テスト休み
七月。
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気付けば夏になっていた。
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期末テストも終わる。
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答案返却も終わる。
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教室の空気は完全に夏休みモードだった。
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「あと終業式だけじゃん。」
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「最高。」
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「補習ない!」
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そんな声が飛び交う。
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三年生なのに。
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みんな妙に浮かれている。
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香葉も補習はなかった。
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だから。
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学校へ行く日が急に減った。
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終業式までほとんど自由。
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気付けば家にいる時間が増えていた。
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浜中家。
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昼過ぎ。
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静かなリビング。
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母は仕事。
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父は中国。
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家には香葉一人。
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ソファに座る。
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本を読む。
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少し疲れる。
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横になる。
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そんな日が増えた。
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以前なら。
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こんな生活をしたら暇で仕方なかったはずだ。
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でも今は違う。
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身体がついてこない。
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朝起きる。
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大丈夫そう。
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そう思う。
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でも。
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昼になる頃には疲れている。
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少し動くだけで息が上がる日もある。
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立ち上がった時に視界が揺れることもある。
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「……。」
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香葉は天井を見る。
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もう。
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気のせいとは思えなくなっていた。
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暑さだけ。
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疲れだけ。
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そう言い聞かせるのも難しくなってきている。
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でも。
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不思議なことに。
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少しだけ安心していた。
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学校がない。
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だから。
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誰にも気付かれない。
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友達にも。
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先生にも。
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そして。
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古畑にも。
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「……。」
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その名前を思い浮かべる。
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最近会っていない。
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駅でも。
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教室でも。
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当たり前のようにいた人。
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なのに。
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数日会わないだけで妙に静かだ。
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スマホを見る。
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クラスLINE。
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文化祭の話。
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補習組をいじる話。
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そんな通知ばかり。
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その中に。
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古幡亮
今日暑すぎない?
溶ける、、、笑
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というメッセージが混ざっている。
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思わず笑う。
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本当に暑い。
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窓の外では蝉が鳴いている。
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香葉はスマホを手に取った。
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少し考える。
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そして。
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香葉
暑い。
溶ける。
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送信。
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数秒後。
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亮
生きてた
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香葉
失礼、、、
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亮
最近見ないから
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香葉は画面を見る。
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指が止まる。
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何と返そう。
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体調が悪い。
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そう書くのは違う気がする。
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心配される。
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絶対される。
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だから。
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香葉
夏休み先取りしてるだけ
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送信。
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数秒後。
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亮
浜中らしい、、、笑
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何が。
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そう思いながらも、
香葉は少しだけ笑った。
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本当は。
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自分でも分かっている。
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体調は良くない。
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検査入院も近い。
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不安もある。
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でも。
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今だけは。
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スマホの向こうの気楽なやり取りが、
少しだけ心を軽くしてくれていた。




