進藤熱2
高校一年の夏、夏季部誌の発行の真っ最中に俺が言った……んだったけな?
あ、そうだ。桜田だ。桜田が言った。
「長峰さん、漫研がそろそろ合併号をだそうって言ってるんだけど」
この頃の桜田は『あっちゃーん』ではなく、名字呼びをしていた。
漫画研究部は盛んな部活だ。小規模クラブの上の中規模クラブに指定された位には活動的な部活だった。ちなみに文芸部は小規模クラブ。
当時の文芸部には先輩が3人、後桜田と俺と長峰がいた。
けれども、先輩たちはほとんど来ておらずその時の副部長だった長峰が実質リーダーみたいなものだった。
「毎年恒例の行事だし。締め切りさえ間に合えば大丈夫だろ」
文芸部と漫研は毎年文化祭になると合併号を出す。いつもはモノクロ一色の部誌がところどころイラストで色が付くのでなかなか見ごたえがあっていい。そう思っていた。俺は。
――却下します。
長峰はそういった。
「今年度の文化祭は漫研と合同はしない。文芸部だけでする」
理由を聞くと言われた。
「漫研の情勢が悪い。今年度は部員数が格段に減っているって聞いたし。こっちにメリットは無いから」
「人数なら文芸部のほうが酷いだろ。三人だぞ」
「先輩も入れれば六人です」ロボットみたいな応答だった。何の感情も無いような目をしていた。
「幽霊部員の先輩たちだろ。それに合併号は文芸部の伝統だろ。継承しなくてどうする」
文化を守れ。先代が残してきたものを受け継いでいく。それが部活動の基本だった。
「私がここではリーダーです。従ってください」
従えって。命令口調で言われたのも癪に障った。
それ以降は「もう、進藤君とは話したくない」の一点張り。
そこで俺がふざけるなとか、お前それでも副部長かとか言いまくり、それに長峰が言い返して売り言葉に買い言葉。終いには桜田に喧嘩の仲裁みたいなのをさせる羽目になった。
一応言っておく。俺は温厚だと思う。けれども、いざというときには言うのだ。
その後だったか。漫画研究部が廃部するらしいと噂になったのは。
大体、理由は分かっていた。活動不足だった。
漫画研究部の使っていた印刷所が潰れたのが始まり。そして、ドミノ倒し。紙代、ペン代、大会参加費その他の経費が重圧になった。
顧問が逃げた。もう限界だったらしい。部員もいなくなっていった。もうここまでくれば分かるだろう。
「へぇ」
長峰はそれだけ言った。
――何かしてやれなかったのか?
え、何でしないといけないの?
文芸部は漫画研究部のスペース借りてたんだろうが……ちょっとくらい手伝ってやってもよかっただろ。
それは論点が違う……大体、今年の文化祭は文芸部にも配当スペース出てたわ。
それは本来の漫画研究部の場所だろ。
文化祭に参加できなかったのは彼らの不手際。正論でしょ。
「――巻き添え食らわなかっただけ、まだマシ」
――あの時、漫画研究部の部員が泣いて頼んできたのに?
俺たちは何も出来ない? お前、本当にそう思ってたのか。んなわけあるか。
長峰の顔で分かった。これは見捨てただけだって。何も出来ないやつらを見下しただけだった。
でも、俺も何もしてやれなかった。お前もクズの仲間。
――今年度から、文芸部は中規模クラブになった。理由なんか知りたくない。
「先輩? どうかしました?」
「いや、なんでもない」
俺の部活も潰れたらどうしよう。
「そうですか。あ、軽音部の方はどうですか。最近忙しそうだから」
「ライブでごたついてる」
部活が降格寸前なんだ。
「そうですか、頑張って下さい」菊池は笑って言った。
――降格理由は「活動不足」
詳しい説明は生徒会からは無かった。軽音部には生徒会役員はおらず、かといって知り合いにもいない。
部員全員で会議。人数は満たしている。大会にも出ている。成績も昨年より優秀だ。
ただ一つ問題があるというなら、兼部が多い。兼部が多い部は生徒会ではマイナスらしい。
それは無いだろうと言ったが、部長は聞かなかった。
俺が兼部してるからだって責められた。
腹が立って、つかみ合いになったが。何でか部長が倒れていたりした。
気が付くと、廊下で一人で倒れており、桜田に起こしてもらった。なんで桜田がいたのかも忘れたが。
「どうも。ほら、ついたぞ」
そういって、下足室前で菊池と別れた。
今日は終業式。体育館で全校集会。その後は大掃除だ。
その後は、どうしよう。
軽音部には行けそうも無い。
かといって、文芸部に行くのも嫌だ。
助けなんか求めても無駄だ。
長峰は絶対に助けてなんかくれないのだから。
長峰は俺を助けたりなんか、しない。




