打倒佑香! 期末テスト奮闘記(2)
「――今日の先生の追試をやらないことにかける熱意は一際強かったな」
「確かにね。先生らしいっていえばそうなんだけど……」
「それで納得してしまってはいけないんだろうけどな」
「あはは、そうね……」
「でも、もう明日か」
「ちょっと、ドキドキしてきてます、あたし」
「絵玖は初めてのテストだもんな。どうだ? 手応えのほうは」
「分からないっていうのが正直なところですね。でも、自分がどれだけできるのか試してみたいって思いもあります。納得できる点がとれたら嬉しいんですけど」
「大丈夫よ、絵玖ちゃんはきっと上位に加われると思うわ」
「ありがとうございます。全力を出し切れるように」
「俺も、初めての一位を目指して……」
「どうかしらね? 今回の私も手強いわよ? きっと」
「百も承知だ。だからこそ、倒し甲斐があるってものだろ?」
「ふふ、簡単に譲る気はないからね。頑張ってみなさい」
「約束、忘れるなよ?」
「はいはい、分かってるから。……詳細を口に出しちゃダメよ」
「……上の世界が何やら騒がしいな」
「何静観してんのよ。ちゃんと勉強会の後も勉強したんでしょうね?」
「やってたやってた。今日もちゃんと一夜漬ける予定よ」
「結局一夜漬けなの? テスト前はちゃんと睡眠とっておかないと本番で実力発揮できなくなるわよ?」
「人それぞれリズムがあるっていつも言ってるだろ? 俺。佑香には合わなくても、俺にはこれが合ってるんだよ」
「はいはい、そうですか。……絶対一日でなんて全部覚えきれないと思うんだけどな~」
どうやら佑香は納得がいっていない様子。
俺はどっちでもいいと思ってるから何も言わないことにする。
……………………。
「じゃあ、また明日ね~」
…………。
「じゃ、またな~」
途中、帰り道で二人と分かれ、俺と絵玖の二人になる。
「今日の夜も、勉強しないとですね」
「大分やる気に満ち溢れてるみたいだな、絵玖」
「そう見えますか?」
「大いに見える。でも、それは大いに結構なことだ」
「アイドルをやってたこともあって、義務教育を受けられなかった時が多々あったので……勉強の楽しさに気付けたっていったら大げさかもしれないですけど、今はそんな気持ちがしてるんです」
「……絵玖みたいに考えられる生徒が全員だったら、青年の知識不足は改善されていくのにな」
「そんな大それたことではないと思いますけどね……」
「はは。……その気持ちを忘れないようにしていくんだぞ? お兄さんとの約束だ」
「はい、分かりました。お兄ちゃん」
「…………もう一回、お兄ちゃんって言ってみて」
「? お兄ちゃん」
「うむ……なかなかに魅力的な響きだな」
「そ、そうですか?」
「男というのは、そういうワードに敏感になる生き物なんだよ」
「そ、そうなんですね」
「今の絵玖が醸し出すお兄ちゃんの響きは、なかなかに良きものだったぞ。また、聞きたくなったらリクエストするかもしれないな」
「リクエストするほど、よかったんですか?」
「うん、よかった。さすが元アイドル、ファンにするコツというのを知ってるんだな」
「特に考えず言ってたんですけど……」
「考えもせずに言って心を掴んだって? ……須貝絵玖、魔性の女だ」
「ど、どんどん罪深い女になってませんか?」
「女とは得てして罪深い存在だ」
「もうそうなると、あたしの問題ではなくなってきてる気が……」
「いやぁ~、絵玖には恐れ入ったよ、ホント」
「は、はい……そう言ってくれて光栄です」
「絵玖はその心を貫いていくといい。きっと素敵な女でい続けられるだろうから」
「そ、そうですか?」
「俺が保障しちゃうぞ」
「か、考えておきますね」
「……何でこんな話になったんだっけ?」
「えと……あたしの勉強の心に秀吾くんが褒めてくれて、そこから今の知識不足に話が変わって……お兄ちゃんが魅力的で、あたしが魔性ってことになりました」
「なるほど……何と歪曲した話の流れだろうか」
「確かに、ちょっとすごいですね」
「歪正しなければ……ぐっと話を引き戻して~。……明日、頑張ろうな」
「一気に戻りましたね。はい、成績を笑って話せるようにしましょう」
「だな。……ちょっと心苦しいが、テスト終わるまでは遊びは自粛しようか。終わった後にたくさん遊ぶようにして。テストのことが頭にあったまま遊んでも楽しくないからな」
「そうですね、ちょっと寂しいですけど仕方ないですね」
「少しの辛抱だ。なに、テストが終われば夏休みだ。遊ぶ時間はたっくさん取ることができるさ」
「そうですね。……うん、辛抱します」
…………。
「――じゃあ、また明日学校で」
「ああ、またな」
絵玖が家に入るのを見送り、俺も自宅へと向かった。
家に帰ったら、明日に向けた最終チェックをしないとな。
……………………。
…………。
……。




