魔法学園
翌日、俺とカナは一緒に家を出る事にした。昨日の夜に決めた事だが、家事担当は一日ごとに交代で、風呂は帰って来た順という事になった。ちなみに昨日は、カナが家事をしてくれた。昨日来たばかりの俺に気を使ってくれたらしい。本当に良い奴だ。
「カナ、行くよー?」
「待ってー!」
加えると、カナは朝が弱いらしい。今日もギリギリで今もバタバタだ。まぁ起こすくらいはしてあげるつもりでいる。
「うんしょっと。お待たせっ」
コンコン-と、靴の先端を床に叩きつけながら俺の腕に捕まるカナ。周りから見れば、完全に姉妹に見えるだろう。個人的には、せめてカップルに見えて欲しいものだ。······いや、その前に男同士で腕を組んで歩くというのは、流石に不味い。社会的に死ぬ気がする。
「カナ? 腕を組むのは流石に······ね?」
「あっ······ごめんね? つい······」
ついってなんだよ! -と言おうとしたが、カナの表情が何処と無く暗い気がしたので、俺はそれを踏み止めた。なんだか訳ありな気がしなくもない。
ともあれ、今日から俺の学園生活が始まる訳だ!
なんて、珍しく浮かれてしまう。どんな奴がいるんだろう。そして、本当に妹はここにいるのだろうか。なんていろいろ考えながら、カナの後を追って学園に向かった。
学園に着くと、多くの生徒達が両開きの大きな門を通り抜けて行く。ちなみに、ここの制服は灰色のスボンに黒色のシャツ、そしてその上から裾の尖った白いベストを羽織っている。当然、女子はスカートだ。更に魔法学園敷地内は一定の気温が保たれている。そのため、こんな薄着でも快適に過ごす事が出来るわけだ。
いや、ホント。風呂もそうだけど、考えた奴マジで天才だ。
門の両脇には教員が立ち、生徒達と挨拶を交わしている。······と、そんな中、凄い人集りが俺の視界に飛び込んできた。それはカナも同じだったようで、情けない声を出している。
「ひぇ~。凄い人だね? 何があったんだろ···?」
「さぁ?」
全くもって興味が無いのだが、カナは気になったらしく、カナに連れられて人集りの出来ている近くに向かうと、そこには見知った顔の人物が困った様子で立っていた。
······何やってんだ? アイツ。
そう。そこに居たのは新人教員として魔法学園に赴任しているアヤだった。どうやらアヤはその美しさで、男子生徒をメロメロにしてしまったらしい。一躍ときの人となっているのだ。
「わぁ······。綺麗な人。新しい先生かな?」
「そ、そうなんじゃない? 昨日会ったし」
カナの言葉に適当な答えを返す。すると、アヤは俺に気付いたようで、慌てるように念話を飛ばして来た。
《エト君、助けて~》
とはいえ、何だか新鮮で面白いので、スルーする事にする。
《ちょ、ちょっとー! いいの? なんだか交際を申し込まれちゃってるんだけど!?》
アヤの言葉にあえて反応しない。すると、アヤは機嫌を損ねてしまったようで、無茶苦茶な事を言い出した。
《エト君の馬鹿! 薄情者~! いいの? 私が他の男に〝抱かれても〟いいのー?》
俺はアヤの言葉にピクリと反応した。そして、アヤの言う状況を想像すると、流石にちょっと胸の辺りがチクッと痛くなった。
《······それはやだ》
そう言うと、アヤは顔を真っ赤にして、これでもかと言うくらいに嬉しそうな笑顔を見せた。······やってしまった。これじゃあ、アヤを誰にも渡したくない宣言をしているのと同じだ。一瞬で押し寄せる恥ずかしさに死にたくなる。
《えへへ。そっかぁ。嫌か~······。くへへへ》
なんだか気持ちの悪い笑い方をし始めた。この場にいるのが耐えられなくなった俺は、カナを連れて学園の校舎に飛び込んだ。
《あぁ~! エト君ってばーっ!》
なんて言葉が聞こえて来たが、俺は無視して歩みを進めた。
校舎に入り、カナと別れた俺は、魔法科Dクラスの扉の前に立っていた。ここか!-なんて考えていると、Dクラスの生徒達が続々と俺の横を通り過ぎて教室に入って行く。なんだかめちゃくちゃ見られているが、俺は気にすること無く教室に足を踏み入れた。
「ねぇあれ誰?」
「さぁ? ていうか、女子?」
「いや、男子用の制服だし男子だろ?」
「え、可愛くね!?」
教室に入るなり、全ての視線は俺に向けられた。と同時に、案の定俺を可愛いだの、ひ弱そうだのと盛り上がっている。迷惑な話だ。
っていうか、どこに座ればいいんだろ?
