしいものなのかと悦に入る。

 

 「ん? おはようリーア?」

 《むぅぅ···。おはようなのだぁ······》

 

 頭の上でモゾモゾと動くリーアに声をかける。リーアが銀狼姿となってからは、ずっと一緒に過ごしていた。この姿でなら、ララ達も気兼ねしないと思ったからだ。案の定、リーアはララ達と共に風呂に入るまでに溶け込んでいた。

 まぁ、この小さな狼がリヴァイアだと知れば、ララ達は失神ものだろう。自責の念に押しつぶされてしまいそうだ。

 

 -ボフッ。

 

 〘···っくあぁぁ。お腹が空いたのだゾ〜〙

 

 本来の姿に戻り大きく伸びをしたリーアは、ギュルギュル〜ッ-と腹の虫を鳴かせながら懐を摩っている。俺はそんなリーアにルルから貰っていたサンドイッチを手渡した。きっとこんな事になるだろうと予想していたのだ。誰か俺を褒めて欲しい。

 

 「はい。ルルが作ってくれたサンドイッチ」

 〘おぉおっ! 食べるのだ! いただきますなのだ!〙

 

 そう言いながら嬉しそうにかぶりつく。今まで言わなかった、いただきます-という言葉も大分と言い慣れてきたようだ。そんなリーアを微笑ましく見つめる。

 

 「あ、お師匠様! おはようございますですわ!」

 「おはよう、エト君!」

 「うん、二人共おはよう」

 

 サンドイッチを頬張るリーアを見つめていると、アヤとアリアが姿を現した。心做しか、二人の表情が凛々しく見える。どうやら気合いは十分のようだ。そんな二人と挨拶を交わし、俺達は洞窟へと入っていった。

 

 中に入ると、先に到着していたベルゼが何やら準備をしていた。状況から見て召喚陣のようだが、一体何をしているのだろう-と不思議に思った俺はベルゼに声をかけることにした。

 

 「おはようベルゼ。···それは?」

 〘お、来たの。これはじゃな、導師殿を呼ぶ為の陣じゃ〙

 

 あぁ。そういう事ね。

 

 「え、でもあの爺さんも『瞬間移動』を使えるでしょ? 必要なんてないんじゃないの?」

 〘うむ。妾もそう思うておったのじゃが、何やら実験じゃと言う理由で、今はスキルを封じているらしいのじゃ〙

 

 ん? ······それって。

 

 ベルゼの話で俺はピンと来た。ワイズマンは俺が頼んでいた宝具の性能をその身で試しているのだ。というか、俺の頼み事を実験扱いしているのか···あの爺さんは。

 

 ベルゼが召喚陣を書き終え、右手をかざすと召喚陣が光り輝く。そして、召喚陣の中心に一瞬で爺さんがその姿を現した。現した······のだが-

 

 〘······お?〙

 「おいおいおいおい······」

 〘おい、娘っこ。お? -じゃなかろう。召喚する時は念話を飛ばせと言うておったじゃろうが! この無能め!〙

 「「きっ···きゃあああああっ!?」」

 

 姿を現したワイズマンは、多分入浴中だったのだろう。一糸まとわぬ姿で俺達の前に現れた。俺は急いで『異界門』の歪みを利用して爺さんの下半身にモザイクをかける。が、一足遅かったようで、アヤとアリアが震えながら俺の背中にしがみついてきた。

 

 〘どどど、導師殿!? 申し訳ないのじゃ!〙

 〘全く。まぁ、さほど問題もなかろう〙

 

 いや、大問題です。

 

 「爺さん、これ着てくれる? うちのお嬢様方が困ってるんで」

 

 そう言いながら、俺は『異空間収納』から適当に服を取り出す。すると、ワイズマンは不思議そうな表情をしながら、俺の元に歩み寄ってきた。

 

 〘ほほぉ。小娘共にはちと刺激的じゃったかのぉ。ほれ、どうじゃ? もっとよく見ても良いのじゃぞ? ほれほれほ-ッぐお!?〙

 

 おいコラ。

 

 「······いい加減にしろよジジイ」

 

