休憩
日陰。
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少し休めば大丈夫。
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きっと。
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そう思った。
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香葉はゆっくり歩く。
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校庭の端。
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体育館横の日陰。
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コンクリートの壁が太陽を遮っている。
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さっきまでの喧騒が少し遠い。
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笑い声。
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水鉄砲の音。
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誰かの悲鳴。
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全部が遠く聞こえる。
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香葉は壁にもたれた。
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「はぁ……。」
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深呼吸。
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ゆっくり息を吐く。
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大丈夫。
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少し休めば。
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きっと戻る。
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昔からそうだった。
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疲れた時は休む。
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そうすれば何とかなる。
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目を閉じる。
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風が頬を撫でる。
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少し気持ちいい。
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「……。」
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でも。
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胸の奥の苦しさは残っている。
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呼吸は落ち着いてきた。
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それなのに。
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身体の重さだけが消えない。
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腕。
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足。
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全部に鉛が入っているみたいだ。
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「何なの……。」
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小さく呟く。
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誰もいないと思っていた。
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その時。
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「俺もそれ知りたい。」
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聞き慣れた声。
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香葉はゆっくり顔を上げる。
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「……。」
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「……。」
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古畑亮だった。
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数歩離れた場所。
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ペットボトルを片手に立っている。
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香葉はため息をつく。
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「何でいるの。」
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「浜中が逃げたから。」
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「逃げてない。」
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「逃げてた。」
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「休憩。」
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「そうとも言う。」
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香葉は少し笑った。
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亮はそれ以上近付かない。
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ただ同じ日陰にいる。
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それだけ。
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数秒。
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沈黙。
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校庭からは相変わらず賑やかな声。
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「古畑。」
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「ん?」
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「楽しそうだね。」
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亮は校庭を見る。
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そして笑った。
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「楽しい。」
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即答だった。
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香葉も少し笑う。
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やっぱり。
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そう言うと思った。
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その時。
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亮がペットボトルを差し出した。
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「飲む?」
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スポーツドリンク。
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香葉は少し迷う。
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そして受け取った。
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「ありがとう。」
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亮は何も言わない。
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でも。
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横顔は少しだけ真剣だった。
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今日の香葉。
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楽しそうだった。
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でも。
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楽しそうだからこそ分かる。
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無理している。
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亮はまだ理由を知らない。
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それでも。
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何かがおかしいことだけは、
もう気付いていた。
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一方の香葉は、
冷たいスポーツドリンクを一口飲みながら思う。
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もう少しだけ。
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あと少しだけ。
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みんなと一緒にいたい。
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高校最後の夏だから。




