魔界旅行
「な······なんなのよ···一体」
目の前で起こる出来事全てが夢のように感じているようで、アヤはただただその光景に唖然と眺めている。それは、アリアも同様だ。恐怖からか、俺の肩を支えている手が小刻みに震えている。
〘小僧······。ありゃあなんなんだ···?〙
〘あんな化け物、妾とて見た事がないぞ···〙
ルキフェルとベルゼが驚愕している存在。それはリンさんが召喚した〝巨人の王〟達だ。彼の持つ至高の力【巨王遊戯】によって呼び出された彼らは、最大全長約80メートル。更には十体全員が『物理耐性』と『魔法耐性』を持っているという、まさに化け物軍団だ。加えて彼らは体の大きさを自在に変化させられる。
「キュオネウス、エト坊に魔力を分けてやれ!」
〘お任せを〙
一人の巨人王の女性が人間サイズにまで小さくなり、俺の元に駆け寄って来た。昔聞いた話によると、彼らは一人一人が特殊な能力を持っているらしい。
〘お久しぶりです。強き者よ。及ばずながら御力添えをさせて頂きます〙
「うん。ごめんね」
〘滅相もない〙
そういうと、彼女は俺の胸に手を当てた。その瞬間、俺の魔力が一瞬で半分程回復した。彼女の能力は他者に魔力を譲渡出来る能力のようだ。俺は一気に体が軽くなったので、勢いよくその場で立ち上がってみせる。
「キュオさん、ありがと」
そう言いながらキュオネウスを抱き締めようとすると、それを丁重にお断りされてしまった。うん、ちょっと残念。
〘強き者よ。我には主という心に決めた方がおりますので〙
「ごめんごめん、そうだったね」
「おいおい。元気になったんなら、やり合おうぜエト坊! あれじゃあ〝相手にならん〟!」
「·········え?」
リンさんは呆れた様子でトボトボと不服そうに俺に歩み寄って来た。俺はリンさんの背後に視線を向けると、そこには腹部を巨大な剣で穿かれた魔界門番が力尽きて横たわっていた。
その光景を見た瞬間、その場の全員が言葉を失った。流石の俺もこんなにあっさり倒されるとは思っていなかったので驚いてしまった。
「ったく。期待外れにも程があるぜ。おいエト坊! お前、手加減してたんじゃねーだろうな?」
「いや、それは無いってば」
「そうか? んー。ならやっぱり場所が悪かったんだな。〝空があって自然がある場所〟ならお前も余裕だったろうからな!」
そう言いながら、楽しそうに笑っている。······おかしいな。俺的には勝つとか勝てないとか、そういう存在じゃないと思ったんだが······。
「とにかく助かったよ。ありがと、リンさん!」
「気にすんな気にすんな! んじゃあ、やり合ってくれねえってんなら俺は帰るぞ!」
「うん!」
そういうと、リンさんは俺以外には目もくれずに振り向き両手を強く叩きつけた。パンッ-と手同士が叩きつけられた音が鳴った瞬間、その場に居た十体の巨人王達は一瞬で姿を消した。
「〝『異界門』〟。エト坊、またな!」
あっという間だったが、リンさんは『異界門』でどこかに行ってしまった。それを確認した俺達は魔界門番が目覚めない内に魔界に入り、門を閉めた。
---魔界、それは人界とは異なる法で統率され、管理されているもう一つの世界。イメージとは違い、緑豊かな自然が俺達を出迎える。そんな中、俺は怒涛の質問責めにあっていた。
なんで、あんな馬鹿な真似をしたのか-だの、さっきの力はなんだ-だの、あの人は誰だ-だの······。聞きたくなるのは分かるが、もう少し落ち着いて欲しい。俺はみんなの問いに一つずつ答え、今はリンさんについて説明をしている所だった。
