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NEW MYTHOLOGY  作者: 宗緋色
魔法学園編
17/71

模擬戦

妹の手掛かりを得たエトにさらなる試練が襲いかかる。

学園生活を満喫する間もなく、次々と厄介事に巻き込まれていく。

クラスメイトとの友情、まさかの真実、魔法学園最強の『五峰』なる者達、懐かしい出会いや過去の旅の話、はたまた魔法学園『魔法祭』など、内容の濃い魔法学園編-開幕!


 こと魔法において、俺はそれ程博識では無い。一般常識くらいなものだ。そんな俺でも知っている事、それは魔法を使えば魔力を消費する-ということだ。別に冗談を言っている訳じゃない。少しばかりの常識確認だ。

 スキルや加護のように、魔力を消費しない技能もある。これは特殊能力と言ってもいい。ある事象を自ら引き起こす-これが魔法であり、その為に魔力を消費する。中には召喚師という希少な存在もいるが、召喚師も召喚する際に魔力を対価として消費する。

 

 何が言いたいかと言うと、俺の付属魔法である『纏雷』などは魔法であって、スキルである。つまり、魔力を一切消費しないのだ。そんな事が一介の生徒に出来る訳がない。ルカの話を聞く限り、付属魔法という概念自体がそもそも希少なようなので、この先、使用には十分気をつけなければならない。

 ポンポン使えば「こいつの魔力は底無しかっ!」-なんて思われかねない。なので、使用回数制限付きの最小威力で使う他ない訳だ。

 

 加えて魔力には属性が存在している。これは前にも言ったが、属性は『火水風土』。そして『闇聖』の六つが主な属性だ。中には『時間魔法』や『空間魔法』といった、特殊な魔法も存在するが、基本的にはこの六つ。そして、進化属性である『炎氷雷地』の四つ。という具合いだ。それぞれ優劣はあるものの、進化属性は一般属性の全てに勝る。

 

 「って、訓練場遠くね?」

 

 いろいろと語ってみたが、これは訓練場に着くまでの暇つぶしのつもりだった。······が、未だに訓練場には辿り着けていない。

 

 「リエル君? 学園長曰く、学園生徒は魔法学園内の寮で暮らすようです。今日は模擬戦の後、クラスランクを聞いて終わりのようなので、そのつもりでいて下さいね?」

 「あ、はい!」

 

 完全に教師モードのアヤ。心強いったらない。ちなみにクラスランクというのは、各科クラスの中で実力ごとに分けられたSからDまでの階級のようなものらしい。つまり、実力に見合った授業が受けられるという訳だ。

 

 「あっ。あれが訓練場か!」

 

 と、ようやく俺の視界に訓練場が飛び込んできた。地味に長い道のりだったが、やっと辿り着く事が出来た。

 

 

 訓練場に入ると、結界のようなものが張り巡らせてあった。その膜のような結界を通り抜けると、目の前に俺よりも遥かに大きな男性が仁王立ちで待ち構えていた。

 

 「おぉ! お前がエト・リエルだな! 俺はベルエラ・ロストワン。魔法科教員だ。よろしくなぁ!」

 

 ガハハハッ-と大笑いするベルエラ先生。一体何がそんなに面白いのか。

 

 「あ、はい。よろしくお願いします!」

 「おうおう! まぁ気負わずにドーンとぶち当たって来い! 加減は無用だ。ヌァッハハハ!」

 

 腰に両手を当ててまたも大笑いのベルエラさん。いや、悪い人じゃないんだろうけど······苦手なタイプかも。

 

 「ケイシス先生、あとは任せてキミも教員室に戻りたまえ!」

 「はい。それでは失礼します」

 《エト君、それじゃあね?》

 

 ベルエラにバトンを回したアヤは、訓練場から立ち去る瞬間に念話を飛ばして来た。

 

 《うん。また後で》

 

 俺の念話に小さく微笑むと、アヤは訓練場から姿を消した。そしてその瞬間、ベルエラの態度が〝一変〟した。

 

