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進藤熱6


その後のことは言うまでもない。長峰は爆発のフィードバックでのた打ち回って苦しんだし、菊池は異空間を出ることによって頭の出血は『回復』したが、「全身が痛い」と爆発の際に受けた痛みでしばらく起き上がることが出来なかった。

 何やら二人で「志乃美潰す」やら「桜田先輩……これで二度目で……痛っ」とか何とか言っていた。


「桜田、お前昨日何をした」

お前に対して、非難が集中しているみたいだが。

「昨日……は寝てました。祝日だから」

 そういえばそうだった。今日は24日。昨日は23日だ。

「ごめん、俺が間違えた。一昨日だ。一昨日は何をした」

 22日は何をしたんだ。

「菊池君の頭を刺しました」

 愉快な殺人鬼みたいなことを言い出した。

「無傷か?」

「いや、重傷だったから逃げたー」

 それ、笑っていうことじゃないだろ。

 桜田は笑ってごまかそうとする。

 千代田はいつの間にか耳栓をはずしており、ただ「お似合いですよね」と言った。あ、長峰と菊池がか。別にどうとも思わないがくっついてくれれば楽でいいしな。

「あ、そっち方向ではないっすよ」

 そっち方向じゃない? 別れろってか。

「あーもういいですよ」

 勝手に気を沈ませていた後輩がいた。

 面倒なヤツだなお前は。やっぱりお前と話すのは苦手だ。

 

 

 長峰飛鳥が言い放つ。

「――それでは、桜田志乃美の裁判を始めます」

 満身創痍で部室に帰ってきた長峰は着いた途端、回転椅子に座ってそこらにあったペットボトルを机に二回打ち付けた。持ち方からして、どうやら裁判官にでもなっているらしい。

「被告、桜田志乃美はこっちへ」

「――はい」

 長峰が手招きすると、被告が目線を落として床だけを見るように進んで……って。

「何だこの茶番。それより俺のことはどうなったんだ」

 桜田の大罪はことはどうでもいいが、俺のなけなしの勇気を無駄にされてはこまるからな。

 長峰は面白くないと言いたげな顔をする。俺はそれを横目でみてこう言う。

「軽音部はどうやったら廃部せずに済むか」

 命題めいたことを述べると、長峰はその言葉を聞き、何を簡単なことを、とだけ呟きこう言った。


「――軽音部は大規模クラブにはなれないよ」

 そう断言しただけだった。残酷な現実を提示しただけだった。

「なぜなら大規模クラブは一定の成績と社会奉仕を納めた部活だからね。規定に違反する」

 それは生徒会の言い分『活動不足』とほぼ変わらないな。言葉を足してるだけだった。

 俺は反論する。

「今年の軽音部はフェスで一位三位をとってる。去年の入賞だけよりは成績はいいはずだ」

 そういったが、長峰は不満げな顔でまだ分からないか、と言いもう一度似たようなことを言った。


「一定の成績と社会奉仕を納めた部活だよ」

 だからそれは分かってい……待てよ。

 一定の成績と社会奉仕。

 思い当たる節が一つだけあった。

 先月のことだ。それがもし『活動不足』の理由になるとすれば。

 

 ――俺は長峰が何を言いたいのかが分かった。


「二度も言わせないでくれ」

 長峰がそういって、部室に回転椅子から立ち上がり、椅子だけをくるくると回し始めた。

「ああ、ごめんな長峰。さすがに分かった」

「それならいい」

 長峰は悟ったように言った。長峰以外は分かっていなさそうな表情だったが。

 

 俺の中に沸々と怒りが湧きあがる。

「うちのバカ部長を一発殴りたい」

 バカ部長というのは長峰のことではない。軽音部の部長のことだ。

「お好きにどうぞ」

 長峰が笑う。

 こいつは最初から分かっていたらしい。生徒会の言い分もバカ部長の失態も。 

 俺は部室の椅子に座り込んだ体を起き上がらせる。

「ちょっと桜田借りてくぞ」

 これは桜田にも協力してもらわないといけないようだからな。俺は桜田を連れて、部室を後にした。

 