教室に入ってみたものの、座る席が分からない。とはいえ、この教室は、教卓を前に扇形の階段のようになっているので、どこに座っても良い気がする。······という事で、俺は一番後ろの誰も座っていない席に座る事にした。
「よっと」
そして、ベルが鳴るまでボーッと惚けてみる。特にやる事もないし時間を潰せるアイテムも無いので仕方が無い。なんて思いながら今まさに大きく溜め息を吐こうとした時、一人の女子生徒が声をかけてきてくれた。
「ねぇ、あんた噂の編入生?」
茶髪で気の強そうな風貌の彼女は、そう言いながら俺の隣に腰掛けた。
「噂は知らないけど、今日からDクラスに通う予定だよ。よろしくね」
「いや、別に馴れ合うつもりは無いんだけどね。一応言っておくけど、このクラスに通うからには〝アリア〟の言う事は聞いておいた方が身の為よ。それだけは覚えておきなさい」
顎に手を添えて机に肘を立てながら俺を睨みつける。中々いい殺気を放っているが、心底どうでもいいので、空返事で返す事にした。
「あー、うん。了解」
「······じゃあ」
そう言うと、彼女は席を立って二つ前の席に座り直した。そんな彼女を見つめていると、教室に一人の女子生徒と複数の生徒達が団体で現れた。まるで取り巻きのように女子生徒の後を付き従う生徒達。
「······あれがアリア? って子かな」
なんだか、いかにもなオーラを漂わせている。その女子生徒は一番後ろの段に登ってくると、丁度真ん中辺りに腰掛けた。それを確認した後、取り巻きの生徒達が彼女の前に腰掛ける。まるで女王様だ。取り巻きには女子だけではなく、男子も混ざっていることから、彼女は男子生徒からも恐れられているらしい。
そんな彼女は、不意に俺に視線を移すと意外にもニコリと笑顔を見せた。てっきりさっきの女子生徒ように絡んで来ると思っていたのだが、笑顔を見せてすぐに視線を前へと向けた。
「······まぁいっか」
そろそろ授業が始まる時間なので、俺も教卓の方に視線を向ける事にした。
-と、その時、ようやく担当の教員が教室に現れた。見た目は綺麗な人だが、目つきが鋭い。そして、態度が少々荒っぽい。帳簿のようなものを机に叩きつけ、教室全体を見回すと、ゆっくりと口を開いた。
「えー、今日の授業だが、小テストをする」
「えぇ~·········あれ?」
ここは全員がブーイングをする場面だろ!? -と思ったのだが、嫌そうな表情をしたのは俺だけだった。周りの生徒達は、俺の反応にクスクスと小さく笑っている。
「ほぉ。嫌か?」
まぁ、当たり前だが、担当の教員に睨まれてしまった。というか、俺は今日からだと言うのに小テストも糞もない。
「あの、先生。俺、今日からこの学園に来たんで、小テストと言われても分かんないんですけど?」
と、もっともな事を言うと、俺の隣······と言っても結構離れているが、アリアらしき女子生徒がバサッと勢いよく立ち上がった。彼女も反対派か!-なんて思ったのだが······。
「レイラ先生、続けてください」
·········は? 待て待て。俺の意見は無視しろって事ですか?
