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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
25/71

助っ人召喚


 『異界門』を潜り抜け、俺達は奈落の峡谷へと無事に辿り着いた。ちなみに、例の金属の塊は大地に呑まれ、オブジェのようになっている。やはり、確実に動きを止めているようだ-と改めて安堵する。

 

 「こ、ここが······アビス」

 「空が遠いわ······」

 

 アリアとアヤは圧倒的な岩壁と物々しい雰囲気に呑まれている。

 

 「さてと。それじゃあ始めるよ!」

 「うん!」

 「はいですわ!」

 

 二人の意志を確認した俺は、『封魔の指輪』を取り外した。···とその瞬間、『魔力操作』で魔力を抑える間もなく、膨大な魔力圧が周囲一帯を包み込んだ。

 

 「ッ!?」

 「ちょ···エト君、待って···!」

 「あ、ごめんごめん!」

 

 俺は魔力圧に押し潰されそうな二人を見て、すぐに魔力を抑え込んだ。久しぶりだったので、つい気が抜けてしまったみたいだ。

 

 「はぁ···はぁ······っく」

 「ア、アリアさん、大丈夫?」

 「は、はい···なんとか。もう少しで気を失うところでしたわ···。今のが、エト様の本来の魔力なんですの?」

 「あ、うん。ホントにごめんね?」

 

 アリアは耐え切れずにその場に腰を抜かしてしまった。一方のアヤは膝をついてしまったものの、どうにか耐えたようだ。

 

 「えっと、それじゃあ今日からアヤはスキル習得の修行に入るよ?」

 「うん! ······うん!? え? そんな修行あるの?」

 「わ、わたくしも初耳ですわ!? スキルは任意で発現しない筈じゃありませんの?」

 「本来はね。ただ師匠との修行でやった方法なら、可能性はあるんだ」

 

 そんな俺の発言にアヤはあからさまに表情を崩す。あのイルミがやった修行方法、しかもそれは対俺用の方法-という事に不安で一杯なのだろう。しかし、残念だが逃がさない。俺がアヤの師匠である限り、強くすると決めたのだ。

 

 「あ、あのー。お師匠様というのは?」

 「前に言ったでしょ? 俺よりも強い人を一人知ってるって。それが師匠だよ」

 「そ、それは·········なるほど···ですわ」

 

 おやおや。賢いアリアには今の一言で、イルミが相当ヤバい修行をしていたのだと感じ取ったようだ。

 

 「ちなみに、この修行からは〝本気で〟修行を見るから、相当厳しいと思うよ? アヤ、大丈夫?」

 「当然! エト君の修行なら私も〝死ぬ気で〟頑張るよ!」

 

 即答とは······。やっぱりアヤは根性の塊だ。

 

 「分かった。ならこれから修行中は俺を師匠と呼ぶ事。それと、休憩中以外は私語厳禁だからね!」

 「はい! 師匠っ!」

 

 よし。いい気迫だ。

 

 「それじゃあ、まずは······」

 

 俺はそう言いながら、右手を前に突き出した。というのも、アリアがいる為、アヤに付きっきり···という訳にはいかないので、助っ人を呼ぶ事にした。初めてで緊張するが、まぁなんとかなるだろうと思う。

 

 「えっと、召喚···の詠唱は要らないのね」

 「しょ、召喚···? あ、そう言えばエト···じゃなくて、師匠は加護の付与スキルで召喚魔法も出来るんだっけ」

 「······凄過ぎますわ。まるで御伽話の英雄様のようですの」

 

 多少、手探り感は否めないが、なんとかイメージ通り魔法陣が地面に展開された。輝く光色は漆黒。それに少し紫がかっている。

 

 「アヤには〝上位悪魔〟と戦ってもらうよ」

 「えぇ!? あ、悪魔!? しかも、上位!?」

 「なんだ、それじゃあ辞める? ならアリアと〝二人っきりで〟修行するけど?」

 「ッ! ···じょ、冗談やめてよ。じょ···上等よ上等! 悪魔だろうが魔王だろうが、ぶっ飛ばしてやるわ!」

 

