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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
23/71

陰謀と無謀


 翌朝、俺が目を覚ますと珍しくカナが家の裏でトレーニングをしていた。内容は精神統一。これは精霊召喚師にとって重要なトレーニングである。というのも、自然と一体になるということは、精霊と意志を通わせる上で必要不可欠だからだ。

 

 「邪魔しちゃ悪い······か」

 

 そう言えば、俺も加護の付与に『精霊召喚』ってあったよな。······今度試してみるか。

 

 なんて思いながら朝食の準備を始めた。今日の当番はカナだが、たまにはそんな日があってもいいと思う。

 

 

 

 

 そして、いつものように二人で学園に向かう。すると、学園の前でシルビアとアリアが誰かを待っているような雰囲気で立っていた。アリアは······多分俺だろう。今、目があったが、満面の笑みで手を振っている。

 一方のシルビアは、カナに用があったらしく、カナを呼び止めた。

 

 「カナリア君、昨日はごめんね?」

 「おはよう、シルビアさん。昨日も言ったけど、気にしてないから謝らないで?」

 「よかったら、途中まで一緒に行かない?」

 「もちろん! エト君、またね!」

 「うん!」

 

 俺に手を振ったカナはシルビアと共に学園へと入っていった。シルビアとカナに変なわだかまりが生まれなくてよかった-と俺は心の中で安堵した。

 

 「おはようございますですわ。エト様」

 「おはようアリア」

 

 一方の俺は、アリアと挨拶を交わす。当然のように隣に並ぶアリア。というか、アリアって俺よりも少しだけど身長高いんだ-なんてふと思ってしまう。······悔しい。まだまだ成長期だと思ってはいるものの、時々心が折れそうになる。

 俺の周りで俺よりも身長が低いのはクロとミーアだけだ。全く、世界は理不尽で残酷だ。

 

 「今日は朝から実技授業ですわ。張り切って参りましょう」

 「そう言えばそうだったね」

 

 今回の実技授業の内容は、実際に魔獣と戦う-というものらしい。とは言っても、対する魔獣はシャドウ・ドールという人工的に造られた魔獣だ。流石は北方大陸の技術力といえる。

 なんでもレベル式というシステムを搭載しているものらしく、1から5まで強さが変化する。昨日の帰りに説明があったが、攻撃はしてこないとの事。

 

 「というか、一向に訓練服を貰えないんだけど」

 「おそらくレイラ先生がお忘れになっておられるのでは······」

 「······あんにゃろ」

 「ま、まぁまぁ。エト様、抑えて下さいですの」

 「おっ! エトじゃん、おっす! アリアさんもおはよ!」

 

 なんて話していると、クラスメイトの男子生徒が後ろから俺の背中を軽く叩いてきた。確か、名前はデイルだ。

 

 「おはようデイル」

 「おはようございますですわ」

 「どーしたよ、不機嫌そうな顔して。可愛い顔が台無しだぞー?」

 

 そう言いながら、俺の頬を人差し指で突っつくデイル。なんだろう、おちょくられている感がすごい気がする。多分悪気は無いのだろうが、それでももう少し気を配って欲しいものだ。隣で今にも発狂しそうな奴もいるし。

 

 「なーんだ。そんな事かよ?」

 

 とはいえ、一応不機嫌な理由を話す事にした。

 

 「んじゃあ、俺の貸してやろうか? 予備の持ってるし!」

 

 その言葉を聞いた俺は、勢いよくデイルの肩を掴んだ。「ホント? ありがと。デイルって優しいね!」-なんて言われると思っているのだろう。すでにドヤ顔で微笑みが漏れ出さんとしている。······が-

 

 「デイル君······」

 「おう! 礼なんか要らねーぞ? 友達だしな!」

 

 うん。凄く素敵なセリフをありがとう。でも、違うんだよ······そうじゃないんだ。

 

 「あなた······なんて〝残酷〟な······」

 

 隣でアリアが涙を浮かべながら口を手で覆っている。俺の置かれた状況を理解したのだろう。ただ、残酷は言い過ぎだ。そこまで心は折れちゃいない。しかし、今後の為にほんの少しだけ言っておくとする。

