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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
38/71

義妹と義兄のそれぞれの思い


 もう一人のお兄ちゃん、エト・リエル君。優しくてカッコよくて信頼出来るお兄ちゃん。本当の兄妹のように接してくれる彼に私は友達以上の感情を持っていた。

 それは多分、恋愛感情では無くて、家族として兄としての好意だ。出会ってからの期間は短いが、それでも今では兄様と同じくらい彼の事が好きだと思う。

 

 でも······。そんな彼には秘密があった。それは精霊と会話が出来る-というものだった。召喚師としての素質がなければ精霊との意思疎通は出来ない。つまり、彼にはあるのだ。召喚師としての素質、もしくは精霊の加護が······。

 それを知った時、ボクは言葉を失った。信じられなかった。嫉妬とか、裏切られたとか、そういうのじゃない。ただ、何故言ってくれなかったのかが知りたいと思った。何故、ボクに隠していたのか-それだけが知りたかった。

 

 「······気遣ってくれた······?」

 

 お兄ちゃんは優しい人だ。もしかしたら、ボクが精霊との意思疎通に悩んでいる事を気にして言えなかったのかもしれない。冷静に考えると、そんな事をふと思った。でも、だとしてもボクは言って欲しかった。そして、一緒に色んなことを話したかった。

 彼が精霊と関われる存在なら、一番に相談に乗ってもらいたかった。そんな事を考えると、胸の奥が窮屈になっていく。でも、分かっている。これはボクのわがままだ。誰にだって隠し事の一つや二つくらいある。ボクだってそうだった。

 

 「あっ······そっか···」

 

 だからお兄ちゃんは、ボクが隠していた事を責めなかったのか······。自分も似たようなものだから······。そう思うとすごく寂しい気持ちになった。ボクはまだ、彼が彼の抱える秘密を打ち明けられる存在では無い? -そう思ったのだ。

 

 「お兄ちゃん······。会いたいよ···」

 

 なんて、言ったところでどうにもならない。先程からネロがボクの服の袖を引っ張っている。心配してくれているのだろうか。そんなネロに微笑むと、ネロは笑顔ではなく不思議そうな表情を見せた。もしかしたら、この子には分かっているのかもしれない。今の笑顔は無理をして作ったものだと······。

 

 「ねえ、ネロちゃん? エト君の事······好き?」

 

 唐突にボクはネロにそう問いかけた。自分で言って馬鹿だと思った。たった一度しか会っていないお兄ちゃんの事をネロが好きな訳が無い。これはボクが自分に問いかけたのだ。その答えを傍にいたネロに求めたのだ。

 

 情けない······。

 

 そう思った瞬間、ネロはボクの目の前に移動して微笑みながら答えた。

 

 《うん! えとすきーっ!》

 「-ッ!」

 

 ネロの口からは、予想外の答えが返ってきた。好き? 何故? たった一度しか会っていないのにどうしてネロは躊躇なく答えたのだろう。ボクはネロに、どうして好きなのかを問いかけた。

 

 すると-。

 

 《えと、とっても〝優しかった〟からぁ〜!》

 

 その言葉を聞いた瞬間、ボクの中の悩みが一瞬で消えていった。そうだった。分かっていたことじゃないか。いつだってお兄ちゃんは優しくて温かかった。それで充分なのだ。彼が精霊と話せようが、召喚師としての素質があろうが、大した問題じゃない。話さなかったんじゃない。きっと彼は話せない事情があったのだ。

 

 「あはは···。お兄ちゃんを信じれないなんて······。妹失格だよね···! ごめんね、お兄ちゃん!」

 《かな、元気になったぁ!》

 「えへへっ。ネロちゃんのおかげだね? ありがとっ」

 《おかげ〜おかげ〜っ!》

 

 やっぱりネロはボクが落ち込んでいたことに気付いていたようだ。そんなネロの頭を撫でながら、改めてもう一人のお兄ちゃんを信じようと心に決めた。ちゃんとお兄ちゃんから話してくれるまで待とうと、そしていつか一緒になんでも話せる関係になろうと···。

 

 「よし! ネロちゃん、アインさん達の所に戻ろっか? あ、それと···。ボクと契約してくれる?」

 