 そう言いながら、胸元で両拳をぶつけるアヤ。俺の思惑通りの反応をしてくれた。とはいえ、流石に魔王は召喚出来ない。というか、会ったこともないし。

 

 「忠告だけど、上位悪魔はレイズなんかと比べ物にならないからね。魔人と上位悪魔は、素人と聖騎士くらいの差があるからね。アヤの持てる全ての力を使って相対さなきゃ、本当に······〝死ぬよ〟」

 「-ッ! ······うん。分かった。師匠、お願いします!」

 「···よし!」

 

 アヤのやる気を再確認したところで、俺は上位悪魔を目の前に召喚した。

 

 刹那-

 

 強烈な邪気を纏い漂わせながら、人外の存在は姿を現した。そして、そいつは俺の〝見知った〟奴だった。

 

 〘妾を召喚し強者よ。汝の名を······名を·········むむ? そなた、エトか?〙

 

 六つの漆黒色の翼を持つ最上位悪魔。いや、まさか上位悪魔召喚で、最上位の〝熾天使級〟が出て来るとは思わなかった。ちなみに、悪魔なのに熾天使級というのは···まぁ、過去に〝いろいろと〟あったらしい。

 

 「······お前かぁ」

 〘な、なんじゃ! 妾に会えて嬉しくないのか!?〙

 「うーん。複雑···かも」

 〘なんじゃとぉ!? この〝魔界序列二位〟の妾では不満と申すか!?〙

 「んな事言ってないだろ! 忘れてるようなら言ってやるがな! 俺はお前に一回〝殺されてる〟んだぞ!? そんな奴を笑顔で迎えられるかっ!」

 〘むっ。ま、まぁ···過去の事よ。ほれ、あまりしょうの無い事にいつまでもこだわっていると、男が廃るぞ?〙

 

 ······この野郎。

 

 「よーし、分かった。今すぐ〝ぶっ殺してやる〟。覚えてるよな? 二回目に会った時、お前のケツに〝ロンギヌスの槍〟をぶち込んだこと」

 〘ひぃぃ!? や、やめとくれ! それだけは勘弁じゃ! あんな思いは二度としとうない! 後生じゃ、なんでも言う事を聞くでの! どうか慈悲をぉ!〙

 「······まぁそこまで言うなら」

 〘おぉっ! 愛しておるぞエト!〙

 

 なんて、無駄話を残念悪魔としていると、申し訳なさそうにアヤが割り込んで来た。

 

 「あ、あの······。師匠? こちらの美女は···」

 「あぁ。コイツは、ベルゼリア。一応魔界で二番目に強い最上位悪魔だよ」

 「······マカイ? 何それ、美味しいの? えっと、二番目に美味しいの? 名前がパエリアっぽいから美味しいんだよね?」

 

 ······こりゃダメだ。アヤがパニックを通り越してバグっている。瞳の黒い部分が縦横無尽に駆け巡ってるし······って、アリアは泡吹いてんだけど!?

 

 「······はぁ。とりあえず落ち着かせる所からだな」

 〘むっ。妾が悪いのかの?〙

 「いや、悪くないよ」

 

 申し訳なさそうに翼をしんなりさせているベルゼリア。こういう所は嫌いじゃないんだが。

 

 なんて思いつつ、俺はアヤの魂を呼び戻し、アリアを叩き起してから二人を落ち着かせる事にした。

 

 

 

 

 -数十分後。

 

 結構時間がかかってしまったが、ようやく二人は事情を理解してくれた。とはいえ、召喚したのが人間に近い姿をしている最上位悪魔で良かったのかもしれない。上位悪魔ならもう少し異形の姿をしている。流石にその姿を見れば、二人はもっとパニックになっていただろう。

 

 「えっと、よろしくお願いします」

 〘うむ。礼儀が出来ておるな。中々貴様らは見所がありそうじゃ。人間の中でも分をわきまえておる。しかし、エトよ〙

 「ん?」

 〘妾を召喚出来たということは、相当強くなったのじゃな。人間を〝やめた〟ということかのぉ?〙

 「ううん。ちゃんと人間だよ? というか、分かるだろ? お前は『邪眼』を持ってるんだから」

 