 「ったく。テメェみてーなガキが学園長のお気に入りっつーのが気に入らねーんだよ。実力もしれた小僧が一丁前に構えやがって」

 「···············」

 

 えぇー·········。なんだ? コイツ······。

 

 先程までは、馬鹿っぽいが気前の良さそうな男性だったが、アヤが居なくなった瞬間に態度を急変させた。言い草的にコイツは学園長に気があるようだ。まぁ確かに綺麗な人だったけども。

 

 「あ、あの······」

 「この訓練場はな、学園長の〝空間魔法の結界〟が張られてる。だから、ここでどれだけ傷付こうが外に出りゃあ元通りって訳だ」

 

 へぇ。学園長ってやっぱり凄いんだ···。

 

 「つーわけで············一遍死ねや小僧っ!」

 

 そう叫びながら、ベルエラは両手を地面に叩きつけた。その瞬間-

 

 -ゴゴゴゴゴッ

 

 俺の真下の地面が割れ始め、俺を挟み潰すように土が変形し始める。この間、約一秒にも満たない。流石は魔法学園の教員だ。魔法の発動スピードも魔法の展開速度も結構早い。

 

 俺は一瞬で『纏雷』を発動させ、後方に回避した。と、同時にドンッ!-と魔法によって操られた土が俺の元いた場所を押し潰していた。

 

 「ハハハッ! この程度かよ、ああ!? 大した事ねーなぁ?」

 「あのー、先生?」

 「うぉぉえっ!? な、なんだ避けてやがったか。や···やるじゃねーか!」

 

 再び高笑いをするベルエラ。この笑いは素のようだ。ともあれ、俺が魔法を避けた事は想定外だったようで、あくせくしている。

 

 というか、俺が声をかけた時のリアクション······まるでギャグだな。

 

 「次はそうはいかねえぞ! これならどーだぁ!」

 

 懲りないベルエラは、次に両手を左右に広げ、頭上に大きな火の玉を作り出した。まるで小さな太陽のようだ。

 

 「火属性魔法『火焔散弾(フレイム・クラスタ)』ッ!」

 

 ベルエラが魔法名を言い放つと、大きな火の玉は一直線に俺を捉えんと向かって来た。しかし、威力は強そうだが、スピードが遅い。これならさっきの土属性魔法の方がよかった。

 俺は『纏雷』を発動すること無く、普通に横へ走って避けた。-のだが······

 

 「くっははは! 甘いぞ小僧っ。それはただの火の玉じゃない!」

 

 ベルエラがそう叫ぶと、さっきの火の玉は地面に衝突する寸前で、全方向に爆発した。

 

 -ドォンッ!

 

 爆音の中、細かい火の槍が辺り一面に飛び散る。ベルエラは腕を組みながら『魔法障壁』を張っている。確かにこれは厄介だ。使わざるを得ない。

 

 「『纏雷』」

 

 刹那-、バチバチバチッと空気を破裂させながら光り輝く雷撃を身に纏い、瞬間移動の如くベルエラの背後に移動した。そして、未だ絶賛大笑い中のベルエラに声をかけようと試みた。

 

 「ふっ。爆煙で姿は見えんが、これであのガキも終わりだ。あとは適当に誤魔化して最底辺のDクラスにぶち込んでやるだけ」

 「なるほど」

 「とはいえ、最初の攻撃をよく避けたもんだ。あれは素直に賞賛せざるを得んな」

 「ありがとうございます。先生、意外といい人なんですね?」

 「馬鹿言ってんじゃねーよ。俺は実力のある奴を無下にはしない。実力がある事が分かれば文句はねえ。推薦だからって調子に乗ってんのが気に入らんだけだ」

 「そういう事でしたか」

 「あぁ。学園長が認めたって力を見·········ん?」

 「あ、どうも」

 「あぁ。小僧か」

 「はい」

 

 普通に会話していたが、ようやく俺の存在に気がついたらしい。そして数秒間、俺とベルエラの間に沈黙が流れると、ベルエラの表情は徐々に青ざめていった。

 

