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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
31/71

懐かしい顔、そして悪鬼降臨


 エト、そしてルキフェルと別れたアリアとアヤはベルゼリアと共に魔界の上の界にあるベルゼの屋敷に身を寄せていた。というのも、最上位悪魔であるベルゼリアがいつまでも下の界に居ては全く休まらないのだ。下の界の住人からの接触が後を絶たない。

 

 「ベルゼリアさんって、意外と可愛いんですね。なんだかお姫様の部屋みたい」

 〘あっ! ちょ、コラ! あんまり見るでないわ!〙

 

 招かれたベルゼリアの部屋は、薄いピンク一色に包まれ、中央に大きな天蓋カーテン付きの蚊帳風ベッド。そして、至る所に可愛らしい人形達が部屋を明るく彩っている。ベルゼリアは、連れてくる部屋を間違えた-と絶賛後悔中だが、時すでに遅し。アヤもアリアも、目を輝かせて部屋を眺めている。

 

 「ん? なんだかこのベッド、〝エト君の匂い〟がしない?」

 「まぁ! 本当ですわ! ベルゼリア様、これはどういう仕組みなんですの? 香水···では無いですわよね。エト様の匂いがする香水なんてある筈が無いですもの」

 〘あ、あぁ······。そ、そうか? 妾は意識した事がなかったのでのぉ。さっぱりじゃ〙

 

 い、言えぬ······。エトの匂いが恋しくて、導師殿に作らせた···などとは。

 

 「不思議ですわ···。素材ですの? うーん···」

 〘そ、それより! 折角魔界に来たのじゃ、何かやりたい事や行きたい場所は無いのか?〙

 

 必死に話を逸らそうとするベルゼリアを不思議そうに見つめるアリア。アリアのジト目がベルゼリアを躊躇無く威圧する。が、そんな中、アヤがベルゼリアに聞きたい事がある-と声をかけてきた。ベルゼリアが安堵しながらアヤに視線を向けると、アヤの聞きたい事···というのは、ベルゼリアとエトが知り合った経緯だった。

 

 〘む? 妾とエトの馴れ初めとな?〙

 「はい。エト君がどうして魔界に来て、ベルゼリアさんと戦う事になったのかが知りたくて」

 

 -パンッ。

 

 「わたくしも知りたいですわ!」

 

 アヤの問いにアリアは手の平を打ち付け、自分も聞きたいとベルゼリアの傍に歩み寄った。

 

 〘んー······そうじゃな。よかろう。遅かれ早かれ知る事になるじゃろうし〙

 

 そう言うと、ベルゼリアはアリアとアヤをソファーに腰掛けさせてゆっくりと話を始めた。時は今から二年前に遡る······。

 

 

 

 当時、エトの隣には旅で出会った神獣のルカ、そして同じく旅で出会ったウルルという少女がいた。そんな三人は、エトの旅の目的である強者との戦いと連れ去られた妹の情報を掴み得る旅を続けていた。

 しかし、その旅の途中、ウルルという少女の父親と出会った事で、エトは思いもよらない出来事に巻き込まれることになった。

 

 〘ウルルの父、ハイゼンという男は······〝禁忌〟を犯したのじゃ〙

 「禁忌······ですか?」

 「それって?」

 

 ウルルの父、ハイゼンが犯した禁忌···それは〝人体生成〟だった。

 

 〘人体生成じゃよ〙

 「······じ、人体···生成?」

 〘うむ。奴は自身の番であるウルルの母を人工的に作りだそうとしたのじゃ〙

 

 当然、そんな事がただの一般人に出来る訳が無い。しかし、彼は何らかの手段で人体生成の術を知ってしまったのだ。ウルルの母親は彼女が産まれたと同時に命を落としていた。愛する人を思うが故に、彼はその人外な手段に手を出してしまった。

 

 〘妾も詳しくは知らぬが、その手の事に詳しい者に聞いたところによると、人体生成の方法は〝同じ血筋にある者を生贄に十王と謁見する〟···というものらしい〙

 

 十王、それは生死を司る『死界』に存在すると言われている十人の選定者のことだ。

 

 「ちょっと待って下さい! 同じ血筋って事は······」

 「え? ど、どういうことですの?」

 〘うむ。アヤの想像通り、ハイゼンは〝実の娘を生贄に選んだ〟のじゃ〙

 「そっ······そんな···」

 

