教室
帰りのホームルームが終わる。
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「じゃあなー!」
「終業式でー!」
「補習組は来週な、、、笑」
教室が一気に騒がしくなる。
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鞄を持つ音。
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椅子を引く音。
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笑い声。
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あっという間に人が減っていく。
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香葉は席を立たなかった。
窓際。
そのままグラウンドを見ている。
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さっきまで。
あんなに賑やかだった場所。
水風船。
水鉄砲。
笑い声。
走り回るクラスメイト達。
全部そこにあった。
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なのに。
今は静かだった。
誰もいない。
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そして。
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「……。」
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香葉は目を細める。
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さっきまであった水溜まり。
もうほとんど乾いている。
あんなに濡れていたのに。
太陽の光を浴びて。
風が吹いて。
いつの間にか消えている。
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「いいな……。」
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小さく呟く。
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自分も。
濡れてもすぐ乾けばいいのに。
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疲れても。
体調が悪くても。
少し休めば元通り。
そんな風なら良かったのに。
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「……。」
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でも。
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きっとそうだよね。
夏バテ。
最近暑いし。
六月からずっと暑かったし。
疲れているだけ。
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そう。
疲れているだけ。
休めば。
またちゃんと戻る。
グラウンドの水溜まりみたいに。
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「……。」
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そう思いたかった。
思わないと。
少し怖かった。
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その時。
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ガラッ。
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教室のドアが開く。
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「浜中。」
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聞き慣れた声。
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香葉は振り返らない。
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「何。」
「まだいた。」
「古畑も。」
「俺はいた。」
「知ってる。」
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亮が近付いてくる。
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窓の外を見る。
香葉と同じ景色を見る。
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数秒。
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沈黙。
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そして。
「楽しかったな。」
亮が言う。
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香葉はグラウンドを見る。
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乾いていく地面。
もう見えなくなった水溜まり。
そして。
少しだけ笑った。
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「うん。」
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本当に。
楽しかった。
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だからこそ。
終わってしまったのが少し寂しかった。
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夏の風が教室を通り抜ける。
高校三年生の夏は、
まだ始まったばかりだった。
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少なくとも。
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その時の香葉は、
そう信じていた。