 

 「え? え?」

 「分かんないよな······。デイルは男前だし、腕も太いし手も大きい。身長だって170以上はあるよなぁ。第一、俺は骨格からして違うんだよ。なんでこんなに顎のラインとかシャープなんだ······。肌のキメだって細かいしスベスベでムチムチだし、体臭だってなんか甘い匂いがするし。まつ毛がやたらと長いのも気になるんだよな······。あーいや、いいんだ。デイルは悪くない、悪くないよ? 悪くないけど、もうちょっと人の事考えよーな?」

 

 そう言いながら、俺は不敵な笑みでデイルに微笑みかけた。俺の後ろに鬼でも見えたのか、デイルはもの凄い速さで首を縦に振っている。

 

 「ごめんって! 悪かったよ! じゃ、じゃあな?」

 

 両手を合わせながら、そそくさと退散したデイル。遠くで「エトって怖ぇ〜···」-なんて声が聞こえている。······失礼な。俺はこれでも相当温厚な方だ。

 

 「まぁ、とにかく行こっか」

 「ですわね」

 

 朝から少し取り乱してしまったが、まぁこんな日もあっていいんじゃないかと思う。

 

 

 

 

 教室に着くと、生徒達の姿は無かった。既にみんな訓練場に向かったみたいだ。アリアと俺が準備を急ぐ中、シルビアが焦った様子で教室に飛び込んで来た。

 

 「あ。なんだ、ギリギリだねシルビア。おはよう」

 「あー! いたっ! エト、それどころじゃないの!」

 

 どうやらシルビアは俺を探していたらしい。遅刻しそうになっていた-とからかってやろうと思ってたが、なんだか深刻そうな表情を浮かべている。そんなに焦ってどうしたのか-と問いかけると、シルビアは問答無用で俺の手を引いて駆け出した。

 

 「時間がないの! 話は向かいながらよ!」

 「え? あ、うん」

 「ちょ、ちょっと待って下さいですの!」

 

 シルビアは走りながら事の事情を説明し出した。向かっているのは、模擬戦や小テストで使用した訓練場の半分くらいの大きさで、例の学園長魔法はかけられていない第二訓練場。というのも、一般科の一部生徒達がその訓練場で朝練をしてした際、召喚した召喚獣が暴れ出したという。〝召喚した〟と聞いて、俺はカナのことを思い浮かべ、シルビアに問いかけた。

 

 「それって」

 「大丈夫、カナリア君じゃない。でも、カナリア君もその場に居たらしいわ! 先生から聞いた話だから見たわけじゃないんだけどね」

 

 とはいえ、召喚獣の暴走というのはあまり聞かない話だ。何故なら召喚獣には〝いろいろと〟制約がある。その為、召喚獣が自らの意思で暴走というのは極めて低い。まぁ可能性がゼロでは無いので断言は出来ないが、もし本当に暴走しているのだとしたら、人為的、意図的に暴走させられた可能性の方が高い。

 

 「シルビア、それ先生から聞いたって言ったよね?」

 「そうだけど?」

 

 ······なら、俺が行く必要無くね?

 

 -と思っていたら、アリアが代わりに言葉にしてくれた。

 

 「先生が周知の事でしたら、シルビアさんがエト様を連れていかれる理由が見当たらないのですけど?」

 「私だってそう思ったわ。でも、その先生······アヤ先生が学園長の指示だからって言うから!」

 

 おっと。なるほど、シルビアがすれ違った先生ってのはアヤだったのか。そしてシルビアはその時に今回の話を聞いたというわけだ。······にしても、アヤはどうして俺を向かわせようとしたのだろう。学園長の指示だとしても、一生徒にそんな所に向かわせるのはおかしい。何か裏があるんじゃないか-と、賢いアヤなら気付くと思うのだが······。一応、念話してみる事にしよう。

 

 《アヤ!》

 《ひゃっ!? え、エト君? どうしたの? もう授業始まるよ?》

 

 ······ん? 気のせいか、アヤの話し方がやけに落ち着いている。というか、いつも通り······。

 

 《ねえアヤ。ちなみに今どこ?》

 《教員室だよ? 今日ちょっと来るの遅れちゃったから朝からバタバタでねー》

 

 やっぱり、なんだかおかしい。シルビアに話をして、自分は教員室で仕事? 俺を呼ぶ程の事があったのに?

