魔界最強との決闘
-バチバチバチッ···
「っと···」
〘おぉ! 流石なのだ!〙
草原に着くとリーアが拍手で迎えてくれた。にしても『瞬間移動』とは便利なものだ。俺の全速力でも数秒かかる距離を一瞬とは······。というか-
〘待っておったぞ!〙
「エト君、頑張って!」
「ファイトですわ、エト様っ!」
なんでキミ達、俺よりも先についてんだよ!
すっかり忘れていたが、ベルゼも『瞬間移動』が使えるのだ。当然といえば当然である。こんな事ならベルゼに連れて行ってもらえば良かった-と心底後悔した。
〘エトッ! 早く始めるのだゾ!〙
「わかったわかった。どっちかが死ぬか意識を失ったら負け。それでいい?」
〘もちろんなのだ!〙
俺の提案に笑顔で答えるリーア。本当に楽しそうに笑う奴だ。ベルゼがいるので最悪死んでも問題は無いだろう。まぁ死ぬ気も負けるつもりもないのだが······。
「ベルゼ、もっと離れてくれ!」
〘なっ······もっとじゃと!?〙
既に俺達とベルゼ達の間は数十メートル離れている。が、本気で戦うとなるとこの距離は全く意味を成さない。
「あ、でも見えなくなるか。だったら〝死ぬ気で〟二人を守ってくれ。加減出来ないから!」
〘うっ······二人とも、ギリギリまで離れるぞ! あとは妾がどうにかするでの!〙
「は、はい!」
「わかりましたわ!」
そしてベルゼ達は俺達をギリギリ目視できる程の距離を置き、ベルゼは『防御障壁』と『魔法障壁』を二重に展開してみせた。
その瞬間、まるでそれが合図のようにエトとリヴァイアは魔力を全開にした。
-ゴオォォォッ!!!
〘ッ!? な、なんじゃこの魔力量は!?〙
「こ、これっ···て」
「まるであの時の···うっ···」
そう。アリア達はエトが暴走した時の異様な魔力圧をその身に受けていた。それはベルゼリアですら畏怖する程のもので、既に二つの障壁にヒビが入っている。ベルゼリアは慌てて全力で障壁を張り直す。すると、アリアとアヤは少しだけ気持ちが楽になった。
〘にっしし〜! すごいのだ! ホントにすごいのだぁ!〙
興奮を抑えきれないリヴァイアは『瞬間移動』でエトの懐に潜り込む。しかし、エトもまた『纏雷』による超高速移動でリヴァイアの一撃を紙一重で回避する。
-ズバァァァッ!!
空を切り、振り上げられたリヴァイアの一撃の衝撃波は空気を歪ませるほどの破壊力を持っていた。一瞬にして攻撃方向の木々が消し飛ぶ。
そんな規格外の攻撃に傍観する三人は言葉を失う。
「ったく。めちゃくちゃだ···な-ッ!」
-ズ・ド・ン・ッ!!!
リヴァイアが一撃を放ち終えた一瞬の隙を見逃さなかったエトはリヴァイアの背後から強烈な一撃を放つ。しかし、リヴァイアはあっさりそれを回避してみせた。下から抉るように繰り出されたエトの一撃は地面を抉りとっていく。
「······何···これ」
〘これが······生物の戦いじゃ···と!?〙
「流石ですわ···エト様っ」
まるで嵐が通り過ぎたような惨状をただただ食い入るように見つめる三人。魔界門番との戦いとは明らかに違うエトに唖然とするアヤとアリア。そしてリヴァイアもまたエトの一撃に感化されていた。
〘す、すごいのだ···。想像以上だゾ! やっぱりエトは特別なのだ!〙
「そりゃどー···も-ッ!」
-ギュインッ!