 しかし、ハイゼンの思惑は上手くは行かなかった。当然である。魔力も足りなければ、彼が自分の血で描いた魔法陣も完璧では無かった。事を急ぐあまり、彼は圧倒的に知識が足りなかったのだ。

 

 〘そして、結果的に召喚された場所が死界では無く、この魔界じゃった〙

 

 ハイゼンが行った人体生成術は、生贄が傍にいなくても強制的に死界へと送り込む-というものだった。送還条件は、生贄対象の遺伝子情報、つまり髪の毛一本でもあれば、どれだけ離れていようが意味をなさない。

 結果、旅を続けていたウルルは自分の意志とは関係なく、強制的に飛ばされた。そして、間違った魔法陣の影響で死界ではなく、魔界に転送されたのだ。

 

 「それにエト君も巻き込まれた······と?」

 〘まぁ······そうなんじゃがのぉ〙

 「ど、どうしたのですの?」

 〘そんな得体の知れない術に巻き込まれたんじゃ。魔界に着いたエトは······。それはもう···見るも無残な姿じゃった〙

 

 魔界に迷い込んだエトは、不法入界の罰で〝命を落としていた〟。

 

 「そん······な」

 「で、でもエト様には『超即再生』が-」

 〘当時のエトに、そんなスキルは〝無かった〟のじゃ。四肢を奪われ、胴体に大きな風穴を開けて倒れておった。······その姿は今でも脳裏に焼き付いておる〙

 

 表情を酷く崩すベルゼリアの姿を見て、如何に残酷な光景だったかを突きつけられる。目の前のベルゼリアを見れば、その時の光景を知らなくても心が痛くなる。自然とアヤとアリアの瞳には涙が流れていた。

 

 しかし、今エトは何事も無かったかのように振る舞い生きている。それは、たまたま通りかかったベルゼリアが至高の力(マスタースキル)死者支配(ヘルヘルム)】を発動し、蘇生したからである。

 

 〘エトは妾の力で蘇らせた。それからじゃろうな、エトが再生スキルを手に入れたのは。とはいえ、相手は人間。勢いで助けてしまったが、妾はこれでも最上位悪魔じゃ。魔界の秩序は守らねばならん〙

 

 そう。死してなお、エトから発する不思議な波動を感じ、エトを助けたベルゼリアだが、エトとウルルが不法入界をした事には変わりはない。そして、対立したベルゼリアとエトは、全力で戦う事になったのだ。

 

 「そ、それで···。エト君は······?」

 〘無論、妾の圧勝じゃ。エトの頭蓋を吹き飛ばして戦いは終わった。まぁ当然じゃのぉ〙

 

 どこか御満悦のベルゼリア。アヤもアリアも苦笑いながらベルゼリアを見つめる。···が、それから半年程経った頃、二回目に出会ったエトはまるで別人のようになっていた。どこか遠くを見据えていた瞳も、しっかりと現状を捉え、無表情だった顔もすっかり見栄え良くなっていた。

 

 「それが二回目···という事ですよね?」

 〘うむ。そして、妾は死闘の末に敗北を喫したのじゃ〙

 「そう言えば、ベルゼリア様と初めてお会いした時、〝ロンギヌスの槍〟がどうとか······」

 〘ぬっ。アリア、すまぬがその事だけは勘弁してはくれまいか? 思い出すだけで······うぅぅぅ〙

 「も、申し訳ありませんですの!」

 「ベルゼリアさん、そのウルルって人はどうなったんですか?」

 〘む? ウルルか···〙

 

 その後のウルル。アヤの問いにベルゼリアは、エトとの一度目の戦い後に話を戻した。

 二度目の蘇生の末に再び蘇ったエトは、別の場所に転送されていたウルルと合流し、魔界を去っていった。ちなみにハイゼンの魔法陣の影響で、ウルルは不法入界の罰を受けなかった。そして魔界を去る際、人界へと送り届けたのが導術を生み出した導師、ワイズマンである。

 

 〘その後の話は、二度目に会った時にエトから聞いた話じゃ〙

 

 ウルルとエトには、自分達が何故こんな事に巻き込まれたのかが分かっていなかった。しかし、自分の行いがどれほど愚かだったか-それを悟ったハイゼンがウルルに伝書を送り、自分がしてしまった事···そして自分の思いを書面で伝えると、事情を知ったウルルはエトとの話し合いの結果、父のもとへ帰ることを選んだ。

