担任
「毎年あるの。」
「……。」
「だから大丈夫。」
香葉はそう言った。
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言い慣れた言葉。
母にも。
先生にも。
病院でも。
何度も言ってきた。
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大丈夫。
大丈夫だから。
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でも。
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亮は頷かなかった。
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「浜中。」
静かな声。
香葉は少し視線を逸らす。
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嫌だった。
その顔、、、。
本気で心配している顔。
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「何。」
「それ。」
亮は少し言葉を探した。
「大丈夫じゃない時も言ってるだろ。」
「……。」
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図星だった。
香葉は返事をしない。
出来ない。
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亮は苦笑した。
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「当たった。」
「うるさい。」
「当たったんだ。」
「うるさい。」
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少しだけ。
いつものやり取りに戻る。
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でも、、、
今日はどこか違った。
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亮は窓際へ歩く。
グラウンドを見る。
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「検査っていつ。」
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香葉は少し迷った。
言うか。
言わないか。
でも。
ここまで知られているのに、
今さら隠す意味もない気がした。
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「来週。」
「そんな近いの。」
「うん。」
「何日くらい。」
「一週間くらい。」
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亮は黙る。
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香葉は窓の外を見る。
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蝉が鳴いている。
夏の空。
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今日の集合写真。
みんなの笑顔。
そんなものが頭をよぎる。
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「だから今日来たかった。」
気付けば口にしていた。
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亮が振り返る。
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「え。」
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香葉は少し笑った。
「最後のクラスレクだったし。」
「……。」
「みんな楽しそうだったし。」
「うん。」
「楽しかった。」
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本音だった。
今日だけは。
本当に。
楽しかった。
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亮は少しだけ安心したように笑う。
「それなら良かった。」
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数秒。
静かな時間。
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そして。
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「写真。」
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亮が言った。
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「何。」
「今日の集合写真。」
「うん。」
「送る。」
香葉は笑った。
「まだ撮ったばっかりでしょ。」
「誰か持ってる。」
「適当。」
「否定しない。」
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二人とも少し笑う。
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その時。
廊下から担任の声が聞こえた。
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「おーい!」
教室のドアが開く。
「お前らまだいたのか。」
担任が入ってくる。
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そして。
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亮と香葉を見る。
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空の教室。
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二人だけ。
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「……。」
何かを察した顔。
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「先生。」
亮が言う。
「何だ。」
「浜中、来週検査入院するんだって。」
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香葉
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「おい!」
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即座に亮を睨む。
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亮は少し肩をすくめた。
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担任は驚いた顔をした。
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そして。
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「そうか。」
静かに頷いた。
「無事に帰ってこいよ。」
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その言葉は軽かった。
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でも。
妙に温かかった。
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香葉は少しだけ目を伏せる。
「うん。」
そう答えた。
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夏休み間近。
夕暮れが教室をオレンジ色に染めていた。