 いや、今は『断魔の指輪』の影響で見えないのか。

 

 〘そんなモノ、常時使う訳が無かろう?〙

 「エト様、ベルゼリア様がお持ちという『邪眼』というのは、一体なんですの?」

 「まぁ、ステータスなんかを覗けるスキルだよ」

 「な、なるほど······」

 

 っと。こんな悠長に和んでいる場合じゃなかった。

 

 俺はサッと立ち上がると、アヤとアリアも俺につられるように勢いよく立ち上がった。

 

 「ベルゼ、アヤの修行相手を頼んだよ」

 〘うむ。エトの頼みとあらば、喜んで相手をしてやろう〙

 「よろしくお願いします!」

 〘ついて参れ。妾達は向こうでやり合うとしよう〙

 「はい!」

 

 ベルゼは翼を羽ばたかせながら、アヤと共にその場から遠く離れた。距離は分からないが、姿が見えないくらいの距離は開いている。

 

 「それじゃあ、俺達も始めよっか」

 「はいですわ! お師匠様っ!」

 「あ、いや。アリアはまだいいんだよ? 基礎から始めるから」

 「そ、そうですの? では、エト様。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致しますわ!」

 

 俺はまず、アリアのステータスプレートを確認した。

 

 

 名前:アリア・スペルシア

 年齢:十七歳

 種族:人間

 加護:-

 称号:-

 魔法:聖属性魔法・身体強化

 魔力値:【5,500】

 技能:『物理耐性』・『魔法耐性』・『気配感知』・『聖属性耐性』・『状態異常耐性』

 

 

 -なるほど。魔法学園の生徒としてなら、アリアはやっぱり優秀なようだ。物理と魔法の両方の耐性を持っているのも中々珍しい。


 「アリア、アリアはどんな強さが欲しい?」

 「強さ···ですの? そうですわね······。本当であれば、エト様のような-と言いたいところですが、流石にそれは無理なので、エト様に心配されないくらいには強くなりたい······ですわね」

 「ふーん。なるほどね。となれば、まずは基礎体力と魔力コントロールを鍛える所から始めよっか」

 「はいですの!」

 「回復薬も捨てる程あるから、怪我にビビってちゃダメだよ!」

 「もちろんですわ!」

 

 元々、アリアは強さに貪欲な人間だ。俺と同じタイプと言ってもいい。多少強引でも彼女の心は折れやしない。とはいえ、最初から飛ばすつもりはないので、アリアのペースでやって行こうと思う。

 

 「まずは基礎体力。この岩壁を帰るまでに登ってみよっか」

 「こ、この壁を······わ、わかりましたわ!」

 「ちなみに、落ちても大丈夫だよ。俺が受け止めるから」

 「はい! よろしくお願い致しますわ!」

 

 そう言うと、アリアは『身体強化』を発動させて岩壁を登り始めた。強化した指先を岩壁に差し込みながらゆっくりと進んで行く。

 

 「······やるね。それは〝第二段階〟の修行内容だったんだけどなぁ」

 

 何もせずに生身でこの岩壁を登るのは中々に大変だ。しかし、『身体強化』をしながらだと魔力と体力の両方を消耗する事になる為、その疲労は倍増する。それに気付いてか、たまたまなのかは知らないが、彼女の強くなりたい-という意思がこの行動を後押ししているのは間違いない。

 

 「きゃっ!?」

 「おっ······っと。大丈夫?」

 「あっ······こ、これが伝説の···〝お姫様抱っこ〟···ですのね」

 「こーら。真面目にする」

 「も、申し訳ございませんですの」

 

 十メートル程、登った辺りで落ちて来たアリア。今のは力尽きたのではなく、手元の岩壁が崩れた事で落ちて来たようだ。

 