〘ッ!?〙
感動しているリヴァイアを他所にエトは全力の『雷閃』を右手から繰り出す。その瞬間、攻撃方向の何もかもを一直線に消し去った。これには流石のリヴァイアも驚いたようで言葉を一瞬失っていた。
しかし、流石は魔界最強。リヴァイアはすぐさま距離を取り魔法発動工程を省きまくった炎属性魔法『炎帝の撃槍』を拳から放った。
「ッ···ぶねえ!?」
早過ぎる魔法攻撃に間一髪といった表情のエト。エトの『雷閃』にも引けを取らない程の高威力攻撃にエトの表情も自然と崩してしまう。
〘にっしっし〜! どうだぁ!〙
「どうだも何も。見事だよリーア」
〘にししっ! 嬉しいゾっ!〙
戦法を変えてきたのか、はたまた気まぐれに近接戦を堪能したからなのか、リヴァイアは楽しそうに微笑みながらエトから距離を取った。
「距離を取った···?」
突然離れたリヴァイアにエトは警戒しつつも、何が来てもいいように感覚を研ぎ済ませながらリヴァイアを見つめる。すると、リヴァイアは素早く両手に魔法陣を展開させた。
「······来るっ」
〘次はこれだゾ-ッ!〙
リヴァイアが地面に両手をついた瞬間、まるでエトの【神羅万象】-『地核変導』のようにリヴァイアの周囲に無数の巨大な大地の剣山が生み出される。
「なるほど。広範囲魔法ね」
でも、なんで見せびらかしたんだ······?
リヴァイアが繰り出した魔法は、地属性魔法『大地の怒り』。自身の周囲に巨大な円錐型の巨塔を生み出す術だが、流石に距離が離れ過ぎていたのでエトには届いていない。しかし、リヴァイアはもう一度両手に魔法陣を展開させて見せた。
〘いっくのだぁ! -ッ〙
「ッ!?」
刹那、リヴァイアは両手を地面に叩きつける瞬間に『瞬間移動』でエトのすぐ目の前に現れた。
〘にっしし〜〙
「こんのっ-」
やっ······やられたッ-
先程の無駄な一撃は接近戦をエトの意識から外す為だったのだ。そして更には大きな動作と派手な魔法によって、エトの頭から『瞬間移動』という存在が消されてしまっていた。
エトは『纏雷』による超高速移動を図るが、リヴァイアは移動前に既に地面に手を突き出していたのだ。流石に間に合わなかった。
「···ちぇっ。コイツめ」
攻撃を喰らう瞬間、リヴァイアに微笑みかけるエト。そんなエトの表情にリヴァイアは満面の笑みを見せる。
〘すごく楽しかったのだ!〙
「そーかよ-ッ」
-ドオォォォンッ!!
刹那、エトは一瞬にして『大地の怒り』に呑み込まれた。それを見届けたリヴァイアのスキップをしながら魔法を解き、ベルゼリアの元に向かった。どうやらベルゼリアの力でエトを生き返らせよう-という事らしい。
〘死なすのは惜しいのだ! エトはもっと強くなるゾ!〙
リヴァイアは今まで戦った敵の中でもトップクラスだったエトに御満悦の様子だ。······しかし、リヴァイアは知らない。エトにはドラゴンの力が宿っている事を。そして仮に喰らったとしても一瞬で『超即再生』が発動する事を······。
〘ベルゼリア! エトを生き返らせ-ッ!?〙
「隙あり······だね」
-バチバチバチッ···!