 ――数十分後、俺は軽音部の部室にいた。

「――成人式に出るぞ」

 そう宣言する。

 部員たちは目を丸くしている。

「え……俺ら、まだ17だよ」

 部室の真ん中でそういった男がいた。

 バカ部長だ。部長がわけも分からないというような顔をしていたので俺がぶち切れた。


「――お前が先月の『落ち葉拾い』に参加しなかったからだよ馬鹿が!」


 生徒会主宰の地域の『落ち葉拾い』地域との交流を目的としたボランティアだ。

 バカ部長の連絡ミスで軽音部のほとんどが参加しなかったやつ。

 まさか、あれだけで降格とは思ってなかった。

 うちの高校が部活に対し成績云々より社会奉仕の方を優先していることにすぐ気が付けばよかったものを。

 くそが。簡単すぎて反吐が出そうだ。

 こんなんだったら自分で気が付けばよかった。何も長峰を頼ることもなかったのにな。


「成人式の手伝いに決まってんだろ。会場設営と案内係、後、できれば何かしてほしいだと。時間もねーし、演奏は断ってもいいとは思うがな」

 これが、俺が生徒会顧問に頼んでようやく出た折衷案なんだよ。もちろん、教師に顔が利く桜田の援護もあったのだが。

 ちなみにそれらは今まで吹奏楽部がしていたらしいが、今年はコンクールの関係上出来ないらしい。

「いや、無理だって。年明けは暇とかねーだろ。練習もあるし」

 部活無くなったら練習もクソもないっていうのに、まだ言うか、こいつは。

「確かに、落ち葉拾いの時は一部の部員に連絡届いてないのを把握できていなかった俺の問題でもある。でも、これは部全体のものでもあるんだ。分かってくれ」

 俺にも落ち度はある。俺だって軽音部の責任職だ。

 だからこそ、俺がここで言わないといけない。


「これに参加したら、軽音部は大規模クラブのままでいれる、と言えばどうだ?」

 周りが騒然とする。

 部員への説明は後でいいよな。

 とりあえず、部長を説得させるしかない。

「大規模部活認定に必要な社会奉仕はこれで納まるんだ」

 部長はそれでも「無理無理。時間が無い」と言い、頭を抱える。

「こじ開けろ」

「できるわけない。ライブが」

 ライブの練習くらい冬休みでやりきればいい。正月なんか無くなれ。

 部員たちがこっちを見る。

 俺を止めたいのなら、止めてもいいが覚悟しろ。

 全員蹴散らしてでもやりきってやる。そんな思いで睨みを利かせる。部員たちが一歩下がる。

 部長はまだ黙ったままだった。


 この馬鹿がそれでも、決めかねるようなら。


「――まだバカなことを言うなら、またやってやろうか? アレ」

 とりあえず笑ってみた。

 それを聞いた部長は血の気が引いていき、みるみる顔が青ざめた。

 

 ここまで走ってくる間に、一昨日の自分が何をしたのか段々分かってきた。

 部長に要らん挑発をかけられ、つかみ合いになり、部長が殴ろうとした拳を掴んで、振りほどいて部長がよろけた。そこでまた部長に服を掴まれて押し倒されたので、もみあいになって足四の時固めを……。良い子のみんなはマネするな。

 

 部長は、力なくうなずいた。

 そこに俺の後ろにくっついていた部外者の桜田が手を挙げる。

「あのー、ちょっといいですか」

 バカ部長は部外者が入っていようがもうどうでもいいらしい。桜田が続ける。

「会計のことなんですけど、今年度の軽音部会計予算は年度前補助制度を活用していないように思えますが」

 年度前補助制度。どっかで聞いたことのある言葉だった。

「え、そんなのあったっけ」

 意表を突かれたバカ部長がそういう。

 おい、それも知らないのかよ。


 うちの高校には年度前に次年度に購入する物品名を提出すれば、それの購入に際して予算とは別に補助金が出る。

 ただ提出した物品は必ず購入する義務が発生するために、絶対に必要な金額の高いものだけを提出するのが暗黙のルールだ。

 文芸部ではコピー用紙や、ホッチキスの芯しか買わないが。

 

「でも、次年度に何買うか決まってないし」

 それに関しては本来は部長ではなく、会計が主導になるはずだ。

 バカに対して言っても意味無いぞ。

「軽音部の開示された予算表は見ました。連盟加盟費、大会参加費は毎年同金額で出ていますよね。これらも物品ではありませんが提出は可能です」

「それは会計の仕事だけどな」

 バカ部長がぼやく。

「ええ、ですから軽音部の会計さんに聞いたんですね。そしたら、その提出用紙が届いていないと仰っていたのでお伺いしました。先月の部長会議で配布済みと聞いておりますが、ご存知でない?」

「――あ」

 やっと思い出した、と言うような顔をしていた。

 生徒会は部長伝いで連絡してくることがある。

 それが今回の件でもあったらしい。

 桜田が畳み掛ける。

「締め切りは一月頭。今から急げば間に合いますよ」

 部長に微笑みかける桜田。そんな桜田の姿を尊ぶような目で部員たちが見る。普通ならこうはならないんだがな。

 桜田志乃美と言えば、校内でも有名な優等生だからな。この前の期末で数学98点取ったのが知れ渡ってるんだろうな。羨望のまなざしって言うのかこれは。

 

 この場に軽音部の面々は一応そろっているらしい。

 主要なメンバーはみんな俺のほうを見ていた。そういえば軽音部でこんなに前に出てくるのは初めてだったな。下手なところで噛まなきゃいいが。

 俺は最後に問いかけることにした。

「軽音部はみんなの部活だ。だから聞くぞ」

 部員全員に問うつもりだ。よく聞け。そして今この場所で回答しろ。後から言ってももう遅いからな。


「――『降格』だのなんだの好き勝手ほざきやがった生徒会のやつらを、見返したいヤツ。手を挙げろ」

 ろくに説明もしなかった生徒会。そいつらはどうやら軽音部を潰したいらしい。ま、余った予算は他の部に分配だからな。ライバルは減らしておこうという寸法だ。

 下らない。腹が立つ。俺はそういうことは気に入らない。だったら徹底的にぶっ潰してやればいいだろ。

 一泡吹かせてやる。

 俺はもちろん手を上げた。残りがどうかといえば。

 ああ、お前ら……そういうことか。


 ――満場一致。

 皆考えてることは一緒らしいな。全員の手が挙がった。

「じゃ、やるか」

 俺はやってやることに決めた。


 ――軽音部の副部長はこの進藤居鳥だけなんだ。

 俺がこの部を引っ張ってやるよ。どんな手を使っても。


 



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