心に潜む闇、天与の質
-待ってください!
私の言葉は届くこと無く空気に消えていった。悔しい、情けない。覚悟は決めた筈だった。決意だって嘘じゃない。私に何が足りないのか···。魔法に頼っていたつもりなんてない。加護の付与スキルも意識していなかった。単純に実力が足りないからベルゼリア様に叩きのめされたのだと思っていた。
「······わかんないよ」
誰にも聞こえない程の声で呟く。私が私であり続ける為に強くなりたい筈だったのに上手く体が動かない。エト君が渡してくれたギア・アンクルの影響······なんてのはただの言い訳だ。
「エト君······」
「ん?」
「きゃアッ!!?」
突然隣に現れた彼に私は悲鳴とも取れる大声をあげてしまった。いや、突然ではないのかもしれない。私が気づかなかったのだ。それ程に今の私は集中力を切らしているらしい。
隣に立つ彼はいつもの穏やかな表情で準備運動をしている。その光景に、何故? -とも思ったが、それ以上に彼が目の前に現れた事で不思議と私の心は落ち着きを取り戻していく。
「アヤ。······やめてもいいよ」
「っ!」
しかし、私の思いとは裏腹に飛び出したその言葉は、予想もしていなかったものだった。いや、想像したくなかったのだ。
エト君にまで私は見限られてしまった···?
ダメだ。まるで負の連鎖だ。悪い方向にばかり気持ちが向かってしまう。嫌な事ばかり考えてしまう。と、そんな時、彼は膨大な量の魔力を解き放った。その瞬間、私の意識は一気に刈り取られていく。
「っぐ······」
「キツい?」
彼の言葉に私はゆっくりと頷く。当然だ。彼の魔力圧は異質で規格外なのだ。今も吐き気が私を襲っている。そんな私に視線を移した彼は放っていた魔力を一瞬でしまい込んだ。
「アヤ···俺と〝戦おっか〟」
「え? 師匠······と? でも戦うのは一週間後だって···」
「っしょ。いやぁ、そう思ってたんだけどね。今のままだとアヤ、アリアに〝追い抜かされる〟よ?」
「-ッ!?」
追い抜かされる······? 私が···あの子に?
何がどうなればそうなる。私はエト君の加護を得て少しは強くなった。魔法だって進化した。魔力だって増加した。ただの学生に負けるわけが無い。
······エト君が教えてるから?
不意にそんな事を思ってしまう。なんなんだろう···この嫌な感じ。まるで心が黒く塗り潰されていくようだ。
「嫌······です···」
「······そっか。〝嫌〟···か」
口から漏れ出した言葉は私の声じゃないみたいだった。まともに目の前の大切な人を目視出来ない。俯く私を他所に彼はゆっくりと伸びをしながら距離を取った。どうやら本当に戦うらしい。なら、少しでも認めて貰えるように相対するだけだ。
私は真っ直ぐ彼を見つめた。刹那-
「ッッ!!?」
突然、私の体は震え出した。吐き気だってさっきの比じゃない。震える体が全く言うことを聞こうとしない。私は目の前に立つ圧倒的な殺気を放つ彼に呑まれてしまったのだ。
「行くよ······」
「ッ!!? 消え-ぐはっ···!!」
彼の放った言葉を理解し終えた瞬間、彼は消えた。そして私は壁に叩きつけられた。加護のおかげで痛みはないものの、腹部に伝わる感覚、余程強力な一撃を喰らったらしい。体の中身が全部出てきそうだった。
「ッ!?」
-ドォンッ!
状況を必死に理解しようとしていた私の目の前に現れた拳。まるで見えない攻撃に恐怖しながらも、どうにか避ける事が出来た。しかし、顔を上げると殺気を纏った瞳のエト君が私を睨みつけていた。
·········怖いよ······エト君。
多分これが彼の〝本気〟だ。今までにも彼は本気だと言って殺気を見せてくれたり、戦ってくれた。しかし、ここまで存在そのものに恐怖した事なんてなかった。
たまらず私は堪えきれなくなった涙を溢れさせてしまった。しかし、彼はそんな私を見ても一切表情を崩さなかった。
「ほら。逃げないと〝死ぬよ〟···アヤ」
-バチバチバチッ!
