表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
29/71

もう一人のマスター


 寮に帰ると、カナが何やらゴソゴソと旅支度を整えていた。俺の帰宅に気付かないくらい必死に作業している。そんなカナを驚かせようと、俺は気配を消して後ろから抱き着いた。

 

 -ギュッ。

 

 「ひゃう!? え!? あ、お兄ちゃん? おかえり。どうしたの?」

 「ん? いや、あまりに真剣だったから、驚かせようと思ってね」

 

 案の定、カナは可愛らしい声で驚いてくれた。余程ビックリしたのだろう、現在進行形で俺の懐をポカポカと叩いている。

 

 「それより、どこかに行くの?」

 「うん! 魔法祭に向けての特訓でね? 〝聖籠の洞窟〟って所にアイン・マテリアルさん達と行くの!」

 「へ、へぇ···。そ、そうなんだ?」

 「アインさんが誘ってくれたんだけど、まさかボクみたいな子にまで声をかけてくれるなんて思わなかったよ! いい人だよねー! あれ? お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 カナの目的地を聞き、驚いた表情を浮かべた俺を心配するように、カナは俺の顔を心配そうに覗き込む。

 

 「ううん。気にしないで。それより気をつけてね? あと、 俺も魔法祭当日まで出掛けるつもりだから」

 「って事はお兄ちゃんも出るんだね! そっかぁ。お兄ちゃんなら魔法科の一位を取っちゃうかもね!」

 

 いや、だから一位には興味が無いんだけどね。

 

 「じゃあ、ボクそろそろ出掛けるね!」

 「うん。行ってらっしゃい」

 「いってきまーすっ!」

 

 準備を終えたカナは、まるで遠足に行く子供のような笑顔で家を飛び出して行った。それほどに楽しみ-ということなのだろう。

 

 「······聖籠の洞窟か。〝懐かしいな〟」

 

 なんて思いながら『異空間収納』に必要な物を詰め込んでいく。聖籠の洞窟-そこは、北方大陸最北端にある大きな雪山の麓にある洞窟で、別名を『精霊邂逅の地』と言われている。まぁ、この別名を知っている者は少ないが、召喚師を目指す生徒を連れて行くという事は、少なからずアインという生徒はその名を知っているのかもしれない。

 

 「そのうち〝あっち〟にも顔を出した方がいいかもな」

 

 色々考えつつも数分で準備を終えた俺は、アヤとアリアの待つ魔法学園の大門前に向かった。

 

 

 

 大門前に着くと、多くの生徒達の列が出来ていた。前の方にはカナの姿も見える。という事は、カナの手を引いている黄緑色の髪の子か、赤髪の子がアインという生徒なのだろうか。

 

 「いや、黄緑色の方か。······なるほど。精霊に懐かれそうな奴だ。にしても、セイルの話じゃ人間に興味が無い-みたいな話だったけど、結構カナ達と和気あいあいと喋ってるじゃん」

 

 アインという少女の放つ不思議な波動を感じながらそう呟いていると、突如として〝めちゃくちゃな〟殺気を放つ存在が俺の背後に現れた。俺は焦ること無くゆっくりと後ろを振り向いた。

 

 すると、そこには黒髪の青年がジッと俺を見つめていた。彼の左の頬には傷がある。それを見た瞬間、俺はセイルの言葉を思い出した。どうやら、この礼儀知らずの青年が五峰一の戦闘力を持つ〝シュウ〟という奴のようだ。

 

 「ビビらない···か。これくらいの殺気なら慣れてんのかな」

 

 シュウと思われる青年は、何やらブツブツと呟きながら俺を舐め回すように全身を見つめた後、殺気を一瞬で消し去り、表情を一変させて俺の肩に腕を回して来た。

 

