朝の学校
同じ頃。
高校三年B組。
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雨の日の教室は少し静かだった。
窓ガラスを叩く雨音。
どんよりした空。
六月らしい朝だった。
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「出席取るぞー。」
担任が教室へ入ってくる。
名簿を開く。
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「石田。」
「はい。」
「大野。」
「はい。」
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いつもの朝。
いつものホームルーム。
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「浜中。」
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数秒。
返事がない。
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担任が名簿を見る。
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「欠席。」
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教室の何人かが顔を上げる。
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「珍しくない?」
「浜中が?」
「風邪かな。」
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小さな声が聞こえる。
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亮も自然と前を向いた。
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浜中香葉。
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窓際の席。
空席。
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いつもならいる。
本を読んでいるか。
スマホを見ているか。
誰かと話しているか。
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でも今日はいない。
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「以上だな。」
担任は特に気にした様子もなく出席確認を終えた。
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ホームルーム終了。
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「古畑。」
「ん?」
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後ろの席の男子が声を掛ける。
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「浜中休みだって。」
「見りゃ分かる。」
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「心配?」
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亮はペンケースを取り出しながら答える。
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「別に。」
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即答。
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「嘘つけ。」
「何でだよ。」
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周囲が笑う。
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「最近よく話してるじゃん。」
「話してない。」
「話してる。」
「話してない。」
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くだらないやり取り。
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しかし。
亮は再び窓際を見る。
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空席。
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そういえば。
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ここ数日。
少し様子がおかしかった。
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昼休み。
窓の外をぼんやり見ていた。
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授業中。
疲れた顔をしていた。
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「元気ない?」
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そう聞いた時も。
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『別に。』
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そう返された。
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だけど。
本当に元気な人の顔ではなかった気がする。
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「古畑。」
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友達が肩を叩く。
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「授業始まるぞ。」
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「おう。」
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亮は前を向く。
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ただ。
頭の片隅に残る。
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大丈夫かな。
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それだけだった。
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一時間目。
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数学。
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先生が黒板に数式を書いている。
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しかし亮の視線は何度か窓際へ向いてしまう。
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誰もいない席。
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雨に濡れた校庭。
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静かな教室。
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いつもそこにいる人がいないだけで。
思った以上に違和感があった。
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亮は小さくため息をつく。
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「何だよ俺。」
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自分でもよく分からなかった。
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ただ一つ分かるのは。
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今日の教室は少しだけ静かだった。




