駅
ある日の朝。
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六月。
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朝から暑い。
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香葉は駅の階段を上る。
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ホームが見えてくる。
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そして。
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「あ。」
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いた。
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当たり前みたいに。
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古畑亮。
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ベンチの近く。
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スマホを見ながら何かしている。
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香葉は思わず腕時計を見る。
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時間はいつも通り。
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亮の乗っている路線なら、
本来ここで降りる必要はない。
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そのまま乗っていれば学校の最寄り駅まで行ける。
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なのに。
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今日もいる。
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昨日もいた。
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一昨日もいた。
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その前も。
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ずっと。
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香葉はホームへ上がる。
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亮はすぐ気付いた。
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「おはよ。」
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「おはよ。」
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自然に挨拶を返す。
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自然すぎて。
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自分でも少し驚く。
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最初の頃なら、
もう少し警戒していた気がする。
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「眠そう。」
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「古畑も。」
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「俺は元気。」
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「知ってる。」
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亮が笑う。
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香葉も少し笑った。
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その時。
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ふと思う。
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何でだろう。
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古畑って。
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何で毎日待ってるんだろう。
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ここで降りなくても学校へ行けるのに。
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わざわざ。
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毎朝。
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私を待って。
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一緒に学校へ行く。
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最初は。
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ただの遊びだった。
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男子の間で流行っていた。
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クラスの女子を誘うとか。
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反応を見るとか。
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そんな軽いノリ。
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だから香葉も思っていた。
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どうせすぐ飽きる。
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数日で終わる。
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そう思っていた。
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なのに。
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気付けば二ヶ月近い。
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「……。」
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香葉はちらりと亮を見る。
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亮はスマホでダンス動画を見ている。
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相変わらずだった。
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特別なことは何もない。
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毎朝のように。
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普通に隣にいる。
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その時。
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「何。」
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突然言われた。
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香葉は驚く。
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「え。」
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「今見てた。」
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「見てない。」
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「見てた。」
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「見てない。」
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「見てた。」
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いつものやり取り。
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香葉はため息をつく。
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そして。
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少しだけ思った。
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もしかして。
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古畑本人も理由なんて考えてないのかもしれない。
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ただ。
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待つのが当たり前になっただけ。
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話すのが当たり前になっただけ。
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そう考えると少し可笑しい。
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ホームに電車が入ってくる。
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風が吹く。
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香葉は立ち上がった。
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そして心の中で呟く。
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相変わらず変な人。
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でも。
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最近はその変さにも、
少し慣れてしまった自分がいた。