 「なぁっ!? お、お前なんで無事に-ってか無傷だと!?」

 「まぁ、避けるのは得意なんで」

 

 俺が笑顔を見せると、ベルエラは観念したのか、大きく溜め息を吐いて俺の肩に手を置いた。

 

 「はぁ······。認めてやるよ。あれを回避出来る奴はそうは居ねえ。それで? どうやってあれを回避したんだ?」

 

 ベルエラに問われた俺は『纏雷』を発動して雷撃を纏って見せた。

 

 「雷属性の魔法です。これで回避速度を上げました」

 「ほぉ。雷属性魔法か······。その歳ですげーもんだな。属性魔法は他に何が使える?」

 「雷属性魔法だけですよ」

 「そうか。いや······大したもんだ。相当鍛錬を積んだんだろう。ただな、学園長は〝渡さねえ〟ぞ!」

 

 生徒に向かって、何を言ってんだこの人。

 

 「いえ、その気は〝全く〟無いので大丈夫です!」

 「んだとテメェ!? 学園長に魅力がねえってか!」

 

 いやいや、どうしろってんだよっ!?

 

 

 と、まぁ変わった先生だったが、俺の事は渋々認めてくれたらしい。ベルエラ先生はシャツの襟を整えると、俺にどのランクで学びたか-という質問を投げかけてきた。というのも、クラスのランクによって授業内容は変わるらしく、上位クラスにいくにつれて、授業難易度や扱う魔法が変わってくるらしいのだ。

 

 「お前の実力ならSクラスでも通用するだろうが、正直この魔法学園の上位クラスは中々ハードだ。半端な気持ちじゃ、周りの奴に置いてかれるだろう。逆に下位クラスなら、のんびり自分のペースで魔法を学ぶ事ができる。まぁ、お前の好きなクラスを選べばいい。他者との交流が目当てであえて下位クラスを選ぶ奴もいるぞ?」

 

 なるほど。まぁ魔法師になるつもりも学園上位に成り上がるつもりも無い俺にとって、上位クラスは相当面倒臭そうではある。ちなみにアヤはどのクラスを請け負うのか疑問だったが、流石に怪しまれそうなので、それを聞くことはしなかった。

 

 「それじゃあ、Dクラスで」

 「······おい、さっきはあんな事を言ったが、本当に最底辺のクラスに行くこたねーんだぞ? いいのか? 流石にお前レベルの奴はDクラスには居ねーからな。周りの刺激になって学園側からすりゃーありがてーが。······後で学園長に俺がそう言ったからとか無しだぞ?」

 

 この人、絶対最後のが理由だな······。

 

 「いいんですよ。のんびりってのは嫌いじゃないんで。それに学園生活を楽しみたいですから!」

 「けっ。そーかい、分かった。それじゃあ、エト・リエル、お前の魔法科Dクラスへの編入を認める! 明日から学園生活を楽しむこったな!」

 「はい。ありがとうございます!」

 

 やっぱり根はいい人みたいだ。ちょっと性格はひねくれてるし、学園長好きが痛々しいが、それでもちゃんと先生らしく振る舞っている。

 ベルエラ曰く、アヤが言っていた通り今日はこのまま帰れるらしい。これから教員室に行って、学園にある寮への移住手続きをしろ-との事だ。

 

 「それじゃあ、失礼します!」

 「おうおう!」

 

 俺はベルエラに頭を下げて訓練場を後にした。

 

 

 

 

 「どうでしたか? リエル君は」

 「が、学園長!?」

 

 エトが立ち去った後、訓練場に現れたのは学園長アリスタシア・ウォーランドだ。学園長ファンであるベルエラ・ロストワンは腰を抜かす勢いで驚いている。

 

 「そ、そうですね。実力だけ言えばSランク、まぁ戦い慣れてない感じはありましたが、魔法を使うタイミングや洞察力は相当良いかと。中々面白い生徒······ですかね」

 「ふふふっ。そうでしょうね。でも、ベルエラ先生。まだまだ貴方は彼を〝過小評価〟しているようですね」

 「えっ? そ、そうでしょうか?」

 「彼は私が尊敬している人物なのですよ? 実力も人柄も、間違いなくこの学園の中で、〝一番〟と言っても過言ではないでしょう」

 「それ程ですか!?」

 「彼の放つ魔力圧、魔力値はおおよそ〝Bランク〟。あの歳で素晴らしいものです」

 「Bランク!?」

 