 「おいーっす! 俺っちシュウってんだ。キミだよね? 噂のアンノウンって! いやぁ〜会いたかったんだよね! ねね? エトっちって呼んでもいい? いいよね? ありがと〜! やっぱり良い奴だなぁ! いや、良い奴だって事は話を聞いてて分かってたんだけどね? セイルの馬鹿にハメられた時だって他の連中は無傷で圧倒したんだろ? それ聞いて俺、マジで痺れたよ! そんでそんで? ここに居るってことは出るの? 魔法祭! マジかぁ、俺も魔法科に入れば良かったなぁ! 一般科と魔法科じゃ学科が違うから戦えないんだよな。失敗失敗! まぁ、全然気にしてないんだけどね? それよりどこ行くの? エトっちの修行場所だよ! 俺的には誰も近づけないような場所の気がするんだよね〜! って、どこだよそれ-ってね! あっははははは!」

 

 ·····················え、めっちゃウザイ。

 

 「っと。ほれほれ、エトっちの番だよ〜!」

 「え?」

 

 シュウの言葉に振り返ると、門番の男がキョトンとした表情で俺を見つめていた。というより、一人で十人分の待ち時間を消費したシュウを見ていたようだ。

 彼の話していた内容はほとんど忘れてしまったが、とにかくコイツは相当鬱陶しい奴だという事だけは分かった。にしても確かに不思議な波動を感じる。というか、前にコイツと〝似たような〟雰囲気を持った人と出会っている。俺の予想が正しければコイツは多分-

 

 「あ。シュウって言ったよね? 先に行っていいよ。待ち合わせしてた友達が来たからさ!」

 「え? いいの! ラッキー。さんきゅー! んじゃまたね〜エトっち!」

 

 そう言いながら俺に手を振るシュウ。シュウの姿が見えなくなると、俺はその場に項垂れた。何故なら、めちゃくちゃ疲れたのだ。間違いない。俺はアイツが苦手だ。出来ればもう二度と会いたくない。···とはいえ-

 

 「······はぁ」

 

 俺は首裏の襟に仕込まれていた〝発信魔具〟を取り外した。大きさは大体指の爪くらい。こんなものを仕込むとは······。俺の居場所でも知りたかったのだろう。多分、あれ程の強烈な自己紹介も俺の気をそらすのと、これを仕込む為の時間稼ぎだ。しれっとやってくれる。

 

 「おまたせー···って、エト君?」

 「どうかなさいましたの?」

 

 溜め息混じりにしゃがみ込んでいると、後ろからアヤとアリアが現れた。心配そうに俺を見つめていたが、俺は彼女達に大丈夫-と伝えてすぐに立ち上がった。

 

 そして、魔法学園から外に出ると、俺達はいつものように数キロ離れた人気の無い木陰に移動した。

 

 「そういえば、アヤは教員なのによく許可がおりたよね? 今更だけど」

 「学園長がすんなり許可してくれたよ? エト君について行くのならいいんだって!」

 

 という名の監視役······な気がする。まぁ身内だから関係ないけど。

 

 「にしても、先程の生徒はなんですの!? とても失礼ですわ! いきなり肩に手を回してくるなんて」

 「あー、〝シュウ〟って子ね。私も後ろから〝抱きしめられて〟鳥肌が立ったよ」

 「······ねえ。そいつって黒髪でこの辺に傷が無かった?」

 「え、ええ。ありましたわ?」

 「あと、無駄にテンションが高かったよ!」

 

 俺はそれを確認すると、『封魔の指輪』をゆっくり外した。

 

 「ちょ、ちょっと······エト君?」

 「どどど、どうなされましたの!? 落ち着いてくださいまし!」

 

 そんな二人を他所に、俺は魔力を〝全開放〟した。その刹那、強烈な魔力圧が辺り一帯を包み込む。学園から相当離れているとはいえ、誰かしらに勘づかれるかもしれなかったが、俺は抑えられなかった。

 

 「そっか。あの野郎······アヤに〝抱き着いた〟んだな」

 

 留まることなく、俺の殺意と魔力は溢れていく。もう既に体内に留めておける許容範囲を超えている。俺の体は、膨大な魔力に耐え切れずに皮膚から血を吹き出している。と、同時に『超即再生』が発動する。それを繰り返す内、周囲一帯が濃密な魔力に耐え切れずに〝腐食〟し始める。