〘なっ······がはっ!?〙
勝ち誇るリヴァイアの腹部をエトの『怒槌』が穿いていた。内臓が雷撃によって燃やされていく。痛みに耐えかねたリヴァイアは大きく右手を後方に振り抜く。
「っと。どうだ? ちょっとは効いたか?」
〘おど···ろいた······のだ。どうして···なの···だ?〙
意識が遠のく中、リヴァイアは先程の一撃を喰らって何故無傷なのかをエトに問いかけた。すると、エトは『竜化』をしてベルゼリアに遠距離の魔法を放たせた。
「ベルゼ、俺目掛けて適当に魔法を打ってくれ」
〘あ、ああ。了解じゃ!〙
エトの要求に応えるベルゼリア。そしてベルゼリアが炎で出来た大きな球体をエトに放つと、エトに当たる瞬間にドラゴンの固有エクストラスキル『反魔法障壁』が自動的に発動された。
〘なるほど···なのだ。にしし···やられたのだっ〙
エトがこれで終わりだと思った瞬間······。
-ビシャッ···
「はあっ!?」
エトは眼前の光景に言葉を失った。今まさに力尽きようとしていたリヴァイアがまるで泥水のように弾け飛んだのだ。
〘にっしし〜! 完璧な私の演技に驚いたのだ?〙
「ッ!?」
その声にエトが素早く後ろを振り向くと、そこにはリヴァイアがドヤ顔で仁王立ちしていた。先程の一撃を受けたリヴァイアはどうやら分身ないし偽物だったようだ。
······マジかよ。
手に伝わる穿いた感覚は本物と相違なかった。しかし、リヴァイアはピンピンとしている。信じ難いが、受け入れるしかない。だが、リヴァイアは演技だと言った。それは死にそうなあの状況の事なのだろう。ならば一度は喰らった···という事になるのだが。
「分身か?」
〘違うのだ! 私には雷属性魔法は効かないのだ!〙
って、根本からかよっ!?
まさかのカミングアウトに膝を砕かれるエト。しかし、本当にリヴァイアは強い-エトはそう思った。単に戦いが好き···というには戦術も判断能力もその辺の悪魔や人間と桁が違う。
多分、彼女はまだまだ本気では無いのだろう。まぁそれはエトも同じなのだが、底の知れないリヴァイアにエトはどう戦うか-と思考を巡らせる。
〘あれを見せるのだ! 人界で見せたやつだゾ!〙
唐突にリヴァイアはそう言い放った。その言葉にエトはキョトンとした様子でいる。
「······あれ? いや、あれはちょっとなぁ」
魔界で使えるのか分からないし······。
〘むむむ〜。無理なのだ? むぅ〜···魔力切れ? いや、それは無いのだ。エトの魔力は全く減っていないのだ。ならきっと条件があるのだ!〙
「·········」
めちゃくちゃバレてんじゃん。
そう。エトはここまで加護の付与スキル『纏雷』の付属魔法で戦っていた。そのため、全く魔力は消耗していない。どうやらリヴァイアは魔力残量を知り得る能力があるらしい。
〘エト! 私を倒すなら半端な攻撃じゃダメだゾ!〙
「···みたいだね」
中々厄介な存在であるリヴァイアに困った様子のエト。そんなエトは覚悟を決めたようでその場で大きく伸びをした。
〘おおっ! やる気が出たのだ!〙
伸びを終えたエトの瞳が真紅色に輝く。エトは『吸血鬼化』をしたのだ。『竜化』、そして『吸血鬼化』、そんな人智を超えた姿を見せつけられたリヴァイアは、興奮のあまり頬を赤く染めてうっとりとエトを見つめている。
〘本当にすごいのだぁ······〙
自分と同じくそこの知れない存在、そして自分が知る中で唯一対等に向き合える存在であるエトに愛慕の念を抱き始めるリヴァイア。
「っしゃ。行くぞリーア!」
〘むっ! 来るのだ! 私も本気を出すゾ!〙
エトは『魔力吸収』発動の持続状態を維持する。これは魔素濃度の高い魔界か魔邪の樹海限定の戦法で、半永久的に魔力を取り込み続ける為である。つまり、今のエトは魔力を消費してもすぐに回復する事ができるのだ。
「容赦しねえぞッ!」
〘当然だゾ!〙
その瞬間、両者の膨大な魔力がぶつかり合い、周囲一帯の地形を変貌させた。草木が生い茂る地表は荒地と化し、蜃気楼のように空気を歪ませ軋んでいく。
「······す、すごい」
〘うむ···。妾もこれ程の魔力の衝突は初めて見るのじゃ······〙
「エト様······」
そんな規格外な二人についつい見蕩れるベルゼリア達。こんな戦いはそうは見れない。
〘行くのだっ! 『炎姫降臨』ッ!〙
先手を打ったのはリヴァイアだった。大きく両手を広げた瞬間、半径10メートル程の朱色の魔法陣が現れ、そこから全身に黄金色の炎を纏った巨大な女性が現れた。
「なっ······」
なんて魔力の波動だよ···。
巨大な炎姫が放つ魔力の波動、その強大な力ですぐにそれがとてつもない力を秘めている事に気付かされる。
〘いくのだ、マリア!〙
【キヤアアアアッ!】
まるで悲鳴のような叫び声をあげた炎姫は右手に携える大きな大剣をエトに向けて振り落とした。
「おせえっ!」
それを一瞬で回避するエト。しかし、『反魔法障壁』が展開された事でエトは攻撃を避けきれていない事に気づく。
「なっ······」
どんな攻撃範囲だよ!?