 魔法学園の平均魔力値は、【1,000~4,000】程で、EからCランクというのがほとんどである。

 

 「えぇ。将来、必ず彼〝も〟Sランク······になるかもしれませんね」

 「そ、それじゃあやっぱりSクラスに入れた方が······」

 「·········はい?」

 「あっ······」

 

 口が滑ったのか、ベルエラは余計な一言を呟いてしまったらしい。学園長の目つきがガラリと変わってしまった。

 

 「どういう意味······ですか?」

 「あ、いえ。本人がDクラスを希望したので······」

 「それでDクラスに編入させた······と?」

 

 アリスタシアは眉間にシワを寄せながらフツフツと怒りを溜め込んでいく。微笑む姿が逆にベルエラの恐怖心を煽り始める。

 

 「も、申し訳ありません!」

 「本当に彼がそれを望んだんですね?」

 「は、はい! それは間違いありません!」

 

 ベルエラの言葉を聞き、アリスタシアは爆発寸前で堪えてみせた。エト本人がそれを望んでしまったのならしょうがない-そう思ったのだろう。

 

 「まぁいいでしょう。〝今の〟Dクラスには彼のような存在が必要なのかもしれませんし」

 「そう······ですかね。まぁ今年は〝問題児〟がいますから」

 「さて。それでは私は失礼しますよ?」

 「あ、はい! わざわざすみませんでした」

 

 ベルエラが深々と頭を下げると、学園長はその場から一瞬で姿を消した。

 

 「『転移魔法』···やっぱり学園長はすげーなぁ。彼氏とか居んのかな······」

 

 くだらないセリフを呟きながら、ベルエラも訓練場を立ち去って行った。

 

 

 

 

 -数時間後。

 

 手続きを終えた俺は魔法学園敷地内にある学園生寮に来ていた。無駄に長かった手続きでクタクタだ。

 学園生寮は平屋の一軒家タイプで、それが周囲一帯に並んでいる。もの凄い数だ。端が見えない。教員曰く、二人一部屋のようで、男女別々ということらしく、俺はカナリア・テスターという男子生徒と同じ部屋らしい。ちなみに、担当教員が俺を女と間違えて女子寮に入れそうになった事は言わずもがな······。

 

 「お邪魔しまーす」

 

 これから自分が過ごす家だというのに他人行儀になってしまった。だが、先約が居るとなると自分の家というより、他人の家に世話になるような感覚になって当然ではなかろうか。

 

 「ん? あれ、キミ誰?」

 

 部屋に入ると、金髪の美少年がリビングでティータイム中だった。······綺麗な顔だなぁ-なんて思ったが、人の事は言えない。

 

 「これからここに住むことになったエト・リエルです。よろしくね?」

 「あー、キミが先生の言ってたエト君だね! うんうん、よろしくねーっ!」

 

 そう言って素敵笑顔をプレゼントしてくれたカナリア君。いい人そうでよかったと、内心ほっとしていた。

 

 「えっと······男の子だよね?」

 「もちろん」

 

 なんだ、容赦なく聞いてきたな···。俺は人の事が言えないと思って自重したってのに!