 ここまで怒りを覚えたのは久しぶりだ。この旅を始めてからは初めてかもしれない。······と、その瞬間、俺の意識は吹っ飛んでしまった-。

 

 「ううっ······エト様、お···お抑え···くださいまし···」

 「エト君······エト君が私の事を···」

 「アヤ···様! 今は···それどころでは······ありませんわ! エト様ッ! お気を···確かに······っうぅ」

 

 アリアは懸命に自身とアヤを聖属性魔法の『聖女の抱擁』で防いでいる。しかし、それも後どれくらい持つのか分からない。エトは意識を飛ばしながらも膨大な量の魔力を撒き散らしている。

 

 -と、その時。

 

 「ほいっと。落ち着くっスよ······リエル君。〝それは〟ウルスマキナの意志に反するっス。多少手荒っスけど止めさせてもらいますっスよ。まったく·········〝相変ワラズ情緒不安定デスネ···貴方ハ〟。【異界魔法(システム・スキル)禁忌封印式陣(オールド・リストア)』】」

 

 突然現れた少女は途中から声色と表情を一変させ、膨大な魔力をものともせずにエトに歩み寄り、エトの胸元に手を当てた。刹那、エトの体は跡形もなく〝消し飛んだ〟。

 

 「「ッ!?」」

 

 飛び散る大量の肉片と血飛沫。そのありえない光景を目にしたアヤとアリアは絶望の表情を浮かべる。当然だ。目の前で最愛の者が、敬愛する者が、木っ端微塵に弾け飛んだのだから。

 

 「あっ······ああ···いやぁあああああ!!!」

 

 堪らずアヤは大声で悲鳴を挙げた。そんなアヤに少女は待ったをかけた。

 

 「オ嬢サン、大丈夫デスヨ。コノ方ハ、コノクライジャ死ニマセンカラ」

 「···うっ······うぅ······」

 

 アヤが少女の言葉に振り向くと、跡形もなく弾け飛んだ筈のエトが無傷の状態でそこにいた。飛び散ったモノも血は残っているが、それ以外は綺麗に無くなっている。アヤはエトから『超即再生』のスキルを聞いていたことを思い出したようで、安心したようにその場に尻餅をついた。

 

 「······こ、これは。わたくしは夢でも見ているのですの···?」

 

 目の前で起こった衝撃的な出来事にアリアはただただ唖然と立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

 

 「······あれ?」

 

 突然、俺の意識は回復した。先程までの黒くて気持ちの悪い感覚が綺麗さっぱり無くなっている。なんだかスッキリした感じだ。

 

 「って、なんじゃこりゃあ!?」

 

 俺は自分の周りの光景を見て驚愕した。ここは木々が生い茂った豊かな森だったのに、今はその面影が一切無い。木々は枯れ、土が死んでいる。そして、後ろで呆然と涙を流すアヤとアリア。

 

 「·········もしかして俺?」

 

 俺の間抜けな声に後ろの二人は全く同じタイミングで頷いてみせた。どうやらこの惨状を作ったのは俺自身らしい。······やってしまった。もの凄く久しぶりに〝ぶち切れて〟しまったようだ。というか、何に対してそれ程の怒りを覚えていたのかが全然思い出せない。

 アヤとアリアに俺がキレた理由を聞くと、ただただ首を横に全力で振るだけだった。

 

 ·········どゆこと?

 

 「にしても···。お前が止めてくれたのか?」

 

 俺は目の前に立っている少女に視線を移した。少女は何も言うことなく、優しく微笑みかけている。その包み込むような笑顔を見た瞬間、俺はある事に気付いた。

 

 「······そっか。お前···〝その子を通して観てた〟んだな。ありがとう」

 「イエ、デモ今後ハ気ヲツケテ下サイネ。〝我々ハ、貴方ダケガ頼リ〟ナンデスカラ」

 

 そう言うと、少女は俺の前から姿を消した。

 

 その後、俺は二人に全力で土下座謝罪をした。本当に悪い事をした。情けない姿を見せてしまったし、相当怖い思いをさせてしまった。許して欲しい-と懇願した俺に二人はすんなり頷いてくれた。

 

 いやいや、そんな簡単に許される事じゃないんだけど!?