「アリア、座れ」
「はい。失礼致しましたわ」
レイラの言葉でアリアは素直に席についた。それを確認した担当教員のレイラは再び話を始めた。
「今回の小テストは実技テストだ。編入生でも出来る。自己紹介がてら、自分の実力を見せるといい」
「あー、なるほど。そういう事なら別にいいです」
なんだか、ちょっと気に入らないけど······。
「では各自、訓練場に移動。訓練服に着替えてから来るように」
「「「はい!」」」
レイラの指示のもと、生徒達は慣れた様子でバタバタと教室を出て行った。なんだか、アウェイ感がすごい。それに訓練服なんて持っていないのだが、あの担当教員は、そこのところをちゃんと把握しているのだろうか。
最後まで教室に残っていると、同じように残っている生徒が居た。それは、教室に入った時の忠告少女だった。
「訓練場、場所分かるの?」
「あ、うん。それは大丈夫なんだけど······」
「何?」
「いや、訓練服なんて持ってないから、どうしたらいいのかなって」
俺の発言に目の前の少女は大きく溜め息をついた。
「それは先生に言いなさいよ。生徒の、しかも女の私にそれを言ってどうするつもり?」
うっ······確かにそりゃあそうか。
とはいえ、レイラはすぐに教室を出て行ったのだ。言うタイミングなんて無かったぞ!-なんて思ったが、これはただの言い訳に聞こえるので、俺は観念してそのまま訓練場に向かう事にした。
訓練場に向かう道中、少女は軽い自己紹介をしてくれた。
「私はシルビア。シルビア・リレンザよ。あんたは?」
「俺はエト・リエル。エトでいいよ」
「そう。ならエト、この小テストの半分はあんたを試す為のテストよ」
「試す?」
-と、まぁシルビアは丁寧に今回の小テストについて語ってくれた。意外にも面倒見がいいようだ。馴れ合うつもりは無いと言っていたはずだが、これは馴れ合っている内には入っていない-という事なのだろうか。
今回の小テストを行う理由として、まず一つは各自の実力を測るため。この学園では、優秀な生徒がどんどん上に上がっていくシステムになっている。つまり、みんなはCクラスに上がるためのポイント稼ぎとして小テストをみているらしい。だから俺以外の生徒達は、みんなやる気を出していた訳だ。
そして、もう一つの理由が俺である。俺がどの程度の実力を持っているのか-というのを見極めたいとの事。発案者はアリアのようだ。
全く余計な事を······。
「それで? 実力が無ければアイツらみたいに、媚びへつらえと?」
俺が挑発気味にシルビアを睨みつけると、シルビアはビクッと背筋を震わせた。
「っ!······あっ···あのね、気が強いのは結構だけど、それは実力を示してからにしたら? まぁ無理だろうけどね」
そう言うと、シルビアは足早に俺を置いて訓練場へと向かった。なんだか、彼女は他の生徒とは違うみたいだ。強い意志があるのに〝やむなく〟アリアに従っているような······。というか、レイラは何をやってるんだ。こんな状況を放置しておいていいとは思えないのだが。
「実力を示す······ねぇ。どうしようかな······」
大きく溜め息を吐きながらそんな事を考える。というか、丸くなったな-なんて、ふと思ってしまう。少し前の俺なら、立ちはだかった時点で敵と見なしていたはずなのに······。いや、根っこは変わっちゃいない。アリアが妹を探す妨げになるようなら容赦するつもりは無い。
「うん、邪魔するようなら······」
消す-。そう心に決めた。俺はここに遊びに来た訳でも、単に学園生活を満喫しに来た訳でも無い。全ては妹の為であり、そんな俺についてきてくれた仲間たちの為だ。俺はここに来て少々浮かれ過ぎていたのかもしれない。
両頬をパン!-と叩きつけた俺は深呼吸をし、歩くスピードを上げて訓練場へと向かった。
訓練場に着くと、生徒達が準備運動を始めていた。その中で、生徒達を監視するように見つめるレイラに俺は声をかけた。もちろん訓練服の事だ。
「先生、俺訓練服持ってないんですけど?」
「······なぁ、リエル。ベルエラの奴を〝叩きのめした〟ってのは本当か?」
「···············はい?」
なんか、すんごい尾ひれがついてるんだけど!? というか、訓練服はスルー!?
