準備
入院前夜。
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香葉の部屋。
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窓の外では虫の声が聞こえる。
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机の上には入院の案内。
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持ち物リスト。
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診察券。
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保険証。
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そして。
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大きなボストンバッグ。
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母はベッドの上へ荷物を並べていた。
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「下着」
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ポン。
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「着替え。」
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ポン。
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「充電器。」
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ポン。
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香葉はベッドに座りながらそれを見ている。
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去年もやった。
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一昨年も。
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毎年。
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毎年同じ。
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なのに。
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今年は少し違う気がする。
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「香葉。」
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「ん?」
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「本当に大丈夫?」
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母が聞く。
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香葉は苦笑した。
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「それ今日何回目、、、」
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「いっぱい。」
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「正直。」
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母は畳んでいた服を置く。
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「今年は少し心配。」
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香葉は返事をしない。
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自分でも分かっている。
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母がそう思う理由くらい。
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分かっている。
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「……。」
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静かな時間。
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その時。
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母の視線がクローゼット横へ向く。
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完成したパンツ。
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今日履いていたベージュのワイドパンツ。
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レース付き。
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「それ。」
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「ん?」
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「可愛かったわね^ ^」
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香葉は少し笑う。
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「でしょ。」
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「退院したらまた作る?」
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「作る。」
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即答だった。
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母も少し安心したように笑う。
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「なら大丈夫。」
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「何それ、、、笑」
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「夢がある人は強いの。」
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香葉は少し照れる。
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夢。
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服。
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デザイン。
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パリコレ。
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そんな言葉が頭をよぎる。
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その時。
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母がふと聞いた。
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「そういえば。」
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「ん?」
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「今日送ってくれた子。」
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香葉
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、、、
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「古畑君。」
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「……。」
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「優しい子ね。」
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「普通。」
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「普通の子は学校から家まで送らない。」
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「暇人だから。」
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母
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笑笑笑
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「何それ。」
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香葉は少し笑う。
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でも。
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昼間のことを思い出していた。
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タピオカ屋。
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焦った顔。
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『もう大丈夫じゃないだろこんなの!』
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今まで聞いたことのない声。
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「……。」
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母は荷物を詰め終える。
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ボストンバッグのファスナーを閉める。
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明日の準備。
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いや。
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入院の準備。
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現実が目の前にある。
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母は部屋を出ようとして立ち止まった。
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「香葉。」
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「何?」
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「頼れる人がいるなら。」
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「ちゃんと頼りなさい。」
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香葉は少し驚く。
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今日二人目だった。
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同じことを言う人。
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『ちゃんと頼れ。』
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亮の声が頭に浮かぶ。
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「……。」
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母が部屋を出て行く。
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静かになる。
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香葉はベッドへ倒れ込んだ。
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視線の先。
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ボストンバッグ。
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そしてスマホ。
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入院。
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検査。
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結果。
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考えたくない。
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でも。
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考えてしまう。
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香葉はスマホを手に取った。
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LINE。
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古畑亮。
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トーク画面を開く。
指がゆっくり動く。




