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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
27/71

少しの変化


 セイルとエトの決闘は、エトの圧勝だった。未だに目を覚まさないセイル。うなされているようにも見える。決闘の後、エトは私に向けて強烈な殺気を向けた。圧倒的な殺意、どこまでも沈んでいくような闇に放り込まれたような感覚が、全身を包み込んだ。恐怖で腰が抜け、足に力が入らず、その場に蹲ってしまった。今まで感じた事の無い恐怖。まるで、すぐそこに大鎌を背負った死神がいるような感覚だった。

 彼は一体、今までどんな経験をしてきたのだろう。そして、どうして彼はそこまで敵対した者に容赦なく手を下そうとするのだろう。そう思っていると、彼は遠くを見つめながら呟いた。

 

 目の前で大切な人を奪われたことってありますか?

 

 私はその言葉に絶句した。続けて彼は、もう嫌だ-と言った。彼は、過去に目の前で大切な誰かを奪われた事があるのだ。だから彼は、奪おうとするものに容赦をしないのだ。

 

 「私が浅はかだった······のか」

 

 彼にとって、私の考えや思いは綺麗事だったのだろう。彼が怒りを示した事も頷ける。それに、冷静になってみれば、五峰と呼ばれているセイルがなんの抵抗もなく、エトの攻撃を喰らうとは思えない。

 セイルはエトを格下と決めつけ、安易に勝てると思っていたのかもしれない。戦う前から勝敗が決していたようだ。つまり、セイルには戦う覚悟が足りなかった。だからこそ、エトはセイルに分からせようとしたのだ。覚悟が無いなら関わるな-と。

 まぁ、実際セイルやエトがどう思っていたなんて私には分からない。が、少しだけエト・リエルという少年がどういう人物なのかを知り得た気がした。

 

 「私に出来ることは、セイルにエトへの干渉を止めさせる事······くらいだな」

 

 そう決意した私は、セイルが目を覚ますまで傍に居続けた。

 

 

 

 

 

 

 -その頃。

 

 「さてと。気を取り直して悪魔召喚の件を終わらせますか」

 

 俺は学園から離れ、男子寮に来ていた。セイルとの決闘の際、彼は『空間魔法』を使わなかった。つまり、寮周辺の空間に魔力の波動があれば、大当たりという訳だ。

 

 「えっと······っと、ここか」

 

 決闘前に『魔力感知』で調べた時に可能性の高かった寮の前に辿り着いた。寮の入口前でもう一度『魔力感知』を使うと、やはりこの中に同じくらいの魔力の反応が3つ確認出来る。そして、家全体の空間にも魔力の反応が感じ取れた。

 

 「ビンゴ。···でも器用なもんだな。普通に建物は見えるのに、中が見えないなんて」

 

 窓から覗いて見ても中には誰もいないように見える。しかし、『魔力感知』では間違いなく3つの反応がある。一応、他所の家という事なので、俺は呼び鈴を鳴らしてみた。

 

 「······反応無し···と」

 

 案の定、家の中から反応は感じ取れなかった。多分、音や衝撃なんかも魔法で中和しているのだろう。

 

 「そんじゃまぁ、お邪魔しまーす」

 

 俺は家のドアをこじ開けて中に入った。すると、リビングには一糸まとわぬ姿をした三人の女性が体を震わせながら座り込んでいた。

 

 「······可哀想に」

 〘だ、誰······〙

 〘ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〙

 〘もう乱暴しないで···〙

 

 余程酷いことをされたのだろう。俺は『異空間収納』から適当に服を取り出し、彼女達に渡した。

 

 「三人共、これを羽織って」

 〘えっ······でも···〙

 〘ど、どなた······ですか?〙

 「ベルゼリアの友達だよ」

 

 彼女達の言葉にそう答えると、彼女達は瞳に涙を浮かべ始めた。俺が渡した服をギューッと抱き締めて堪えていた涙を流し始める。そんな彼女達の頭を撫でながら、ゆっくりと落ち着かせる。

 

 数分後、なんとか落ち着きを取り戻した彼女達は、土下座をし始めた。多分、ベルゼの友達なんて言ったもんだから俺が相当高位の存在だと思ったのだろう。

 

