3.イケメン君
3.イケメン君
いじめにあったのが、中学2年の時だった。
リュウが香織のもとに来て4年が経つ。
中学生の頃は、友達もできず惨めなものだったが、高校へあがってからは一変した。香織自身、自分の性格を何とか変えようと頑張ったこともあるが、犬と生活するようになり、考え方が変わってきたのかもしれない。
どちらにしても、良い方に変わったのだから、文句はない。
唯、最近思うことがある。
それは「犬っていいな」という事だ。
好きな時に寝て、好きな時に起きる。好きな時に食べて、好きな時に遊ぶ。
勉強なんて面倒なものがない。従って、中間テストだ期末テストだと必死になる必要がないのだ。
対人関係で疲れる事もなければ、親に叱られて反抗心が芽生える事もない。悔しくて泣く事もなければ、TVのチャンネル争いに敗れてムカつく事もない。
これ以上の平和があるだろうか。
そう思うと、気持ちよさそうに寝ているリュウが憎らしくなってくる。
母は「いつも同じドッグフードなんて可哀想だ」というが、オヤツと称してビーフジャーキーを貰ったり、母が料理をしていれば生野菜を貰ったり、肉の切れ端を口に入れてもらったりと、結構贅沢な食事をしている事を香織は知っている。
日常生活にしてもそうだ。他の家の犬は庭に繋がれて、せいぜい同じところを行ったりきたりだ。自由に歩きたいだろう。
しかし、リュウは家の中を自由に歩き回っているのだ。昼間などは、家に居るのはリュウだけだ。どこへ行こうと自由、何をしようと自由なのだ。散歩しなくても良いくらいではないか。
「あーぁ、犬に生まれてきたかったよー」
ましてや、明日から期末テストと来ているのだ。勉強しなくてはならないことは分かっているが、やる気にならないまま前日を迎えてしまった。
親には、学校でちゃんと授業を聞いているから大丈夫だと言っているが、本当に大丈夫な訳が無い。とはいえ、今更何をしてもどうにもならないと思うと諦めムードが香織の全身を包むのだ。
そして、リュウが羨ましくて仕方なくなるという悪循環だ。
「リュウ、明日さぁ。私と入れ替わって学校へ行ってみない?」
リュウがチラッと香織に視線を向けるが、
(又バカな事を言ってるよ)
と言いたげに目を伏せる。
「悪かったねバカで!!」
自業自得とは分かっていても、八つ当たりせずにはいられないのだ。
「あーぁ、今更勉強してもなぁ……」
とは思いながらも、教科書を開く。
開くと眠気が襲ってくる。
眠っちゃダメだ。分かっちゃいるが結局抗いようも無く、夢の世界へ落ちていく。
どの位眠ったのか。
一時間か、はたまた二時間か。
とにかく、誰かの声で意識が戻ったような気がする。
それも、聞いたことの無い男の声だ。
しかも、かなりの至近距離に居るらしく、相手の鼻息が顔に掛かる。
我が家に生息する男性といえば、父親とリュウだ。その他に性別が男に丸がつくものは居ない。
(目を開けてみようか……でも、こんな至近距離って、どんなシチュエーションなのよ?)
目を開けるか否かでしばらく悩んでいると、急にお尻を引っ張られるような強い刺激が起こった。
(わぁ!)
もう、悩んでいる場合じゃない。
お尻を引っ張られるなんて、思春期真っ只中で、エロで頭がいっぱいの健康女子とはいえ、こんなシチュエーションは考えられないではないか。
いや、有り得ないし、有り得ちゃいけない!
とにかくびっくりして目を開けると、そこにはイケメン男子が大笑いしているのだ。笑いが収まると、又至近距離に顔を近づけてくる。
「やっと目が覚めたか?」
(きゃー、何これって、どんなシチュエーションでこうなってるわけ? これって、夢? だよね、そうじゃなくちゃ有り得ないでしょ。第一、こんなイケメン君の知り合いいないし)
「よく寝るよな、お前」
(そんなに寝たつもり無いんだけど、そんなに寝ちゃったのかしら? 今何時なのよ)
「何時計見てるの? 見ても分かんないだろう」
(失礼ね! 高校生にもなって分かんないわけないでしょ!)
夢とはいえ、失礼なヤツだと思っていると、母が部屋に入ってきた。
(お母さん! この人だれ?)
と、声に出したつもりが「うー、ワン!」
(え?……)
「あら、カオちゃん。お母さんに吠えないでぇ、ご飯あげないわよ」
と頭を撫でている。
(ご飯あげないわよって、それ虐待だから!)
(いや違う! そんな事じゃなくて、この人誰よ!)
(その前に、私はどうなってるのよ!)
「うー、ワンワン。ワンワンワン」
いくら喋っても、口から出るのはワンワンだけだ。
変だ……と思っていると、目から火花が散った。
脳天にガツンと何かが落ちてきたような感じがしたのだ。
「うるさい! バカ犬! 母さんに吠えるなって言ってるだろ!」
(へっ? 母さん? ……ちょっと、誰の母さんよ!)
訳も分からず、頭痛と闘っていると、母が優しくイケメン君を諭した。
「きっと何か言いたいのよ。殴ったら可哀想じゃない」
「でも、うるせぇよコイツ」
「犬だって、思うところがあるんでしょ。それより、早くお風呂に入って頂戴。リュウが最後だからね」
「はーい」
(は……ぁ? リュウ……?)
リュウと呼ばれたイケメン君がお風呂へ入りに行った隙に、教科書を確認すると、確かに【リュウ】と書かれていた。
しかも、苗字は【佐々木】。
(佐々木って私と同じ名前だよ)
他はどうなっているのかと、他の教科書やノート、制服のネームを確認するが、全てが【佐々木 リュウ】となっている。
ご丁寧に、カタカナだ。
じゃぁ、自分はどうなっているのだろうと、鏡に姿を映そうと移動する。
映す鏡の前に立つが、目を開けることが出来ない。もし、鏡に映った自分が犬だったら。そう考えると恐ろしくて仕方が無い。
しかし、怯んでいても仕方が無いのだ。現実を、いや夢の中の現実を見てみなくては。
香織は少しずつ目を、細くうっすらと開けてみた。うっすらと開けようと、元気に見開こうと結果は同じなのだが。
(きゃーーー)
思わず両手を口に持って行く……事が出来ない。
人間ならば、そういう動作だろうが犬の姿の香織は、思わず―――伏せ。
そして、両手を鼻の上に乗せた。
見る人によっては、悶絶。
(これって、リュウじゃない!)
(なんで私がリュウの姿をしているのよ!)
(夢よ、夢! 早く覚めて!)
(明日はテストなんだから、こんなくだらない夢を見て楽しんでる暇なんてないのよ!)
階段を上る軽快な足音。
ドアが開き、足音の主が大爆笑した。
「お母さーん! カオが面白い事してるよ!」
どうやら、鏡の前で悶絶している姿を見て爆笑しているらしい。
(早く夢から覚めなくちゃ!)
香織は大爆笑するイケメン君を、情けない顔で眺めながら、真剣に考えていた。
夢の出口はどこなのかを。
最後までお読みいただきありがとうございました。
リュウと香織が入れ替わってしまいました。さて、続きはどうなるのでしょうか。
次回をお楽しみに……。
定期更新しま~す。
次回は水曜日ですよ~
また、来てくださいね(^人^)オネガイ