 

 「······そう···ですか」

 

 アヤもアリアも煮え切らない様子でいる。それもそうだ。自分を生贄に母親を作りだそうとした父のもとへ彼女は何故帰ろうとしたのか······。何故、ウルルはそんな父親を許す事が出来たのか······。実際、許したのかは分からないが、それでも父親の傍に居ようと思える程には恨んでいなかった筈だ。

 

 〘まぁ、こればっかしは本人にしか解らぬ話じゃ。エトも納得して送り出した-と言っておったでのお。それ以上、もう妾達が思う事もあるまい?〙

 「確かにそうですね」

 「全く、父親というのは本当に身勝手ですわっ」

 

 アリアは自分の父親を思い浮かべながらご立腹だ。厳しい環境で生きて来たアリアにとっても、思うところがあったらしい。

 

 〘まっ、馴れ初めはこんな所じゃな。おー、そうじゃった。ちなみにウルルとエトは〝恋仲〟じゃったようじゃぞ?〙

 

 突然の爆弾発言。ベルゼリアの唐突な言葉にアリアとアヤは全身の血の気が引き、真っ白になって固まってしまった。そんな二人を見ながら楽しそうなベルゼリア。

 

 〘ほほぉ。やはりお主らもエトに惹かれておるようじゃのぉ? 全く、女難に事欠かん奴じゃ。のお? エト〙

 

 

 

 

 

 

 「っくしゅん!」

 〘エト様、大丈夫ですか?〙

 〘寒いのかな、温かい飲み物をお持ちしますね〙

 「うん、頂こうかな。あ、でも寒くはないよ?」

 〘宜しければ、私が暖めて差し上げても···?〙

 

 うん。それは実に興味深いです。

 

 一方のエトは、ララとリリとルルに連れられて、彼女達が同居しているシェアハウス的な家に招かれていた。二階に彼女達の各部屋があり、一階が共同スペース。そして、エトはその共同スペースのソファーに仰向きで横になっていた。

 

 「よっと···。ごめんね、もう大丈夫だから」

 〘そうですか。よかったです〙

 

 ゆっくりと上体を起こし、ソファーに座り直す。すると、ルルが俺の隣に腰掛けた。そして、ルルは俺のシワ着いた服を整えて御満悦の様子。

 

 「ありがと、ルル」

 〘いえ。えへへ〙

 「ところで、さっきからララとリリは何をしてるの?」

 

 先程から二人は糸を編み込み、カバンのようなモノを作っている。それを不思議に思った俺はルルに問いかけた。どうやら二人は、内職で手編みのカバンを作っているのだそうだ。これが中々に評判が良いようで、結構な収入源となっているらしい。

 

 「へぇ。凄いね!」

 〘よければ、エト様もやってみますか?〙

 「ううん。俺はああいうの苦手だから。それに邪魔しちゃうと悪いしさ」

 〘そうですか。実は私も苦手なので、お気持ちは分かります〙

 

 俺の言葉にルルは笑顔を見せる。制作担当はララとリリで、ルルは家事担当ということのようだ。にしても、手馴れた様子で作業をしている二人は素直に尊敬する。俺には到底出来っこない。

 そんな二人を愛らしく見つめるルル。その表情を見ていると、こちらも自然と笑みが零れる。平和なものだ。三人を見ていると心底そう思う。

 

 〘あっ······〙

 

 こうして見ている分にはまるで悪魔に見えない。人間よりも人間味があるというか、ルルの手だってサラサラでしっとりとしている。触っていると実に心地いいものだ。

 

 〘ど、どうかされましたか? 私の手、何か変ですか?〙

 「あ、ごめんね? すごく綺麗だな···って」

 〘そ、そうですか? あ···ありがとう···ございます〙

 「う、うん」

 

 なんだか色々考えていると無意識にルルの手を握ってしまっていた。とんだ失礼をしてしまったようだ。おかげで変な空気になってしまったじゃあないか。

 

 -と、俺が空気を変えようとあくせくしていた中、ゆっくりと玄関の扉が開いた。何事かと視線を移すと、そこに居たのは見覚えのある獣耳っ娘の少女だった。

 