 アヤとアリアの反応が興味深かったのか、ワイズマンは自分の姿を晒すように二人の視界に無理矢理入り込もうとし始めた。なので、痺れを切らした俺は爺さんの顔面を鷲掴みにした。

 

 〘す、すまんすまん! ちょっとした爺の出来心じゃ! じゃから離してくれ! 童に本気で来られては儂とて死んでしまうわい!〙

 「······ったく。この変態め」

 

 どうやら反省したようなので、爺さんを解放する事にした。後ろでアヤが「エト君の裸で記憶を······」-なんて危ない事を言っているが、今はそっとしておこう。というか、見せた事あったっけ······。

 

 そんなこんなで、ようやく爺さんは服を着て話を始めた。

 

 〘ギリギリになってしもうたが、これが童が求めた物で、その名も『アルカナゼロ=愚者の腕輪』じゃ〙

 「『愚者の腕輪』···ね」

 

 愚か者···って、名前に私情を入れてないよな······?

 

 〘童の言った通り、これをつけておれば魔力以外の全てのスキル、加護を封じる。···が、それじゃあ色々と不便じゃろう。じゃから儂で勝手に少々いじらせてもろうた。この偽のステータスプレートに合わせて作ったのでの、ここに記されとるスキルは使用可能じゃ。あとの、童のつけとるその指輪、ステータスを隠蔽する類の品じゃろう? 考えが至っておらん訳でもあるまい。そんな物で隠しておれば、逆に怪しまれるぞ?〙

 

 確かに爺さんの言う通りだ。という事は、この『愚者の腕輪』をつけていれば、偽のステータスプレート通りのステータスに変わる-という事なのだろう。なら、魔法学園にいる間は『断魔の指輪』は外しておくことにしよう。いや、しかし本当に大したものだ。

 

 「······やっぱり凄いんだね、爺さん」

 〘当たり前じゃ。儂を誰じゃと思うておる〙

 

 まぁ、なんで俺の偽のステータスプレートを持っているのかは触れない事にする。爺さんに取られるような隙は見せていない。なら、俺が隙を見せる状況で居合わせるであろう存在に協力させたのだろう。それを俺が詮索すれば······言うまでもない。

 

 〘ちなみにじゃが、童の再生能力も『自己再生』程度にしか発動せんからの。覚えておく事じゃな〙

 「うん、完璧だよ! ありがとう爺さん!」

 〘うむ。ではの。例の件、頼んだぞ!〙

 

 そう言うと、爺さんは一瞬でその場から姿を消した。この『愚者の腕輪』を外した事で『瞬間移動』が使用可能になったのだろう。

 とはいえ、本当に凄いものだ。試しに『愚者の腕輪』を付けてみたが、本当にスキルを発動させようとしても、うんともすんとも言わない。これをつけた状態で使えるのは『纏雷』とその付属魔法、そして再生速度が大幅に減少した『自己再生』。

 

 「······あれ? でも、リーアとのリンクが繋がったまま···だよな?」

 〘む? どうしたのだ?〙

 

 加護を封じる-ということは、召喚状態のリーアとの繋がりに何かしらの変化がある筈だ。何せ、俺の『召喚魔法』は加護の付与スキルだ。ならば、この腕輪の影響を受けると思ったのだが······。

 

 「······なるほど。一杯食わされた訳か」

 〘ん? むぉッ···にへへ〜〙

 

 俺はリーアの頭を撫でながら疑問を結論付けた。中々気の利く爺さんだ。

 

 「よし! それじゃあ······ってどうしたの? 二人共?」

 

 気を取り直して手合わせを-と思ったのだが、俺の後ろで不思議そうな表情を浮かべている二人に気付き、声をかけた。すると、二人はこの『愚者の腕輪』をつけた瞬間に俺から発せられていた不思議な波動が消えた-と言ってきた。

 

 「あぁ、多分『覇王圧』も封じているからだね」

 「はおうあつ?」

 「それは···どういうものなんですの?」

 

 どういうもの-と言われても困る。イルミが言うには、これは〝何かを成す可能性のある者の証〟らしいのだが、それ以外はイルミもサッパリらしい。当初、俺はただ単に相手を威圧する『覇気』が進化したモノだと思っていた。が、どうやらそうではないらしいのだ。

 

