病室
病室。
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窓の外は夏の空。
遠くで救急車の音が聞こえる。
静かな個室。
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母はボストンバッグを開いていた。
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着替え。
洗面用具。
充電器。
一つずつ棚へ並べていく。
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香葉はベッドに腰掛けたまま、
その様子を見ていた。
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「……。」
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病院。
見慣れたはずの場所。
でも。
今日は何だか落ち着かない。
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母は荷物を整理しながら聞いた。
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「不安?」
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香葉
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「……。」
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答えられない。
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母は振り返らない。
急かさない。
ただ待っている。
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香葉は窓の外を見る。
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青空。
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入道雲。
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学校のみんなは何してるかな。
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根元さんは遊びに行ってそう。
蛍原さんは本読んでそう。
古畑は。
ダンスかな、、、。
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そんなことを考える。
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そして。
小さく口を開いた。
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「……うん。」
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母の手が止まる。
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香葉は続けた。
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「今年は何か違う気がして。」
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「……。」
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「毎年検査だったじゃん。」
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「うん。」
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「だから。」
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言葉が詰まる。
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「数日で帰れると思ってた。」
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母は静かに聞いている。
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香葉は俯いた。
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「もし。」
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「もし長くなったらどうしようって。」
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「……。」
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「学校もあるし。」
「進路もあるし。」
「服も作りたいし。」
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声が少し震える。
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「まだやりたいこといっぱいあるのに。」
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母は何も言わない。
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ただ香葉の隣へ、、、。
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「そうね。」
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静かな声。
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「いっぱいあるわね。」
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香葉は目を閉じる。
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少しだけ。
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泣きそうだった。
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でも。
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母は笑った。
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「でもね。」
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「何?」
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「その話をしてるうちは大丈夫。」
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香葉は顔を上げる。
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母は優しく笑っていた。
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「やりたいことがある。」
「叶えたい夢がある。」
「その気持ちがあるうちは大丈夫。」
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香葉は少しだけ考える。
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デザイン。
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レース。
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完成したパンツ。
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文化祭。
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大学。
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未来。
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全部まだ諦めたくない。
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その時。
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スマホが小さく光る。
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画面には。
古畑亮。
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香葉は思わず画面を見る。
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母はそれに気付いて少し笑った。
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「返信しないの?」
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香葉
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、、、
「別にそういうんじゃないから-_-b」
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母
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笑
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「はいはい。」
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全然信じていない顔だった。
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病室に、
久しぶりに少しだけ笑い声が響いた