 

 「ちょっと、エト? 何黙り込んでるのよ!」

 「ま、まぁシルビアさん。エト様は何か考えられておられるのですわ。先を急ぎましょう」

 「そ、そうね!」

 

 念話中だと感じ取ったのか、アリアが気を利かしてくれた。

 

 《アヤ、さっきシルビアと会った?》

 《シルビアって、エト君のクラスのツンツンしてる子よね? んー、どうだろ。いろんな生徒に挨拶されるから、知らない間に会ってるかもしれないけど···?》

 

 なるほど。そういう事か······。

 

 《分かった。忙しいのにごめんね?》

 《ううん。大丈夫だよ! それじゃあね!》

 

 念話を終えると、俺は足を止めた。

 

 「ちょっとエト!? どうして止まるのよ!」

 

 急に立ち止まった俺の腕を必死に掴み取るシルビア。一方のアリアは念話で何かを知ったのだと感じ取り、俺の顔を覗き込んできた。

 

 「エト様······?」

 「〝喧嘩を売られたみたい〟だね」

 「え?」

 

 俺の言葉にアリアは不安そうに首を傾げている。そして、クスッと鼻で笑うと再び足を動かし始めた。

 

 「全く。なんだっていうのよ!」

 「なぁシルビア、〝お前は訓練場に行けよ〟」

 「ッ!? ···エ、エト? ど、どうしたの? 口調が······変よ?」

 

 そう言いながら、声を震わせるシルビア。変なのは口調だけでは無い。表情もいつものようなふわふわとした温厚なエト・リエルでは無い。そんな俺に焦り始めるシルビア。

 

 「いいから。······な?」

 

 俺はシルビアの頭に優しく手を置いて訓練場に向かうように伝える。

 

 「アリア。わりーけど、シルビアの事頼むな」

 

 荒々しい口調をアリアに向けると、アリアはすぐに理解してくれた。多分、アリアは何も分かっちゃいない。それでも、アリアは文句一つ無く俺の言葉に首を縦に振ってみせた。余程信頼してくれているようで嬉しく思う。

 

 「だ、大丈夫なの!?」

 「シルビアさん。行きますわよ」

 「ねぇ、エトってば!」

 

 納得する間もなく、シルビアはアリアに無理矢理連れていかれた。ちなみに訓練場と第二訓練場は真逆の位置にある。つまり、アリア達は俺を背に駆けて行った訳だ。今尚背後でシルビアの声が聞こえている。

 

 「はぁ···。全く誰か知らねえけど、おいたが過ぎる」

 

 アヤは今回の件について周知していなかった。ということはだ、誰かがアヤになりすまして俺を陥れようとしている-という事だ。まぁ、その程度なら俺は動じやしないが、なりすました相手が悪い。

 

 「俺の大事な仲間になりすましやがって······」

 

 許さねえぞ······この野郎。

 

 どこのどいつか知らないが、いい度胸をしている。更に第二訓練場···というのも気に入らない。怪我をしても治る訓練場とは違う。主に体術訓練に使われる場所に呼び出すあたり、俺に怪我をさせる気満々だ。久しぶりに心の底から苛立ちを覚える。

 

 「上級回復薬もあるし。······〝半殺し〟だな」

 

 

 

 一方。

 

 「ねぇアリア! 離してってば!」

 「······おかしいとは思いませんの?」

 「な、何がよ?」

 

 シルビアの手を離したアリアがそう呟いた。おかしい? なにが? なんの事だかシルビアには分からない。

 

 「まず、一生徒でおられるエト様にこの件を任せようとする学園長の指示ですわ。それから、召喚獣の暴走などという事件が起こっているにも関わらず、いつも通りの静かな学園」

 「そ、それは······そうだけど。···なに、どういう事? 何が言いたいのよ?」

 

 アリアの言うこと-それをシルビアは理解出来た。確かにエトが強いと言っても一生徒だ。呼ぶ理由が学園長の指示だとしてもよくよく考えれば不自然ではある。それに、警報の一つも鳴っていない静かな校舎。もっと慌ただしくしていてもおかしくは無い。