 もう一つ、ボクは決心した。それは、この優しいネロと契約を結ぶ事だ。この先、この子には負担をかけるかもしれない。でも、ボクはネロとこの先も一緒に居たい-そう思えたのだ。それに、ボク自身が強くなれば何の問題もない。そう決意出来たのも、きっとこの子のおかげなのだろう。

 

 《いいよ〜! ネロ、頑張る〜!》

 「えへへっ。よろしくね?」

 

 そして、ボク達は星が輝く夜空の下で契約の儀を行った-。

 

 

 

 

 

 

 「っくしゅん!」

 

 ん? 今、誰か俺の噂をしているような感覚が······。

 

 〘エト様?〙

 「あぁ、大丈夫。気にしないで?」

 〘はい!〙

 

 無事にリーアとの契約を終えた俺はララ達の家に戻って来た。ちなみに今は、ララとリリにマッサージをして貰っている。ルルは晩御飯の片付け中だ。

 

 〘気持ちいいですか?〙

 「最高です」

 〘うふふっ。良かったです!〙

 

 絶妙な力加減でのマッサージは最高の一言だ。にしても、一つ問題がある。というのも、リーアとの契約の際に刻まれた契約紋、ベルゼの時は綺麗に消えたというのに、リーアの契約紋はどうやっても一部消えないのだ。一部-というのは、渦巻き状の翼の無い竜の刻印。大きさは手のひらくらいで、そいつが心臓の辺りにくっきりと残っている。

 

 「はぁ······」

 〘お疲れのようですね?〙

 「ん? うん、まぁね」

 

 魔王ルキフェルさん曰く、リーアの強大な力故の影響だろうと言っていた。全く、困ったものだ。これじゃあカナと一緒にお風呂に入れない。いや、別に入りたいわけじゃない。ただ、どう理由をつけようか悩むところなのだ。

 正直に言ってもいいのかもしれないが、多分カナはショックを受けるに違いない。カナのそんな表情は見たくないし、させたくないのだ。

 

 どうしようかなぁ······。

 

 なんて考え込んでいると、リリが心配そうに問いかけてきた。どうやら、相当表情に出ていたらしい。

 

 〘エト様、何か悩み事ですか?〙

 

 顔色を窺いながら問いかけて来たリリに、俺は試しに相談してみた。誰かに聞いてもらうのもいいかもしれない-そう思ったのだ。俺が、義妹であるカナの事-そしてそんな彼女が必死に召喚師を目指しているのに、召喚師を目指している訳でもない俺が召喚師としての力を持つ事を隠している事-それが明るみになりそうだと言う事。そんな事をリリに呟くと、リリはクスッと微笑んだ。

 

 〘ふふっ。エト様はやっぱりお優しいのですね?〙

 「からかわないでよリリ。これでも結構悩んでるんだから」

 〘すみません。でも、そうですね。私なら、気を遣われるよりも、隠し事をされている方が嫌···かもしれません。だって〝寂しい〟じゃないですか〙

 

 リリの言葉に俺は眉をしかめた。

 

 〘それがどんな事であれ、どんな事情であれ、私ならちゃんと言って欲しいです。だって〝それが兄妹〟じゃないですか? 私ならそう思います〙

 

 彼女の言葉に俺は言葉を失った。彼女の言う通りだ。俺だってもし、妹に悩みや隠し事があるのなら聞いてやりたいし、力になってやりたい。気を遣われるなんてのは、リリの言う通りきっと寂しい思いになる。

 

 なんだ······。当たり前のことじゃん······。

 

 リリの言葉を隣で聞いていたララも穏やかな表情を浮かべている。彼女も同じ事を思っていたらしい。俺はゆっくりと起き上がると、大切な事を気付かせてくれたリリを優しく抱き締めた。

 

 〘エト様···?〙

 「ありがと、リリ。リリの言う通りだ。帰ったらちゃんと向き合う事にするよ」

 

 俺の言葉にリリは笑顔で応えてくれた。俺自身でカナの兄になると決めたのだ。なら、ちゃんと向き合わないといけない。俺は魔界から戻ったら、カナに全てを打ち明ける事に決めた。

 

 第一、カナの秘密を知って俺の秘密は秘密のまま-というのは卑怯だよな。

 

 〘さあ、エト様。終わりました〙

 「あ、うん。ありがと」

 