 

 「あぁ、ごめんね? ボクも似たようなものだからついね。気に障ったのなら謝るよ」

 「ううん、大丈夫だよ。それより今ってまだ授業中じゃないの?」

 

 時刻はまだ夕刻にもなっていない。学園にはまだ多くの生徒達の姿が確認出来た。

 

 「えっとね、ボクはSクラスなんだけど、Sクラスは今日午前中で授業が終わったんだっ。だからこうしてここにいるってわけ」

 「Sクラスなんだ! 凄いんだね?」

 「そんなこと無いよ~。あ、ちなみに一般科ね!」

 

 机を挟んでたわいもない話を進める俺とカナリア。同い歳くらいの男子と話すことなんて、今まで無かったのでなんだかめちゃくちゃ楽しい。

 

 「一般科っていろいろあるんだよね? カナリア君は何を専攻してるの?」

 「カナでいいよ。エト君」

 「わかったよ、カナ」

 「えへへっ。ありがと!」

 

 とはいえ、本当に可愛い笑顔だ。仕草も女の子っぽいし、背丈も俺と同じくらい。腕だって俺より細い気がする。

 

 「あ、専攻だっけ?」

 「うん。よかったら教えてくれない?」

 「えっと······一応〝召喚師〟なんだ」

 「へぇー。召喚師なんだ! 召喚師って事は、精霊? それとも魔獣?」

 「えっ?」

 「·········え?」

 

 俺の問いにカナはポカン-と口を開いたまま動きを止めてしまった。待て待て、俺は何もおかしな事を言ってはいない筈だ。変に怪しまれないように気は配っているし、気をつけている。今の発言に怪しまれる要素は無かったと思うのだが······。

 

 「カナ?」

 

 俺が彼の顔の前で手をヒラヒラとチラつかせると、カナは正気を取り戻したように俺を視界に捉えてくれた。

 

 「あ、いや。ううん、ごめんね。大丈夫」

 「どうかした?」

 「いや、あまりにも普通に納得してくれたから」

 「ん? どういうこと?」

 

 そう問いかけると、カナは表情を曇らせながら話を始めた。

 その理由というのは、今までカナが召喚師になる-という話をすると、決まって馬鹿にされてきたらしい。お前には無理だ、召喚獣との契約はそんなに甘くない、夢を見過ぎ、そんな言葉を何度も何度も言われて来た-と言った。

 確かに召喚師は、魔法師や聖騎士になるよりも難しい。というか、こればっかりはなろうとしてなれるものじゃない。生まれながらに精霊からの加護を与えられる者、確固たる強い意志、召喚獣との強い絆、様々な条件をクリアして召喚師になる事が出来る。

 召喚獣を呼ぶこと自体は、相応の魔力と知識があれば可能ではあるが、その召喚獣と契約するというのがめちゃくちゃ難しい。これはルカがいい例だ。魔獣や精霊などの存在は人間を敬う-という概念がそもそもない。

 とどのつまり、人間にそれ程興味が無いのだ。だからこそ、召喚師となり召喚獣を使役するのは相当に難しいのだ。

 

 「ボクは未だに契約出来ないし、召喚は出来るからSクラスに入れたけど······」

 「カナ以外に召喚師を目指してる奴はいるの?」

 「いるよ! みんなじゃないけど、ちゃんと契約出来てる人だっているんだ」

 

 ほぉ。それは凄い。まぁ下級の召喚獣だろうけど。

 

 「だから、凄い召喚獣と契約して、みんなに認めさせたいんだ! 田舎育ちのボクでも召喚師になれるって!」

 

 なるほどね。······とはいえ、凄い召喚獣というのは欲張り過ぎだ。もちろん高位の召喚獣は強い。だが、高位の召喚獣=召喚師の強さ-という訳では無い。下級の召喚獣でも召喚師とのパス(絆)を強くし、練度を高めれば十分に戦える。むしろ、即席の高位召喚獣よりも強い。

 だが、今のような考え方だと、カナはこの先高位の召喚獣はおろか、下級の召喚獣とも契約出来ないだろう。

 

 「そっか」

 

 だが、俺から言えることは何も無い。今日会ったばかりの奴が何を言っても、変に刺激するだけだ。こればっかりは自分で何とかする他無い。まぁ、仲良くなれば助言をしてもいいだろうが。

 

 「エト君は?」

 「俺は魔法科のDクラスだよ!」

 「魔法科のDクラスかぁ······」

 

 あれ? なんだか変な空気を漂わしているぞ···?

