ごめん
「ごめん……。」
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香葉は小さく呟いた。
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自分でも驚くくらい弱々しい声だった。
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亮の腕を掴んでいた手を、
ゆっくり離す。
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指先が少し震えていた。
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香葉は近くのベンチへ腰を下ろした。
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「……。」
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俯く。
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情けなかった。
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本当は。
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大丈夫なつもりだった。
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少し休めば戻れると思っていた。
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みんなと一緒に最後まで楽しめると思っていた。
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なのに。
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立ち上がっただけでこれだ。
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悔しい。
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そんな感情が胸の奥に広がる。
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亮は何も言わなかった。
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隣にも座らない。
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少し離れた場所に立ったまま。
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ただ香葉を見ている。
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それが逆にありがたかった。
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数秒。
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沈黙。
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校庭からは相変わらず楽しそうな声。
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「古畑ー!笑」
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「浜中ー!笑」
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「逃げるなー!」
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誰かが叫んでいる。
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二人とも反応しない。
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その時。
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亮が静かに口を開いた。
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「浜中。」
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「……。」
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「最近ずっとこうなの?」
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香葉の肩が小さく動く。
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聞かれると思った。
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いつか。
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でも。
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今は答えたくなかった。
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答えたら。
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認めることになる気がした。
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自分が思っている以上に、
体調が悪いことを。
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だから。
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「……別に。」
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いつもの言葉。
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でも。
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いつもみたいな強さはなかった。
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亮は苦笑した。
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「その”別に”信用ない。」
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香葉は少しだけ笑った。
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「失礼。」
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「本当。」
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また少し沈黙。
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風が吹く。
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体育館の影が揺れる。
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そして。
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亮は珍しく視線を逸らしたまま言った。
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「無理してほしくない。」
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香葉は顔を上げる。
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亮は校庭を見ていた。
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まるで独り言みたいに。
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「……。」
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香葉は何も言えなかった。
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心配されるのは苦手だ。
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でも。
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今の言葉は不思議と嫌じゃなかった。
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その時。
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遠くから根元さんの声。
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「古畑ぁぁぁー!!笑笑」
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「浜中ぁぁぁー!!笑笑」
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「サボるなぁぁぁー!!笑笑」
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一気に現実へ引き戻される。
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香葉は思わず吹き出した。
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亮も笑った。
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さっきまで少し重かった空気が、
少しだけ軽くなる。
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夏の日差しは相変わらず眩しかった。
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でも。
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香葉はもう少しだけ、
ここで休んでいこうと思った。




