店内
「あっ……。」
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香葉はゆっくり身体を起こした。
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重い。
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頭も。
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身体も。
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何より。
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目の前の状況が理解できない。
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「……。」
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見慣れないタピオカ。
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冷たくなったテーブル。
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そして。
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目の前には亮。
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驚くほど近い距離でこちらを見ている。
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その顔を見た瞬間。
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香葉は気付いた。
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、、、、、、
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やってしまった、、、。
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「私……。」
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声が掠れる。
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亮は何も言わない。
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ただ。
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今まで見たことがないくらい険しい顔をしていた。
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「古畑……?」
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香葉が呼ぶ。
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亮は短く答えた。
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「学校に連絡した。」
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「えっ……?」
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「担任が家族に連絡するって。」
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香葉は目を見開く。
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「えっ!」
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「ちょっと待って。」
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「大丈夫だよ。」
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反射的に出る言葉。
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いつもの言葉。
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でも。
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亮は即座に否定した。
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「もう大丈夫じゃないだろこんなの!」
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店内が一瞬静かになる。
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亮自身も少し驚いた顔をした。
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こんな強い口調。
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初めてだった。
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香葉も固まる。
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「……。」
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「……。」
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数秒。
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沈黙。
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亮は深く息を吐いた。
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怒っている訳じゃない。
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でも。
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怖かった。
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本当に。
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怖かった。
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「浜中、、、」
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声が少し震えている。
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「さっき。」
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「呼んでも起きなかった。」
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「……。」
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「肩触ったら熱かった。」
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香葉は視線を落とす。
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「……。」
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「俺さ。」
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亮は苦笑する。
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「最近ずっと大丈夫って聞いてた。」
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「……。」
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「だから。」
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言葉が詰まる。
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「信じたかった。」
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香葉の胸が少し痛む。
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亮はずっと見ていた。
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駅でも。
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教室でも。
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帰り道でも。
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ずっと。
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そして今。
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初めて。
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香葉自身が気付く。
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本当は。
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自分でも怖かった。
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怖いから。
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大丈夫って言っていただけだった。
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その時。
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、、、
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スマホが鳴る。
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亮のスマホ。
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画面には
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【担任】
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の文字。
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亮はすぐに電話へ出た。
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「もしもし。」
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香葉はぼんやりその声を聞く。
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身体が重い。
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眠い。
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でも。
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もう一つだけ分かることがあった。
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『ちゃんと頼れ。』
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あの日。
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教室で言われた言葉。
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今なら少しだけ分かる気がした。
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頼るって。
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こんな時のことなのかもしれない。
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香葉は小さく目を閉じた。
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そして初めて。
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「……ごめん。」
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誰に向けたのかも分からないまま。
そう呟いた。




