六月
六月も半ばに差しかかっていた。
梅雨入りしたはずなのに、今日はよく晴れている。
昼休み。
校舎の窓から差し込む日差しが眩しかった。
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「暑っ……。」
誰かが呟く。
「まだ六月なのに。」
「夏どうなるんだよ。」
教室のあちこちからそんな声が聞こえてくる。
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香葉は窓の外を見た。
グラウンド。
照り返す光。
揺れる木々。
そして青空。
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眩しい。
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思わず目を細める。
昔から夏の日差しは苦手だった。
暑さだけじゃない。
なんとなく身体が重くなる。
疲れやすくなる。
集中力も落ちる。
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最近は特にそうだった。
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朝。
起きるのが少し辛い。
階段を上るだけで息が上がる日がある。
授業中も妙に眠い。
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気のせいかもしれない。
ただの疲れかもしれない。
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でも。
毎年この時期になると少し不安になる。
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来月には検査入院もある。
主治医には大丈夫と言われている。
定期検査だから。
慣れているから。
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それでも。
慣れることと平気なことは違う。
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「浜中。」
友達の声で我に返る。
「聞いてる?」
「え?」
「聞いてないじゃん。」
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友達が呆れたように笑う。
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「大丈夫?」
「うん。」
「顔色ちょっと悪くない?」
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香葉は反射的に笑った。
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「気のせい。」
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いつもの笑顔。
いつもの返事。
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だけど。
その瞬間。
自分でも分かった。
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少し無理をしている。
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教室の後ろから笑い声が聞こえる。
亮だった。
何かで盛り上がっているらしい。
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香葉はぼんやり眺める。
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その時。
亮がこちらを見た。
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一瞬。
目が合う。
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そして。
亮の表情が少し変わった。
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「浜中。」
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気付けば亮が近くまで来ていた。
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「何。」
「元気ない?」
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香葉は眉をひそめる。
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「別に。」
「そう?」
「そう。」
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亮は数秒黙る。
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「ならいいけど。」
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そう言ったものの。
どこか納得していない顔だった。
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香葉は少しだけ視線を逸らした。
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こういうところが苦手だ。
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誰にも気付かれたくないことを。
この人は時々あっさり見つけてしまう。
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「古畑。」
「ん?」
「暑いからじゃない?」
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亮は少し考えた。
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「それもあるな。」
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あっさり納得した。
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香葉は思わず吹き出した。
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「何それ。」
「いや、確かに暑いし。」
「単純。」
「失礼。」
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二人がそんなやり取りをしていると、
授業開始のチャイムが鳴った。
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亮は自分の席へ戻っていく。
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香葉は窓の外を見る。
眩しい太陽。
青空。
夏が近付いている。
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胸の奥に小さな不安がある。
身体の変化。
来月の検査。
父の帰国。
高校最後の夏。
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いろんなものが待っている。
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だけど。
少しだけ思った。
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もし不安なことがあっても。
今年は去年までと少し違うのかもしれない。