 「つまり、エト君の魅力って事ね?」

 「まぁ! 素敵ですわね!」

 「なるほど。そういう捉え方もある···か」

 

 アヤの解釈は、なんだかとても嬉しくて心地よかった。

 

 「さっ、そろそろ始めるよ! 昼には向こうに戻るからね!」

 「「はい!」」

 

 魔界と人界では多少の時差がある。こちらの夕刻は人界では朝方-という具合だ。つまり、夜に戻る事を考えると、それくらいには戻らないといけない。ということで、早速俺達は手合わせを始める事にした。

 

 

 

 

 「さてと。最初はどっち?」

 

 修行の間に入った俺は二人にどちらが先に手合わせをするかと問いかけた。すると、俺の言葉を最後まで聞くことなく二人は同時に手を挙げた。

 

 「お、おぉ」

 

 ギラギラとした二人の視線に圧倒されつつ、俺はある事を思いついた。それは二人同時に相手にする-というものだ。この『愚者の腕輪』をつけた状態でどこまで戦えるのかも気になるので、いい考えかもしれない。

 これは何も、二人をナメている訳じゃない。相当実力を付いたと認めるが故に、俺自身の鍛練にもなると思ったからだ。

 

 その事を伝えると、二人は潔く了承してくれた。というか、二人は俺が二人相手に自分の力量を測ろうとした事が嬉しかったようだ。自分達がそういう存在だと認めてくれた-と思ったらしい。

 

 まぁ、とっくの前から二人の事は認めてるんだけどね。

 

 「よし。それじゃあ本気で行くからね! 俺を殺す気で来ないと死ぬよ!」

 「「はい!」」

 

 こうして、二人の弟子との手合わせが始まった-。

 

 

 

 ベルゼとリーアが見守る中、俺はアヤとアリアから離れ、充分な間合いを取る。二人共に全く隙がない。が、そんな中、二人は視線で合図を始めた。どうやら協力して俺に挑んで来るらしい。

 ここは、二人に作戦会議の時間を与えるべきなのかも知れないが、戦いに待ったは存在しない。俺は二人が視線を合わせた瞬間、俺から視線が外れた事を見逃さずに一瞬で間合いを詰めた。

 

 -バチバチバチッ!

 

 「「-ッ!」」

 

 『纏雷』状態で二人の間に割り込む。その瞬間、俺の体感時間がゆっくりと進んで行く。まるでスローモーションのような感覚の中、二人の動きをじっくりと観察する。どうやらアリアの方が、不意をつかれたようでアヤよりも一歩遅い踏み込みだ。

 これは完全に経験の差だろう。戦闘経験の多さならアリアの方が多いが、アリアは決闘や闘技大会なのどルールの存在する戦いしか知らない。一方のアヤはクリムゾンでルール無用、何でもありの戦いを経験している。

 

 なら、まずはアリアからだな。

 

 長々と観察していたが、二人の感覚では一瞬だっただろう。俺はアリアに容赦なく拳を突き出した。

 

 -ズドンッ!

 

 「ッ!?」

 「······ま、間に合いましたわ!」

 「アリアちゃん、油断大敵だよ!」

 「はいですわ!」

 

 アヤとアリアは俺から素早く距離を置く。先程の一撃、俺は力が制限されているとはいえ、『纏雷』の付属魔法である『怒槌』を放った。しかし、驚いた事にアリアはそれを【気法】の『気甲』で完璧に防いでみせた。

 

 「······へぇ。アリア、『気甲』が出来るようになったんだ?」

 「いいえ。まだ完全には出来ませんわ」

 

 待て待て待て。半端な『気甲』では今の一撃は防ぐのは無理だ。俺は今の全力で撃ち込んだ。一体どういう事だ······って-

 

 「······マジかよ」

 

 不思議に思った俺は『気伝』でアリアの周囲の気を感じ取った。すると、アリアの懐部分に〝だけ〟相当量の気が収束されていた。アリアは全身に纏えないと考え、局所的に『気甲』を発動したのだ。こんなやり方、俺には思いつかなかった。

 

 「隙あり-ッ!」

 「つッ!?」

 

 -バキッ!