「······で、前の旅の時に出会った人がさっきのリンさん。さっきアヤが言ったようにあの人も『異界門』を使えるんだけど、元々はあの人の魔法なんだ。俺はあの人に認めてもらってあの人の加護を得た事で、同じ魔法が使えるようになったってわけ」
「なるほどね···」
〘あんな化け物軍団を率いる人間がおるとはのぉ。あんな規格外人間はエトだけじゃと思っておったが······。にしても、相変わらずお主は無茶をするものじゃ〙
「なんだかもうお腹いっぱいですわ······」
〘一体なんなんだ。小僧もあの人間も······。魔界門番は存在自体が真理のようなものなのに〙
確かに。ルキフェルの言う通り、魔界門番をあっという間に叩きのめした事には俺も驚いた。まぁ、とはいえようやく魔界に入る事が出来たわけである。
「まぁまぁ。それより、魔界の空気はどう?」
魔界は当然、人間が普通に暮らすには過酷な環境なのだが、アヤとアリアはそれどころでは無いようで、平然としている。俺の予想よりも彼女達の気力は先程の件で一気に鍛えられたらしい。
「少し息苦しいくらいだよ?」
「そうですわね。思ってたよりも平気ですわ?」
「そっか。なら、修行は明日からにして今日は魔界を自由に見て回ることにしよっか?」
俺の提案に二人は笑顔で頷いてくれた。が、そんな中、魔王ルキフェルは俺を呼び止めた。どうやらまだ話があるようで、俺は二人をベルゼに任せてルキフェルについて行くことにした。
〘ほれ。二人はこっちじゃ!〙
「「はい!」」
三人を見送り、ルキフェルに連れられたのは周辺に何も無い開けた平野だった。一体こんな所で何を話そうと言うのだろうか。
〘小僧、この度は下位悪魔達を助けてくれて感謝する〙
「···あ、その事。いいですよ全然。俺も気に入らなかったし」
ルキフェルの話は、どうやら悪魔召喚の件だったらしい。というか、王がそんなにペコペコするものでは無い。俺はルキフェルに頭を上げさせ謝礼は必要ないと声をかけた。
〘しかしだな······。古くから人間と悪魔との関係は歪なものなんだ。ほんの小さな事で多くの犠牲が出る事もある。今回、小僧が収めてくれなかったら······。俺は人界に〝全軍を率いて出向いた〟だろう。今回の件はそれ程の事だったんだ〙
ルキフェルは表情を曇らせている。確かに今回の件、悪いのは完全に生徒達だ。あの後、元凶の生徒達がどうなったか-なんて知らないし興味も無いが、自分達の行いがどれだけ重大な事だったかなんて考えちゃいないだろう。
「まぁ······そうですね」
〘あー、それとな。小僧に会いたいって奴らがいるんだ〙
「え?」
ルキフェルは、不思議そうに見つめる俺を他所に魔法陣を展開させた。すると、目の前の魔法陣から姿を現したのは、悪魔召喚の件の被害者であるララとリリとルルだった。彼女達は俺を見るなり、満面の笑みで両腕と腹部に飛び込んで来た。
〘エト様! お会いしとうございました!〙
〘会いたかったです〜!〙
〘こんなにも早く会えるなんて······〙
むむっ。······ほほぉ。これは中々······。
腕に伝わる感触、腹部から香る甘い匂い。次々と押し寄せる幸せに浸っていると、ルキフェルが彼女達を呼び止めた。
〘貴様ら······。恩人に会えて嬉しくなるのは分かるが、もう少し自重せんか。みっともない〙
