採血
母に付き添われながら採血室へ向かう。
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病院独特の匂い。
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静かな廊下。
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採血待ちの人達。
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何度も来た場所なのに、
今日は少し緊張する。
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受付を済ませる。
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母は待合室の椅子へ座った。
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「終わったらここにいるから。」
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「うん。」
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その時。
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「浜中香葉さん。」
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名前が呼ばれる。
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「はい。」
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香葉は立ち上がる。
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そして一人で採血室へ入った。
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カーテンで仕切られたブース。
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椅子。
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トレー。
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採血管。
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そこにいたのは。
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「どうぞ。」
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男性看護師だった。
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「失礼します。」
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香葉は椅子へ座る。
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そして思う。
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初めて見る人だ。
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若い。
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二十代後半くらい?
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背も高い。
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草川さんじゃないんだ、、、。
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少しだけ残念。
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去年は何度も顔を合わせた。
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頼りないけど優しかった。
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今年もいるかなと思っていたのに。
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男性看護師は優しく笑う。
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「採血慣れてます?」
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「一応。」
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「一応?」
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「毎年入院してるので、、、」
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「あぁ。」
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納得したように頷く。
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「じゃあベテランですね。」
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「全然嬉しくないです、、、笑」
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思わず二人とも笑う。
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少しだけ緊張がほぐれる。
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看護師は手袋を付けながら言った。
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「でも採血好きな人はいませんよね。」
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「それは間違いないです、、、」
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「ですよね。」
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アルコール綿。
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ひんやりする。
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血管を探す指先。
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慣れた動き。
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香葉はぼんやり天井を見る。
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大丈夫。
採血くらい平気。
何度もやってきた。
怖いのは採血じゃない。
その結果だ。