「いやいや、叩きのめしてなんかないですよ? 攻撃を避けただけですから」
誰だよ。こんなデマを流した奴は! これ、本人が聞いたら絶対突っかかって来るだろうがっ!
「······なるほど。お前、欲が無いな」
「え?」
「いや、言い直そう。お前の言動には〝向上心が欠けている〟」
そう言いながら、レイラは俺の頭に手を置いた。畜生。チビだからって、まるで肘掛けみたいに扱ってやがる。とはいえ、レイラの見透しは間違っちゃいない。何せ、魔法師になる気なんて無いのだから。だが、向上心自体はある。というか、むしろ向上心の塊なくらいだ。まぁ復讐の為の·········ではあるが。
「そうですかね。あんまり気にした事無いです」
「·········そうか。まぁ〝呑まれないように〟するんだな」
そう言うと、レイラは俺の頭から手を離し、生徒達を集合させた。一体なんの事やら。
······いやいや、だから訓練服はどうすんのさ!?
俺の思いも虚しく、小テストは幕を開けた。
「それじゃあ、小テストを始める。対戦相手を決めろ」
レイラの言葉で、生徒達はそれぞれ対戦相手を選び、ペアを組んでいく。シルビアも対戦相手を見つけてペアを組んでいる。そんな中、ふとアリアに視線を向けると、アリアの周りから取り巻きが消え、アリアは一人どこか遠くを眺めていた。
多分、誰もアリアと戦おうとしないのだろう。こういう時こそ「私と戦え!」-的な感じで命令すればいいのに······。
アリアは大きく溜め息を吐いている。······と、そんなアリアに一人の男子生徒が歩み寄った。
「アリア様、俺とペアを組んでくれませんか?」
「······あなたとですの?」
男子生徒は、アリアの言葉に頷く。その光景を見ていた生徒達が、まるで勇者だ!-と言わんばかりに熱い視線を送っている。カナが言うところのDクラス最強であるアリアに戦いを挑むということは、それほど勇気ある行動······という事なのだろう。
「って。そんな事より」
ボーッとアリアを見ている場合じゃなかった。俺も誰かをペアとして選ばないと。······とはいえ、既にみんなペアを組んでしまっている。残っているのは-
「·········何?」
「え? あ、いや······」
このびっくりする程に影の薄い少女だ。ピンクの髪が目立ちそうなものだが、それを相殺する程に影が薄い。やむなく俺は彼女に戦いを申し込んでみた。
「えっと······。俺はエト。良かったらペアになってくれないかな?」
「ん。構わない。私はクロ。クロナ・シーロ」
「ありがと。よろしくね、クロさん」
俺の言葉にコクリと頷くクロ。口数が少なく、大人しそうな彼女だが、悪い子では無いらしい。快く······かどうかは分からないが、ペアを引き受けてくれた。
「それでは小テストを開始する。まずはザックとレイファ」
「「はいっ!」」
こうして、ようやく小テストが始まった。
-小テストが開始されて数十分。
残りのペアも少なくなって来た。生徒達は、各々に得意な魔法を繰り出していった。まるで魔法演舞のように、お互いが魔法を放ち競い合う。戦いというよりかは、パフォーマンスに近い。相手を攻撃するというよりも、相手の攻撃をいかに凌ぐか-という事に重点を置いているように見える。
「結構やるもんだなぁ」
戦闘技術はほとんど無いが、魔法の扱いは流石は魔法科といったところだ。放つタイミングも悪くはない。が、やはりどこかぎこちなさは残る。多分、対人戦に慣れてないのだろう。故に魔法が雑になり、魔力の乱れも見て取れる。
「エト君は、強い?」
「えっ? どうして?」
