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水風船

香葉は思い切り振りかぶる。



狙うは古畑亮。



数メートル先。



本人はすでに逃げる準備を始めている。



「待て待て待て、、、笑」



香葉は投げた。



えいっ。



、、、



放物線を描く水風船。



飛ぶ。



飛ぶ。



……飛ばない。



ぽとっ。



数メートル先の地面に落ちた。



、、、



沈黙。



香葉。



「……。」



水風船。



「……。」



周囲。



「……。」



そして。



「短っ笑笑笑」



誰かが叫んだ。



一気に笑いが起きる。



香葉はその場に立ったまま固まっていた。



放心状態。



いや。



自分でも何が起きたか分からない。



もっと飛ぶ予定だった。



少なくとも。



古畑の近くまでは。



その時。



亮が近付いてくる。



ゆっくり。



笑いを堪えながら。



香葉はまだ固まっている。



そして。



亮が落下地点を見る。



香葉を見る。



また落下地点を見る。



香葉を見る。



数秒。



「……。」



「……。」



目が合う。



次の瞬間。



「笑笑笑笑笑」



「笑笑笑笑笑」



二人同時だった。



香葉はしゃがみ込む。



「何で、、、笑笑笑」



「知らない笑笑笑」



「浜中それ俺まで届いてない笑笑笑」



「分かってる笑笑笑」



笑いが止まらない。



お腹が痛い。



涙が出る。



周りのクラスメイト達もつられて笑っている。



「浜中弱すぎっ笑笑」



「運動音痴か、、、笑」



「いや絶対違う、、、笑」



香葉は笑いながら息を整える。



久しぶりだった。



こんな風に。



何も考えず笑うの。



病院も。



検査も。



体調も。



全部忘れていた。



その時。



亮はふと香葉を見る。



笑っている。



本当に楽しそうに。



今まで見たことがないくらい。



自然に。



無邪気に。



その顔を見た瞬間。



「あ……。」



亮の時間が一瞬止まる。



何だろう。



上手く説明できない。



でも。



目が離せなかった。



「古畑?」



香葉が呼ぶ。



亮は我に返る。



「ん?」



「何ぼーっとしてるの、、、笑」



「別に。」



反射的に答える。



「絶対別にじゃない、、、笑」



「失礼!」



いつものやり取り。



でも。



亮の胸の奥には、


今までなかった感情が小さく芽生え始めていた。



そして本人だけが、


まだそれに気付いていなかった。

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