 マッサージを終えた俺は早速床に就く事にした。見栄を張ってはいるが、リーアとの契約は相当キツかった。今日はすぐにでも寝たい気分なのだ。もちろん、ララ達のおかげで大分と楽になった。だが、修行はまだまだ続く。この調子でいけば、きっと二人共相当強くなれる。

 

 そんな事を考えながら、俺は一足先に寝させて貰う事にした-。

 

 

 

 


 -修行開始から五日目。

 

 この日、アリアに【気法】の一つである〘気弾〙を鍛練と課して俺は深淵の塔に向かっていた。というのも、ワイズマンの爺さんが、宝具製作の条件を伝えたい-とコンタクトを取ってきたのだ。まぁ人伝ではあるが。

 

 ちなみに〘気弾〙とは、周囲の気を凝縮して撃ち込む攻撃技だ。アリアの事だから、これもあっという間に会得するのだろう。遠距離攻撃はもちろん、その手に纏えば近距離攻撃手段としても使う事が出来る。

 

 「っと···。ここか」

 

 『纏雷』姿で目的地に辿り着く。すると、そこには既にワイズマンの爺さんが俺の訪問を待ち惚けていた。そんな爺さんに歩み寄った俺は、早速彼の要求する条件を伺う事にした。

 

 「お待たせ。それで? 俺は何をすればいいの?」

 

 俺の問いかけに、ワイズマンは懐から一枚の石版を取り出した。大きさは大体、両手の平を広げ合わせたくらいだ。まるでこれを見ろ-と言わんばかりに俺を見つめている。

 

 というか、喋れよ······。

 

 「ったく。なになに···? って何にも書いてないじゃん!」

 

 ワイズマンが手に持つ石版に何かが記されているものだとばかり思っていたが、黒い石版には何も記されてはいなかった。これをワイズマンが何故、俺に見せてきたのかがサッパリ分からない。

 

 〘うむ。やはり童でも見えんか······〙

 「···え? それってどういう意味?」

 〘これはの、遥か昔に存在していたであろう〝帝国〟の地図なんじゃよ〙

 「帝国の···地図?」

 

 この黒い石が?

 

 ワイズマンの言葉がよく理解できない。俺の表情からそれを感じ取ったのだろう、爺さんは俺に詳しい説明をしてくれた。

 

 帝国-それは、ワイズマンが生まれる遥か昔に栄えていた巨大な国家で、そこでは全ての種族が平等に暮らし、手を取り合っていたらしい。なんともまぁ、それはそれは···夢物語のようだ。今では考えられないだろう。

 とはいえ、爺さんがそんな場所に興味を持つ筈がない-そう思っていた俺に、爺さんは自分が何故そんな国に興味を持ったのか、それを加えて話し始めた。

 

 〘その帝国には〝禁大兵器〟なるものがあったそうでの? その強大過ぎる力を持つが故に、全ての種族が手を取りあっておったのじゃ〙

 「んー、それって抑止力的な事?」

 〘まぁ、そうじゃな。誰かが使わんように監視する-というのもあったとは思うがの〙

 

 なるほど。まぁそう思うと、全ての種族がみんな仲良く-っていう帝国も本当の意味では平和じゃなかったのかもしれない。

 

 「というか、なんでそんな事知ってるの?」

 〘長く生きておれば、そんな話も聞こえてくるもんじゃ〙

 

 は、はあ······。

 

 「それで? もしかして、その禁大兵器が目的って言わないよね?」

 〘何を馬鹿な事を言っておる〙

 

 ······ですよね。

 

 そんな得体の知れない物に興味を持つわけが無い。好奇心旺盛な爺さんでも、流石に存在も情報もあやふやな物には興味を持たなかったようだ。

 

 「だよね。そんなあるかも分からないモノ-」

 〘〝当たり前じゃろ〟!〙

 

 ですよねっ!?