 

 「え? 何?」

 「あぁ、ごめんね? 噂では魔法科のDクラスってアリアって生徒が仕切ってるみたいで、その子、実力はSクラスだからみんな逆らえないみたいなんだ」

 「それって何か問題ある? そんな凄い生徒が仕切ってるんなら、みんなを引っ張っていけていいと思うけど」

 「······性格がね。家が貴族らしくて、結構むちゃくちゃしてるらしいよ」

 

 ······そういう事か。つまりは、自分を持ち上げる為にあえてDクラスに入ったという事なのだろう。

 

 「まぁ大丈夫じゃない?」

 「だといいんだけど。気をつけてね? 何人か辞めた子もいるみたいだし」

 「うん。ありがと! カナは優しいね?」

 「ちょっ、やめてよ! そ···そういうのは······恥ずかしい······から」

 

 なんて言いながら、顔を真っ赤にしているカナ。ヤバい。本当に可愛い。男じゃなかったら惚れてたかもしれないレベルに可愛い······。

 

 「あ、そうだ。今後のためにステータスプレートを見せ合わない? あ! もちろん、嫌ならいいよ?」

 「ううん。別にいいよ?」

 

 カナの提案で、お互いのステータスプレートを交換する事にした。

 

 カナのステータスはというと-

 

 名前:カナリア・テスター

 年齢:十六歳

 種族:人間

 加護:-

 称号:-

 魔法:召喚魔法

 魔力値:【3,000】

 技能:『物理耐性』・『気配感知』・『毒耐性』

 

 -と、こんな感じだ。

 

 ···というか、年下だったんだ。

 

 なんて思っていると、カナが突然大きな声を上げた。ステータスプレートを持つ手が震えている。

 

 「えぇっ!? ちょっ、エト君って凄いんだね! これならSクラスでもおかしくないよ! いや、Sクラスでもこんなレベルの生徒居ないんじゃないの!? それにエクストラスキルの『自己再生』を持ってるだなんて······。雷属性なんて初めて見たし、『状態異常無効化』って······本当に凄いよ!」

 

 感心してくれている所悪いが、机にティーカップの中身をぶちまけて凄いことになっているのだが······。

 

 「あ、うん。それより机も床もびちゃびちゃだけど······」

 「うわぁあっ!?」

 

 なんともまぁ、忙しない奴だ。愛嬌たっぷりなのが逆に憎いくらい。ともあれ、シミが付いたら大変なので、二人でせっせと掃除をする。

 

 「ごめんねー······」

 「気にしないで」

 

 掃除をし終えると、カナは落ち着きを取り戻していた。そして、話はカナの召喚魔法について進められた。

 

 「さっき答えられなかったけど、召喚できるのは精霊だよ。今までに風の精霊と火の精霊を呼んだことがあるんだけど」

 「へぇ。凄いじゃん!」

 「あ、よかったら見てみる?」

 「え? でも魔力を消耗するだろ?」

 「まぁ大体三分の一くらい消費するけど、エト君に見て欲しいんだ! エト君くらい凄い人に見てもられたら自信もつくかなって。えへへっ」

 

 まぁ、そういう事なら別にいいが、〝見知った精霊〟じゃない事を願うばかりだ······。

 

 俺はカナに連れられて、家の裏手に移動した。なんでも各家の裏手には5メートル四方の庭があって、その四つ角に立てられた鉄の杭によって防護結界が張られているらしい。小さな訓練場みたいなものだ。カナ曰く、生徒のほとんどがこの庭で自主練をしているとの事。

 

 「それじゃあいくよ?」

 

 そう言うと、カナは両手を前に突き出し、手のひらを地面に向けて目を閉じた。

 

 「汝、我が声に応えよ。万物に宿りし精気の霊、今この時を以て我の力となりて、我の願いを聞き届けよ。『精霊召喚』っ!」

 

 詠唱後、カナがカッ!-と見開くと同時に地面に純白の魔法陣が展開された。そして白い光の中から小さな存在が姿を現した。

 

 《······っぷぅ。水の精霊、ネロだよぉ!》

 「やった! 今回は水の精霊だ! ほら、エト君! 見て見て?」

 