 〘服を与えて頂きありがとうございます〙

 〘一生大切にします!〙

 〘あなた様は、どうしてここに···?〙

 

 彼女達の疑問に俺は素早く答えた。というのも、あまり悠長にしている時間はない。この件に関わった奴が一般科のAクラスにも居たとなれば、すぐにでも彼女達を求めて来てもおかしくないからだ。

 

 「ごめんね。あんまりゆっくり説明している時間は無いんだ。キミ達は魔界に戻りたいんだよね?」

 〘はい! もう彼らには従えません···〙

 〘帰りたいです!〙

 〘か、帰れるのでしょうか?〙

 「もちろん。その為に来たからね」

 

 俺の言葉に彼女達は表情を明るくした。先程とは一変し、瞳が輝いている。こう見ると、三人ともすごく美人さんだ。やっぱり笑顔の方がずっと可愛い。

 ともあれ、俺は早速逆召喚の準備を始めた。逆召喚に必要な事は、送る対象に送り主の血を与えること。そして、受け取り主と送り主がリンクしていること。最後に送り主と受け取り主が同時に召喚を行うこと。

 

 「さぁ。みんな、俺の血を飲んで?」

 

 必死に頷く彼女達を他所に、俺はベルゼに念話を飛ばした。

 

 《ベルゼ! 準備は出来てるよな?》

 《おおおお! エトぉ! 流石じゃ、天晴れじゃ! やはりお主に頼んで正解じゃった! 無論、準備は出来ておるぞ!》

 《そんじゃあ行くよ!》

 《うむ!》

 

 ベルゼとの合図を確認し、彼女達へ視線を移すと彼女達は俺に涙を浮かべながら最高の笑顔を見せてくれた。

 

 〘あなた様に最大の感謝を〙

 〘また会える日を心待ちにしております〙

 〘私達はこの日を一生忘れません〙

 「うん。またね」

 

 彼女達に答えるように笑顔を見せた俺はベルゼとタイミングを合わせて同時召喚を発動させた。

 

 《《強制帰還》》

 

 その瞬間、彼女達の姿が部屋から消えて行った。無事に逆召喚を終える事が出来たようだ。それを確認した俺は、急いで自分の家に帰った。

 

 

 

 

 家に着くとタイミングよくベルゼから念話が飛ばされてきた。俺は風呂の準備をしながら受け答えることにした。

 

 《エトー! エトはおるかー!》

 《はいはい、ちゃんといるから。どうしたの?》

 

 ベルゼの声が心なしか明るいように感じる。どうやら彼女達の無事を確認出来たようだ。

 

 《感謝するぞ! ララもリリもルルも無事に帰って来たでのぉ。今、妾の隣ではしゃいでおるわ!》

 《そっか。そりゃあよかったよ》

 《あとは、契約紋の抹消じゃ。こやつらには、ちと痛いかもしれんが、また呼ばれるよりも遥かにマシじゃろう》

 《うん。そうだね》

 

 俺はお湯に浸かりながら念話を続けた。というか、やはり三人とも契約していたようだ。まぁだとしてもあの扱いは酷い。ちなみに一度契約を終えた召喚獣は、契約紋を消す事で召喚師との契約を破棄する事ができる。しかし、契約紋を消す事が出来るのは召喚獣の種族の長、今回の場合なら魔王だけだ。

 

 《むっ? なんじゃ······うむ、分かった。エトよ》

 《ん?》

 《どうやらララとリリとルルが、お主を気に入ったようでの? その内こっちに顔を出してはくれぬか?》

 《いいよ。ただ、俺の仲間も連れて行くけどいい?》

 《おぉ、アヤとアリアじゃったか? もちろん良いぞ!》

 

 とはいえ、あの二人が魔界に耐えられるとは思えない。というのも、魔界は樹海並の魔素が充満し、空気という名の瘴気が空中を漂い、湿気という名の毒で満ちているのだ。『状態異常無効化』と『状態異常耐性』があったとしても、相当キツイ筈だ。

 まぁいい修行になるかもしれないが。

 