気付くと彼は右腕に雷撃を纏っていた。『纏雷』だ。そしてこの構えは『怒槌』。彼は本気で私を穿こうとしているのだ。
······無理だよこんなの。
しかし、私の体は全く動こうとはしなかった。恐怖故か、どこかで諦めてしまったからか···それは分からなかった。···そして、私はギュッと唇を噛み締め、瞳を伏せた。
「······あ···れ?」
しかし、いつまで経っても攻撃は来なかった。恐る恐る瞳を開くと、目の前にいたエト君は私から離れた位置に移動していた。
「アヤ、こっちにおいで」
すると、彼はいつもの優しい声で私に声をかけた。今の彼は怖くない。完全に殺気を消してくれたらしい。その優しさが今の私には逆に辛かった。
ゆっくりとエト君に歩み寄ると、彼は私の頭に手を添えた。その手から伝わる温かさに泣き出しそうになる。
「ちょっと話をしよっか」
「······え? ······は、はい」
不意にそう言うと、彼は『異空間固定』-と言い放ち、いつかの歪みを作り出した。なんだか久しぶりに見た気がする。これは初めての修行をした異空間部屋だ。
「さっ。入って」
「······はい」
彼に言われるがまま、彼と共に異空間部屋に入る。すると、空間に散らばった無数の光が夜空に煌めく星のように私を迎え入れた。ここは本当に綺麗な場所だ。
「アヤ、ベルゼは強かった?」
「···はい。強かったです」
「あー、今は敬語はいいよ。師匠としては一旦休憩」
「あ·········うん」
「そっか。強かったか···。アヤ、さっき言ったよね。今のままならアリアに追い越されるって」
エト君の言葉に私は無言で頷いた。
「アヤはアリアよりも遥かに強い。それは間違いないよ。俺の加護でアヤは常人を超えた力を手に入れたからね」
「······うん」
そうだ。私はエト君のおかげで強くなったんだ。だから-
「だからアリアになんて負けるはずが無い?」
「えっ······」
私を見つめながら彼はそう言った。それは私が心の中で呟こうとした言葉だった。まるで心の中を見られたようで背筋が凍りつく。
「何も不思議な事なんかじゃないよ。誰でも想像出来る事さ」
「······」
「アヤ、いつからアヤは〝他人と自分を比べるようになった〟の?」
「っ!!?」
彼が言った言葉。それを聞いた瞬間、私の心にまとわりついていた黒い何かが反応を示した。そして同時に初めてこの異空間部屋で修行した時の事を思い出した。ただ純粋に強さを求め、彼と交わした組み手。それは確かにキツかったが、今のように体が言うことを聞かない-なんてことは無かった。
むしろ、どんどんと彼の動きに慣れていく事が楽しくて嬉しかった。
しかし、いつしか私は彼に追いつく為に、彼の傍にいつまでもいる為に強くなろうとしていた。多分、それは間違ってはいない···と思う。ただ、アリアという少女が現れた事で私は心のどこかで彼女に嫉妬していた。
私よりも才能があり、多くの戦いを経験して来た彼女はきっとエト君の隣に立つ筈だ-そう思った。そんな時、私には彼女に無いものを見つけた。それはエト君から貰った加護······だった。
知らない間に私は自分とアリアという少女を天秤にかけ、彼女に無いものを示そうとしていたのだ。······最低だ。嫌な奴だ。勝手に比べて嫉妬して、空回りして結果このザマだ。
「アリアはアリアだし、アヤはアヤだよ。アリアに無いものを探したって、アヤに足りないものを探したって、それはきっと見つからない。見つかったとしても大した物じゃないんだ。ついこの前、それを知った奴が居たけどさ? そいつは俺と自分を比べて自分に足りないものを探してた。結果、どうなったと思う?」
私は黙ってエト君の言葉に耳を傾ける。これはきっと私にとってとても大切な事だ。だから彼は周りと隔離してまで、師匠としてでは無くエト・リエルとして私との時間を作ってくれたのだ。