 「アリア、指を岩壁に刺すっていうのは悪くない方法だけど、さっきみたいに壁が崩れる事もあるんだ。『身体強化』をもっと効率的に使わないと、最後まで持たないよ?」

 「そうですわね。効率的······あっ、なるほど!」

 

 おや、何かを閃いたようで、アリアは勢いよく岩壁を登り始めた。今回は指を岩壁に突き刺すのでは無く、でこぼことした壁面に手をかけて進んでいくようだ。そして、アリアは『身体強化』を両腕のみに発動させて、魔力の消耗を抑える事にしている。

 

 「······何、アヤみたくアリアも天才肌?」

 

 効率的に-とは言ったが、これは魔力コントロールの修行、〝第三段階〟の内容だ。全く、驚きの連発である。ベルゼが出てきた時よりも驚いている。

 一方、アヤとベルゼの方では、容赦なく魔法攻撃の爆発が起こり、衝撃音が響き渡っている。あちらも頑張っているようだ。まぁ、流石に今のアヤではベルゼに傷一つ付けられないだろうが。それでも、強者との実戦経験程、有意義で効率的な修行方法は無い。それに、最悪アヤが命を落としても、すぐになら生き返らす事もできる。

 蘇生薬は流石に二つしか持っていないが、ベルゼがいるならその心配も無い。アイツは、至高の力(マスタースキル)死者支配(ヘルヘルム)】が使える。死んだモノを操る力だ。生き返らせるなんて容易いだろう。

 

 「っと。大丈夫?」

 「ありがとうございます。もう一度、行って参りますわ!」

 「うん。行ってらっしゃい」

 

 再度岩壁に挑むアリア。ちなみに、先程からスカートがめくれてピンク色の可愛いフリル付きパンツが顔を見せている。そしてそれを堪能しているのは俺だけの秘密だ。

 

 

 

 

 修行を始めてから二時間。ようやくアリアは幾度の落下を経て岩壁の半分まで登りつめていた。が、そろそろ時間だ。この辺で切り上げるとしよう。

 

 「ベルゼ?」

 〘むっ。なんじゃ?〙

 

 俺が普段通りの声量でベルゼを呼ぶと、俺の元に『瞬間移動』をして来た。ちなみにこれもベルゼのスキルだ。

 

 「そろそろ切り上げるから、アヤを呼んできてくれる?」

 〘うむ。了解じゃ!〙

 

 そう言うと、ベルゼは再び姿を消した。

 

 「あとは。おーい、アリア! そろそろ時間だよ!」

 「はいですわーっ! っしょ! きゃあああ!」

 「っと。お疲れ様。だいぶ登れるようになったね!」

 「いえ、まだまだですわ。頂上には登れませんでしたし」

 

 いやいや、だから第三段階の修行内容なんだってそれ。

 

 アリアには言わなかったが、普通に登っていれば頂上付近まで行けていただろう。しかし、アリアはそれ以上の事を初日にやってのけたのだ。十分賞賛に値する。

 

 〘エト、連れて参ったぞ!〙

 「うん、ありが······と?」

 「うぅぅぅ······」

 

 ベルゼの声に振り向くと、アヤがまるで荷物のようにベルゼに抱えられていた。完全に目を回している。

 

 「アヤもお疲れ様」

 

 聞こえていないだろうが、そう言わざるを得ない。アヤのボロボロな姿を見れば、どれだけ頑張っていたかなんて明白だ。······本当に頑張り屋さんである。

 

 「それじゃあ、帰ろっか」

 「はいですわっ」

 〘のぉ、エトよ。妾と······契約せぬか?〙

 「はい? なんで?」

 〘いやぁの? 契約すれば魔界に戻っても念話が出来るし、召喚時も魔力を消耗せずに済むじゃろ?〙

 

 まぁ、確かにベルゼを召喚した時、俺の魔力が〝三分の一近くも〟持っていかれたが······。

 

 「······したいの?」

 〘う、うむ! したいっ! 妾、エトとしたい!〙

 

 まるで子供のように目を輝かせているベルゼ。今後の修行の為に契約するのは構わないが······。まぁいいか。

 