 

 なんて思ったが彼女達曰く、俺は全く覚えていないが、俺が激怒した理由に満足したから-という事らしい。いや、納得ならまだしも、満足って何? というか、本当に俺は何に対して意識が飛ぶ程の怒りを覚えたのだろうとしばらく考えた。······まぁ結局分からなかったが···。

 

 「アリアさん、今後〝絶対に〟エト君の機嫌を損ねちゃダメだよ?」

 「そうですわね。アヤ様も、近寄る男性に〝絶対〟触れさせてはいけませんわ!」

 「そうだね。気をつけるね!」

 

 何やら俺が聞こえない程の声で話し合い、ガシッと握手を交わしている二人。······凄く気になる。とはいえ、俺達は当初の目的だった魔界に向かう事にした。

 

 「コホン。エト様? 魔界という場所にはどのようにして向かわれるのですの?」

 「確か、普通には行けないんだよね?」

 「うん。二人は魔界の別名って知ってる?」

 

 俺の問いに二人はキョトンとした顔をした。まぁ、多分知らないだろう。魔界とベルゼを食べ物と勘違いしたくらいだ。そこまでの知識を二人は持ち合わせていない。

 

 「魔界の別名は『死の淵(ヘル・ゲヘナ)』。今からちょっとグロテスクな事をするけど、ヤバそうなら目を瞑ってて?」

 「え?」

 「ぐろてすく······ですの?」

 

 二人仲良く首を傾げている。俺はそんな二人に微笑むと、『纏雷』を右手だけに発動させた。その瞬間、アヤは嫌な予感がしたようで、冷や汗を流し始めた。

 

 「行くよ?」

 「いっ、逝かないでぇぇえええーっ!!?」

 

 アヤの言葉も虚しく、俺は『纏雷』によって雷撃を纏わせた右手で〝自分の心臓を穿いた〟。

 

 「「ぎゃああああああッ!!!?」」

 

 誰もいない森にアヤとアリアの叫喚が轟く。二人とも目玉が飛び出そうな勢いだ。そんな二人を他所に俺は自分の心臓を体内にから取り出した。

 そして、その心臓を一瞬で地面に叩きつける。ちなみに急いだ理由は、俺の体から離れた瞬間に心臓は消滅し『超即再生』で元に戻ってしまうからだ。

 

 「ほら、二人とも?」

 「うぅ···もう嫌ぁぁ······」

 「た、耐えられませんわ······」

 

 やっぱり普通は見てられないよね。俺も自分でやってて頭おかしいんじゃね? -って思うし。

 

 とはいえ、今の行為のおかげで地面に真紅の魔法陣が現れた。これは魔法やスキルの類いでは無い。強いて言うなら魔界の〝導術〟というものだ。生贄とも言える。人間の心臓を生贄にすると、この魔法陣が自動的に現れる。そして、この魔法陣に大量の血液を染み込ませる事で『魔界の門(ヘル・ゲート)』は開かれる。

 もちろんこの方法は一般的には知られていない。知っている奴もいるかもしれないが、実際にやる奴なんていない。何故ならこれは、生贄にした心臓と血液の持ち主にしか、その門を開けることが出来ないからだ。案の定、一昔前は魔界の入口に人間の死体が大量に送り込まれたらしい。

 

 血を流し終えた俺は『魔界の門(ヘル・ゲート)』を召喚した。

 

 「えーっと。確か······『我いざなうは永劫の地なり、我一切合切を捨て、滅亡し忘却され死して尚、永久を願う者なり。さすれ門は開き、深淵の底に眠らん』······だったっけ?」

 

 曖昧だったが、どうやら成功したようだ。真紅の魔法陣から血飛沫を撒き散らし、地から這い出でるように現れた漆黒の門。

 その不気味な圧力にアリアとアヤは顔を引き攣らせている。

 

 「こ、これに······入るの?」

 「わわわ、わたくし······既に心が···折れそうですわ」

 「なら学園に残る? 俺はそれでもいいよ?」

 

