通学
家を出る。
⸻
朝の日差しはまだ柔らかい。
⸻
それでも。
⸻
六月の空気はすでに夏だった。
⸻
「暑い……。」
⸻
香葉は駅へ向かって歩く。
⸻
住宅街。
⸻
通学路。
⸻
いつもと同じ景色。
⸻
なのに。
⸻
今日は妙に遠く感じた。
⸻
数分歩いただけ。
⸻
本当にそれだけなのに。
⸻
身体が重い。
⸻
足が前へ出ない訳じゃない。
⸻
息が切れる訳でもない。
⸻
ただ。
⸻
じわじわと体力が削られていく感覚。
⸻
「何なの……。」
⸻
小さく呟く。
⸻
昨日の朝より体調は良かったはずだ。
⸻
ちゃんと眠った。
⸻
朝ご飯も食べた。
⸻
なのに。
⸻
駅が見えた頃には、
すでに疲れていた。
⸻
ホームへ続く階段を上る。
⸻
一段。
⸻
また一段。
⸻
「……。」
⸻
足が少し重い。
⸻
気のせい。
⸻
そう思いたい。
⸻
そう思うしかない。
⸻
ホームへ到着。
⸻
朝の人混み。
⸻
電車を待つ人たち。
⸻
香葉はベンチへ腰を下ろした。
⸻
珍しいことだった。
⸻
いつもなら立って待つ。
⸻
でも今日は。
⸻
少しだけ座りたかった。
⸻
スマホを取り出す。
⸻
画面が光る。
⸻
古畑亮
もう駅着いた?
⸻
香葉は思わず笑った。
⸻
香葉
着いた
⸻
送信。
⸻
数秒後。
⸻
亮
俺も
⸻
その直後。
⸻
「浜中。」
⸻
聞き慣れた声。
⸻
香葉はため息をつく。
⸻
「早い。」
⸻
顔を上げる。
⸻
そこには当然のように亮が立っていた。
⸻
「何その顔。」
⸻
「別に。」
⸻
「絶対別にじゃない。」
⸻
亮はそう言いながら、
ふと香葉を見る。
⸻
そして少しだけ眉をひそめた。
⸻
「疲れてる?」
⸻
香葉は視線を逸らす。
⸻
まただ。
⸻
どうしてこの人は。
⸻
自分が隠したいことばかり見つけるんだろう。
⸻
「暑いだけ。」
⸻
亮は何も言わない。
⸻
ただ。
⸻
少しだけ納得していない顔をした。
⸻
ホームに風が吹く。
⸻
電車が近付いてくる音が聞こえる。
⸻
香葉は目を閉じた。
⸻
学校までまだ半分。
⸻
なのに。
⸻
今日はもう、
一日の終わりみたいに疲れていた。