 《ではの。妾達は、今から頑固ジジイに会いに行くとするわい》

 《分かったよ。またね》

 

 頑固ジジイって絶対魔王だよな。会いたくねー······。

 

 なんて思いながら俺は風呂から上がった。俺が服に着替え、髪を拭いていると呼び鈴の音が部屋に響いた。俺は髪を拭きながら覗き窓から外を覗くと、そこには意外な人物が立っていた。

 

 「······もう怪我は?」

 「あ、あぁ。だ、大丈夫だ」

 

 そこに立っていたのは、セイルだった。まだ完全には治っていないのだろう。腹部を押さえながら立っている。

 

 「どうしたんです? 何か用事でも?」

 「·········すまん!」

 

 ·········え?

 

 セイルから飛び出した言葉に俺は驚いた。見ただけで分かる。彼は本心から謝罪しているようだ。彼は、深々と頭を下げらながらゆっくりと口を開いた。

 

 「お前の噂を聞いて、俺はあの日食堂に行った」

 「それで?」

 「お前は友から、仲間から信頼の眼差しを向けられ、慕われ、大切にされていた。俺にはそれが理解出来なかった」

 

 目の前で拳を握り締め、声を震わせながら話を進めるセイル。俺は黙って彼の言葉に耳を傾けた。

 

 「誰もが強者に惹かれるのは分かる。でも、強いだけであれ程の関係を築ける訳じゃない。だから俺はお前を第二訓練場に呼び出した。お前にあって俺に無いものを知りたくて」

 

 なるほど。セイルは俺達の関係に嫉妬していたみたいだ。自分の友と俺の友を比べ、どうすれば自分もあんな風に関係を築けるのか-それを確かめたかったようだ。まぁ、これは俺の推測なので、実際どうかは知らないが。にしても、一目見ただけで俺達の関係に気付くとは······。

 

 「案の定、俺は···俺達は、お前に傷一つ付けられなかった。それどころか、お前は俺の仲間に危害を加えなかった。卑怯な手を使い、お前を叩きのめそうとしたのにだ。それが俺には悔しかった。お前は最初から元凶の俺だけを真っ直ぐ見ていた。自分自身がカッコ悪くて情けないと思ったよ。俺は最初から足りないものだらけだった訳だ」

 「だから、俺の言った一対一の勝負を飲んだんだ?」

 「あぁ。今度は俺に足りないものをお前との戦いで見つけようと思ってな。······だが、俺は瞬殺された。五峰なんて呼ばれて自惚れて、プライドだけは一人前の俺じゃ、お前には手も足も出なかった」

 

 相当プライドが傷ついたのだろう。セイルは瞳に涙を浮かべながら、悔しそうに唇を噛み締めている。だが、それなら何故、決闘をこのタイミングにしたんだ。『空間魔法』を使えない状況で俺に挑む意味が分からない。綺麗事を並べて、悲劇を演じて、俺に同情でもさせたいのか? コイツは一体何がしたかったんだ。

 

 「手も足も出なかったんじゃないだろ? あんたは出さなかったんだ。どうして『空間魔法』を使わなかったんだよ。どうして本気で来なかったんだよ。どうして手を抜いたんだよ。 ······お前、それで何かを得られると思ってんのかっ!?」

 

 ほんの少し、ほんの一瞬だが、セイルの目が昔の俺の目に思えた。だからかは分からないが、俺はセイルの胸ぐらを勢いよく掴み、俺よりも身長の高いセイルを持ち上げた。

 

 「ま、待ってくれ! 俺は手を抜いたわけじゃねえよ! お前が俺に本気で向かって来てくれたのは分かってたし、感謝してる。でも、俺だって本気だった! 『空間魔法』を使わなかったのは、前にお前が仲間達の攻撃を魔法に頼らず避けきってみせたから、俺も魔法に頼らずにお前に一矢報いてやろうと思ったからなんだ! それを不快に思ったのなら謝る。でも、決して手を抜いてたわけじゃねえ!」

 

 ·········ちょっと待て。

 

 「って事は使おうと思えば『空間魔法』を使えたの?」

 「え? あ、あぁ。でも『空間魔法』を使って勝ったとしても、お前に本当の意味で勝った気がしないと思ったから、俺は魔法を使わなかったんだ」

 

 ん? って事は、もしかしてコイツは悪魔召喚の件に関係ない······?