 「ほんとだー! えといたー!」

 「え? えぇ!? もしかしてニーナ!?」

 

 俺を見つけるなり、驚く程の素早い跳躍を披露して俺の前に着地するニーナ。彼女は前の旅で出会った亜人種の獣人少女で名前をニーナ・レティスという。

 ニーナに出会ったのは今から二年半前、当時の彼女は幼女だったのだが、今目の前でニコニコとしゃがみこんでいる彼女は俺よりも身長が高くなっている。流石は獣人、成長速度が半端じゃない。というかめちゃくちゃ羨ましい······。

 

 〘エト様、ニーナをご存知なんですか?〙

 「うん。まぁね。って、なんでニーナが魔界にいるの? ニーナの家はコルネル村にあるんじゃなかった?」

 「ニーナね? 『召喚魔法』を覚えて悪魔と契約したの! それで、魔界に遊びに来てるの!」

 「え!? あ、お···おぉ···そうなんだ?」

 

 えっ。知らない間に凄いことになってるじゃん。

 

 彼女は出会った頃から身体能力が桁外れだった。だから、将来は強くなるんだろうな-とは思っていたが、まさか召喚師の素質があったなんて···。というか、二年半で契約するとは······。驚きの成長だ。

 

 〘ニーナはよく遊びに来るんですよ。お手伝いもしてくれるので、私達も助かっちゃって〙

 「ねぇえと! ニーナ、偉い?」

 「あ、そうだね。偉い偉い」

 

 そう言いながら頭を突き出してくるニーナ。なんだかクロみたいだ。今も頭を撫でられて嬉しそうに頬を染め、表情を緩めている。とはいえ、成長したのは実力と体格だけのようだ。子供っぽいところは全く変わっていない。

 いや、実際彼女はまだ年齢的にも幼いので、とやかく言うつもりも無いのだが、こうも成長されては外見と内面のギャップに違和感を感じざるを得ないというものだ。

 

 〘まぁ。もうこんな時間ですね。エト様、そろそろ御夕飯の準備を始めますが、よろしいですか?〙

 

 ニーナ、そしてルルと共にたわいもない話に花を咲かせていると、ララが時計を見ながら作業の手を止めた。と同時に、ルルがソファーから立ち上がり俺に視線を向けながら頭を傾げる。

 

 「あ、そっか。家事はルルの担当なんだっけ?」

 〘はい。何か御要望があれば〙

 「ううん。気にしないで? ありがとう」

 

 俺の答えに微笑み返したルルはキッチンへと向かう。エプロン姿のルルは、なんだかとても勇ましかった。まぁこんな事、本人は喜ばないかもしれないが。

 

 「えとー! ご飯まで遊ぼっ!」

 「え? 遊ぶって、何して遊ぶのさ?」

 

 強引に手を引かれながらも渋々ニーナについて行く。そんな俺達をララとリリが笑顔で見送るわけだが、俺はそんな二人に苦笑いを浮かべた。正直そんな気分じゃ無かったからだ。

 

 まぁいいけども。

 

 俺とニーナは家の裏手にある空き地に移動した。全く、目の前のニーナは俺の気持ちなんてそっちのけで楽しそうにはしゃいでいる。こんな表情をされては、乗り気じゃ無かった俺も不思議と笑顔になってしまう。

 

 「それで? 何して遊ぶの?」

 「いざ、じんじょうに勝負勝負〜!」

 「え!? しょ、勝負?」

 

 ニーナのまさかの提案に驚いていると、ニーナは楽しそうに笑いながら構えをとった。肩幅程に開いた状態から左足を前に出し、胸元で拳を握り締める。

 

 いやいや、全く隙が無いのは見事だけどね?