「結局そいつは、自分に足りないものを見つけることをやめて、ありのままの自分を受け入れたんだって。な? くっだらないだろ? そんな事の為に必死に悩んで空回りしてたんだからさ」
確かにそうだ。他人の話···となると、こんなにも冷静に考える事が出来る。他人は他人、自分は自分。そんな事、昔から分かっていた筈なのに······。ベルゼリア様の言う通り、私は自惚れていたのかもしれない。確かにこんな事では、純粋に強さを求めるアリアに追い越されるのも無理は無い。
「なあ、アヤ? そいつが必死に頑張れば俺になれると思う?」
私はエト君の言葉にクスッと微笑んだ。
「くふっ。絶対無理っ」
「だろ?」
そうだ。私が誰かになるなんて出来ない。私に足りないものなんて幾らだってある。でも、それでも彼と共にいる為に強くなると決めたのだ。私が私であり続ける為に-なんて言ったくせに、既に私は自分自身を見失っていた。
と、そんな時、彼は不意に私の肩に手を乗せて額をピタッとくっ付けてきた。これは前にミーアにしていた行為だ。······なるほど。額を当て合うと、こんなにも心が落ち着き安心出来るものなんだ···。
「アヤ? 大丈夫。心配しなくてもアヤは強くなれる。何せアヤは俺が認めた奴なんだから。俺の傍にいてくれるんでしょ? なら、アヤはアヤなりに自分と向き合って成長していかなきゃ」
「······うん。ごめんね、ありがとう」
その瞬間、私の心を覆っていた黒いモノはスーッと消えていった。すると、不思議な事に動きづらく重かった体が軽くなった気がした。
「頑張れ」
「んっ···」
彼はそう言いながら、私の体を優しく抱き締めてくれた。こんなにも心が安らぎ、落ち着ける場所は他に無い。彼の為、そして私自身の為にもう一度頑張ろうと心に強く誓った。
「ベルゼリア様にもう一度修行をして貰えるように話してくるね!」
「うん。行ってらっしゃい」
彼の体からゆっくり離れた私は異空間部屋から出してもらい、すぐに外で待機しているであろうベルゼリア様を探しに向かった-。
「······ふう」
走り去るアヤを見つめながら安堵する。多少こじつけ感があったが、どうやらアヤは完全に息を吹き返してくれた。というか、こういう精神論的な感じのものは苦手だ······。
なんて思っていると、俺の横にベルゼが『瞬間移動』で現れた。
〘甘いのぉ。甘さを捨てると言っておったのに〙
「ん? なんの話だ?」
〘妾が気づかんとでも思ったか? 異空間まで出しおって〙
「······え? なんで異空間魔法を俺が使えるって知ってるの?」
俺がそう問いかけると、ベルゼは自分の瞳を指さした。
「あぁ、そういえば『邪眼』持ってたんだっけ」
それに『断魔の指輪』もつけ忘れてるし。
〘······顔つきが変わったの〙
「うん。きっともう大丈夫だ。だからベルゼも手を抜くのはやめようね?」
〘むっ······バレておったか〙
ったく。どっちが甘いんだよ。
「というか、こんなとこ居たらアヤが困るだろ? さっさと外に行きやがれ」
〘あー、分かった分かった〙
嫌々ながらもどこか嬉しそうなベルゼ。彼女も彼女なりにアヤを心配していたようだ。
「さてと。アリアのとこに戻るか」
俺は大きく伸びをすると、課題を出して放置していたアリアの元に戻ることにした。
「アリア、調子はどう······だぁ!?」
「あ、おかえりなさい。お師匠様!」
アリアの元に戻ると、そこには大きな岩を浮かび上がらせるアリアが居た。俺の課した課題、それは周囲の気を利用して物体を刺激する···というものだ。その為に小さな石を渡した筈だったのだが······。