 

 「ちなみにセイルさん、悪魔召喚って単語に聞き覚えある? あ、正直に答えてね」

 「あ、悪魔召喚!? な、なんだよそれ」

 

 うん。どうやら彼は白だ。彼の瞳は嘘を言っていない。

 

 「分かった。今のは忘れて」

 

 俺は掴んでいた手を離し、セイルを解放した。するとセイルはもう一度、深々と頭を下げてみせた。

 

 「俺の身勝手に巻き込んで、本当に悪かった! それと、自惚れてた俺に本気で相手をしてくれてありがとう!」

 

 セイルの真っ直ぐな言葉に俺は何も言えなかった。最初の件はまだしも、今日の決闘は彼なりの覚悟があったようだ。

 

 「レイラ先生、何か言ってた?」

 「あぁ。正直、俺はもう一度お前に挑もうとしてた。でも、先生の言葉でそれは止めたよ。やっぱり俺にはまだ足りないものが多過ぎる」

 「······そっか。ちなみに、今のセイルさんなら多分、ソフィさんも笑顔でついて来てくれると思うよ」

 「えぇ!? そ、そうか···? でも、俺にはまだ足りないものが······」

 

 俺の言葉に動揺するセイル。長々と思いを語っていたが、結局彼は、たった一人の女性に振り向いて欲しかっただけなのだ。自分自身を見つめ直し、弱さを認めて新たに踏み出そうとする今の彼になら、あの子もきっと振り向いてくれるだろう。

 

 「まぁ、そういう事ならいつでも〝相手になる〟よ」

 

 俺は笑顔でそう言った。すると、セイルは嬉しそうに笑顔を見せた。

 

 「あぁ。その時は頼む。あ、そうだ。ちなみにレイラ先生の言った言葉は--」

 

 そう言うと、セイルは俺に手を振り今一度頭を下げて立ち去って行った。それを見送り、大きく溜め息を吐いて扉を閉めた。

 

 『あいつはきっと〝誰かの為に本気になれる男〟だよ』

 

 セイルが言ったレイラの言葉が頭の中を駆け巡る。どうやら彼女に一杯食わされたようだ。

 

 「今度、殺気を向けちゃった事を謝らないとな」

 

 なんて思いながら、俺はカナの帰りを待つ事にした。

 

 

 

 

 夕刻、キッチンにある保存室を眺め、晩御飯をどうするか悩んでいると、ダダダダダッ!-と勢いよく床を叩きつける音がしたと思いきや、ムギューッと抱き締められた。······うちの義妹がお帰りのようだ。

 

 「お兄ちゃん、ただいまぁー!」

 「なんか···その呼び方も、もう結構馴染んで来てるね。おかえりカナ」

 「うへへ〜」

 

 一通り、俺とのハグを堪能したカナは自分の部屋に向かい、部屋着に着替えて再び舞い戻った。今日の部屋着はめちゃくちゃ短い白のショートパンツにピチッとした無地の黒いティーシャツだ。······うん、可愛い。

 

 「さーて。何を食べよっか?」

 「そうだねー?」

 

 ······近いな。

 

 カナが女の子だと発覚してからというもの、いい距離感を保てていた筈なのに、義妹という関係になってからは今まで以上にスキンシップと密着度が増している。まぁ、極力気にしないようにしているが、健全な男子には結構大変だ。

 

 「お肉〜お魚〜お野菜〜······よし、お魚!」

 「了解。じゃあ、簡単な姿焼きにしよう。カナは野菜炒めを作ってくれる?」

 「はぁーいっ!」

 

 こうして、和やかムードで俺達は晩御飯の調理を始めた。何気に二人で料理を作るのは初めてだ。なんだか、イルミと一緒に料理していた頃を思い出して懐かしい気分になる。······まぁ、イルミは主に俺の〝応援〟だったのだが-。

 