〘にししっ! マリアの大剣、『祓いの大剣』の攻撃範囲は剣が届く距離でマリアが目視する範囲全てだゾ!〙
「ぐっ······」
全く、めちゃくちゃだろ! というか、この威力は『反魔法障壁』でも限界があるし······。
ピキッ···ピキッ···-と『反魔法障壁』はひび割れていく。それを察知したエトは左手を地面に叩きつけた。
「【神羅万象】-『破極噴火』ッ!」
〘おわッ!?〙
エトが地面に手を叩きつけた瞬間、一瞬にしてエトの前方数百メートルの大地がひび割れる。
「あっ······あれって」
〘な、なんじゃ!? アヤは知っておるのか!?〙
「大地が······裂けて···」
アヤにはエトが何をしようとしているのかが分かった。それは前に遺跡でステータス更新をした時にエトが現れた魔獣に放った攻撃だ。
「······来ます!」
〘何っ!?〙
刹那-。
-ボゴオォォォッ!!
〘なっ、なんなのだ!?〙
裂けた大地から膨大な量のマグマが柱のように高々く噴き上がった。その瞬間、ベルゼリア達は絶句した。当然である。数百メートルの範囲でひび割れた大地から灼熱のマグマが噴き上がったのだ。それはまるで大地が放つ咆哮。
〘こ、これは不味いのだ!?〙
炎をも呑み込むマグマの襲来にリヴァイアは咄嗟に大きく回避する。しかし、残された炎姫はあっという間に呑み込まれてしまった。
「まだまだぁッ! 【神羅万象】-『海琉氷牙』ッ!」
〘ッ!? こ、今度はなんなのだ!?〙
回避したのも束の間、大きな地鳴りに反応を示すリヴァイア。そして、そんなリヴァイアは背後に現れた超巨大な〝壁〟に視線を向けた。
〘······海···が···〙
壁の正体、それは魔界に存在する膨大な量の海水が一気に大瀑布の如く押し寄せる光景だった。高さにして1キロメートル、範囲にして数百メートル。そんな超巨大な津波がリヴァイアに向けて押し寄せるのだ。
〘ぬッ! 『大地城塞』ッ!〙
リヴァイアは咄嗟に地面に両手を叩きつける。その瞬間、巨大な岩壁が作り上げられる。これで巨大な津波を凌ぐつもりのようだ。しかし-
「リーア、それはただの津波じゃねーぞ!」
エトが両手を前に突き出すと、巨大な津波は形を変え、まるで蛇のように細長い姿に変貌する。そしてそれはみるみるうちに凍てついていく。
それを目の当たりにしたリヴァイアは岩壁程度では砕かれてしまうと思い、『終焉の業火』を召喚した。
〘これでどうだっ!〙
全方向に生み出された巨大な黒炎が、氷蛇の尽くを消し去っていく。
「ぬぐっ······」
流石に魔力回復が追いつかねえ······。
いくら『魔力吸収』を発動しているからと言って【神羅万象】の連続使用はエトの身に大きな負担となる。しかし、エトは止まることなく次の一手を繰り出した。
「その黒炎が邪魔だな······」
〘ぬっ···。にしし···。これは私のユニークスキルなのだ! この黒炎が消える事は無いのだ!〙
「消えないっていうなら···【神羅万象】-『暴鳳嵐舞』ッ!」
エトが言い放った瞬間、その天災は姿を現した。
「きゃああっ!?」
〘ぬおっ!? な、なんじゃこの突風は!?〙
「と、飛ばされてしまいますわ!?」
周囲の大気が大きく吹き荒れる。そしてリヴァイア、ベルゼリア、アヤ、アリアの四人が見たもの。それは天にも登る程の巨大過ぎる六つの大竜巻だった。
〘こっ···これは······圧巻だゾ···〙