 

 「···つまりはですね。どこぞの愚か者が、エト様を呼びつけて何かを企んでいる······ということですわ」

 「えぇ!? で、でも私、アヤ先生に言われたのよ? 先生もぐるだってこと!?」

 「それはありえませんわね。おそらく、『変身魔法』の類を使用したのですわ」

 

 シルビアは驚きのあまり、言葉が出なかった。というか、本当にそうならシルビアは利用されたとはいえ、エトを焚き付けた事になってしまう。そう思ったシルビアは、徐々に罪悪感を膨らませていく。

 

 「仕方がないですわ。アヤ先生は新任教員、癖や仕草なんて誰も知らないのですもの。今回は、たまたまあなただっただけで、他の生徒だったかもしれないのですから。気にする必要はありませんわ」

 「そう······かもしれないけど······」

 

 そう聞いてすぐに納得出来る訳もなく、シルビアは煮え切らない様子で唇を噛み締めている。そんなシルビアの手を取りながら、アリアは優しく微笑んだ。

 

 「心配するのであれば、〝相手の方〟ですわね。ふふふっ。本当に愚かな事を······。誰を相手にしたのか、心の底から後悔すればいいですわ」

 

 そう言いながら不敵に微笑む。そんなアリアにシルビアは背筋を凍らせる。冷たい目が、どこか遠くを見つめている。一体、彼女はエトの何を知っているのか? エトがアリアを友人にしたのは既に知っているが、その時に何があったのか···。どうして彼女は、ここまでエトの事を信頼しているのか······。

 

 「本当に···大丈夫······なの?」

 「ええ。心配するなんて〝おこがましい〟ですわ。それよりも、早く訓練場に行ってこの事をレイラ先生に伝えましょう」

 「そ、そうね!」

 

 アリアの言葉に引っかかりながらも、シルビアはアリアと共に訓練場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 「第二訓練場···。ここだな」

 

 第二訓練場に辿り着いた俺は、すぐに訓練場内に入った。すると、場内には数十人の生徒達が俺を待ち構えていた。······いやいや。多過ぎるだろう。

 身の危険-という意味では無い。これ程の生徒達が授業をサボっている事に動揺したのだ。軽いボイコット、学級崩壊とも言える。全く、この学園はどうなっているのやら。

 

 「おー、来た来た」

 「本当に女の子みたーい!」

 「というか、休日に呼び出される身にもなれってんだよ!」

 

 先程から好き勝手に言ってくれている。というか、なるほど。彼らは今日休日だったようだ。この学園は、クラスや科によって休みすらもバラバラである。だから、これだけの生徒達が集まった-ということらしい。

 

 「で? 呼び出された感想は?」

 

 リーダー格の男子生徒が肩で風を切りながら歩みを進める。集団から一歩前に出ると、そんな事を問いかけてきた。

 

 「みなさん暇なんですね!」

 

 俺は、これでもかと言うくらいに素敵笑顔でそう言った。多分、このリーダー格の奴がみんなを集めたのだろうが、それにしても集まり過ぎだ。そう思った故の言葉だった。

 

 「あはははっ!」

 「確かにそうだよね〜! キミの言う通りだよ」

 「セイルが呼び出すから、どんな子かと思ったけどこの子おもしろーい!」

 

 何やら俺の言葉は相当面白かったらしい。が、そんな中、リーダー格の男···セイルという生徒だけは俺を真っ直ぐ睨みつけている。どうやら彼は俺に相当の思い入れがあるらしい。

 

 俺は見た事が·········いや、あったな。確か、食堂で頭から水を被った奴だ。

 

 思い出した俺は、セイルに微笑みながら声をかけた。

 

 「お互い〝風邪引かなくて〟よかったですね?」

 

 その瞬間、ブチッ-と何かが千切れるような音が訓練場内に響いた。そして、セイルは血走った目で再びおれを睨みつけてくる。

 

 「調子に乗るんじゃねーぞ糞ガキ。所詮速いだけのD風情が俺達Sクラスにたてつきやがって」

 「······それで? そのSクラスの方々はどうするおつもりで?」

 