 「分かったよ。でも、相当こき使うから覚悟しなよ。あと、絶対服従だからね」

 〘了解じゃ! 喜んで仕えるぞ!〙

 

 魔界序列二位の最上位悪魔が言うセリフでは無い-と思いながらも、俺はベルゼと契約する事にした。

 

 「汝。永遠に我に従い、我の力となれ······だっけ?」

 〘我。永遠に汝に従い、汝の力となる〙

 

 その瞬間、俺の胸部に〝痛み〟が走った。

 

 「ってぇ!?······え? どういうこと? 痛かったんだけど!?」

 

 俺には『痛覚消失』がある筈なのだが、なぜ痛みを感じたのかがさっぱり分からない。俺は急いで上半身を晒して状況を確認した。

 

 「······え? 何これ」

 

 そこには、胸部を覆い隠す程の大きな六枚の虫の羽根のようなものが刻まれていた。

 

 「いやいや、契約紋ってもっと小さいやつじゃないの?」

 〘うむ。下位のモノじゃと指の関節程じゃろうが、妾は最上位、熾天使級じゃ。契約紋の大きさが強さという事じゃな。ちなみに契約紋は体の表面に浮かび上がるが、実際に刻まれるのはエトの〝魂〟じゃ。『痛覚消失』というスキルでも、魂の痛みは消えぬよ〙

 「なるほどね。······ってヤバいじゃん! こんなの浮かび上がられたら、みんなの前で着替えとか出来ないんだけど!?」


 それに一番の問題はルームメイトのカナだ。召喚師を目指しているカナがこんなのを見れば······終わりだ。

 

 〘いや、じゃから。魂に刻まれておると言ったじゃろ? 表面上の契約紋なんぞ、どうとでもなる。もちろん、召喚時には浮かび上がるがのぉ〙

 「な、なんだ······。良かった」

 〘まぁそれが出来るのは、妾クラスの契約紋だけじゃがの〙

 「んじゃ、普段は消しといてくれる?」

 〘なに、妾がせずともエトがそれを願えば可能じゃ〙

 

 と、言う事で。早速試してみると、大きな契約紋はみるみるうちに消えて行った。更にベルゼは、契約した事で本来の姿になれる事を俺に伝えた。確かにベルゼは今、翼の生えた少女の容姿をしているが本来の姿になれば、今の少女姿から大人バージョンに変わり、幾つもの漆黒の炎を背後に携え、二本の角と獅子の尾を生やし、巨乳化する。そして、魔力も今の倍になるのだ。

 ちなみに、今の魔力値は【250,000】である。本当に化け物だ。

 

 「お待たせ、アリア」

 「いえ。もうお済みになりましたの?」

 「うん」

 

 契約はアリアから少し離れた場所で行った。アリアも召喚の契約は初めて見たようで、その不思議な雰囲気に圧倒されていたと語った。

 

 「これで、エト様は召喚師にもなられたわけですのね!」

 「そうなっちゃったね」

 「あ、もちろん内密に致しますわ?」

 「うん。ありがと」

 〘ではの。妾は帰るぞ〙

 「あぁ。またよろしくね!」

 

 俺の言葉に笑顔を見せると、ベルゼはスーッと姿を消した。

 何はともあれ、こうして俺達は修行初日をなんとか終える事が出来たのだった。

 

 

 

 帰り道、アヤをアリアに託して俺は男子寮団地に戻って来た。そして、いつものように家の扉を開けると、ダダダダダッ-と勢いよく床を蹴りつける音が耳に飛び込んできた。と、同時にカナが満面の笑顔で俺を出迎えてくれた。

 

 「エト君、おかえりーっ! ご飯? それともお風呂?」

 「ただいま。そうだな、じゃあご飯かな?」

 「はいはーい!」

 

 そう言うと、ステテテテ〜! -とキッチンに消えて行った。······なんだかいつもより楽しそう···というか、嬉しそうな気がする。

 

 「っと。······あれ? カナもご飯まだなの!?」

 「そーだよー!」

 