彼女は、刺激はおろか、自分よりも大きな岩を気を利用して持ち上げていたのだ。俺は想像を絶する光景に言葉を失ってしまった。そんな俺を不思議そうに見つめるアリア。こちらに視線を向けても岩は浮かび続けている。
つまり、意識を他に向けながらも気を操れるようになったと言うことだ。
いやいやいや。流石に無理だろ。
俺が課題を出してからまだ数十分だ。アリアは驚異的な速さで【気法】を身につけつつある。俺は驚き反面、アリアの潜在能力に興味が湧いた。一体彼女はどこまで身につけることが出来るのだろうか······。
修行を始める前まで、俺はアリアに反応速度と危機感知能力を鍛えようとしていた。その両方を飛躍的にアップさせる為に【気法】をアリアに教えたのだが、こんな結果になるとは夢にも思わなかった。
「···アリア、凄いじゃん。割と本気で驚いたよ」
「えへへ。ありがとうございますですわ!」
「よし。なら次は目を瞑らずに『気伝』で周囲の気を目視出来るようになるのが目標だね」
「はいですの!」
いい返事を返したアリアは、慣れたように目を瞑り自然と一体になり溶け込む。自然と一体になる速さもめちゃくちゃ速くなっている。究極的にはこれを目を開けた状態で、感知速度が瞬き程に速くなれば完璧だ。そして呼吸をするように自然に無意識に感じ取れるようになれば······。【気法】に限り、俺と同じ場所に至る事になる。
いやぁ···マジで楽しみだな。
【気法】には感知と防御と攻撃の術が備わっている。完璧に身につければ魔法師よりも強くなれる。ただ、弱点も勿論存在する。それは閉鎖空間では使えないという点だ。
自然の気を扱う為、自然のない場所-つまり、魔法によって作られた空間や鉄や金属などの人工物で出来た場所ではその力は半減してしまう。
ちなみにだが、俺はまだ【気法】をマスターした訳では無い。というのも、魔力コントロールが得意ではない。それでも『魔力操作』で何とかなる訳だが、もしかするとアリアは、俺以上の気法師になるかもしれない。
「まぁ、魔力値による優劣があるから勝つのは無理だろうけど」
なんて言いながら、小石をアリアに弾き飛ばす。すると、アリアは目を瞑りながら当たり前のようにそれを素早く避けてみせる。
「······うん。お見事」
その後もアリアとアヤの修行は続いていった。
そして···。
昼時になったので、俺はベルゼに念話を飛ばし、休憩にしようと持ちかけた。
「アリア、休憩にしよっか」
「はいですの。御教授ありがとうございました」
「いえいえ」
あれから二時間、目を開けた状態での『気伝』は、まだまだぎこち無いが、『気伝』を使い、アリアを見ると彼女の周囲に高密度の気が集まっている。多分無意識下で気の収束をしているのだろう。
本当に凄い。数分前にこれを見た時は鳥肌が立った。将来的に【気法】はアリアに託そうとすら思ってしまう。
「アリア、体調はどう? 脱力感とか吐き気とか無い?」
「いえ、ですが流石に少し疲労感がありますわ」
まぁそりゃあそんだけ気を纏っていればね。
「今アリアは無意識に気を扱えるようになりつつある。だから自分の中で、オンオフの切り替えをしないと消耗し続けちゃうからね? そこは気をつけて」
「なるほど。わかりましたわ」
なんて話していると、ベルゼとアヤが隣の部屋から姿を現した。修行中、ベルゼの念話でアヤの状況は把握している。アヤはちゃんと自分を見つめ直し、新たな一歩を踏み出せた。その結果、ベルゼにまさかの一太刀を浴びせたらしい。
全く。アヤもアリアも怖いくらいに成長するものだ。
「エト君〜!」
-むぎゅッ。
俺を見つけるなり、勢いよく走り寄り俺に飛びつくアヤ。そんなアヤを微笑ましくアリアは見つめている。
「うっ···。お、お疲れ様」
「休憩中だからいいよね? ね?」
「そ、そうだね。でも、苦しいから離してくれない?」
「はーい!」
なんだよ! めちゃくちゃ元気じゃんか!