ルキフェルは不機嫌そうに睨みつける。その強大な圧に当てられ正気を取り戻した三人は、すぐさま俺から離れてルキフェルの前に膝まづいた。
〘〘〘申し訳ございません! 魔王様!〙〙〙
流石は魔界の王だ。圧が半端じゃない。空間が歪み、空気が軋んでいるのが感じ取れる。
「ま、まぁまぁ。俺は気にしてませんから」
むしろ、もう少し味わっていたかったです。
〘そうか? 小僧がそういうなら、まぁいいが。さて···と。俺は少し席を外すが構わんな?〙
「いいですよ」
どうやら魔王様は忙しいらしい。何かを思い出したかのようにその場を立ち去ろうとしている。俺はそんなルキフェルに軽く頭を下げると、ルキフェルは俺に向けて手を払うような仕草を見せた。頭なんて下げなくてもいい-という事なのだろう。やっぱり流石だ。器がデカい。
ルキフェルがその場を立ち去った後、俺はララとリリとルルに連れられ、様々な花が咲き誇る小さな丘に来ていた。色とりどりの花達が嬉しそうに揺らいでいる。風に運ばれる香りは癒しの効果があるのか-と思うくらいに心が安らぐ。
そんなスピリチュアルな雰囲気が漂う丘に腰掛けると、三人も俺を囲むように腰掛けた。
〘エト様、その節は本当にありがとうございました〙
一瞬の静寂の後、灰色の髪をした真面目そうな女性が正座のまま頭を下げてきた。軽い自己紹介によると、どうやらこの子がララで、隣の少し子供っぽい子がリリ、そして男っぽい風貌の彼女がルルのようだ。
「うん。どういたしまして」
ルキフェルの時もそうだったが、ここで俺が「お礼なんていいよ」-と言ったところで彼女達の気持ちは晴れないだろう。それなら、ここは素直にお礼を受け取った方が、彼女達も安心出来る筈だ。案の定、彼女達は俺の言葉を聞いた途端、嬉しそうにお互い見つめ合って微笑み合っている。
〘何かお礼をさせて頂けませんか?〙
〘私達に出来ることなら、なんだってさせて貰います!〙
グイッ-と擦り寄る彼女達を受け止めながら思考を巡らせる。彼女達のためにも、何らかの要求をした方が良いのかもしれないが、今のところ特にして欲しい事もない。夜の御奉仕······なんて馬鹿な事も言えないので、俺は考えておく-とだけ言っておくことにした。
「それじゃあ考えておくね。そう言えば〝ワイズマン〟の爺さんって今どこに居るのかな?」
〘ワ、ワイズマン様ですか!?〙
〘エト様は〝導師様〟とお知り合いなのですか?〙
「まぁね。知ってるなら案内して欲しいんだけど」
〘ワイズマン様なら、確か深淵の塔におられると思いますけど〙
深淵の塔。それは、魔界の中心にそびえ立つ巨大な塔だ。ここからでも見る事が出来る。ちなみにワイズマンは何百年も生きている爺さんだ。もしかしたら千年以上生きているのかもしれない。何せあの爺さんは、魔界と人界を繋ぐ術、導術を生み出した魔界一の発明家だ。ルキフェルよりも古参かもしれない。
「深淵の塔···か。っしょっと」
彼女達から爺さんの情報を得た俺はその場から立ち上がってみせる。そして、彼女達に深淵の塔へ向かう事を告げた。
〘し、しかしエト様。深淵の塔は不可侵領域です。魔王様の許可無く入ると強力な〝亜獣〟が襲って来ます〙
〘向かわれるのであれば、もう一度魔王様にお会いされた方が宜しいかと〙
え? なに、亜獣って······。そんなのいたっけ?
「亜獣って何?」
〘導師様がお造りになられた生体兵器です〙
おいおい。生体兵器ってなんだ。あの爺さん、なんてもんを造っちゃってるの!?