 盛大にはしゃいでいるカナ。まるで子供だ。まぁ可愛いから良しとしよう。

 

 「凄いね!」

 「ありがとっー! えっと······水の精霊さん、こんにちは!」

 《あれれ? 名前で呼んでくれないのぉ? ネロだよ、ネロ~》

 「あははっ。この子可愛い~!」

 《ん~···なんで通じないんだろ······》

 

 嬉しそうに精霊を抱き抱えるカナ。それとは正反対に不安そうな表情を浮かべている精霊。どうやらカナには精霊の言葉が聞こえていないらしい。······まぁこれじゃあ契約なんて夢のまた夢だ。心を交わそうとしていない。カナは精霊をペットか何かと勘違いしているのだろうか。

 

 「カナ? 精霊が何か言いたそうだよ?」

 《わぁ! こっちの人は通じる? 通じる~?》

 

 しっかり聞こえているが、ここで反応する訳にはいかない。それではカナの心が折れかねない。というか、〝知らない精霊〟で本当によかった。

 

 「え? あ、そう······なの?」

 

 カナは精霊を抱き直して、自分の目線に精霊を抱えあげた。そして、懸命に精霊の目を見つめる。

 

 《ネロだよぉ!》

 「んー······なんだろう。何が言いたいんだろ」

 《うぅぅぅ。なんで通じないのっ? ネロだってばぁ!》

 

 ······こりゃダメだ。カナもカナだが、精霊も精霊だ。まだまだ真剣さに欠けるカナも良くないが、自分の事ばかり訴える精霊も悪い。これじゃあ、いつまでたっても進まない。召喚された精霊は、召喚主の命令に従う。ただしこれは〝契約した精霊〟だけだ。単に呼んだだけの精霊への命令権は存在しない。

 

 んー······。どうしたものか。手を貸してもいいけど、カナの為にはならない······よな。

 

 《むぅー······。もぉいいっ!》

 「あっ······」

 

 我慢の限界だったようで、精霊は光を放って姿を消してしまった。とはいえ、まだこの場にはいるようだ。『魔力感知』に乱れが感じ取れる。一方のカナは、落ち込んだ様子で大きく溜め息を吐いていた。

 

 「はぁ······。またダメだったぁ。やっぱりボクじゃダメなのかなー···」

 「まぁまた挑戦しようよ。まだまだ諦めるのは早いって」

 「うん、ありがと······」

 

 そう言うと、カナは肩を落としながら部屋に入っていった。それを見ていたのか、カナが居なくなった瞬間に精霊がパッと再び姿を見せた。そして、何故か俺の目の前にふわふわと漂って来た。

 

 《ねぇねぇー。通じる? ネロだよぉ!》

 「うん、通じてるよ」

 

 俺がそう言うと、精霊ネロはめちゃくちゃ嬉しそうに笑顔を見せて、その場で浮きながらピョンピョンと飛び跳ねた。

 

 《名前わぁ~? ネロはネロ~っ!》

 「俺はエトだよ」

 《えとーっ! えと~えと~えと~っ!》

 

 なんなんだろう、この無駄に高いテンションは······。見た目通りまだ幼いって事なのだろうか。それとも知能指数が低いだけか······。

 

 「ところでネロ、なんで〝精霊界〟に戻らないの?」

 《お話したかったのー! あの人とー! でもいなくなっちゃったぁ》

 

 いや、お前が先に消えたんだろっ!-と、ツッコミたかったが、可哀想なので止めておく。

 

 「とりあえず、今日は戻りな? それで、もし良かったら、またアイツの呼び掛けに応えてあげて?」

 《うんーっ! わかったぁ! またくるー! えとまたね~っ!》

 

 そうして、ネロは嵐のように帰って行った。きっと、また現れてくれるだろう。少しばかりの手助けをしてしまったが、俺の言葉以前にネロは、カナと話したいと言っていた。この分なら、お互いが根気強く接していけば、必ず契約する事は出来る。

 

 「まぁ頑張れ、カナリア」

 

 そう呟きながら、俺も部屋に戻ることにした。

 

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