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返信
古畑亮
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タップしようとして。
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やめた。
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「……。」
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スマホを胸の上に置く。
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何だろう。
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自分でもよく分からない。
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返事をしたくない訳じゃない。
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むしろ。
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返したい。
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いつもなら。
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『何?』
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とか。
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『暇人』
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とか。
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普通に返しているはずなのに。
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今は出来なかった。
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昨日までの自分と、
少し違う気がする。
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病院へ来てから。
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検査技師達の様子。
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主治医の表情。
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母の不安そうな顔。
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全部見てしまった。
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だから。
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いつもの自分でいられない。
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「……。」
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スマホをもう一度見る。
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古畑亮。
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たったそれだけの名前なのに。
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開いたら。
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心配されそうで。
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優しくされそうで。
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今はそれが少し怖かった。
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香葉はスマホを伏せる。
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そして昼食へ目を向けた。
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食べなきゃ。
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そう思う。
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でも箸は進まない。
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窓の外。
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真夏の日差し。
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学校は夏休み。
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みんなは今頃何をしているんだろう。
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そんなことを考えながら、
香葉は静かに息を吐いた。
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一人になりたかった。
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でも。
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本当は少しだけ、
誰かにいてほしい気もしていた。