リヴァイアですら驚く程の威力と規模。高速に回転する風が空気を切り刻んでいく。こんな存在が自在に操られれば、流石の『終焉の業火』も消し飛ばされかねない。
〘ッ! ならば!〙
リヴァイアは『終焉の業火』を解き、『瞬間移動』によってエトの懐に姿を表す。この状況で一番安全な場所、それはエトの傍であることを瞬時に理解したのだ。そして巨大過ぎる力を振るっている今のエトは隙が生まれている。それを見逃すリヴァイアではなかった。
-ブシュッ······。
「ッ! ぐはっ!?」
エトがリヴァイアの出現に気付いたと同時にリヴァイアの左手がエトの心臓を穿いた。
〘竜族の『反魔法障壁』は確かに厄介なのだ。でも物理攻撃は防げないんだゾ! ······私の勝ち···なのだ!〙
とはいえ、流石のリヴァイアも魔力の消耗が激しい。息を荒らげて今にも倒れそうな状態だ。完全に心臓を穿いたリヴァイアは勝利を確信していた。これはどう足掻こうとどうにもならない。穿いた瞬間に心臓を握りしめたのだ。リヴァイアの勝利は今彼女の左手にある。
「っ···へへ。やっぱり強い······な。リーア?」
血を吐き出し、呼吸もままならない様子のエトがリヴァイアに微笑みかける。そんなエトの表情にリヴァイアは満面の笑みを浮かべ、エトの唇から流れる血をペロッと舐めとる。
〘本当に楽しかったゾ。ここまで追い込まれたのは初めてなのだ!〙
「そっ···か······」
そしてリヴァイアにもたれ掛かるようにぐったりと脱力するエト。そんなエトの頬に感謝の印-と口付けをすると、リヴァイアは左手に握った心臓を握り潰した。
-グチャッ······。
〘っと。危なかったのだ。本当にギリギリだったゾ。もう魔力もほとんど残ってないのだ!〙
「おっ、そりゃあ粘って隙を見せてよかったよ」
〘ッッッ!!!?〙
リヴァイアの手を引き抜かれた瞬間、『超即再生』が自動的に発動したエトは何事も無かったかのようにゆっくりと立ち上がって見せた。そんなエトにリヴァイアは唖然と口を開いている。どうやら塞がらないようだ。
「完璧な俺の演技に驚いたか?」
まるでさっきのお返しとばかりにリヴァイアに微笑みかけるエト。その笑顔を見た瞬間、リヴァイアの戦意は消失した。同時にリヴァイアの戦いたいという欲求も満たされたようだ。
〘最後の切り札···というやつなのだ! すっかり騙されたのだ!〙
「まぁね!」
いや、実際マジで危なかった······。
というのも、エトの『超即再生』は失われた部位を超即で再生させるユニークスキルだ。その為、先程のように心臓を握られた状態が続けば、心臓が停止し死ぬ可能性があったわけである。
一方、ようやく終結した二人の戦いを目の当たりにしたアヤとアリア。二人とは次元の違う戦いに、彼女達はただただ見蕩れるしかなかった。まるで絵本を読んでいるように、違う物語を見ているかのように-。
しかし、そんな高次元の戦いの中でも学び取れる事は確かにあった。相手の隙を作るリヴァイアの戦法、あえて大きく見せて相手の思考を逸らせる術、そしてエトの『超即再生』に頼らない戦い方。アヤとアリアは彼女達なりに今回の戦いで何かを感じ取ったようだ······。
戦いを終え、五人は修行場の洞窟に戻って来た。終始俺にベッタリのリーアにアヤが不機嫌気味になっていたのは言わずもがな。
「さてと。それじゃあ修行を······ってリーア、どうしたの? モゾモゾして」