唐突に隣に立つクロからそんな事を問いかけられた。何故そう思ったのか-と問い返すと、クロは目の前の戦いを見ながら答えた。
「見てる視線がみんなと違う。魔法じゃなくて〝体の方〟見てる······から」
確かにそうだが、よく気がついたものだ。これだけ魔法が往来していると、見つめる視線は自然と魔法に向けられる。だが、魔法を見たところで仕方がない。対人戦において、放たれた魔法よりも放つ前の動きの方が大切だからだ。
多分、クロもその事を知っているからこそ、俺の視線先が魔法じゃなかった事が分かったのだろう。
「なるほどね。クロさんの想像に任せるよ」
「んっ。エト君、意外と意地悪」
「そうかもね」
そう言いながら、微笑んで誤魔化した。クロはムスッと頬を膨らませながらそっぽを向いてしまった。なんだか、小動物のようで可愛い。
「おっ」
そんな中、ようやくシルビアと女子生徒のペアが模擬戦を始めた。この次はアリアと男子生徒、そして最後に俺とクロのペアとなっている。なんでよりにもよって最後······-と自分の引きの強さ······いや、弱さを後悔したりしなかったり。
レイラの「はじめ!」-の掛け声で、両者はお互いに魔法名を発し、シルビアは火属性魔法『火の弾丸』を放ち、対する女子生徒は風属性魔法『風刃』でそれを切り裂いていく。次々と繰り出される『火の弾丸』を自分の周囲に作り出した無数の『風刃』で蹴散らす。お互いに一歩も引かない攻防が繰り広げられている。
「ん。二人とも魔法のコントロールが上手い」
「クロはそう思う?」
「······違う?」
二人の戦いを見てクロがボソッと呟いた。確かに器用に魔法を放っている。シルビアの放つ『火の弾丸』は、手数が多いにも関わらず、無駄弾が少ない。対して女子生徒は、確実に一つ一つの攻撃を『風刃』で正確に打ち消している。
確かにクロの言う通り、パッと見は魔法コントロールが優れているように見える。まぁ優れている事は認めるが、それでも俺からすれば無駄が多い。
「シルビアが攻撃で、あの子が防御って形で言うなら、シルビアは『火の弾丸』を過信し過ぎだし、あっちの彼女は『風刃』を作り過ぎだね。俺がシルビアなら『火の弾丸』を囮にして近距離戦に持っていくし、対戦相手の子の立場なら『風刃』は自分に当たりそうな攻撃だけを防いで相手の魔力消費を誘う」
「·········」
「あと、先生の合図ですぐに攻撃魔法っていうのもね。対人戦においては、必ずしも先手必勝とは言えないし。魔力の消費を気にしないのなら別だけど。普通は、相手の動きを見て作戦を練らないとね。全く知らない相手なら俺はそうするかな」
「·········エト君、何者?」
「ん? どうして?」
「観察力が凄くいい。戦い方も上手そう」
おやおや、どうやら俺はクロから高評価を得られたらしい。というか、癖でついつい余計な事を喋ってしまった。
「どうだろうね」
「むっ。また誤魔化した」
またしても膨れてしまったクロ。その仕草になんだか愛着が湧いてきそうだ。
「そこまで!」
レイラの一言で、模擬戦は終わりを告げた。というのも、お互いに魔力をほとんど消耗してしまったらしく、ぐったりと疲労した様子だ。
「さてさて。次はアリアって子か。彼女ってそんなに強いの?」
試合開始前に俺はクロにそう問いかけた。すると、クロは真面目な表情でコクリと頷いて見せた。その表情から察するに、やはりアリアという子は相当出来るようだ。
「それじゃあ、はじめ!」
レイラが掛け声と共に右手を上げると、アリアの対戦相手である男子生徒が姿を消した。これには、周りの生徒達から驚きの声が上がっている。隣のクロも同様だ。