「···ふぅ。さっ、お昼はベルゼの仲間が用意して待っててくれてるから、頂いて昼からも頑張るよ?」
「「おー!」」
〘うむ。いつの間に······。妾は聞いておらんぞ?〙
なんだか不機嫌なベルゼは放っておいて、俺達は外で待っていたララ達と合流して昼食にした。
数時間後······。
初日の修行を終えた二人はぐったりと洞窟を出た所で倒れ込んでいた。
「もう無理ぃ〜」
「はぁ···はぁ······疲れ···ましたわ」
うつ伏せで全く動こうとしない二人。というか、きっと動けないのだろう。二人は昨日、ベルゼの家に世話になったらしい。なので今後も二人の事はベルゼに任せることにしようと考えた。
「ベルゼ、二人を頼んだよ」
〘うむ。了解した。エトはどうするのじゃ?〙
「俺は今からちょっとだけ鍛練をしていくよ」
〘そうか。あまり壊してくれるなよ? 怒られるの妾なんじゃから〙
失礼な。どうして壊す前提になってんだよ。
「気をつけるよ。んじゃあね。まだ明日」
〘うむ! ほれ、お主ら行くぞ。さっさと立たんか!〙
「エト君〜」
「エト様······おやすみなさ······」
いや、もう寝てるし。
辺りはすっかり暗くなっている。遅くまでよく頑張ったものだ。ベルゼ達を見送った俺は、早速洞窟の中に戻ろうとした。
···すると-
〘小僧!〙
突然、俺は呼び止められた。いや、正確には呼び止められたと思った。聞き覚えのある声、そして小僧-という呼び方、声のする方へ振り返るとそこには魔王ルキフェルが大剣を背負い立っていた。
何故に剣?
なんて思ったが、それよりも最初に会った時よりも切羽詰まった様子のルキフェルを不審に思い、彼に歩み寄った。
「どうしました?」
〘少々、厄介な事になってな。悪いが手を貸してくれないか?〙
えっ···。厄介な事······ですか? 嫌な予感しかしないんだけど······。
「ルキフェルさんが俺の手を?」
〘ああ、小僧の実力を見込んで頼みがあるんだ〙
「······聞きましょう」
ルキフェルの真剣な表情に俺は否定的な思いを捨てた。多分、余程の事があったのだろう。魔界には世話になっている。ならその恩はなるべく返したい。俺はルキフェルに事情を聞くことにした。
「それで? どうしたんですか?」
俺達は瞬歩で高速移動しながら話を進める。というのも、ゆっくり説明している時間も無いらしい。
〘人界の者に俺の娘が召喚された。木っ端悪魔が召喚される分にはなんの問題もないんだが〙
いやいやいや! 魔王の娘を召喚出来る奴って、とんだバケモンだよ!?
「ちょ、ちょっと待って。魔王の娘って、召喚に応えるの!?」
〘んー。問題はそこなんだ。基本的に悪魔と精霊の召喚の際、その種族の王族は応えはしない。世界の均衡が崩れる可能性があるからだ〙
そうだ。魔王の言う通り、魔界を統べる魔王やその血族、そして精霊界を統べる精霊王やその血族は召喚師の契約対象から除外される。それはルキフェルの言うように魔界と精霊界と人界の均衡が崩れるからだ。
「なら、どうして?」
〘言ったろう。問題はそこなんだ。俺の娘、リヴァイアは少々ひねくれ者でな? 多分だが、自らの意志で強引に召喚に応えたらしい〙
·········はい!? なんだよ、その超問題児は!
「嘘だろ···」
〘ちなみにアイツは俺よりも〝強い〟んだ〙
「待って。つまりはその娘さんの好奇心で召喚に応えちゃったってこと!?」
〘······面目無い〙
おいおい。シャレにならないぞ。どういう教育してんだよ!
とどのつまり、もの凄く大変な事態···ということだ。俺とルキフェルはルキフェルの家である魔界宮に辿り着いた。ルキフェル曰く、ここには人界に転送される魔法陣が備え付けられているらしい。勿論、ルキフェルの許可無く起動したりはしない。
〘身内事に巻き込んですまない〙
「はぁ···。いや、もうこれは身内事ですまないでしょ。事情が事情ですし協力しますけど、場合によっては娘さんを手に掛ける事になるかもですよ?」
〘いやいや、流石にそれは無理だろう。奴は幼い頃に魔界門番とやり合う程の奴だぞ?〙
······マジで?
「ま、まぁ頑張りましょう」
〘ああ。奴の能力で一番厄介なのは膨大過ぎる魔力と、広範囲スキル『終焉の業火』。触れれば最後、対象が燃え尽きるまで消えない生きた黒炎だ〙
なるほど。近づくのも容易じゃない···と。とんだ災厄じゃないか!
ともあれ、悠長に話している時間は無いので、俺とルキフェルはすぐに魔法陣の中心に立ち、人界へと向かった-。