 俺の意地悪な言葉に二人は首が千切れるんじゃないかと言うくらいに勢いよく左右に振って見せた。なら、覚悟を決めてね-というと、二人は泣きながらコクコク-と首を縦に振った。

 それを確認した俺はゆっくりと『魔界の門(ヘル・ゲート)』を開け、腰の引けたアヤとアリアの手を引いて深淵の底に潜って行った-。

 

 

 

 

 門を潜ると、そこには灰色の空間が広がっていた。

 

 「エ、エト君? ここが魔界···なの?」

 「ううん。ここは〝魔境〟っていって、魔界と人界の狭間なんだ」

 

 ビクつきながらキョロキョロと辺りを見回しているアヤに説明していると、アリアが何かに気付いたようで、俺の腕にしがみついて来た。

 

 「あの···エト様? あちらの〝とてつもなく大きな御仁〟は······どなた···なのですの?」

 

 アリアが指さした方向、そこには全長約50メートル程の超巨大な髭面の男性が仁王立ちしていた。その隣には同じくらいの大きさをした巨大な門がそびえ立っている。

 

 「あー、あれは魔界門番。その横のあれが、正真正銘の魔界門『ネヘル・ゲート』。あれを潜れば魔界だよ」

 

 そう説明しながら門へと歩みを進める。と、その時、アリアがまさかの行動を取ろうとした。流石は貴族のお嬢様-というべきか、アリアはあろうことか魔界門番に深々とお辞儀をして挨拶をしようとしたのだ。

 

 俺はそれを全速力で食い止めた。

 

 「おじゃ-ッ!?」

 

 口を抑えられてパニックに陥るアリア。アヤは何が何やら分からない様子でいる。

 

 「っぶねえ! アリア、頼むから余計な事はしないで!?」

 

 俺の真っ青な表情を見て、相当ヤバい事をしようとしたのだと自覚してくれたアリアは必死に首を縦に振った。

 

 「も、申し訳ありませんですわ······」

 「で、でもどうして? 挨拶くらいいいんじゃないの?」

 

 そんな呑気なアヤの問いに俺は溜め息混じりに答えた。

 

 「魔界門番にこっちから話しかけるのは御法度なんだよ。これは何があっても〝絶対に〟···ね。問いかけも要求も挑発もしちゃいけない。俺達は聞かれた事、言われた事に答えるだけ。死人に口なしっていうだろ? 魔界は別だけど、ここの魔境だけはちゃんと〝死者のフリ〟をしないとダメなんだ。俺達同士が話す分には問題ないんだけどね。あれと会話した瞬間に俺達は、形式上···死者から悪魔扱いになるんだ」

 

 とはいえ、形式上なので実際に悪魔になるわけは無い。要は、死者同士が喋る分にはいいが、死者を悪魔に変える選定者である魔界門番には話しかけてはならない-ということだ。

 

 「それで、あれの言葉に応えなかった奴は、そのまま死者として処分される。逆に俺達の方からあれに会話しちゃうと、あれは俺達を死者になりすまして乗り込んで来た敵と見なして攻撃してくるんだよ」

 「で、でもエト君なら勝てるでしょ!?」

 「え? あぁー、無理無理。あれには勝てないよ」

 「えぇ!?」

 「エト様が······勝てない···?」

 

 そう。あれには〝絶対に〟勝てない。俺が思うに、あれは勝てるとか勝てない-という存在では無い。

 

 「だから、絶対に余計な事はしないでね?」

 「うん···」

 「わ、分かりましたわ」

 

 そうこうしていると、俺達は門の前についた。-と同時に魔界門番は自分よりも大きな大槍を俺達に向けて振り落とした。

 

 「「んんんぅ〜ッ!!?」」

 

 二人は全力で口を抑えながら泣き叫んでいる。だが、落ち着いて欲しい。確かに超巨大な男が振り下ろした更に大きな槍はめちゃくちゃおっかない。しかし、これは俺達を狙ったものじゃない。俺達と門を遮るための行為だ。

