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面会

夜。



病室。



窓の外は真っ暗だった。



時計を見る。



面会時間はとっくに過ぎている。



コンコン。



控えめなノック。



「入るわね、、、。」



聞き慣れた声。



母だった。



「お母さん。」



母はスーツ姿のまま病室へ入ってくる。



少し疲れた顔。



でも。



香葉を見ると柔らかく笑った。



「遅くなっちゃったわね」



「仕事?」



「仕事。」



母は苦笑する。



「個室だから少しくらい大丈夫ですよって看護師さんが言ってくれて。」



香葉は小さく頷く。



母は椅子へ座る。



そして。



ベッド横のテーブルを見る。



夕食。



ほとんど減っていない。



「……。」



香葉も気付く。



母も気付く。



数秒の沈黙。



母は小さくため息をついた。



「看護師さんから聞いたわよ。」



「……。」



「あんまり食べてないんだって?」



香葉は視線を逸らした。



「食欲なくて、、、」



「そう。」



責めるような言い方ではなかった。



だから余計に辛い。



母は少し身を乗り出す。



「大丈夫?」



「……。」



優しい声。



いつもと同じ。



でも。



今日は答えられなかった。



大丈夫。



そう言おうとして。



言葉が出てこない。



昨日までなら言えたのに。



「……。」



母は黙って待っている。



香葉は布団を握る。



そして。



小さく呟いた。



「分かんない。」



母の表情が少しだけ揺れる。



「……。」



「大丈夫なのか。」



「大丈夫じゃないのか。」



「分かんない。」



声が震える。



「怖い。」



言ってしまった。



弱音だった。



母は何も言わない。



ただ。



そっと香葉の頭を撫でた。



子供の頃みたいに。



「そうね。」



静かな声。



「怖いわよね。」



香葉は俯く。



涙は出ない。



でも。



胸が苦しかった。



母は優しく笑った。



「でもね。」



「?」



「怖いって言えたじゃない。」



「……。」



「それだけでも今日は進歩、、、笑」



香葉は少しだけ笑った。



本当に少しだけ。



病室の時計は夜を刻み続けていた。

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