 そう言いながら、準備体操を始めた。生徒達は、俺の行動に笑えない程に驚いているようだ。

 

 「ね、ねえ? 一応言ってあげるけど、セイルはこの学園で〝五峰〟と呼ばれている天才よ?」

 「そうだよ? 謝っておきなって。私達だってリンチみたいな事はしたくないし」

 「何言ってんだよ! んなあめー事言ってんじゃねーぞ!?」

 「だから女子には声かけるなって言ったのに···。セイルってば女好きなんだから」

 

 数人の女子達が俺のことを心配するような素振りを見せている。セイルという男は、自分が一番-と言うことを女子達に知らしめたかったのだろう。······心底くだらない。第一、強い奴には惹かれても、強情な奴には惹かれないと思うのだが······。

 

 「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。避けるのは得意なんで」

 

 全員半殺しにする予定だったが、全員が敵···という訳でも無さそうだ。その為、俺は気持ちを切り替えて回避に専念する事にした。

 

 「···んのガキ!お前ら行くぞ!」

 「「「うぉぉおおおおおッ!」」」

 

 本当に総動員で来るとは······。さてさて。何分持つのやら-。

 

 

 

 

 

 -三十分後。

 

 第二訓練場内には、魔力切れを引き起こし力尽きる生徒で埋め尽くされていた。酷いもんだ。これならアリアやクロ達の方がまだ出来る。シルビアは······まだまだだが。

 

 「あの。セイルさん······でしたっけ?」

 「ッ! ······畜生」

 「じゃなくて、みんなを戦わせて自分は体力温存ですか? 俺一人に? えっと······ゴボウ? の一人で天才なんでしょ? なのにこんな戦い方するんですね」

 

 俺は目の前で倒れている女子生徒-攻撃を仕掛けて来た生徒達の中で、一番疲労している女子生徒を抱え上げながらセイルに声をかけた。

 俺の言葉に表情を鬼の形相へと変えていくセイル。余程挑発が聞いているようだ。ちなみに五峰(ごほう)をゴボウと言ったのはわざとだ。流石にそんな言い間違えや憶え間違えはしない。

 

 「こんなに無理して。お姉さん、俺に怪我をさせないように気を使ってくれてたよね? ありがと」

 「ご···ごめん······ね?」

 「ううん。大丈夫だからね」

 

 俺の腕の中で、涙ながらに謝罪する女子生徒。俺に当てまいとしたが故に彼女は一番疲労してしまったのだ。そういう事なら、彼女は俺の〝敵〟ではない。

 彼女は、微笑んだ俺に頬を染めながら微笑み返した。

 

 「···テメェ、ソフィに触れてんじゃねえよ」

 

 どうやら俺の抱え上げた女子生徒はソフィという名前らしい。名前なんてどうでも良かったが、多分セイルは彼女に気があるのだろう。誰が見ても分かる反応だ。俺はソフィをゆっくり寝かせると、膝の土を払いながら立ち上がった。心配しなくても、俺に寝取り趣味なんて無い。

 

 「······俺が体力温存だのなんだのって言ってたな? 勘違いしてんじゃねえ。俺が手を加える程の相手かどうかを確かめてただけだ」

 「そう···。それで? 結果はどうだったんです?」

 

 俺がセイルに問いかけると、セイルは不気味に微笑みその場から動くこと無く手を勢いよく突き出した。その瞬間-

 

 「おわっと······」

 

 いきなり顔面に襲いかかってきた手を瞬時に避けてみせる。状況から察するに、セイルは『空間魔法』を使うらしい。セイルが突き出した右手は、腕の途中が消え、その先が俺の顔面に襲いかかってきたわけだ。

 

 「へぇ······。面白いね」

 「その余裕の表情も今のうちだ」

 

 そう言うと、今度は体ごと消えてみせた。『空間魔法』は、俺の『異空間魔法』とは違い、その場の空間を利用する。つまり、セイルはこの空間内に必ず存在している。とは言っても、空間を切り取っている為、こちらからの攻撃手段は〝今の〟俺には無い。

