休み
六月。
窓の外では雨が降っていた。
しとしと。
静かな雨音。
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香葉は目を覚ました。
スマホを見る。
午前六時四十分。
いつもなら起きる時間だった。
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だけど。
身体が重い。
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布団の中で目を閉じる。
もう少し。
あと少しだけ。
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そう思っているうちに十分が過ぎる。
二十分が過ぎる。
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起きなきゃ。
学校がある。
課題もある。
出席日数だって大事だ。
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頭では分かっている。
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でも。
身体が動かない。
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天井を見つめる。
雨音だけが聞こえる。
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「……だるい。」
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熱がある訳じゃない。
咳もない。
頭痛もない。
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ただ。
とにかく怠い。
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香葉はゆっくり起き上がった。
制服のない私服校。
だから着替えの手間も少ない。
それでも今日は無理だった。
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階段を降りる。
リビングには母がいた。
朝食の準備をしている。
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「おはよう。」
「おはよ。」
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母が振り返る。
そして。
すぐに気付いた。
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「どうしたの?」
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香葉は少し考えてから言った。
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「今日休む。」
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母の手が止まる。
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「熱は?」
「ない。」
「気持ち悪い?」
「それもない。」
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香葉はソファへ向かう。
ぽすん、と横になる。
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「ただ怠い。」
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母は何も言わなかった。
しばらく香葉の顔を見る。
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そして。
小さくため息をついた。
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「そう。」
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怒らない。
無理に学校へ行けとも言わない。
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母は香葉の身体のことを知っている。
だから。
こういう日はあると分かっていた。
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「先生には連絡しておく?」
「お願い。」
「分かった。」
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香葉は天井を見る。
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雨音。
時計の秒針。
冷蔵庫のモーター音。
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ぼーっとする。
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学校では今頃ホームルームだろうか。
文化祭の話でもしているかもしれない。
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スマホが震えた。
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クラスのグループLINE。
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未読が増えていく。
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香葉は開かない。
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今日は何もしたくなかった。
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母がブランケットを持ってくる。
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「はい。」
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ふわっと掛けられる。
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「ありがとう。」
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母は優しく笑った。
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「寝てなさい。」
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香葉は目を閉じる。
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身体が重い。
頭も少しぼんやりする。
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来月の検査。
病院。
父の帰国。
進路。
文化祭。
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考えたくないことばかり浮かぶ。
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その時。
ふと。
思い出した。
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『大丈夫。』
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亮のブログ。
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『必ず夜は明ける。』
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香葉は薄く笑った。
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「古畑なら……。」
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こんな日に限って、
きっと教室でうるさく笑っているんだろう。
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少しだけ羨ましい。
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そう思いながら。
香葉は再び目を閉じた。
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雨音だけが静かに響いていた。




