ホーム
ホーム。
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朝の人混み。
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電車が到着するアナウンスが流れる。
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香葉はベンチに座ったままだった。
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いつもなら立ち上がる。
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電車に乗る。
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学校へ向かう。
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当たり前の流れ。
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でも今日は。
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身体が重い。
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ホームまで来ただけなのに。
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妙に疲れている。
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香葉は腕時計を見る。
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時刻を確認する。
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そして小さく呟いた。
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「次の電車でも間に合うよね……。」
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亮の耳にしっかり届いた。
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「え。」
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香葉は顔を上げない。
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「何。」
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「浜中がそんなこと言うの初めて聞いた。」
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「そう?」
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「そう。」
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亮は少し笑う。
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「浜中って五分前行動タイプじゃん。」
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「人を変な生き物みたいに言うな。」
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「変な生き物だろ。」
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「失礼」
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香葉はベンチにもたれた。
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本当に少しだけ。
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あと一本。
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あと数分。
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休みたかった。
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その時だった。
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亮が隣に腰を下ろす。
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「じゃあ次乗るか。」
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香葉が顔を上げる。
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「いいの?」
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「何が。」
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「古畑。」
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「うん。」
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「学校。」
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亮は肩をすくめた。
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「間に合うなら別に。」
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あっさりした返事。
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香葉は少しだけ笑った。
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「優等生じゃない。」
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「知ってる。」
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「自覚あるんだ。」
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「ある。」
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ホームに風が吹く。
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アナウンス。
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電車が発車する。
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乗客が流れていく。
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二人はその様子を眺めていた。
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香葉は少しだけ目を閉じる。
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ほんの数分。
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それだけなのに。
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身体が少し楽になる。
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亮は何も言わない。
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でも。
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隣に座ったままだった。
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その沈黙が不思議と心地良かった。
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次の電車まであと五分。
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六月の朝。
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いつもより少しだけゆっくり流れる時間だった。




