帰り
夕方。
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玄関。
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亮は靴を履く。
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外は少しだけ涼しくなっていた。
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「じゃあ。」
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振り返る。
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「お邪魔しました」
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香葉は玄関の横に立ったまま頷く。
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「うん。」
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亮は軽く手を上げる。
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「また明日な」
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いつもの調子。
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いつもの笑顔。
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香葉は少しだけ笑った。
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「送ってくれてありがとう。」
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亮は一瞬目を丸くする。
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そして。
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「どういたしまして。」
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少し照れ臭そうに笑った。
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数秒。
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沈黙。
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亮は香葉を見る。
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少し迷った後。
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「無理すんなよ。」
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静かな声だった。
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香葉は肩をすくめる。
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「大丈夫だから。」
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反射みたいな返事。
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亮は吹き出した。
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「何回目」
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「え。」
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「今日だけで何回聞いたと思ってんの。」
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香葉も少し笑う。
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「知らない。」
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「俺は結構聞いてる。」
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「暇なんだね。」
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「結構忙しい。」
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いつものやり取り。
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二人とも少し笑う。
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そして。
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亮は門の方へ歩き出した。
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「じゃあな」
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「また明日。」
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香葉がそう返す。
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亮は振り返らずに手を振った。
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門を出る。
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その背中を見送りながら、
香葉はふと思う。
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結局。
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今日は病院のことも。
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検査のことも。
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ほとんど考えなかったな。
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玄関のドアを閉める。
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静かな家。
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でも。
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少し前までとは違う。
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どこか心が軽かった。
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一方その頃。
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帰り道を歩く亮は、
香葉の部屋で見たボストンバッグを思い出していた。
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旅行じゃない。
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じゃあ何だろう。
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あの時の浜中の顔。
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ほんの一瞬だけ曇った表情。
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気になる。
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でも。
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聞くほどじゃない。
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今はまだ。
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亮は夕焼け空を見上げた。
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「また明日か。」
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小さく呟く。
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そして駅に向かった。