 加えると、今のセイルを『気配感知』程度では感知出来ない。しかし、俺には『魔力感知』がある。セイルの気配が無かろうと、セイルの魔力が辿れなかろうと関係は無い。『空間魔法』自体の魔力の波動を探せばいい。

 

 「······うん。見える見える」

 

 空間に生じた魔力の波動がゆっくりとこちらに向かっている。後は、セイルが姿を見せれば攻撃すればいい。

 

 なんて思っていると-

 

 「双方そこまでっ!」

 

 突然訓練場内に響き渡った声。その声の方向に目を向けると、レイラとシルビアとアリアが居た。シルビアは目の前の惨状に目を見開いている。当然だ、状況から見て俺がセイル以外の数十人の生徒を負かしたような状態だ。驚くのも無理はない。

 

 「空間に魔力の波動···。やはりセイル・マードックだな」

 

 どうやらレイラも『魔力感知』が使えるようだ。レイラの言葉にセイルは姿を現した。

 

 「なんですかレイラ先生?」

 「なんですかじゃないだろう。休日に校内施設の無断使用、十分厳罰ものだぞ」

 「いえ、俺はただエト君に特訓して欲しいと頼まれただけですよ」

 「·········この人数でか?」

 「えぇ。彼は中々の手練のようですので、この位が丁度いいかと」

 

 呼び出したのはお前だろ! そんなめちゃくちゃな言い訳があるか!

 

 「······そうか」

 

 いや、納得しちゃったよレイラ先生!?

 

 そう言いながら、俺に歩み寄るレイラ。俺の隣に立つと、レイラは耳元で小さく呟いた。

 

 「すまんな。あいつはちょっと面倒な家柄でな。証拠も無く厳罰には出来ないんだ。追求すれば、お前が不利になる」

 

 なるほど。そういう事なら仕方がない。押し問答になれば、多数決で俺の負けだ。

 

 「まぁでも来てくれてよかったです」

 「ん? なんだ、私が恋しかったか?」

 「いや、危うく〝風穴を開ける〟とこだったので」

 

 そう言いながらセイルを〝本気で〟睨みつける。セイルは、その殺気混じりの視線に冷や汗を流しながら後退っている。

 

 「···そ、そうか。それは本当によかったな」

 「先生、後の事は任せていいですか?」

 「あぁ。もちろんだ。学園長にも上手く言っておく」

 「ありがとうございます。あと、セイルって人に言っておいて下さい。まだやるって言うなら〝今度はサシでしよう〟って」

 「あ、あぁ。構わないが······」

 

 そう言いかけて口篭るレイラ。大方、俺がセイルを半殺しにするんじゃないかと疑っているのだろう。しかし、レイラ達が来てくれた事で、冷静になれた。もうその気はない。

 

 「大丈夫ですよ。もう〝半殺しになんて〟しませんから」

 

 レイラにそう呟いて俺は訓練場を後にした。

 

 「······底の知れん奴だよ。お前は。セイル、エトからの伝言だ。もしまだやるって言うなら、今度は一対一で-という事だが、どうする?」

 「······そうですか。俺もそのつもりでしたからよかったです」

 

 レイラの言葉にセイルは闘志を燃やす。しかし、彼は分かっていない。エトという少年がどういう存在なのか······。レイラ自身も全てを知っている訳では無い。だが、レイラが確実に言えることは、エト・リエルという少年は〝本性を表していない〟という事だった。

 あの学園長の推薦で編入し、教員長で元Sランカーのベルエラを負かし、自分自身も瞬殺された。風属性魔法の上位属性である雷属性魔法を使い、身体能力も他の生徒とは〝桁が違う〟。

 確かに学園の五峰と呼ばれる五人は、学園生徒の中でも〝最強格〟と言われいる。その一人であるセイルであっても、彼が負ける想像がレイラには出来なかった。〝無謀〟······そう思えて仕方がないのだ。

 

 「······そうか。場所や日時が決まれば言え。私が立ち会おう」

 「先生がですか? それはありがたいですね。分かりました。またご連絡させてもらいます」

 

 いろいろと思うところがあるものの、レイラは事後処理を始めるのであった。

 

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