打倒佑香! 期末テスト奮闘記(8) 【挿絵付き】
「――あ、秀吾くん」
「ん? 何だ?」
「あの、今日はあたしが払いますから。アイスキャンディー代」
「藪から棒にどうした?」
「いえ、いつも秀吾くんに奢ってもらってばっかりだったから……テスト勉強とかも手伝ってもらってますし、今日くらい、秀吾くんの財布の紐を結んだままにしておきたいなって思ったので」
「こんなの奢ったうちに入らないって」
一本60円の代物だ。財布にとんでもないダメージを与える値段でもない。
「遠慮しなくていいんだぞ?」
「いえ、大丈夫です。それに、実は奢りたい理由もあったりするんです」
「奢りたい理由?」
「はい。……あたしが崎田さんって人と住んでるのは知ってますよね?」
「ああ、知ってるよ。以前聞かせてもらったよな」
「はい。その崎田さんが、駄菓子屋に寄ってくるならこれを使って遊んでくださいって、あたしの手にこれを握らせてくれたんです」
絵玖はポケットに手を入れ、そこから1000円札を取り出した。
「そんなにいらないですよって言ったんですけど、遊ぶなら最低これくらいは必要でしょう? って」
「いや、著しく多いな。300円でもお釣りがくるくらいなのに……」
「……まあ、そんなことがあってお小遣いをいただいたので、使わないのはもったいないかなと」
「確かにそうだな。絵玖が自費を削る心配がないのなら……奢ってもらおうかな」
「はい、是非奢らせてください」
「ありがたい、感謝するぞ」
「いえいえ。それじゃあ、買いましょう」
…………。
今日はせっかくだからということで、アイスキャンディーの他にも、ちょっとした駄菓子も買ってみた。それでも使用したお金は340円と激安だ。半分も使いきることができなかった。まあ、無理して使いきる必要もないから、余ったら余ったで崎田さんに返せばいいだろう。
さて、何処で食べようか。
「リクエストスポットはあるか?」
「うーん……まだあたしが行ったことがないスポットとかってありますか?」
「うん、まだ結構あるぞ。ただ、ここ近辺となると、後二カ所くらいか」
「じゃあ、そこに行ってみたいです。もっと、この村の良いところを知りたいので」
「了解した。……ロマンティックな場所と見晴らしの良い場所、どっちがいい?」
「えーっと……見晴らしの良い場所で」
「よし、じゃあ次はロマンティックな場所だな。ちょっと到着するまで時間がかかるから、アイスキャンディーは食べながら行こう。溶けてなくなったらもったいないから」
「そうですね。……見晴らしの良い場所か、楽しみです」
「では案内しよう。こっちですよ、絵玖お嬢様」
「わぁ、急に位が上がっちゃいました……」
――会話をしながらアイスを食べ、目的地に向かって進む。程なくして目的のポイント手前までたどり着く。
「後は、ここをちょっと進むだけだ」
「? 秀吾くん、道が見えないんですけど」
「よく見てみな。人が踏み歩いた跡があるだろう? そこが道になってるんだ」
「うーん……あ、ホントだ。うっすらと見えます」
「道というには無理があるかもしれないけど、俺たちの中では道なんだ。ここを登っていくと、目的のポイントに出るぞ」
「はい。ちょっと登り坂になってるんですね」
「後半はこれより角度が急になる。本当なら俺が絵玖の後ろから行って万が一に備えて支えられるようにしたいんだが、この角度で後ろから行くと、絵玖のパンツが丸見えになってしまうから、俺が前で絵玖の身を案じながら行くことにしよう。それでいいか? パンツが見えても平気なら俺が後ろから行くけど」
「そ、そうですね。今日はあたしが後ろからでお願いします。今日は、見られても平気なものを履いてきていないので……」
「そうか。……くそ」
「しゅ、秀吾くん? 今何か悔しそうな声が聞こえたんですけど……」
「いや、男って単純でエロいから。確かにマナーとして今の振る舞いは完璧だが、反面自らパンツを見るチャンスを不意にする行為でもあったわけだからな。やはり悔しさは残るってものよ。多分、理由を言わずに俺が後ろから行くよっていったら、絵玖は特に疑いもせず分かりましたって前を歩いていたと思うからな」
「そうですね。……多分、歩いてました」
「俺の忠告は正しかったわけだ。……もったいないことをしたが」
「えっと、何て言ったらいいんだろう……期待に添えなくてごめんなさい?」
「それは今度期待に添ってくれると言うことか?」
「え? あ、その……どうしても、見たいんであれば、前々から言ってくれれば……」
「おいおい、マジかよ……冗談で言ったつもりなのに許可が出ちゃったぜ」
「秀吾くんが良い人だって、あたしは知ってますから。色々良くしてもらってるし、それくらいのことはしなくちゃいけないかなとも思うので……」
「……やはり魔性だ。須貝絵玖、恐ろしい女」
「ま、また魔性ですか?」
「男の心を分かっている。アイドルの経験はそこに活かされているのか……」
「あはは……」
「よし、いつか見せてもらう日を待ちわびながら、前を歩くとしよう。もし転びそうになったら、遠慮なく俺の体掴め。怪我をしたら洒落にならないからな」
「はい、分かりました」
そんな会話をしながら、慎重に登り坂を登ったところで――視界が一気に開けた。