 

 どうやら本気で戦いたいようだ。ニーナの表情から心意気が見て取れる。俺は軽く上体を捻り、寝ている体を温め溜め息を吐く。そして、ニーナの意志に応えるように構えをとって見せた。

 

 「へへっ! 久しぶりだー! えととの組み手〜」

 「そうだね」

 

 確かに久しぶりだが、一度しかした事の無い組み手をさぞ懐かしむように言うのはどうかと思う。

 

 「いっくよー!」

 「わかったよ。いつでも来-ッ!?」

 

 刹那、ニーナの拳が俺の右頬を掠めた。突然の事に俺は目を見開き、言葉を失った。今の一瞬、ニーナの動きが全く見えなかった。俺が手を抜いていた事も相手がニーナだからと油断していた事も理由ではあるが、それでもニーナの動きは俺の予想を遥かに凌駕していた。

 

 「あっはは! えとスゴーイ!」

 「そりゃあどうもっ···と」

 

 そう言いながら後方にバックステップをする。とはいえ、凄いのはニーナの方だ。今の瞬歩も然り、攻撃の速さも見事だった。間一髪、拳が頬に当たった瞬間に反応して回避したが、常人なら顔面が吹き飛んでいただろう。

 

 「まだまだいくよ〜っ!」

 

 ニーナはその場で数回ジャンプすると、再び姿を消した。が、今度の俺は手抜きも油断もしていない。確実にニーナの動きが見えていた。

 

 「っと」

 

 瞬く間に繰り出される腹部への蹴りを右肘で受け止め、左足で薙ぎ払うようにニーナの頭部を蹴りつける。······が-

 

 「うぉっと······。おいおい···」

 

 今度は残像ってか···。

 

 蹴りがニーナの頭部を捉えたと思いきや、ニーナの体は蜃気楼のように揺らいで消えた。思えば右肘で受け止めた蹴りの威力もそこまで強く無かった。どうやらニーナは、俺を蹴りで仕留めるのを途中で止めて残像が生まれるほどの速さで移動し、俺の背後を取る算段だったようだ。

 

 「スキあり〜! ···っとわわわ!?」

 

 ニーナは俺の背後から回し蹴りを放ったが、生憎それは俺の残像だ。ニーナは空振りした自分の攻撃の勢いに体勢を崩す。俺はその隙を見逃さずにニーナの腹部へ拳を突き出して寸止めをした。

 

 「ッ! ······っぷはぁ〜。やられちゃったぁ!」

 

 俺の拳をまじまじと見つめ、自分の置かれた状況を素早く理解したニーナは微笑みながら俺に飛びついてきた。一瞬だったが、ニーナの驚いたような表情···。まるで予想外だったかのようだった。ニーナは本気で俺に一撃入れられると思っていたようだ。

 

 まぁ、実際びっくりしちゃったけどね。

 

 「強くなったね。ニーナ」

 「でしょ〜! 村では一番なのです!」

 

 うん。だろうね。

 

 俺から離れ、両手を腰に当ててドヤ顔のニーナ。にしても、本当に強くなったものだ。多分、相当鍛練を積んだのだろう。でなければ、こんな短期間でここまでの域には達しない。今のニーナにならアヤもアリアも勝てないだろう。魔法やスキル以前に戦闘技術が二人よりも優れているからだ。

 

 -パチパチパチ···。

 

 「ん?」

 「あ〜、おねえちゃん達だ〜!」

 

 気付くと、俺とニーナの後ろでララ達が拍手をしながら微笑んでいた。どうやら、三人は俺達の組み手を途中から観覧していたらしい。

 

 〘お二人共、お見事でした〙

 〘ニーナちゃん強いんだね!〙

 〘エト様、御夕飯の準備が出来ましたよ〙

 「わかった。今行くよ」

 「ニーナも〜!」

 

 -ギュルギュル〜······。

 

 ルルの言葉に反応するようにニーナの腹の虫が鳴き声をあげる。そんな情けない音がおかしかった俺とララ達は、笑いながら家の中に戻った。とりあえずは、ニーナも喜んでくれたようでよかったと思う。

 

 

 食事を終えると、ニーナは颯爽と帰って行った。というのも、魔界で世話になっている上位悪魔に無断で来たらしく「心配してるかも〜」-とのことらしい。ちなみに俺が魔界に来ているという話は上の界での噂を聞きつけたとの事のようだ。

 

 「いやぁ、相変わらず嵐みたいな奴だったな」

 〘ふふふ。そうですね〙

 〘エト様、明日はどうなされるのですか?〙

 

 俺は食後のコーヒーを片手にリリの問いに答える。

 

 「明日は仲間達と修行だね。勿論、俺もだけど」

 

 今でも俺は毎日ではないが、鍛練を積んでいる。毎日ではない-というのは、学園内での素性漏洩を避ける為、そしてあまり無茶が出来ない環境下に居るからだ。しかし、魔界は多少無茶をしても大丈夫だと言うことは前に来た時に把握している。