 

 ダメだこりゃ。やっぱり爺さんは爺さんだった。

 

 とはいえ、爺さんがその帝国の兵器に興味を持った事は分かった。その手がかりがこの石版だということも。···しかし、さっきの爺さんの言い方じゃ、この石版には何かが記されているが、自分には見えないので俺に見せた-と解釈出来る。

 俺がそれなりの力をつけた事で、見えるのでは-と考えたのだろう。世界には魔力を流すことで文字が浮かび上がる-なんて代物もあるくらいだ。

 

 しかし、この石版は魔力を流そうが、気を読み取ろうが、うんともすんとも何の反応も見せない。ならば、これには別の使い方があるのかもしれない。

 

 「······って」

 

 何を真剣に考えてんだよ、俺は。

 

 〘これを手に入れたのは人界での。ならば、きっと人界にこれに関する事柄がある筈なんじゃ〙

 「あー、それを調べて欲しいってのが、もしかして条件?」

 〘おお、察しがいいの。その通りじゃ〙

 

 誰でも気付くっての。

 

 「ちなみに、人界の何処で手に入れたの?」

 〘南方大陸の〝大定図書館〟じゃ〙

 

 大定図書館。それは南方大陸にある一国規模の大きな図書館で、世界の書物が揃う場所だ。俺は行ったことは無いが、噂くらいは聞いた事がある。あそこは南方大陸一の軍事力を誇るペンドラー王国によって厳重に管理されている。そんな場所からそれ程の歴史的遺産を手に入れるとは······。

 

 「······爺さん、もしかして盗んで来たとか言わないよね?」

 〘聞けば童はまた世界を旅しておるんじゃろ?〙

 

 え? びっくりするくらい自然に流された!? 絶対、盗んで来たよね!?

 

 「······はぁ。まぁ、そうだけど。場合によっちゃ、南方大陸にも行くと思うし調べてもいいけど」

 〘おぉ、そうか。ならば、もう何も言うまい。それとの、童にこれをやろう。何か掴んだ時は、これで儂の元に来い〙

 

 めちゃくちゃ強引だが、成り行きで話を引き受けてしまった。爺さんは俺に銀製の腕輪を手渡して来た。爺さん曰く、これは魔力を流すだけで魔界に来る事が出来る-というなんとも便利な代物らしい。

 

 ······売ったら城が建ちそうだな。

 

 「わかったよ」

 

 そう言うと、爺さんは満足そうに深淵の塔に帰っていった。そんな後ろ姿を見ながら大きく溜め息を吐く。面倒な事を引き受けてしまったと後悔中だ。とはいえ、ワイズマンの作る宝具は必要なものだ。その条件というのなら、致し方ない-と割り切るしかない。

 

 「さてと。戻るか······」

 

 何はともあれ、用事も無事に完了したので、アリア達の元に戻ることにする。多分、そろそろリーアが遊びに来る頃だ。待たせて不機嫌になられても困る。

 

 「『纏雷』ッ-」

 

 そして俺はその場から姿を消した-。

 

 

 洞窟に戻ると、何故か修行の間までの道中にリーアが大の字で行き倒れていた。

 

 「えっと······。リーア? どうしたの?」


 俺の言葉にピクッと反応を示すリーア。お腹でも減っているのだろうか-なんて思いつつ、リーアの傍に歩み寄ると、リーアは不機嫌そうに俺を見つめてきた。結構急いで戻って来たのだが、手遅れだったのだろうか······。

 

 〘退屈だゾ〜······〙

 

 うん、やっぱり手遅れだった······。

 

 「で、でも俺と契約した事で、自由に家からは出られるようになったんでしょ?」

 

 俺との契約以降、魔王ルキフェルが、リーアの保護権を俺に託して来た。というのも、リーアに何かあった時に対処出来るのが俺だけ-という事のようで、契約状態-つまり、俺が呼べば何処だろうと瞬時に召喚に応じる状況下ならば任せられる-という事らしい。

 極端な話、魔界でリーアが暴れたとして、その事を俺に念話なりで知らせて俺に対処を任せようという腹だ。全く、父親としてもう少し向き合ってやってほしいものだ。溺愛している癖に。

 

 〘エトと会って、エトに負けてからどうもおかしいのだ。自由になってもエトが近くに居ないと退屈なのだ!〙

 「そ、そうなんだ······」

 

 対等な誰かと真剣に向き合い触れ合う。それを知ってしまったが故-なのかもしれない。ずっと一人で浮いた存在だったリーアにとって、俺という存在は大きな影響を与えてしまったらしい。気持ちは分かる。

 ······もしかしたら、ルキフェルはリーアの気持ちを汲み取り、俺に託して来たのかもしれない。だとするなら、あんな残念親父も馬鹿に出来ない。俺はそんな寂しそうな表情をするリーアにある提案をした。

 

 「だったら、ずっと近くに居ればいいさ。でもきっと、今以上に窮屈で退屈かもしれないけどね」

 