ともあれ、彼女達曰く、深淵の塔への安易な侵入はやめておいたほうがいいらしい。まぁ、生体兵器なんかに負けるつもりは無いが、数がとてつもなく多い-との事。全く、面倒この上ない。しかし、それならば俺が行くまでもなく、向こうから〝来てもらう〟ことにしよう。
「んじゃあ······」
俺はゆっくりと準備運動を始めた。そして、魔界に入る時に付け直した『封魔の指輪』を取り外した。その瞬間、俺から漏れ出した膨大な魔力に当てられて、ララ達は顔を蕩けさせながら腰を抜かしてしまった。
「あっ······」
そう言えば、悪魔にとって魔力=魅力なんだっけ。
〘あぁ······エト様···〙
〘素敵ですぅ〙
〘なんて素晴らしい魔力でしょう······〙
「あー、ごめんね?」
〘いえ、こんな魔力······その、初めてだったので〙
ララの言葉にリリもルルも同じく-と言わんばかりに首を勢いよく縦に振っている。まぁ喜んでいるのならいいんだが、なんだか少し恥ずかしい気分になってくる。
とはいえ、俺が魔力を全開にした理由は爺さんを誘き寄せる為なのだ。ワイズマンという男は、『魔力感知』に長けている。その感知範囲は魔界全域にも及ぶ······だったはず。そして彼はめちゃくちゃ好奇心旺盛である。つまり、この膨大な魔力に反応して俺の前に姿を現すに違いない-という訳だ。
すると、案の定-
「ふん。やはり童じゃったか」
俺の目の前に突然現れた尊老。身長は俺と同じくらいで、左右の瞳の色が違う。いわゆるオッドアイというやつだ。右目が白く、左目が赤い。まぁなんてことは無い。右目が義眼というだけの話だ。
〘ワ、ワイズマン様!?〙
突然現れたワイズマンに驚愕する三人は、素早くその場にひれ伏せた。彼女達からすれば、魔界最古参の一人であるワイズマンは魔王と等しく尊厳のある存在なのだろう。
「小娘共。今すぐここから立ち去れッ!」
その言葉の瞬間、三人の足元に見たことの無い魔法陣が一瞬で展開された。その尋常ではない魔力の波動を感じ取った俺は、一瞬で三人を抱えて魔法陣から離れさせた。
刹那-
ゴオォォッ-と炎の柱が爆発的な威力で天高く迸る。三人は一瞬の出来事に呆然としている。そんな三人を落ち着かせながら俺はワイズマンを殺気混じりに睨みつけた。
「ホッホッホッ。やるようになったもんじゃのぉ? 童よ。その殺気も見事じゃ。じゃがまだまだぬるいのぉ」
余裕の表情で不敵に微笑むワイズマン。そんな爺さんの表情と彼女達への強襲に苛立った俺は、挑発だと分かっていながらも殺気と魔力圧を段階的に引き上げていった。
「爺さん、ちょっとやんちゃが過ぎるんじゃないの?」
「ッ! ······ほぉ。これ程とはのお。流石の儂も驚いた···というもんじ-ゃッ!?」
「どうしたの? さっきより表情が険しくなった気がするけど···?」
先程、魔力は全開放した。しかし、それは隠していた魔力を解き放っただけに過ぎない。魔力圧というのは魔力を表に出す事で生まれる。当然、魔力を消耗してしまうが、【800,000】分の魔力圧なんて、この爺さんでも経験がないだろう。
まぁ、ここに来る前に暴走気味にやっちゃったけどね。
「······童。貴様、これ程の魔力圧を放っておるのにその余裕はなんじゃ!?」
完全に余裕が無くなっている。ワイズマンの額に冷や汗を見た瞬間、俺はワイズマンに不敵に微笑みかけた。
「これ程······ねえ。まだ〝三分の一〟くらいなんだけど」
「ッ!? ばっ···馬鹿な。戯言を抜かすな! 二年やそこらでそれ程の急激な魔力上昇なんぞ有り得ぬわ!」
そう言えば、この爺さんと会ってからもう二年も経つんだっけ。相変わらず生意気な爺さんだこと。それなら〝本気を出して〟ちょっとは改心してもらうことにしようかな。
俺は全魔力を使って魔力圧を放つ事にした。
「いつまでもガキだと思ってんじゃねえぞ! オラァアアアッ!」