 案の定、魔界門番は俺達を睨みつけると口を開いた。

 

 【愚かな者共よ。この先に何を望む】

 

 魔界門番の言動に俺の眉間がシワ寄る。とはいえ、話しかけて来た-という事は、もうこちらも話しかけてもいいということだ。不安そうに見つめる二人を他所に、俺は魔界門番に向けて〝中指を突き立てた〟。

 

 「······黙れデカブツ。今すぐこのチンケな槍を退けやがれ。俺の仲間がビビってんだろ」

 

 って、俺が一番空気読めてねえ〜···。

 

 予想外の俺の言動にアヤとアリアはその場で硬直した。フリーズと言ってもいい。

 

 【良かろう···愚かな者よ。ならばこの『グングニル』の贄となれ!】

 

 俺の挑発に眉をピクリと反応させた魔界門番は、その手に持つ大槍を勢いよく振り上げる。その衝撃波だけで灰色の空間が大きく揺れ動く。

 

 「ちょ······え? エト君? 勝てないんじゃ······」

 「なんで喧嘩を売ってますの!?」

 

 正気を取り出した二人は俺に向かって大ブーイングだ。なんで喧嘩を売ったかって? それは······-

 

 「なんか癪に障った」

 【ウォオオオオオオッ!!!】

 「「いやあああああああ〜〜〜ッ!!!」」

 

 全魔力を解放し、本気モードで振り落とされた大槍を両手で受け止める。流石にこれはキツイ。割れるという概念が存在しない灰色の床が軋み、鼓膜が破れそうな轟音が空間全体を包み込む。

 ちなみにアヤとアリアには気休め程度かもしれないが『竜化』をして『反魔法障壁』を展開している。加えて俺は『纏雷』を発動し、全力で大槍を弾き飛ばした。

 

 【ンゴォオオオ!?】

 

 予想外の力だろう。そんな声が聞こえた。弾き返されるなんて思わなかった-みたいな顔をしている。俺は雷撃の如く一瞬で魔界門番に接近し『怒槌』を撃ち込んだ。

 

 【ヌグッ······効かんわァァアア!】

 

 懐に潜り込んだ俺に巨大な膝が襲いかかる。まるで壁だ。避ける場所が無い。俺は『身体強化』で全身を硬化して受け身を取った。-しかし······

 

 -バシュッ!

 

 俺の体は硬化し防御したにも関わらず、まるで地面に叩きつけられた水風船のように呆気なく弾け飛んだ。

 

 「っだあ! んの野郎、やっぱりめちゃくちゃだろ!」

 

 一瞬で再生しながらも攻めあぐねている俺をアヤとアリアは必死に応援してくれている。と、同時に本気モードの俺の戦いを見て、アリアとアヤは瞳を輝かせている。まぁ確かにこんなものはそうそう見れないだろうが······。

 

 意外と余裕だな二人共!?

 

 なんて言っていると、魔界門番は驚く程の速さで体勢を低くしながら回し蹴りを放った。

 

 「そんなのありかよッ-ぶハッ!?」

 

 またも弾け飛ぶ。全力のイルミ並だ。目で追えやしない。俺は三度再生し終えると魔界門番から少し距離を取った。

 

 不味いな。勝てるイメージが全く湧かない。加護の付与スキルで使えそうな物は······あるにはある。それは『異空間魔法』の唯一の攻撃的付属魔法である『異界封殺(クルッジ)』という魔法だ。これは異空間そのもので敵を押し潰し、異空間へ敵の存在自体を飛ばして消し去る-というもの。

 しかし、どう見ても俺の力じゃ超巨大な魔界門番を押し潰せるとは思えない。とはいえ、やってみる価値はある。

 

 「『異界封殺(クルッジ)』ッ!」

 

 その瞬間、超巨大な魔界門番を覆い隠す程の規格外な異空間の歪みが魔界門番の両脇に発現した。俺は胸元に寄せた両掌を合掌するように全力で擦り寄せて行く。

 

 「うぉォラァアアアッ!!!」

 【ぬぐァアアアッ!?】

 