 

 アリアの所業に驚いていた俺に生まれた一瞬の隙を見逃さなかったアヤが俺の脇腹に強烈な回し蹴りを放った。まるでニーナ並の速さだ。完全にしてやられてしまった。

 

 アヤの一撃で壁に叩きつけられた俺は、口から血を吐き出す。蹴りを喰らった脇腹が、ジンジン-と神経を伝い脳へとその痛みを伝える。久しぶりに感じる打撃の痛み、本当に『痛覚消失』も封じられているようだ。砕けたであろう肋骨が『自己再生』によってゆっくりと再生されていく。

 しかし、アリアは俺に再生する時間を与える間もなく、聖属性魔法『聖なる光(ホーリー・ライト)』を放つ。その瞬間、俺の視界が真っ白に塗り潰される。

 

 「っ···目くらましか」

 

 気を完璧に感じ取れるようになった今だからこそ有効な手段である。しかし、それは俺も同じだ。先程から発動している『気伝』でアリアとアヤの位置を完全に捉えている。『魔力感知』があればどっちがどっちか分かるのだが、『気伝』ではそれが分からない。

 

 まぁ、どっちでもいいんだけど。

 

 「『放電』ッ!」

 

 刹那、俺を中心に強力な雷撃が全方向に迸る。この空間にある強固な大地を砕きながら雷撃は二人に容赦なく襲いかかる。

 

 「きゃあっ!?」

 「アヤ様ッ!?」

 「人の心配してる場合じゃないよ?」

 「ッ!?」

 

 俺はアヤを心配するアリアの背後を取った。一瞬の気の緩み、緩みと言うには短過ぎるその瞬間ですら、隙になるのだ。俺は拳を握り締めてアリアの背中に『怒槌』を撃ち込まんとする。

 

 しかし。俺はあることに気付いた···。そう、俺が『纏雷』での高速移動でアリアの背後を取り、完全にアリアの不意をついた筈なのに、アリアの背中には『気甲』が既に〝纏われていた〟のだ。

 

 結論、俺は誘導されたのだ。『聖なる光(ホーリー・ライト)』で視界を阻害し、広範囲攻撃をさせる。そして、あえて隙を見せた-ということだ。それに気付いた時には既に遅かった。感じたことも無い圧倒的な殺気を放つアヤが俺の背後に待ち構えていた。

 

 「······へぇ」

 

 いい殺気を放つようになったじゃないの······。それに-。

 

 アヤのその身はエクストラスキルである『魔装』状態。大気中の魔素をその身に纏う『魔装』。言うなれば、『気甲』の魔素版だ。『気甲』と比べれば、威力も能力上昇も桁が違う。イルミも使えるこの『魔装』は、見かけ以上に強力なスキルなのだ。

 

 「ごめんねッ!」

 

 -バシュッ·········。

 

 アヤが右手を振り抜く。それを咄嗟に防いだ俺の左腕が吹き飛ぶ。尋常ではない痛みで意識が飛びそうになる。たまらず俺は後方に飛び、立膝をついた。

 

 やはり、『封魔の指輪』と『愚者の腕輪』で魔力を抑えている状態で防ぐのは無理があったようだ。俺の状況を視線に入れたアヤとアリアは表情を酷く崩している。アヤに至っては握り締める血だらけの拳が震えてしまっている。

 

 アヤの『魔装』にアリアの機転、そして二人のコンビネーション。完全に俺を圧倒している。そんな中、異常な程の殺気を放つ存在が俺の後ろに居た。······リーアだ。多分、俺が殺られる姿に耐えられないのだろう。今にもリーアは二人に襲い掛かりそうだ。

 

 「リ、リーア···。落ち着けっ···て。これは戦いだ······。怪我くらい···する···だろ?」

 〘むぅぅ······。どうして本気で戦わないのだ!〙

 

 いやいや、さっきの説明聞いてなかったの!? これは俺の鍛練でもあるんだってば。

 

 「エ、エト君······その···えっと···」

 「アヤ様! 今は戦闘中ですの! 情けも心配も妥協も、お師匠様に失礼ですわ!」

 「···う、うん」

 「アヤ、アリアの言う通りだ」

 