その瞬間、ワイズマンの意識はプツンと糸が切れたように刈り取られた。ワイズマンにだけ向けていた魔力圧だったが、その余波で前方一面が扇状に地面も草も木々も何もかもが腐敗してしまった。
「-っふぅ···。はぁ···はぁ······。花は無事···だよな。よかった」
ギリギリの所で抑えた為、余計な被害は出なかった。しかし、背後のララ達はこの世のものとは思えない光景を目の当たりにしたと言わんばかりに言葉を失ってしまっている。
〘う···そ·········〙
〘な······何? 今の·········〙
〘こ、こんなのって······〙
あちゃー···。これは流石にやり過ぎだったか。
俺はピクリともしないワイズマンそっちのけでララ達を落ち着かせる事にした。と、彼女達を落ち着かせ終えると同時に、ようやく爺さんは目を覚ましてバサッ-と上体を起き上がらせた。
「ハァ······。してやられたわい。すまんの、童」
「相変わらずだよね爺さんは。俺もちょっとやり過ぎちゃってごめんね」
「にしてもバケモノか貴様は。儂もそれなりに人外の者を見てきたつもりじゃが、童のような奴はおらんぞ?」
それは買いかぶり過ぎだ。爺さんが知らないだけで、俺よりも強い奴だってきっと存在している。現にイルミは俺よりも強い。イルミが魔邪の樹海で本気の魔力を放つ事になれば、その魔力圧は想像を絶する筈だ。
なんて思いながら、俺はララ達を抱き寄せている。というのも、驚き過ぎて怖かったらしいので、お詫びにこうさせて欲しいという事になったのだ。
「それで? 儂になんの用じゃ?」
「あぁ、それなんだけど。爺さん、魔法具って作れる?」
「魔法具? なんじゃ、そんな〝チンケなもん〟をこの儂に作らせるつもりか?」
おぉー···流石は爺さん。中々言うもんだ。
「いや、魔法具じゃなくったっていいんだけど、ちょっと作って欲しいものがあるんだ」
「······まぁいいじゃろう。当然、条件は付けさせて貰うがの」
·········めちゃくちゃ怖いな、その条件。
とはいえ、ワイズマンは俺の注文を聞き入れてくれた。俺の作って欲しいものというのは、スキルを封じる魔法具だ。というのも、ステータスプレートを偽装した所で、実際はスキルも加護も機能している。しかし、魔法祭に出るとなると、公に戦わなければならない。当然、攻撃を全く喰らわずに-という訳にもいかないだろう。
予想以上に強い奴も居るはずだ。シュウも然り、ステラという少女の件もある。出来れば上手く立ち回って俺が〝そこまで強くない〟と思われたい-というのが、俺の思いなのだ。
「ほぉー。加護やスキルを封じる···か」
俺の要求を聞き届けたワイズマンは、顎髭を触りながら考え込んでいる。やはり簡単では無いのだろうか。なんて思っていると、ワイズマンはゆっくりと口を開いた。
「結論から言うと可能じゃ」
「ほんとに!?」
「儂を誰だと思っとるバカモン。······まぁしかしじゃ、前に話したと思うが、儂が作る〝宝具〟にはそれなりの対価が必要なんじゃ」
「あー。そう言えばそんな事言ってたっけ」
これも昔の話だが、ワイズマンの扱う導術の一つに『対価生成法術』-なんてものがある。これにより、彼はあらゆるモノを生み出している訳だが、名前から分かるように何でも作ることが出来るが、相応の対価が必要になるらしい。極端な話、人間を対価にすれば〝人間を生み出す事も出来る〟-という無茶苦茶なものなのだ。
「で? 対価って? なんかスゴい鉱石でも用意すれば良いの?」
「馬鹿言え。そんなもんで出来るか! 貴様が言うのは隠蔽の類じゃのうて〝完全に封じる〟というモノを欲しておるのじゃろう?」
「ま、まぁそうだけど」
「ならば、その対価としてこの〝宝玉〟に貴様の魔力を込めるんじゃ」
そう言うと、ワイズマンは懐から取り出した人の頭蓋程の大きなガラス玉を投げ渡してきた。というか、こんなデカい玉をその懐のどこに隠してたんだよ······。
