車内
浜中家を後にする。
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黒塗りの車は見えなくなった。
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車内。
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担任が運転席。
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助手席には亮。
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夕方の道路をゆっくり走る。
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しばらく沈黙。
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そして。
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担任が口を開いた。
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「古畑。」
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「はい。」
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「前から知ってたのか。」
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「浜中の体調。」
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亮は窓の外を見る。
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流れていく街並み。
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そして静かに答えた。
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「詳しくは知りません。」
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「ただ。」
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少し考える。
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「何となく最近おかしいなとは。」
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「特に六月に入ってからは。」
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担任は小さく頷いた。
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「そうか。」
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また少し沈黙。
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信号待ち。
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担任は前を見たまま言った。
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「大切に思ってる人なら。」
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「ちゃんと守ってやれ。」
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亮
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、、、
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「だから違いますって。」
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担任
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「そうか?」
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亮
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「そうです。」
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担任
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「そうか。」
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全然信じていない。
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亮はため息をついた。
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その時だった。
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担任がぽつりと呟く。
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「俺もな。」
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「……。」
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「高校の時好きな人がいた。」
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亮は少し驚く。
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担任が自分の話をするのは珍しい。
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「初恋だ。」
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車内にはエアコンの音だけが響く。
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「幸せの雪。」
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「みゆきって読む。」
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亮は黙って聞く。
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「北海道に雪が降り始めた日に生まれた幸せ。だから幸雪。」
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「幸せの幸に雪で幸雪。」
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担任は少し笑った。
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「良い名前だろ。」
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「はい。」
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「顔も小さくてな。」
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「頭も良くて。」
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「よく笑う奴だった。」
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夕陽がフロントガラスへ差し込む。
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「いつも話して。」
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「一緒に帰って。」
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「楽しかった。」
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担任は笑う。
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でも。
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どこか寂しそうだった。
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「でもな。」
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「お互い好きとは言えなかった。」
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「……。」
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「幸雪には持病があった。」
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亮の表情が少し変わる。
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担任は続けた。
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「結局。」
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「俺に頼ることもなく。」
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「俺も気付かなかった、、、。」
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「……。」
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「そして。」
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担任は言葉を切った。
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数秒。
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長い沈黙。
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「後悔した。」
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その一言だけだった。
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「もっと聞けば良かった。」
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「もっと見てれば良かった。」
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「もっと頼られたかった。」
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担任は苦笑する。
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「忘れられなくてな。」
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「今でも。」
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「だから独り身だ、、、 」
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亮は何も言えなかった。
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冗談みたいに話している。
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でも。
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冗談じゃないことくらい分かった。
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信号が青になる。
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車が動き出す。
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担任は前を見たまま言った。
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「古畑。」
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「はい。」
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「お前はちゃんと見てる。」
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「……。」
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「浜中のこと。」
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亮は否定しない。
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出来なかった。
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「だから。」
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担任は小さく笑った。
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「ちゃんと守ってやれ。」
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「若いんだから。」
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「後悔するな。」
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夕陽が車内をオレンジ色に染める。
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亮は窓の外を見る。
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そして。
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体育館横の日陰。
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ホーム。
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教室。
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タピオカ屋。
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今日の香葉を思い出していた。
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「……。」
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初めて。
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少しだけ怖くなった。
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浜中は本当に大丈夫なのだろうか。
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その答えを、
もうすぐ知ることになる気がした。