 そう言いながら、俺は右手を前に突き出す。すると、アリアは『雷閃』を警戒したのか、周囲の気を集め始める。一方のアヤも『魔装』状態で迎え撃つ準備を整える。が、生憎と『雷閃』を放つ予定は無い。

 俺は突き出した右手の親指と中指をパチンッ-と弾いた。

 

 刹那-。

 

 「なっ!?」

 「こ、これは-ッ!」

 

 アヤとアリアの体が突然弾け飛び、壁に叩きつけられた。そして俺は続けざまにようやく再生された左手も右手同様に突き出す。そして握るような動作をすると、壁に叩きつけられた二人の首がゆっくりと締め上げられていく。

 

 「···うぐっ!?」

 「ぐはっ···!」

 

 アリアは多分、最初の一撃には気付いていただろう。最初に二人を吹き飛ばしたのは『気弾』だ。その一撃は軽々と二人を吹き飛ばす威力を持っている。流石にアリアもまだこれ程までには気を収束出来ないだろう。

 そして、今彼女達を苦しめているのは、大気中の気を使い相手を束縛する『気縛』。『魔力操作』が出来ない今の俺には結構な賭けだったが、何とか上手くいってくれた。

 

 〘エト、そのくらいでいいじゃろう。そろそろ時間じゃ〙

 「え? もう?」

 

 このまま意識を刈り取るか、違う手を打つか-そんな事を考えていた俺に、ベルゼが手合わせの終告を告げた。その言葉で俺は二人を解放する。

 

 「っかはっ! はぁ···はぁぁ〜」

 「まだまだ···鍛練が足りませんわね······」

 「いや、十分凄かったよ」

 

 そう言いながら、俺はアヤの手足を見つめる。本人は忘れているのだろう。俺が渡したギア・アンクルを〝つけたままで〟俺と戦っていた事を。あれをつけた状態であれ程の移動速度だ。外していれば、俺はもっと苦戦していた筈だ。

 

 とはいえ、本当に強くなったものだ。正直、ここまで追い込まれるとは思わなかった。そして、『愚者の腕輪』······これをつけていれば、俺の戦闘能力は十分の一くらいにまで低下する事も知ることが出来た。これなら怪しまれることなく振る舞えそうだ。

 

 なんて思いながら、服の土埃を払っていると、ようやくアヤがギア・アンクルをつけたままだった事に気付いた。アリアと共に絶賛後悔中だ。

 

 「やっちゃったぁぁ!?」

 「アヤ様ったら···!」

 

 しかし、二人の表情はどこか垢抜けた様子だった。力は抑え込まれているとはいえ、その俺をここまで追い込んだ-ということが、彼女達の自信になったのだろう。

 

 まぁ、俺の腰にしがみついているリーアはめちゃくちゃ不機嫌そうだけど······。

 

 

 

 何はともあれ、手合わせを終えた俺達は、世話になった洞窟に別れを告げて外に出た。すると、そこには魔王ルキフェルとララ、リリ、ルルの四人が俺達を待ち伏せていた。

 

 〘人界に戻るそうだな〙

 「あ、うん。いろいろと世話になりました」

 

 俺の言葉に合わせてアヤとアリアも深々と頭を下げる。すると、ララ達が俺に歩み寄り順番に俺を抱き締め始めた。

 

 〘エト様、いつでもお待ちしております〙

 〘私達はエト様の専属メイドですので!〙

 「メイ······え?」

 

 ······あれ。いつからそんな扱いになってたの?

 

 〘今度はちゃんと御奉仕させてくださいね〙

 「え? あ、えっと······考えておくね?」

 

 何やら意味深な言葉を言い残したルル。そんな事を言うと·········ほら。

 

 「まぁーたエト君ったら······バカッ」

 「まぁまぁ、エト様も男の子ですので」

 

 ······やっぱりこうなるじゃないか。

 

 「ま、まぁとにかく、二週間ありがとな!」

 〘おう!〙

 〘また会えるのを楽しみにしておるのじゃ!〙

 「うん!」

 

 別れを告げ終え、ルキフェルに連れられて魔王宮の転送魔法陣から人界へと向かう。今度はいつ来れるか分からない。だが、みんなのこの笑顔を忘れない内にまた来よう-そう心に決めた。

 

 

 

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