「って、そんな事でいいの?」
「······まぁやってみるがいい」
なんだか今の間が気掛かりではあるが、早速俺はワイズマンの爺さんが言った通りに宝玉に魔力を流し込む事にした。ちなみに先程消耗した魔力は、『魔力吸収』で回復している。魔界という事もあって、魔力の回復はあっという間だった。
-俺が魔力を宝玉に流した瞬間······
「っぐは!?」
俺の口から大量の血が溢れ出した。
〘エト様!?〙
〘今すぐ回復魔法を!〙
「動くな小娘共!」
俺に起きた突然変異にララ達が血相を変えて走り寄る。しかし、ワイズマンはそれを良しとはしなかった。ワイズマン曰く、宝玉の一定範囲にいる者の魔力を強制的に吸収するらしい。
「付け加えるとのお、それは膨大な魔力と生命力を強制的に吸収する。更には副作用で肉体が内側から〝弾け飛ぶ〟という特別製じゃ。童、貴様の求めるモノはそれ程の痛みと苦痛を伴う代物···という事じゃ」
「な、なるほど······ね」
まるで魂が吸われているような感覚。全身の血が沸騰し、止まる事無く各臓器が破裂し始め、皮膚が裂けて血が吹き出し、口から吐血を繰り返す。それでも一度宝玉に触れた手は宝玉から離れようとしない。というより、宝玉が離そうとしない。
「こりゃあ〝普通の奴なら〟耐えらんないだろうね」
そういいながら、俺はワイズマンに微笑みかけた。忘れてもらっては困る。俺には『超即再生』と『痛覚消失』がある。全く問題は無いのだ。······いや、感覚はあるので、気持ち悪さはめちゃくちゃあるのだが。
「······童、なんじゃ···その体······どうなっとる!?」
ワイズマンは俺の体が傷ついた瞬間に再生されていく光景に唖然としている。それはララ達も同様のようで、ただただ俺を見つめて立ち尽くす。
「残念だったね、爺さん-ッ!」
俺は宝玉の中に赤い液体が少しづつ溜まっていくのを確認すると、一気に魔力を流し込んだ。すると、宝玉の中の赤い血のような液体はみるみるうちにその嵩を増していく。と、同時に意識が飛びそうになる。どうやら生命力を引き抜かれる感覚だけは、堪えるしかないようだ。
「童ッ!? やめんか! 一気に魔力を送るヤツがあるかバカモン! そんな事をすれば貴様の体が弾け飛ぶぞッ!」
ワイズマンの忠告虚しく、宝玉の中が赤い液体で満たされた瞬間に俺の体は吹き飛んだ。
-バシュッ!
その場に血が飛び散る。が、次の瞬間···。
「-っと。えっへへ。どーよ爺さん? これでいいんだよな?」
俺の弾け飛んだ肉体はコンマ一秒程で何事も無かったかのように再生された。その光景を目の当たりにしたワイズマンは流石に言葉を失っていた。
〘·········凄い···〙
〘再生速度が······尋常じゃない···〙
ララ達の言葉を他所に俺は大きく深呼吸をする。流石に疲れた。疲労感が半端じゃない。とはいえ、ワイズマンの爺さんが呆気に取られている表情になんだか優越感を感じる。やってやった-という感じだ。
「······天晴れじゃ。もう何も言うまい。宝具の制作は大体二週間じゃ」
そう言うと、ワイズマンはなんだか疲れた様子で宝玉片手に姿を消した。それを確認した俺はその場に仰向けに倒れた。強がってはいたが、本当に疲れたのだ。当分何もしたくない。ちなみに、ワイズマンの爺さんが先程言っていた条件というのは、また日を改めて-ということらしい。
「ララ、リリ、ルル?」
〘はい!〙
〘な、なんですか!?〙
〘傍におりますよ?〙
「お礼の件だけど、俺をどこかゆっくり休めるとこに連れてってくれない? それで、俺が体力を回復するまでちょっと面倒を見てて欲しいんだ」
〘〘〘はい! 喜んでっ!〙〙〙
そんな事でいいんですか? -なんて言っていたが、俺が微笑むと、彼女達は嬉しそうに俺を彼女達の家に運んでくれた。·········って家かい。