仕切り直そうとする俺の隣で、モジモジと両手の人差し指を胸の前でこねくり回すリーア。いや、可愛いのだが、そうモジモジされていると流石に気になってしまう。
〘エト? 私と〝契約〟するのだ。お願いなのだ!〙
「〘 「「えぇっ!!!!?」」〙」
アヤ、ベルゼ、アリア、そして俺の声が綺麗に重なり合う。一番大きな声をあげたのはベルゼだった。
〘リ、リヴァイア様! そ、それはならぬのじゃ!〙
〘黙るのだ!〙
〘ふぐっ······!?〙
どこから取り出したのか、朝食の時に出されたパンをベルゼの口にねじ込むリーア。案の定、ベルゼは真っ青になってしまっている。
「ま、待って? 俺はもう〝ベルゼと契約をしてる〟んだ。複数の契約なんて魂が足りないっ······て」
·········あっ。ベルゼ······ごめん。
そう言った後、俺は心の中でベルゼに謝った。これはリーアに言ってはいけなかった事だったらしい。目を点にしたリーアは無意識にベルゼの腹部を手刀で穿いていた。
〘フゴァオオオオッ!?〙
いや、ホントマジでごめんなさい。
腹部を穿かれたベルゼはその場で朽ち果ててしまった。そんなベルゼにアヤは同情しながら俺の上級回復薬を投与する。
〘ずるい! ずるいゾ! どうして私を差し置いてベルゼリアがエトと契約しているのだ!〙
「いや、そうは言われてもね?」
〘父上に言って強制解約してもらうのだ!〙
「え、えぇー······」
ダメだ。全く言うことを聞いてくれそうにない。というか、魔王の血族であるリーアが契約するのはダメなんじゃ······。なんて思っていたのも束の間、リーアは俺に許可なく父親であるルキフェルに念話を飛ばしていた。
〘よし! 許可がおりたのだ!〙
「はぁ!?」
んな馬鹿な! 一体どこまで娘に甘いんだよあの親父!
どうやら、本当に許可がおりてしまったらしい。もうこれは諦めるしかないのだろうか······。なんて思いながらリーアに視線を向けると、輝くほどのキラッキラの瞳で俺を見つめていた。いや、だから可愛いのは分かったから。
〘よし! 父上の元に行くぞ!〙
「待て待て待て。契約は後でね。先に修行見てやる約束だから」
〘むぅ···。仕方ないのだ。我慢するのだ!〙
「うん。ありがと」
〘にっしし〜! これ好きなのだ!〙
俺がリーアの頭を撫でると、嬉しそうにその場で足踏みをするリーア。今更だが、頭を撫でる行為は昔、妹によくやっていたので癖づいてしまっているようだ。
「ベルゼ、大丈夫?」
〘うむ···。なんとかの。······強制解約か〙
「えっと······。なんかごめんね?」
〘いや、いいのじゃ。確かにエト程の者にはリヴァイア様のような強者がお似合いじゃしの···〙
だったらそんなに落ち込まないでくれ。めちゃくちゃ罪悪感を感じてしまうじゃないか······。
「ま、まぁ。とにかく···ね?」
「そうですわね。修行をお願い致しますわ!」
俺とベルゼの表情を窺いながら俺の代わりに話を切り出すアヤとアリア。俺はそれに頷き、ベルゼを連れて洞窟の中に入っていった。
〘私はどうしたらいいのだ?〙
一人取り残されたリーアは数分考え込み、自分はどうするべきかを考えていた。空気を読んだのだろうか、それは分からないが、今更気を使う必要なんてない。俺はリーアも一緒に来るように言うことにした。
「ほら、リーアも行くよ?」
すると、案の定リーアはニパァ〜っと表情を明るくしてひょこひょこと俺の後を着いてきた。ほんと、こういう所は可愛いんだけどね···。