 キッチンから答えるカナ。この時間、いつもならカナは布団に転がっている頃だ。なのに何故、カノも今から晩御飯を食べるのだろう。そんな疑問の中、俺はある答えを導き出した。

 

 「よ、夜遊び!? カナが不良に······」

 「もぉー、違うよー?」 

 

 おっと。心で叫んでいたつもりが、声に出ていたらしく、カナはそれを否定して来た。

 

 「単に、エト君を待ってたの! それだけだよ?」

 「えっ? 別に先に食べてても良かったのに」

 「まぁ······ね。そのー、ちょっと兄様のこと思い出しちゃったんだ。もしかしたら、エト君もこのまま帰って来ないんじゃないかって······勝手に不安になっちゃっただけなんだけどね」

 「そっか。それじゃあ、二人で食べよっか!」

 

 カナの不安は俺にも痛い程分かる。だから、せめて一緒にいる間はカナの事を支えてやろうと思った。

 

 「それじゃあ」

 「うん! せーのっ」

 「「いただきます!」」

 

 部屋に響く二人の声。重なり合った声はまるで兄妹のように仲睦まじいものだった。

 

 「······ところでお風呂は?」

 「まだ······だよ?」

 「まだ···なんだね。それは流石に···一人で······入る·········はぁ。一緒に入る?」

 「うん!」

 

 カナはそれでいいのかよぉぉぉっ!?

 

 食事を終えると嬉しそうにスキップをしながら脱衣場に向かうカナ。まぁ、カナの正体が分かってからは、彼女を妹みたいに思ってたから、欲情したりなんてしないが、女の子として心配になってくる。

 

 「もぉー、エト君? 早く早く!」

 

 脱衣場からひょっこりと顔を出すカナ。顔の出し方から見て、既に服は脱いでいるっぽい。

 

 「分かったよ」

 

 はぁ。まぁいいか······。

 

 そう思いながら脱衣場に入ると、カナが堂々と生まれたままの姿で俺を待っていた。と、同時に俺は必死に辺りを見渡し、カナの羞恥心を探した。

 

 「ごめんね。はしたない······よね」

 

 その言葉に俺は羞恥心の探索を取り止めた。というか、動揺する事をやめた。俺が動揺すれば、彼女を不安にさせてしまうらしい。なら、本当の兄弟のように接してやろうと思った。

 

 「ううん。そんな事ないよ。···と」

 

 そう言いながら、俺もカナに堂々と生まれたままの姿を見せた。カナは恥ずかしさや、いやらしさなどでは無い、純粋な安堵の表情を浮かべていた。

 

 「わがままに付き合ってくれて、ありがとう。〝お兄ちゃん〟っ!」

 

 やはり彼女はそういう思いで接していたようだ。だから、羞恥心が無く、邪な思いを持つこともなかったのだ。

 

 「ったく。今日だ·········いや、お兄さんが見つかるまでの間だけだからね?」

 「やったぁ! うへへ、わーいっ!」

 

 そう言いながら、心底嬉しそうに俺を抱きしめる。そして、密着しながら俺の頬に自分の頬を擦り寄せる。

 

 流石にこれは無理ですッ!

 

 「ごめんね。先に謝っとく」

 「ん? なにを?」

 

 俺は謝りながら···そして自分を責めながらカナをゆっくりと引き離した。すると、カナの視線は自然と下に向かい······-

 

 「······うわぁお! こんなになるんだぁ!」

 

 やめて。俺の羞恥心が持たないから······。

 

 「お兄ちゃん、さわってみ-」

 「絶ッ対、ダメッ!」

 「···そっかぁ。それじゃあ入ろ! 背中、洗ってあげるね〜」

 

 とんでもない事を言い出したカナは、俺の手を引きながら浴室へと飛び込む。いや、マジで今のはビックリした。その内、真面目にそういう事を教えた方がいいと思う程に焦ってしまった。教えるなら······アヤ一択だ。

 

 なんて思いながらも、俺とカナの時間は過ぎていった-。

次回更新は来週の日曜日の9時頃です。

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