診察
「失礼します……。」
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さっきより声が小さい。
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採血の後だからなのか。
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それとも。
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何となく嫌な予感がするからなのか。
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主治医はモニターを見ながら微笑んだ。
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「座っていいよ。」
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「はい。」
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母と並んで椅子へ座る。
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診察室には静かな空気が流れていた。
キーボードを打つ音。
エアコンの音。
それだけ。
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香葉は何となく先生を見る。
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「……。」
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少し違う。
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いつもと。
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何が違うのかは分からない。
でも。
何かが違う。
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主治医はカルテを閉じた。
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そして香葉を見る。
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「検査お疲れさま。」
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「……はい。」
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主治医は少し間を置く。
言葉を選んでいるようだった。
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「少し気になる数値が出てる。」
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その言葉に。
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胸がざわっとした。
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母も表情を引き締める。
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香葉は無意識に拳を握った。
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「……。」
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主治医は続ける。
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「まだ採血の段階だからね。」
「これだけで何か決まる訳じゃない。」
「だから慌てなくていい。」
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慌てなくていい。
そう言われると。
逆に怖い。
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「白血球と炎症反応が少し高い。」
「それから。」
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モニターへ目を向ける。
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「いくつか免疫系の数値も高い。」
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香葉にはよく分からない。
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でも。
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母は分かるらしい。
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少しだけ顔色が変わった。
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主治医は優しい声で言う。
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「だから予定通り検査を進める。」
「むしろ。」
「今年はしっかり調べよう。」
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香葉は俯く。
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頭の中が真っ白だった。
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今まで。
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毎年検査入院だった。
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数日で帰れた。
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だから今年もそうだと思っていた。
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でも。
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違うのかもしれない。
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そんな考えが頭をよぎる。
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「香葉さん。」
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主治医の声。
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「はい。」
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「怖い?」
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不意打ちだった。
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香葉は少し驚く。
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そして。
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小さく笑った。
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「……ちょっと。」
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本当は。
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かなり。
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でも。
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それ以上言えなかった。
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主治医は頷く。
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「それでいい。」
「怖くない人なんていないから。」
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「……。」
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「だから一緒に調べよう。」
「原因も。」
「治療も。」
「全部。」
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香葉はゆっくり頷いた。
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その時。
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ポケットのスマホが少しだけ気になった。
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昨夜のLINE。
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『新しい私』
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短い一言。
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今はまだ。
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その意味なんて分からない。
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でも。
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少しだけ。
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その言葉にしがみつきたかった。
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明日から。
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本当の検査が始まる。