 必死に抵抗する魔界門番にこちらの表情も崩れていく。めちゃくちゃ強い。まるで手が合わさる気がしない。気合いや根性でどうにか出来る気がしない。そして、今気づいたが、『異界封殺(クルッジ)』は付属魔法の癖に相当な魔力を消費している。これは非常に不味い。このままいけば俺は魔力を全損して終わりだ。

 

 「っくそぉ! やめだ! アヤ、アリア! 今すぐ門に走れ!」

 「えぇ!?」

 「エト様!?」

 「やっぱ勝てねえ! 諦める!!」

 

 俺が二人にそう叫ぶと『反魔法障壁』から解放された二人が俺の背後を通って全速力で門へと駆け抜けて行く。

 

 【させぬ···させぬぞォオオオ!】

 「ッ!? や···っかましいッ!」

 【ぬぐぐぅッ!?】

 

 こんな時だが、本当に調子に乗ってしまったと反省している。喧嘩なんて売らなきゃよかった。俺は心の中で大きく大きく溜め息を吐く。

 

 「エト君ッ!」

 「エト様、着きましたわよ!」

 「あぁ、わかった!」

 

 なんて考えていると、アヤとアリアが門の前に着いたようだ。それを確認した俺は〝念話〟を飛ばした。

 

 【愚かな···者よ! その門は開かぬ···。貴様には開けられぬ!】

 「ばっか! だから〝開けて貰うだよ〟!」

 

 その瞬間、巨大な門は開かれた。

 

 ゴゴゴゴゴゴ···と重々しい音が鳴り響く。と、同時になんだか懐かしい声と初めて聞く声が俺の耳に飛び込んで来た。

 

 〘エトッ!? お主は大馬鹿者かぁ! 何に喧嘩を売っておるんじゃ!〙

 〘オラ小僧! さっさとこっちに来い!〙

 

 門の方に視線を向けると、そこにはベルゼと見知らぬオッサンが立っていた。······いや、すぐにその正体に気づいた。あれが〝魔王ルキフェル〟だ。

 

 【ウォオオオオオオッ! 謀りよって···許さぬぞォオオオ!】

 「っォああ!?」

 

 コイツは無尽蔵かよ!?

 

 全く衰えない力に俺の力の方が撃沈寸前だ。というか、簡単にこっちに来いとかいうが、俺が辞めた瞬間に俺よりも速くコイツはそっちに行くだろう。それはいろいろと不味い。多分、ベルゼも魔王も実際には戦った事がないんだ。

 

 コイツ、絶対魔王よりも強よ!?

 

 なんて馬鹿を言っている場合では無い。···と、その時、ある事に気付いた。それは、もう魔力が〝ほとんど無い〟-という事だった。

 

 「······え? マジで···?」

 

 これは不味い。この場合、どうなると言うのか? 俺が倒れた途端にコイツはアヤとアリアを消しに行く。それは却下だ。〝死んでも却下だ〟。残りの魔力を使ってコイツを門から遠ざける。その隙に門に飛び込む。これしか無い。

 

 「ベルゼ! 門を閉める準備をしておいてくれ! コイツを遠ざけたらそっちに飛び込む!」

 〘うむ! 了解じゃ!〙

 

 俺は覚悟を決めて左手を門に向けて突き出した。門が開くまで、この灰色の空間には何も無かった。しかし、今なら魔界に存在する〝自然〟を使って【神羅万象(エル・デウス)】が使える。残りの魔力は心もとないが、このデカブツを遠ざける事くらい出来るだろう。

 

 「魔王さん、ちょっと借りるぞ! 【神羅万象(エル・デウス)】-『海琉氷牙(ユラヒメ)』ッ!」

 〘何っ!?〙


 その刹那、俺の左手に向けて魔界の〝海〟が大瀑布の如く轟音を轟かせながら迫り来る。その姿はまるで巨大な翼の無い水竜だ。

 

 〘な、なんだこりゃあ!?〙

 〘エト! お主···一体どこまで!?〙

 

