浜中家
浜中家。
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リビング。
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静かだった。
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つい数時間前まで終業式だったとは思えない。
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香葉はソファに座っている。
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母は向かい側。
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テーブルには水。
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冷房が効いている。
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それなのに。
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香葉の身体は熱い。
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「……。」
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「……。」
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沈黙。
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先に口を開いたのは母だった。
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「驚いた。」
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香葉は少し俯く。
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「ごめん。」
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「違うの。」
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母は首を振った。
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「心配したの。」
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その言葉が胸に刺さる。
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「……。」
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「学校から電話が来て。」
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「担任の先生の声が少し焦っていて。」
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母は笑おうとした。
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でも上手く笑えなかった。
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「怖かった。」
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香葉は顔を上げる。
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母のそんな顔。
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久しぶりに見た。
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「お母さん。」
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「何。」
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「大袈裟。」
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母は少し怒った顔になる。
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「あなたと違って私は正直なの。」
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香葉は思わず笑う。
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でも。
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すぐ笑えなくなった。
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母は静かに聞く。
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「香葉。」
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「うん。」
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「本当はどうなの。」
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「……。」
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「最近。」
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「辛かった?」
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その質問に。
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香葉は答えられなかった。
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辛い。
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認めたくなかった。
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認めたら。
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本当に病気みたいだから。
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本当に悪くなっているみたいだから。
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「……。」
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沈黙。
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長い沈黙。
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そして。
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小さく。
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本当に小さく。
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香葉は呟いた。
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「怖い。」
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母の表情が止まる。
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「……。」
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「検査。」
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「……。」
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「何か言われそうで。」
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「怖い。」
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言ってしまった。
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初めて。
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本当に初めて。
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弱音だった。
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母は立ち上がる。
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香葉の隣へ座る。
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そして。
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何も言わずに肩を抱いた。
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香葉は抵抗しなかった。
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ただ。
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少しだけ。
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安心した。
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「大丈夫。」
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母が言う。
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今まで何度も聞いた言葉。
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でも今日は少し違った。
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「一緒に聞こう。」
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「結果も。」
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「不安も。」
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「全部。」
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香葉は目を閉じる。
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そして。
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亮の言葉を思い出していた。
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『ちゃんと頼れ。』
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頼るって。
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こういうことなのかもしれない。
そう思った。