 トントントントン-と一定のリズムを刻みながら野菜がどんどんと細かく姿を変えていく。カナの手際は流石の一言だ。一方の俺は、パールフィッシュという七色に輝く魚の鱗をナイフで削ぎ取っていく。パールフィッシュは、大体人の肘から手首までの前腕部くらいの大きさだ。そしてその身は肉厚で、脂が乗りまくっている。焼けば濃厚な香りが広がり、繊維の細かい肉厚の身に甘みの強い脂が絡み付き、まるで高級肉のような食感と味わいに変わる。

 寒い海域に生息するので、この辺りでは名産になっている。

 

 なんて話していると、早速パールフィッシュの焼けた香ばしい匂いが俺とカナの鼻を誘惑してきた。

 

 「う〜わぁぁ······」

 

 これには流石の俺も、自然にヨダレが滴り落ちてしまう。お腹も胃も先程から準備万端と言わんばかりにギュルギュル-と盛大に鳴いている。その音が聞こえるなり、俺とカナは見つめ合って微笑み合う。

 

 「······よし! 焼けた!」

 「焼けたぁー!」

 

 丁度野菜炒めも出来たようなので、俺達は料理を素早くリビングに運び、冷めないうちにパールフィッシュを口に含んだ。

 

 刹那-

 

 まるで霜降り肉のようなトロける柔らかさで、パールフィッシュが口の中で弾けると、今度は濃厚な味わい深い脂と旨味が大瀑布のように勢いよく流れ込んでくる。まさに至福の瞬間だ。

 俺もカナも幸せの絶頂を迎えている。そして、パールフィッシュを口へと運ぶ右手がとどまることを知らない。俺達は、パールフィッシュをあっという間に食べ終えてしまった。

 

 「カナの作ってくれた野菜炒めも美味しいね」

 「ほんと? ありがとー!」

 

 そうして、俺達の至福の時間は幕を閉じた。

 

 「洗い物は、ボクがするね!」

 「ありがとう。んじゃあ俺は風呂に-」

 

 -と思ったが、カナの謎の威圧感に俺はピタリと動きを止め、それ以上を言えなかった。別に睨まれたり、掴まれたりした訳ではない。ただ、強烈な威圧感が俺を制止させたのだ。なので、俺は黙ってカナが洗い物を終えるまで待つ事にした。

 

 「んっふふ〜」

 

 風呂に入るなり、義妹であるカナは上機嫌に鼻歌を歌っている。そんなカナの髪を洗う俺。本当にこれでいいのだろうか-と何度も何度も思ったが、カナが嬉しそうなので俺は甘んじて今の状況を受け入れた。

 

 「お兄ちゃん、今日ね? 召喚授業があったんだけど、少しだけ精霊さんと仲良くなれたんだー!」

 「え? ホントに?」

 

 湯船に浸かり、両手でお湯と戯れながら笑顔で話すカナ。水の精霊を呼んで以降、その手の会話はほとんどしていなかったが、どうやらカナは自分で何かを掴んだようだ。

 

 「相変わらず会話は出来ないんだけど、精霊さんの目を見てると、何となーく思いが分かるようになって来たの!」

 「へぇ! そりゃあ凄いね!」

 

 どうやらカナは本当の意味で、精霊と向き合うようになったようだ。カナにも小さな変化があったのだろう。理由はどうあれ、それは大きな進歩だ。

 

 「前まではね? 兄様の事とか召喚師になりたいとか、いろんな事を考えてたんだけど、最近は少しだけ落ち着けるようになって······。だから精霊さんとちゃんと向き合えるようになったんだと思うの! えへへ。きっとエト君の······もう一人のお兄ちゃんのおかげだね!」

 

 なんて言いながらカナは俺に微笑んだ。でもきっとそれは、俺のおかげなんかじゃなく、カナ自身が変わろうとした結果だ。その少しの変化が精霊との距離を少しだけ縮めてくれたのだ。

 

 「よかったね」

 「うん!」

 

 そして、カナは再び鼻歌を歌い始めた。そんなカナの鼻歌を心地よく感じながら俺は義妹との時間に酔いしれていった-。

 

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