大丈夫
「大丈夫だから……。」
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香葉は小さく笑った。
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まだ少し顔色は良くない。
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それでも。
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さっきよりは落ち着いていた。
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「もう少し休めば……。」
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体育館横の日陰。
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吹き抜ける風が心地良い。
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香葉は校庭を見る。
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水しぶき。
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笑い声。
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全力で走り回るクラスメイト達。
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そして。
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びしょ濡れになっている古畑亮。
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いや。
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今は隣にいる。
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香葉は少しだけ笑った。
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「古畑はもう少し楽しみなよ……笑」
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亮は何も言わない。
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香葉は続けた。
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「せっかくのクラスレクなんだから。」
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「……。」
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「私なら大丈夫。」
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その言葉に、
亮は小さく息を吐いた。
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「浜中。」
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「ん?」
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「それ何回目。」
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香葉は思わず笑う。
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「知らない。」
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「俺は結構聞いてる。」
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「暇人。」
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反射みたいな返事。
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亮は少しだけ口元を緩めた。
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「結構忙しい。」
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いつものやり取り。
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いつもの言葉。
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でも今日は少し違った。
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亮は校庭を見ない。
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みんなの方を見ない。
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ただ香葉を見る。
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その様子に香葉は少しだけ首を傾げた。
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「何。」
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「別に。」
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今度は亮だった。
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「絶対別にじゃない。」
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香葉が言う。
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亮は少し笑った。
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「見てた。」
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「何を。」
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「浜中。」
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香葉が固まる。
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「……。」
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「今日。」
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亮は少し照れ臭そうに後頭部を掻いた。
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「楽しそうだった。」
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風が吹く。
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一瞬。
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時間が止まった気がした。
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「そう?」
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「うん。」
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亮は頷く。
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「なんか。」
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言葉を探す。
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「良かった。」
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香葉は校庭へ視線を向けた。
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みんな笑っている。
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根元さんが走っている。
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蛍原さんが本気で水鉄砲を撃っている。
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そして。
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自分もさっきまで笑っていた。
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「……。」
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そうか。
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楽しかったんだ。
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思った以上に。
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その時。
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遠くから再び声が飛ぶ。
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「古幡ぁぁぁ!!笑」
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「戻ってこーい!!笑」
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亮はため息をついた。
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「呼ばれてる。」
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「行ってきなよ。」
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香葉は笑う。
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「クラスの人気者。」
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「違う。」
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「違わない。」
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亮は立ち上がる。
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そして数歩歩いたところで振り返った。
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「浜中。」
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「何。」
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「無理すんなよ。」
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香葉は少しだけ目を細める。
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そして。
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いつものように答えた。
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「大丈夫だから。」
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亮は笑った。
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「だからそれ何回目、、、笑」
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ようやく。
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少しだけ安心したように。
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校庭へ走り出していった。
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香葉はその背中を見送る。
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眩しい夏の日差しの中。
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古畑亮は相変わらずだった。
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そして香葉はまだ知らない。
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その背中を見ながら、
少し寂しいと思ってしまった自分に。