 というのも、魔界には破壊しようが再生されるという便利な洞窟があるからである。見つけたのはたまたまだったが、相当世話になったものだ。ベルゼに頼んで立ち入りを禁じて貰っているので部外者の介入の心配も無い。明日はアヤとアリアを連れてそこに行こうと思っている。

 

 〘修行ですか。では、お昼をお持ちしますね?〙

 「え? いいの?」

 〘もちろんです!〙

 

 ルルの言葉にララとリリも賛同する。本当に世話になりっぱなしだ。

 

 「ありがとう。それじゃあお願いしよっかな。場所は上の界の外れにある洞窟だから」

 

 俺がそう言うと、ララ達はお互いに視線を向け合う。どうやら立ち入り禁止区域だということを理解しているようだ。ともあれ、それは俺が指示した事なので問題はないという旨を伝えたところ、三人は笑顔で頷いてみせた。

 

 

 

 -一方。

 

 ベルゼリア宅のアリアとアヤは食事を終えてベルゼリアと三人で仲良く入浴中である。一糸まとわぬ美女達が濡れた体を輝かせている。

 

 「ベルゼリア様、この六枚の翼は消えないのですか?」

 〘ん? 何故じゃ? アヤ〙

 

 ベルゼリアの背中を流しながら不思議そうに問いかけるアヤ。

 

 「いえ、洗うのにちょっと···」

 〘ふむ。邪魔か? しかしのぉ、それは一応体の一部じゃからな。消えはせんよ〙

 「へぇ······」

 

 ベルゼリアの言葉に納得しつつ、アヤは羽根の継ぎ目部分を凝視する。それは不思議なものだった。羽根を無数に備えた翼は漆黒に輝き、その毛並みはまるでシルクのような肌触り。うっとりとしながらベルゼリアの翼を弄るアヤ。なんだか手つきがいやらしい······。

 

 〘うっ···。ちょ、あっ···。こ、こら! やめんか!〙

 「えっへへ〜。もしかして付け根の部分、弱いんですか?」

 〘むっ···いっ、いやっ······も、もぉ···こらっ!〙

 

 真っ赤に赤面するベルゼリア。それを楽しそうに見つめながら手を止めようとはしないアヤ。そんな二人を溜め息混じりに見つめるアリア。浴槽のふちに肘を乗せて呆れた様子だ。

 

 「なんだか楽しそうですわね。わたくしにはさっぱりですわ?」

 「いやぁ〜、反応が新鮮でついね〜」

 「そのくらいにしておいた方がよろしいのでは?」

 

 悪鬼と化すアヤにベルゼリアは悶絶寸前だ。毛並みの整った尻尾がプルプルと震え、二本の立派な角がしなるようにヘタっている。背筋を伸ばして必死に声を押し殺す様は、アヤに拍車をかける。

 

 〘あぅ···も、もぉダメじゃ······だ、ダメなのじゃああああっ!〙

 

 限界が来てしまったベルゼリアは勢いよく翼をバタつかせる。その衝撃でアヤは後方に吹き飛び、浴室の壁に叩きつけられてしまった。

 

 「ふきゃっ!?」

 「·········だから言いましたのに」

 

 クルクルと目を回すアヤを見ながらまたも溜め息を吐くアリア。一方のベルゼリアは荒らげた息を整えると不敵な笑みを浮かべ、へたり込むアヤの前に仁王立ちをする。······そして-

 

 〘よくもやってくれおったな······。妾にこのような辱めを···。くっくっく···。アヤよ、お主も同等の辱めを受けねばなるまい?〙

 

 そう言いながらベルゼリアは器用に長く撓る尻尾をクネクネと動かしながらアヤへと伸ばしていく。

 

 「······これは流石に〝見れない〟ですわね」

 

 今から起こりうる惨劇を予想したアリアは一人、その場から退散する事にした。

 

 「ベルゼリア様、わたくしは先に上がりますが、程々になさってくださいですわ」

 

 アリアが浴室の扉を閉めた瞬間、ベルゼリア宅にアヤの艶っぽい悲鳴が鳴り響いた。

 

 「いやぁぁあああっ·········ぁん」

 

 この後、アヤが全力でベルゼリアに謝罪をしたのは言わずもがな······。

 

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