 そう。別に傍に居たければいればいいのだ。しかし、俺の傍にいるということは、人界や魔法学園で過ごすということだ。当然、それなりの理由が無いと戦うことも許されない、力を振るう事もない。戦いが好きなリーアにとって、それは自由というには程遠い環境だろう。

 しかし、俺の話を聞き終えたリーアはそんな事はどうでもいい-と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。

 

 〘いいのだ!? 本当に一緒にいても!?〙

 「うん。リーアがそれでもいいならね」

 〘やったぁなのだ! なんだか、元気になってきたゾ!〙

 

 わぁーいわぁーい-と、はしゃぎまくるリーア。ただ、問題もある。それはリーアが魔法学園に通えるかどうかだ。学園長のアリスタシア・ウォーランドには、もうアヤの『記憶操作』は使えない。何か他に手を打たないといけなくなる。それに契約紋だ。リーアを常に呼び出した状態-という事は、契約紋が常に剥き出しになる-ということだ。

 カナについては、もう俺の中でちゃんと向き合い話すと決めているので問題は無くなったが、学園内での着替えなんかは大っぴらに出来なくなってしまう。

 

 「さてさて。どうしたもんかな···」

 〘むっ? どうしたのだ?〙

 

 俺の右手を掴み、アリア達の元に向かうのだ! -と言わんばかりのリーア。そんなリーアに、俺は言っても仕方がないと思ったのだが、問題となるさっきの二つの件をリーアに告げた。

 

 すると、リーアは人界に行った際の自分の状況を理解したらしく、俺に一つの提案をして来た。

 

 〘これで、どうなのだ?〙

 

 -ボフッ。

 

 その瞬間、リーアは俺の目の前で〝小さな狼〟の姿に変化した。リーアの髪と同じ綺麗な銀色の体毛。銀狼姿となったリーアは、ひょこっと飛び跳ねて俺の頭の上に着地をする。

 

 「えっ? もしかして『変身魔法』!?」

 《違うのだ! 『魔力遮断』で自分の魔力を消した影響なのだ!》

 

 え? 何その羨ましいスキル······。

 

 リーア曰く、自身の持つ『魔力遮断』というスキルで、魔力をあえて消す事で獣の姿になったらしい。これはベルゼの言っていた、悪魔は内蔵する魔力によって姿を変える-という性質の一つなのだろう。

 

 「うん、これなら大丈夫だよ!」

 《にししっ! よかったのだ!》

 

 この姿でのリーアとの会話は、会話というより精霊との意思疎通に近いようだ。リーアのおかげで問題は一つ消えた。学園には、魔獣を従え仕事をする『使役師=テイマー』と呼ばれる職業を目指している奴もいる。

 確か、魔獣を連れている生徒も何人か居たはずだ。これならどうにか誤魔化せる。

 

 「ちなみに、その状態で何が出来るの?」

 《ん〜。ほとんど何も出来ないのだ。『咆哮(ブレス)』と『魔法障壁』くらいなのだ······》

 

 なんだか、申し訳なさそうに話すリーア。俺の期待に応えられないかもしれない-とでも思っているのだろうが、その姿になってくれただけで俺は充分満足している。それに、俺の期待になんて応える必要なんてない。リーアはリーアの好きにしてくれればいい。まぁ、もちろん面倒事を起こさない程度にだが。

 

 「そんなに落ち込まないで。単に知りたかっただけだから。あと、どんな姿でも力が無くても、リーアはリーアだからね。俺はお前が強いから契約した訳じゃないんだ。リーアと一緒に居たいと思ったからなんだよ? それはちゃんと分かっておいてね」

 

 そう言うと、頭の上がふんわりと温かくなった。きっと···というか、間違いなくリーアの体温だ。どうして温かくなったのか-それを聞くのは野暮だろう。この頭から伝わる温もりで、なんとなく気持ちが伝わってくる。

 

 〘にっしし。やっぱりエトは私の特別なのだ!〙

 「そっか。そりゃあよかった」

 

 うん、よかった。よかったから、頭に突き刺さっている爪は引っ込めて欲しいかな。痛くもないし、すぐに治るけど。

 

 なんて思いながらも、俺達はアリア達の元に向かった。

 

次回更新は来週日曜日の午前9時頃の予定です!

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