表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
79/171

車内

浜中家を後にする。



黒塗りの車は見えなくなった。



車内。



担任が運転席。



助手席には亮。



夕方の道路をゆっくり走る。



しばらく沈黙。



そして。



担任が口を開いた。



「古畑。」



「はい。」



「前から知ってたのか。」



「浜中の体調。」



亮は窓の外を見る。



流れていく街並み。



そして静かに答えた。



「詳しくは知りません。」



「ただ。」



少し考える。



「何となく最近おかしいなとは。」



「特に六月に入ってからは。」



担任は小さく頷いた。



「そうか。」



また少し沈黙。



信号待ち。



担任は前を見たまま言った。



「大切に思ってる人なら。」



「ちゃんと守ってやれ。」





、、、



「だから違いますって。」



担任



「そうか?」





「そうです。」



担任



「そうか。」



全然信じていない。



亮はため息をついた。



その時だった。



担任がぽつりと呟く。



「俺もな。」



「……。」



「高校の時好きな人がいた。」



亮は少し驚く。



担任が自分の話をするのは珍しい。



「初恋だ。」



車内にはエアコンの音だけが響く。



「幸せの雪。」



「みゆきって読む。」



亮は黙って聞く。



「北海道に雪が降り始めた日に生まれた幸せ。だから幸雪。」



「幸せの幸に雪で幸雪。」



担任は少し笑った。



「良い名前だろ。」



「はい。」



「顔も小さくてな。」



「頭も良くて。」



「よく笑う奴だった。」



夕陽がフロントガラスへ差し込む。



「いつも話して。」



「一緒に帰って。」



「楽しかった。」



担任は笑う。



でも。



どこか寂しそうだった。



「でもな。」



「お互い好きとは言えなかった。」



「……。」



「幸雪には持病があった。」



亮の表情が少し変わる。



担任は続けた。



「結局。」



「俺に頼ることもなく。」



「俺も気付かなかった、、、。」



「……。」



「そして。」



担任は言葉を切った。



数秒。



長い沈黙。



「後悔した。」



その一言だけだった。



「もっと聞けば良かった。」



「もっと見てれば良かった。」



「もっと頼られたかった。」



担任は苦笑する。



「忘れられなくてな。」



「今でも。」



「だから独り身だ、、、 」



亮は何も言えなかった。



冗談みたいに話している。



でも。



冗談じゃないことくらい分かった。



信号が青になる。



車が動き出す。



担任は前を見たまま言った。



「古畑。」



「はい。」



「お前はちゃんと見てる。」



「……。」



「浜中のこと。」



亮は否定しない。



出来なかった。



「だから。」



担任は小さく笑った。



「ちゃんと守ってやれ。」



「若いんだから。」



「後悔するな。」



夕陽が車内をオレンジ色に染める。



亮は窓の外を見る。



そして。



体育館横の日陰。



ホーム。



教室。



タピオカ屋。



今日の香葉を思い出していた。



「……。」



初めて。



少しだけ怖くなった。



浜中は本当に大丈夫なのだろうか。



その答えを、

もうすぐ知ることになる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