 魔王もベルゼもアヤ達も、頭上を飛ぶように流れ荒れ狂う海流に唖然としている。『海琉氷牙(ユラヒメ)』は、海を操りる力であり、水や海水を凍らせる力でもある。とはいえ、今は〝この程度〟の威力が限界だ。

 俺は海流を氷結させて魔界門番に激突させた。

 

 【ッぬォオオオオオッ!?】

 

 攻撃自体は効いちゃいないだろうが、質量と体積は充分だ。魔界門番は大きく体勢を崩し、数百メートル程吹き飛ばされた。

 

 その瞬間、俺は『異界封殺(クルッジ)』を解き、門に向けて走ろうとした。

 

 

 

 -が······。

 

 

 

 「ッ!?」

 

 急に立ち止まった俺にアヤ達が大声を上げた。

 

 「エト君! 早く!」

 「急いで下さいですわ!」

 

 急ぎたいのは山々なんだが、困った事に俺の体は動かない。どうやら〝完全に〟魔力が尽きたらしい。それに気付いたベルゼと魔界ルキフェルは表情を酷く崩している。

 

 〘小僧!〙

 〘エトッ!〙

 

 魔界の住人であるベルゼと魔王ルキフェルはあの門からこちらへは来れない。当然、アヤとアリアは俺を運んで奴よりも早く門へは行けない。

 

 「やっ···べえ······」

 「エト君ッ! 早く来て! お願いだからっ!」

 「諦めてはダメですわ! エト様っ!」

 

 分かっている。分かっているのだが、体が全く動かないのだ。先程から『吸血鬼化』で『魔力吸収』をしているが、全然魔力が回復しない。


 本当にヤバい。もう少しで『海琉氷牙(ユラヒメ)』の氷も消える。そうなれば魔界門番が一瞬で飛び込んで来る。

 

 

 

 

 そう思い、ふと妹の顔が頭を過ぎった······瞬間だった-

 

 

 

 

 「なっさけねぇなぁ。エト坊?」

 

 俺の背後で誰かが俺の名を呼んだ。いや、誰か-じゃない。俺の事をそんな珍妙な呼び方で呼ぶ人間を俺は一人しか知らない。俺はすぐに後ろを振り向いた。すると、そこには白髪の好青年が背を向けながら準備運動をしていた。

 

 「······リ、リン···さん?」

 「おうよ!〝異界が繋がったから〟何かと思えば、楽しそうな事してんじゃん! どーよ、あれ。強えのか?」

 

 繋がった? そっか。『異界封殺(クルッジ)』の歪みが······。

 

 「ほれ。行った行った」


 -ドガッ!!


 リンさんは俺を払い除けるように足で蹴り飛ばす。地味に酷いが、俺は彼の登場に心底感激した。カッコよ過ぎる······。蹴り飛ばされた俺は、門の前にそのまま倒れ込みアヤとアリアに支えられながら彼に視線を向けた。

 

 「またやり合おうって言ってたけど、そのなりじゃあ約束が違うもんな。だから今日はコイツで勘弁してやるよ。お前の〝力〟じゃ、ここは分が悪いだろ?」

 「ごめん、助かるよ」

 

 そんな会話の中、ベルゼが心配そうに声をかけてきた。

 

 〘エ、エト。あの者は大丈夫なのか!?〙

 「そ、そうだよ。エト君ですらピンチだったのに!」

 

 焦った様子の二人に俺は微笑みかけながら答えた。

 

 「大丈夫。あの人は、絶好調で全力モードの俺に〝匹敵〟するから」

 

 そう言いながら彼を見つめた。本当に彼は楽しそうに戦う人だ。まるで新しい玩具を手に入れた子供のようである。そんな彼は両手を大きく、そして勢いよく広げた。そして両拳を力強く握り締めたその瞬間···〝魔界門番よりも大きな巨人〟が十体召喚された。

 

 

 

 「【巨王遊戯(ギガンテス)】ッ! ······さぁ始めようぜ! 〝小人〟さんよぉ!」

 〘〘〘ウォラァアアアアッ!〙〙〙

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