「消え······た?」
確かに消えたように見える。が、実際には消えたというよりかは、〝溶け込んだ〟と言う方が正しい。男子生徒は魔法を使って自分を透明化させたのだ。予想だが、水属性魔法と風属性魔法を合わせた複合属性魔法、これによって、自分の周りの空気や光を屈折させ、見えないようにしている。
その証拠に俺の『魔力感知』では、男子生徒がその場から動いた様子が感じられない。
「エト君? どう思う?」
「え? あー······。消えたね。びっくり」
説明も面倒なので、クロの疑問に答えようとはしなかった。すると、クロは三度目の膨れっ面を見せてくれた。やっぱりなんか可愛い。
「また意地悪。よくない」
どうやら俺が見抜いている事を見抜いたらしい。クロは意外と鋭い。仕方がないので、俺の考えをクロに説明する事にした。
「······なるほど。凄い」
「うん。確かに器用だね。正直本当にびっくりしたよ」
複合属性魔法は上級レベルの戦法だ。相当鍛錬を積んだのだろう。魔素の性質変化を二つ同時に行い、相当量の情報を術式に組み込んでいるのだ。素直に賞賛する。
男子生徒が姿を消す中、アリアは落ち着いたように目を瞑っている。どうやらアリアは感知系のスキルで、男子生徒の場所を特定したらしい。これは中々······。焦りも無いし、冷静さも欠けていない。アリアの戦闘熟練度は相当高そうだ。無駄に魔法を発動させる素振りも見せない。
「ふーん。やっぱりやるね。彼女」
「そう思う?」
「うん。戦いの中で敵がいなくなるというのは、当然不安でしかない。この場合にとる行動で大抵のパターンが、遠距離での全体攻撃魔法か、背後に警戒しつつの防御魔法だ」
「ん。それは私にも分かる」
「でも、彼女は冷静に相手を察知出来てる。多分、消えた事への焦りよりも、あの生徒がどうやって何処に消えたのかを先に考えたんだ。結果として彼女は、防御魔法でも攻撃魔法でもなく、感知系の魔法やスキルを使ったんだろうね」
「······賢い」
いや、賢いというよりかは〝慣れ〟だ。きっと彼女は、状況に応じた即時対応に慣れているのだろう。つまり、彼女は相当戦い慣れている。
「そこですわね。身の程を知りなさい。聖属性魔法『聖なる陽光』!」
アリアが魔法名を発した瞬間、濃密な魔力が込められた光の塊がアリアの両手に凝縮されていく。
「なぁ、あれちょっとヤバくない?」
「うん。でもここは訓練場。問題ない」
いや、そういう問題じゃ無いだろ!
流石にあれは、人一人くらいなら消し飛びそうな威力だ。俺は教員であるレイラに視線を向けると、タイミングよくレイラも俺に視線を向け、クスッと微笑んで見せた。······なるほど。「お前ならどうする?」-と聞かれているようだ。
「訓練場だからって、その時に感じた痛みや恐怖までは治らねえだろっ!」
「-ッ!?」
レイラに試されている-というのが癇に障る。そして、無表情のまま男子生徒を攻撃しようとしているアリアも気に入らない。あれは人を殺す覚悟がある奴の目じゃない。どうせ治るから大丈夫。そんな半端な思いをした中途半端な目だ。
少し苛立ってしまった俺は、クロに少しだが殺気を放ってしまった。
「あー······ごめんねクロ」
「ううん。私も。エト君の言う通り。でもどうする? あんなの止められない」
「······ったく覚えてろよ。あの先生め」
俺はクロの頭にポンッと手を当てた後、一瞬にして『纏雷』モードになった。それと同時にアリアの攻撃が男子生徒に向かって放たれた-。
-ドォンッ!!




